無料の広告付き ストリーミング の狙いは広告の支配なのか。メディア企業から上がる怒りの声

DIGIDAY

「どのコンテンツプロバイダーもサムスン(Samsung)と戦っている」。

これは、筆者が先日、無料の広告付きストリーミングTV(Free Ad-supported Streaming Television:以下、FAST)市場の現状について、あるストリーミングサービス企業の幹部から話を聞いた際に返ってきた言葉だ。しかし、FASTチャンネルを運営する企業の関係者数人からさらに話を聞いたところ、この言葉が完全に正しいわけではないということがわかった。

FASTチャンネルを運営する企業の多くがサムスンと戦っていることは、確かなようだが、なかには、Amazonのフリービー(Freevee)やRoku(ロク)のThe Roku Channel、パラマウント(Paramount)のプルートTV(Pluto TV)といった、FASTプラットフォームとぶつかっている企業もある。

したがって、こう言い直したほうがいいかもしれない。「どのコンテンツプロバイダーも、少なくともひとつのFASTプラットフォームと戦っている」と。

Fast & Furious

  • FASTチャンネルを運営する企業は、プラットフォームがチャンネルの広告販売に課す制限にフラストレーションを感じている。
  • サムスンTVプラスは、チャンネルの広告インベントリに対する管理の強化を強く求めている。
  • プルートTVとThe Roku Channelは、主としてレベニューシェア契約に基づいて運営されているが、一部のチャンネルにインベントリの販売を認めることにもオープンな姿勢を見せ始めている。

コンテンツさえ手に入れればこちらのもの?

FASTチャンネルを運営するメディア企業の幹部たちに取材したところ、新たなチャンネルが生まれ、配信に関する既存の契約(通常の契約期間は1~2年)が更新される一方で、FASTサービスでストリーミングチャンネルを休みなく運営するこうしたメディア企業は、チャンネルの広告売上に対するプラットフォーム側の強引な管理にうんざりしているという。

「毎年こうだ。しかも、悪くなる一方だ。何よりも理解できないのは、(プラットフォームが)インベントリを増やす以外に何をしようとしているのかがよくわからないということだ」と、あるチャンネルの関係者は語る。

「私が思う経緯はこうだ」と、別の関係者は語る。FASTプラットフォームは「こちらに言い寄ってきては、コンテンツを手に入れるべく(当初は)柔軟な姿勢を見せていた。彼らにはコンテンツの価値がわかっているからだ。そして、ひとたびコンテンツを手に入れ、我々を出しにオーディエンス基盤を築くや、彼らは情報をいっさい共有しようとせず、自分たちが世界を支配していると思い込んでいるに違いない、ウォールドガーデンの愚か者になってしまった」。

FASTにチャンネルを持つメディア各社が抱える主なフラストレーションは、チャンネルの広告インベントリを販売する機会をめぐるフラストレーションだ。インベントリ販売をチャンネル各社に許可していないプラットフォームもあれば、チャンネル各社が販売できるインベントリのシェアを制限しているプラットフォームもある。

プラットフォームからのレポートは役に立たず

また、FASTプラットフォームはチャンネルのパフォーマンスに関する限られた情報しか、チャンネル各社に提供していない。たとえば、オーディエンスの内訳に関する詳細や、広告インベントリに占めるプラットフォームのシェアに対するフィルレートのレポートなどだ。

また、デバイスIDなどのデータは、広告の測定とアトリビューションの目的でチャンネル各社へと回されているが、それも制限されている。パフォーマンスに関する知見が得られなければ、視聴率を向上させるために、チャンネル各社が番組づくりを最適化することは難しくなる。こうした情報は、配信契約の再交渉にも役立つ。

プラットフォームは通常、プラットフォーム側の判断でチャンネルを削除できる権利を自身に与える文言を配信契約に盛り込んでいるため、チャンネルが削除されるリスクの回避にもつながる。

「何が、いつ、どこと成果を上げたのかが、まったくわからない。プラットフォームが我々のパフォーマンスの向上に力を貸してくれたことなど、ほとんどない」と、3人目のチャンネル関係者は語る。

サムスンをめぐる状況

FASTの配信契約が持つ厄介な性質を示す最たる例は、サムソンTVプラス(Samsung TV Plus)のようだ。サムソンは一部のチャンネル運営企業に、プログラマティックのオープンマーケットで売られているチャンネルインベントリをすべて転換して、サムスンを介して販売するように圧力をかけてきた。サムスンは現在、SSPの開発に取り組んでいる。

「サムスンはインベントリの100%を取り戻そうとしている。誰にもプログラマティックを販売させないつもりだ」と、4人目のチャンネル関係者は語る。

「我々が結んでいるキャリッジ契約には、我々のインベントリをプログラマティックで販売させないとする文言が盛り込まれている」と、前出の1人目の関係者は語る。

サムスンは、FASTチャンネルの視聴率の稼ぎ頭であるため、チャンネル各社の悩みのたねとなっている。今回取材した関係者のなかには、彼らのFASTチャンネルの一部では、サムソンTVプラスが視聴率の50%以上を占めていると述べる人たちもいる。「まさにガリバーだ」と、2人目の関係者は語る。

