すべての低迷が何かのプラスに働く場合もある。例を挙げると、TikTokがそうだ。
テレビであれ、Facebookであれ、可能なかぎりプラットフォームすべてへの支出を削減し続けていても、マーケターは短編動画アプリのTikTokへの資金投入をやめることができない。そうした広告費が、米中間の緊張の高まりを助長しているのかどうか、大きな疑問があるにもかかわらずだ。
その答えが具体化するまで、米中間のそうした摩擦は、マーケターにとって仮定や可能性の問題でしかない。だが、議論されていないのは、TikTokが人々の注意をどれほど独占し続けるかだ。そして、それは、経済や政治における緊張に関係なく、広告主にとって常に大きな目玉になるだろう。
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広告主は増え続け、2023年も同様の成長軌道を描く
「2022年第1~3四半期と第4四半期のあいだで、TikTokへの広告支出は20%増加した」と、ヴェイナーメディア(VaynerMedia)のメディア運用担当責任者であるベン・アリソン氏は話す。「2023年になったばかりなので断言するには時期尚早だが、報告によると、TikTokに投資するこうした傾向は、少なくとも2023年中は四半期比較で成長するとみられており、拡大し続けると見ている」。
こうした見解には異論を挟み難い。マーケターが今すぐ支出できる状況にあるのか、今後のキャンペーンの計画を楽観的に計画しているかにかかわらず、TikTokは現在、常時採用されるメディアチャネルと並んで検討対象であり、大手ブランドの認知度を高めるのが目的であれば、とくにそれがいえる。
「TikTokは、ソーシャル広告予算の約25%を占めている」と、デジタルマーケティングエージェンシーのメカニズム(Mekanism)で最高イノベーション責任者を務めるブレンダン・ガハン氏はいう。「2020年以降、着実に増加している。毎年、前年比で50%前後増加している」。
2019年に、TikTokで最初のブランデッドハッシュタグを行ったエージェンシーにとって、それは急拡大だ。そして、このペースは、ほかの多くの広告主がそうであるように、メカニズムの広告主にとって今年も継続しそうだ。
P&Gやユニクロ、キャスパー(Casper)といった顧客を抱え、テクノロジー対応のグロースマーケティングを実現するマーケティングエージェンシーであるパワーデジタル(Power Digital))の最高グロース責任者、ロブ・ジェウェル氏は次のように語る。「傘下のマーケティング会社では、TikTokが総支出に占める割合は10%未満だが、前年比で2倍以上になっている。TikTokでの取り組みを拡大しようとしている広告主が増え続けているため、2023年も同様の成長軌道を描くと予想している」。
メディアプランの柱になるか
その通りになると、広告はテストの意味合いが薄れる傾向がある。実際、最近のTikTokの広告主によるディスプレイ広告での動きは、テスト済みの戦略に似てきている。
TikTokの多くの広告主にとって最近有効なのは、インフルエンサーマーケティングと連動してTikTokに広告を流すことのようだ。そのため、有料広告を利用して、ユーザーのあいだで人気が出そうな、あるいは出ているコンテンツを基本的に後押ししている。同様のことを2022年にはエスティローダーが、2021年にはペプシ(Pepsi)がそれぞれ述べている。
「TikTokをテストした広告主は多くの場合、売上増加に成功し、同プラットフォームへの投資を強化している」とジェウェル氏はいう。「多くの広告主が第1四半期にTikTokをテストしており、2023年を通して指数関数的な拡大を計画している」。
つまり、TikTokは、多くの広告主にとって急速にメディアプランの柱になりつつある。確かに、こうした広告主にとって、TikTokはFacebookやインスタグラムほど大規模な投資先ではない。だが、Facebookやインスタグラムで広告が鈍化しつつある(場合によっては実際に減少している)のに対し、TikTokではそれと真逆なことが起きている。
なぜか? 以前ならFacebookやインスタグラムに流れていたであろう資金が、今や、往々にしてTikTokに割り当てられているからだ。その理由は明らかだ。マーケターは、TikTokアプリでは、サウンドをオンにしてフル画面で動画広告を流す機会を得られ、それが最もインパクトが強いことが有効性の調査で明らかになっているからだ。これは、Facebookやインスタグラム、さらにはTwitterでの広告とは一線を画すものであり、TikTokほど広範なフィードに内在していない動画広告フォーマットではそうした効果は得にくい。言い換えると、TikTokの成長は、より確立されたプラットフォームの犠牲の上に成り立っているのだ。
