「その週だけで、フロアをまたいで感染者が7人出た」:オフィスに戻ったメディア企業社員の告白

DIGIDAY

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一部の米パブリッシャーは、2022年1月、従業員の出社再開を予定していた……のだが、計画は泡と消えた。オミクロン株が燎原の火のごとく、瞬く間に全米に広がり、1日の感染者数が過去最多の70万人以上を記録したからだ。

一方、ハースト(Hearst)をはじめ、一部の大手メディア企業は2021年末に出社再開を要請し、1月に入ってフレックスタイム/リモートワークに戻した。匿名性を保証する代わりに本音で語ってもらうDIGIDAYの告白シリーズ。今回はハーストの社員が、ほぼ2年ぶりに本社ハースト・タワーに出勤した際の経験をふり返ってくれた。出社した同僚の中に健康/予防対策に対する意識の低い者がおり、おそらくはそのせいで自分も感染してしまったと、氏は語る。

このインタビュー後の1月13日、ハースト・マガジンズ(Hearst Magazines)のプレジデント、デビ・チリチェッラ氏は全社員に通達を出し、DIGIDAYが入手したそのコピーによれば、リモートワークを「次の通達があるまで」延期し、「出勤再開の開始日が確定したら、遅くとも2週間前までに通知する」旨を伝えた。DIGIDAYがハーストに質問を送ったところ、上記と同様の答えが返ってきた。なお、読みやすさを考慮し、発言には多少編集を加えてある。

――出勤再開初日の様子は?

2021年11月29日に出社するようにと、会社から言われていた。私も久しぶりに出社したわよ、強制だったからね。はっきり言って、戻りたくなかったんだけど。で、その月曜日、オフィスに行ってみたら、私と同僚のデスクが同じ列に置かれていた。念のため、ふたりでデスクとデスクの間の長さを測ってみたら、6フィート(約180センチ)ぴったり……ふたりとも何となく嫌な感じがした。そう、ガイダンスどおりではある。でも、どうしてかはわからないけど、近すぎる気がしたのよ。共有スペースでは一応、マスクが義務化されていたんだけど、デスクに向かっているときや、適切なソーシャルディスタンスが保たれているときは、しなくてもいい、ということだった。でも行ってみたら、デスクとデスクの距離はそんなに近かったし、急に不安が湧いてきた、間違いなく。それで、私とその同僚はデスクに向かってるときも一日中マスクをつけることにした。でも、同僚の多くはマスクをつけないで歩き回っていた。対面での仕事では、誰かのデスクに行って話をする。それは普通なんだけど、一部の同僚は平気で、マスクをせずに近寄っていた。エレベーターに乗っても、マスクをしてない人がいたし。それこそ初日から、コンプライアンスの程度はそんなものだったのよ。

――オフィスでの仕事再開については?

どうしてオフィスにいなくちゃいけないのか、さっぱりわからなくてね、ほんと、無意味としか思えなかった。毎週恒例のチームミーティングがあるんだけど、人数が多すぎて、例のソーシャルディスタンスを取ると、カンファレンスルームに入りきらないのよ。50人くらいかな。結局、Zoomでミーティングをするしかなかった、全員と顔を合わせるのは無理だったから。つまり、こっちはオフィスのデスクにいて、向こうも同じオフィスにいるのに、わざわざZoomで話をしてるわけで、誰だって思うわよ――一体全体、何の意味があるんだって。それと、余計な事まであれこれ考えはじめて、自分でもよくわからなくなった。同僚と同じ建物にいるのに、どうしようって――少なくとも私はそう。私が近づいていったら、あの人は嫌なんじゃないか? あらかじめメッセージを送って確かめたほうがいいのかな? そうね、学校の初日の気分っていうか、そこにコロナ禍っていう重しがずっしり乗っかってる感じ。

――オフィスのレイアウトは? コロナ禍前と変わっていた?