サムスンの広報担当者から送られてきた声明には、こう書かれている。サムソンTVプラスは「メジャー系とインディー系のコンテンツスタジオの両者が」全世界のオーディエンスにリーチできるように配信サービスを提供しているが、チャンネル各社の不満に直接対応することはない。「サムスンの目標は、チャンネル各社とコンテンツライセンサーの双方にメリットがある環境を構築し、サムスンスマートTV(Samsung Smart TV)のナンバーワンFASTプラットフォームであるサムソンTVプラスを介して消費者にリーチすることだ」。

レベニューシェアに対する怒り

チャンネル各社の怒りの多くはサムスンに向けられてはいるが、すべてというわけではない。むしろ、逆のケースもある。

一部のチャンネル運営企業は、良好な関係を築いて、現在もインベントリをシェアしているプラットフォームとして、サムスンの名前を挙げている。対照的に、彼らが主な敵として名前を挙げたのが、AmazonのブリービーとRokuのThe Roku Channelだ。これらプラットフォームとの配信契約では、チャンネル各社はチャンネルインベントリの販売を許されておらず、プラットフォームが販売する広告からの30~45%のシェアレベニューを受け入れさせられているという。

同じくレベニューシェアを採用しているプラットフォームとして、フォックス(Fox)のトゥビ(Tubi)とNBCユニバーサル(NBCUniversal)のピーコック(Peacock:サブスクリプションベースのサービスだが、FASTチャンネルもある)の名前も挙がった。

Rokuとピーコックの広報担当者はコメントを拒否した。フリービーとトゥビの広報担当者からも、期日までに回答はなかった。

「Rokuでの視聴率は上がっているのに、売上は下がっている。なぜなら、Rokuが我々に販売させないからだ。コンテンツオーナーならば、コンテキストの関連性に照らした販売ができるので、販売における価値がはるかに高い」と、4人目の関係者は語る。

サムスンがチャンネルのプログラマティック広告販売を管理しようとする圧力も含め、レベニューシェアに関する問題は、チャンネル各社がインベントリを自社販売していれば手にできるであろう売上に比べると、FASTプラットフォームが促進する売上は十分ではないと考えていることにある。

FASTプラットフォームは通常、各チャンネルを個別に広告主に売り込むのではなく、チャンネルの壁を越えて広告を販売する。彼らが確保するCPMは10~20ドル(約1400~2800円)が相場だ。「だが、我々が同じ広告ユニットで販売するCPMは、60ドル(約8400円)を上回っている」と、5人目の関係者は語る。「とても簡単に受け入れられるものではない。コンテンツだけでなく、配信、特にインベントリのマージンがなければ、チャンネルの運営などできたものではない」。

混乱だらけの見通し

この現状に合点がいくところなどひとつもないように思える一方で、一部のチャンネル運営企業によれば、The Roku ChannelとパラマウントのプルートTV(かつては怒りを煽るプラットフォームの筆頭格だった)に関しては、実際のところ状況はよくなりつつあるという。

Rokuについては、一部のチャンネル運営企業との話し合いがすでに始まっており、チャンネルの広告インベントリを実質的に買い戻して、プログラマティックギャランティードや直接販売の取引を介して広告主自身に販売できるようにするオプションについての協議が進められている。プルートTVも、インベントリの分け方の合意に向けて、チャンネル各社との話し合いを進めている。本件についてプルートTVの広報担当者にコメントを求めたが、期日までに回答はなかった。

ここまで見てきたとおり、広告販売に関する取り決めは、プラットフォームごとに異なっている。同じプラットフォーム内においてさえ、条件はチャンネル運営企業間で異なることもある。こうした配信契約の相違を受けて、一部のチャンネル運営企業はスタンダードとなる契約条件を強く求めるようになっている。たとえば、レベニューシェア契約における売上の最低保証や、インベントリの分け方に関する取り決めにおける価格の下限などだ。

「インベントリを100%取りたければ、何らかの保証はあって当然だ。『自分たちは優秀なのだから、こうする権限を求める。そちらもこの額で満足すべきだ』というのなら、相当高いフィルレートとそれなりのCPMでインベントリを埋めるべきだ。こちらにインベントリを見直させるのが嫌なら、せめてインベントリを埋めるチャンスを与えるべきだ」と、2人目の関係者は語る。「インベントリを奪うだけ奪って、ろくにマネタイズもしない。それがプラットフォームのいまのやり方だ。こんな経済が業界を支えていけるのか? 甚だ疑問だ」。

[原文:Future of TV Briefing: FAST channel operators have hit a breaking point with streaming platforms

Tim Peterson(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)

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