「全体的には、従来のチャネルからオンラインチャネルへの資金移動が続いており、TikTokの取り分は大きくなっているが、こうした資金移動はペースダウンしつつある」と、ヴェイナーメディアのアリソン氏は話す。「だが、TikTokに限っていえば、予算の増額は直接的なライバルからもたらされるものであり、広告予算(たとえば、これまでTwitterに割り当てられていたもの)を、TikTokは広告ビジネスに引き込むことができたのだ」。
ソーシャルメディアコンテンツの視聴方法は変化しつつある
多くの点で、これは常識に逆らったものだ。通常、広告費は効果があるとマーケターが分かっている、Facebookやインスタグラムのようなテスト済みの領域へと絞られる傾向がある。そういう時には、TikTokのような比較的新しいプラットフォームは、真っ先には頭に浮かばない。だがよく考えてみれば、今は尋常ではない時期だ。
マーケティングコミュニティでは、最も確立されたプラットフォームの有効性が、必ずしもその支出を正当化するものではないという認識が高まっている。それはいくつかの理由によるものであり、主な理由は、ソーシャルメディア上の広告の可否を広告主が確信を得るために依拠していたデータを、Appleが制限してきたことにある。TikTokは、少なくともほとんどの場合、そうした問題を回避し続けている。
確かに、2022年の世界売上予測を20億ドル(約2600億円)引き下げなければならなかったが、145億ドル(約1兆8900億円)という数字はよい条件下においても野心的な数字だった。だが、予測は非現実的なものではなかった。TikTokでのオンライン広告への支出金額(Insiderによると2%未満)とTikTokで費やされる時間(分析会社Data.AIによると、「Android」デバイスでソーシャルアプリに費やされる2兆時間の22%)のあいだに大きな差がある場合は、話は違ってくる。その差は急速に縮まりつつあるが、広告価格によって広告主がより容易に決断を下しやすくなり続けるならば、その差はさらに急速に縮まりうる。
「セルフサービス広告やプログラマティック広告の場合、前年比で約10%上昇してきた。新しい広告プレースメントやターゲティング戦略などのような別の要因もある。ほかのプラットフォームと比べてまだ極めて低価格で競争力がある(YouTubeやメタ、Snapchatなどと比べてまだ低価格)ので、徐々に上がっていても、まだ懸念材料ではない」と、メカニズムでメディア担当ディレクターを務めるケヴィン・レンウィック氏はいう。
2022年に、リストラなど厄介な事態に見舞われた広告販売チームにとっては悪くない。TikTokがメディアエージェンシーとの大規模な取引を未だに発表していないことを考慮すると、これはさらに印象的なことだ。いったんストーリーが定着すれば、市場を動かすことができることを証明している。
「TikTokによって、人々が好むソーシャルメディアのコンテンツの視聴方法が変化しつつある」と、ソーシャルエレメント(The Social Element)で北米担当ソーシャル責任者を務めるエイミー・ギルバート氏はいう。「テストや学習であっても、有料広告の観点からTikTokには機会がある。ブランドがそれについて考えていないなら、少し波に乗り遅れている」。
使い方は多様に。しかし懸念も
ここで注意点がある。
TikTokを初めて利用する企業の場合、同アプリに割り当てる広告支出額は、Facebookやインスタグラムに投入する金額にはほど遠い。2022年には、TikTokは約100億ドルの売上を計上したが、Facebookは第4四半期だけでその3倍近く(277億ドル)の売上を上げた。それに、TikTokが改ざんされた動画や写真の新たな温床になってきたという懸念材料もある。
純粋な広告チャネルとして、広告主が強く求める効率的なパフォーマンスをTikTokが備えていないという事実は、いうまでもない。その一部は、アルゴリズムの成熟度や、オーディエンス内で適切な顧客を識別して広告提供を支援する能力と関係がある。
TikTokがこの2年間に大きな成長を遂げたというのは、控えめな表現だ。2年前、TikTokはどちらかというと、多くのマーケターから、若者が突飛なダンス動画を視聴するためにアクセスするニッチなチャネルと見なされていた。今はより主流のアプリで、世界全体で8億5000万人以上のユーザー(そのうち40%はFacebookを利用していない)がいるだけでなく、行き当たりばったりの動画視聴よりもっと多くのことを行うために、人々に利用されている。そう、人々はまだそうした動画視聴を行っているが、買い物やニュースの視聴も行っているうえ、検索エンジンとしても利用しているのだ。
[原文:Ad spending on TikTok defies advertising slowdown]
Krystal Scanlon | and Seb Joseph(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:島田涼平)