TikTok で大ブレイクのビューティスター、アリックス・アール氏の台頭の内幕:新しいGRWMコンテンツの形

DIGIDAY

ソーシャルメディアの「Get Ready With Me(私と一緒に準備しよう)」というコンセプト(GRWMと略されることが多い)は、YouTubeの黎明期から存在している。長らくクリエイターたちは、日中や夜に出かけるための準備をしながら視聴者に自分のメイクアップルーティンを公開し、新製品を紹介することでパーソナルブランドを確立してきた。プラットフォームが進化するにつれ、オリビア・ジェイド氏など当時ブレイクしていたYouTuberは、ブランド契約を獲得し、大規模なインフルエンサーの旅にも参加して、メインストリームでの知名度を獲得した。女優ロリ・ロックリン氏の娘であるジェイド氏は、全盛期には笑顔でチークを塗る動画1本につき200万ビューを記録している。

まったく新しいGRWMコンテンツの形

だが、2022年の終わりが近づく頃、マイアミ大学マーケティング専攻4年生のアリックス・アール氏がこのフォーマットを新たに考案、GRWMコンテンツが新しい生命を獲得した。瞬く間にTikTokでセンセーションを巻き起こしたが、アール氏がスキンケアやメイクアップのルーティンを紹介することはない。その代わり、彼女はしばしばアルコールを伴う大胆な話をシェアしたり、視聴者に興味深い問いかけをしたりする際に、視覚的に注意を引くものとしてそうしたルーティンを活用している。友人と出かける準備をしているときも、キャンパスに彼女を訪ねてきた両親と羽目を外して外出するときも、ニュージャージー出身の彼女は面白い言動が尽きない。

そして、このアプリのユーザーはそれに夢中だ。アール氏はTikTokで340万人、インスタグラムで130万人と、急速にフォロワーを増やしている。彼女の最初のTikTokの投稿は2020年2月で、典型的な大学での体験とでもいうべき、ゴミ袋を着た友人たちがおそらくパーティに向かう様子が映し出されている。視聴回数は210万ビューで、当時の彼女のほかの投稿を大きく上回っている。だが、フォロワーの本当の変化が明らかになったのは、先月に入ってからだ。インフルエンサーマーケティングマネージャーのアマンダ(@letstalkpopculture、TikTokのフォロワー数1万人)は、12月上旬のアール氏のインスタグラムのフォロワー数は62万7000人、TikTokは120万人だったと指摘する。

動画で使われている製品に注目が集まる

アール氏の真のフォーカスは美容ではなく、ストーリーであるにもかかわらず、このソーシャルメディアのスターの大勢のファンは、予測可能だが魅惑的なルーティンに釘付けになっている。クリエイターのダイアナ・メルストラッド氏(TikTokのフォロワー数2700人)は、アール氏がよく動画で使用している化粧品の製品ごとの内訳をリストアップすることまでしている。総額497ドル(約6万5400円)となる18の製品にスポットライトを当てたその動画は、8万以上の「いいね!」を獲得した。「即フォロー!! アリックスの別のGRWM動画を再生しながら、アルタ(Ulta)で商品を探してる私の姿を見せたかった(笑いの絵文字)」というコメントも付いている。

一方、セレブリティのメイクアップアーティスト、ダニー(@facesbydanii、フォロワー数1万3800人)は、アール氏の定番のルーティン全体を再現したTikTokの動画で、1日足らずで1万3000件の「いいね」を獲得、29万5000回視聴されている。アール氏が選んだ製品は、MACコスメティックス(MAC Cosmetics)のストローブクリーム(Strobe Cream)、ドランクエレファント(Drunk Elephant)のブロンジングドロップス(Bronzing Drops)、シャーロット・ティルブリー(Charlotte Tilbury)のリップチートライナー(Lip Cheat Liner)などだ。彼女の特徴的なまつ毛のルックは、トゥーフェイスド(Too Faced)のベターザンセックス・ウォータープルーフマスカラ(Better Than Sex Waterproof Mascara)とベネフィット(Benefit)のラッシュローラーマスカラ(Lash Roller Mascara)を組み合わせている。マネージャーを通じてアール氏にコンタクトを取ったが、コメントはもらえなかった。

バービー人形のようだが、みんなの親友のような存在

リップフィラーヘアエクステンションを使用していると公言するこのブロンドの女性が、西洋の美の理想像の青写真と一致していることに害はない。だがTikTokのユーザーがみな同意しているように、アール氏の魅力はそのルックスよりももっと深いところにある。

アール氏の名前は1月5日の時点で2億9700万回ハッシュタグ付けされており、彼女は親近感のあるイメージで自分をアピールしている。たとえば、彼女は嚢胞性にきびに悩んでいたときの素顔を正直に公開している。現在はアキュテイン(Accutane)を服用中だ。

「何もかもパーフェクトで美しい、フォトショップで加工された完璧な生活のインスタグラムの時代は終わった」と、2022年12月の動画で述べたのは、クリエイティブTikTokストラテジストのキース・ブラックマー氏(@keith_toks、フォロワー数3万人)だ。「TikTokでバイラルなアカウントになりたいなら、不完全で、オープンで、正直で、オーセンティックである必要がある。人々は利己的なインフルエンサーの行動にもうんざりしている。アリックス・アール氏はバービー人形のようだが、みんなの親友だ。彼女は自分の服を買えない人にあげたり、ボランティアで子どもたちに本を読む活動をしたりしている」。

またアール氏は、わざとらしい自虐的な態度は取らないと同時に、嫌われることも受け入れている。ある動画では笑いながら「意地悪なコメントをもらうのは怖くないのかとよく聞かれる。変かもしれないが、そういうコメントも本当に好き。なぜならその通りだから! 自画自賛が無理なら、どっか行って」と話している。

ブラックマー氏は、アール氏の成功に起因する興味深い二面性を指摘した。「彼女には透明性と親近感があり、また同時に理想的なライフスタイルもある」と彼はGlossyに語った。「見事でパーフェクトでありながら、また信じられないほど散らかった部屋を持つ。彼女は自然でオーセンティックであることができる」。

クリエイターとつながる方法を完全に変えた

バースツールスポーツ(Barstool Sports)のポッドキャストBFFsで共同ホストを務める人気コンテンツクリエイター、ブリアンナ・”チキンフライ”・ラパリア氏(@briannachickenfry、TikTokフォロワー110万人)は、アール氏は人々がクリエイターとつながる方法を完全に変えてしまったと語った。

「アディソン(・レイ氏)とチャーリー(・ダメリオ氏)が爆発的人気になったときを見ると、彼女たちのファンは皆、子どもたちのファンダムのようだった」と、ラパリア氏は彼女個人のポッドキャスト、プランブリアンカット(PlanBriUncut)で語っている。「ファンたちはちょうどこんな感じ。『うわ、彼女すごくかわいい! 誰と付き合ってるの?』。だが、人々はすでにアリックス・アール氏を応援してる。彼女が言うことを実際に本当に気にかけている。もしこのまま順調に行って(何かが原因で)キャンセルされることがなければ、彼女は(ほかのTikTokスターよりも)さらに影響力を持つだろう」。

アール氏がいかに早くメジャーなブランドとつながったかを考えれば、それはすでに実現しつつある。2022年秋、アール氏は招待のみのタルト(Tarte)のインフルエンサートリップでフロリダ州キーラーゴを訪れている。また、ニューヨーク市で開催されたレア・ビューティ(Rare Beauty)のプロモデイに招待され、セレーナ・ゴメス氏と1対1で交流している。さらに、グラブハブ(Grubhub)やインフルエンサー御用達のホワイトフォクスブティック(White Fox Boutique)など、アール氏が短期間のうちに獲得したブランド契約はいうまでもない。

「語らず行動で示す」手法が成功している

アマンダは、アール氏がスポンサード投稿1件につき、少なくとも4万ドル(約527万円)を稼いでいると考えている。これはメガ・インフルエンサーの一般的なレートだが、ほかの人たちは10万ドル(約1317万円)を超えると見積もっている。また、アール氏はコミッションを得られるAmazonのストアフロントも持っていて、そこではヘアやメイクアップ製品からビキニ、ワークアウト用品、フェスの必需品まで、彼女が厳選したお気に入りの商品をファンが購入することができる。

アマンダ(本人は名字を伏せることを希望した)は、アール氏のコンテンツを定期的に投稿している。2022年12月のアール氏の急成長に関する動画は視聴回数100万回以上を記録した。「エンゲージメント、フォロワー数、オーディエンス分析のすべてが、ブランドとの取引交渉に影響する」と彼女はGlossyに語った。「個人的には、タレントの実際の影響力をいちばん気にしている。ライブの開催頻度やコメントへの対応など、視聴者とどのくらいインタラクティブに交流しているかで、これを把握することができる。視聴者との関わり方が上手なタレントには、そうしたタレントを信頼するすばらしいコミュニティが存在する。こうした理由からブランドは今アール氏と提携しているが、彼女のオンライン上でのレレバンスと牽引力も提携の理由となっている可能性が高い」。

アール氏は、投稿コメントで一貫して視聴者と関わっている。彼女は、ファンの動画をスティッチして、そのファンからの賞賛に対して、ダイソン(Dyson)のエアラップ(Airwrap)をプレゼントすると泣きながら伝える動画を投稿したこともある。そのファンであるダイアナ・カーク氏(フォロワー数1万1000人)は、600ドル(約7万9000円)のプレゼントを受け取ったことに対して、約3分の動画を投稿した。その中で彼女はアール氏のことを「このアプリでもっとも優しいインフルエンサーのひとり」と呼んでいる。

トレンド予報士のココ・モコエ氏(TikTokのフォロワー数93万5000人)は2022年12月のTikTokの動画で、ブランドと消費者の両方を引きつけるという点で、アール氏の「語らず行動で示す」手法がうまくいっていると述べた。「クールなことをすれば、それがいかにクールかを語る必要はない。視聴者がその動画を気に入れば、その人が何をやっているのかを積極的に探そうとする。そして視聴者にプレッシャーを与えなかったことで、さらに購入したいという気持ちが高まるだろう。製品について話さない分、自分自身のことを話し、視聴者と感情的なつながりを築くことができる」。

次はポッドキャストへと飛躍するか

では、もうすぐ大学を卒業する彼女は、次に何をするのだろうか。2022年12月、アール氏はもしポッドキャストのコールハーダディ(Call Her Daddy)でインタビューを受けることになったら、野球選手タイラー・ウェイド氏と酷い別れ方をしたことについてすべてを明かすとファンに約束した。その数日前、アマンダはアール氏がその人気番組のゲストになるだろうと予言し、その動画には4万もの「いいね!」がついている。アマンダはその動画で「私の言葉を覚えておいて」と言っている。「もし実現しなければ、コールハーダディにとっては大きな機会損失だ」。さらにアマンダは、アール氏自身のポッドキャストが近い将来に実現すると考えていると話した。クリスティーナ・ナジャー氏などほかのTikTokのスターも、ポッドキャストの世界に飛躍することに成功している。ナジャー氏のポッドキャスト「イッツミー、ティンクス(It’s Me, Tinx)」は、2022年2月にデビューした。

「(アール氏は)カメラに向かって話すだけで信頼性と影響力を獲得し、そのおかげで視聴者とうまく関わることができた」とアマンダは言う。「コンテンツと視聴者との関わり方を引き続き一貫させていく限り、彼女が成功を維持していくのは難しいことではないだろう」。

[原文:Inside the rise of Alix Earle, TikTok’s beauty breakout star]

DAHVI SHIRA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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