以前はワンフロアにチーム全員のデスクが並んでいた。横一列に3人まで。でもその時は各列に1人か2人。そのせいで各フロアに入れる人数が半分になって、だから2フロアに分かれた。経営陣がAチームとBチームに分けたのよ、従業員同士がなるべく顔を合わさないで、違う曜日に出社できるように。つまり、各チームの半分がオフィスにいるときは、残り半分はいなくて、別のチームは違うフロアにいる、という具合。でもそれだと、連携をとるのがかえって面倒なのよ。相手はオフィスに来ていないから、結局SlackとZoomに頼るしかないか、もしくは別のフロアにいるから、前もってそっちに行くと伝えておかないと、相談にも行けないか、そのどちらか。社員証は自分のデスクがあるフロアでしか使えなくされてて。だから別のフロアに行っても、扉の前で突っ立って、亡霊か何かみたいに窓から中を覗き込んで、誰かが入れてくれるのを待つしかないわけ。

――在宅勤務と比べて、オフィスでの生産性については? 高い、または低いと感じた?

生産性は落ちたわね。私の場合、誰かと物理的に連携できなくても、在宅勤務なら、SlackかZoomを使えば、それで事が足りる。でもオフィスにいて、相手もオフィスにいるとわかっているなら、面と向かって話しをするのが普通でしょ。だからその人を探してうろうろする。ところが、経営陣がデスクを全部動かしちゃったから、席が前とはまるで違う。しかも、その人が席を外していたら、こっちはいったんデスクに戻って、5分後にまた探しに行くはめになるし。もちろん、社会性という点では、オフィスにいるのは良いと思う、同僚と雑談ができるし。でもその一方で、精神衛生上の問題もある――その場にいることに関する不安よ。自分がいる建物の中を、自分がよく知らないうちに、コロナウィルスが駆け回っているとわかってるのに、集中なんてできるわけがない。

――どういう意味? オフィスにいる人がコロナにかかって、あなたはそれを知らなかったと?

月曜日(12月13日)、私は有休を消化することにした。eメールは確認しなかった、仕事をしていないときはメールも見ないと、自分の中で決めてるから。だから、チームメンバー宛ての一斉メールが来ていたのは知らなかった、火曜日から在宅勤務になるっていう通知よ。さっきも言ったように、月曜日は休んでたから。それで火曜に出社して、驚いた。え、みんなどこ? 何で私しかいないの? 慌ててマネージャーに訊いたら、「ああ、君のチームにコロナ感染者が出たんだ。ただ、この件は公にしないほうがいいと思う、だからくれぐれも内密に」と。もちろん、内密になんかしなかったわよ。組合に言って調べてもらったら、その週だけで感染者がフロアをまたいで7人出たことがわかった。ひどい話でしょ、誰だってぞっとするわよ。で、その週の後半、会社からメールが来たんだけど、感染にはまったく触れてなくて、年末の休暇を家族とゆっくり過ごして欲しい、年明けからまたリモートワークでお願いしたい、それだけよ。でも、感染者が出たのを知ってる社員にしてみれば、そんな悠長なことを言ってる場合じゃない。で、私はそのメールが来た翌日に検査を受けて、結果は陽性、それ以来ずっと具合が悪い、というわけよ。

――社内にコロナ感染者が出たことを経営陣が全社員に知らせたのは、いつ?

2022年1月の第1週、休暇明けにeメールの一斉配信で。オミクロンが猛威を振るっているから、在宅勤務でお願いしたいと。つまり、会社はそこでようやく認めたのよ。

――ご自分の感染源がレストランや友人ではなく、職場だと思う理由は?

当時、友人に感染者はいなかった。私の知人の中に、感染者は同僚しかいなかった。オフィスで伝染されたのは間違いない、絶対にそうよ。私は電車通勤だし、電車はいつも混んでいる。だから会社の行き帰りに伝染った可能性はある、それはそうよ。でも確実に陽性者が出たと言える場所は、私の知るかぎり、あそこ[職場]しかない。多くの人がマスクもしないでうろうろして、顔をむき出しにしたまま話していた、それは事実なんだから。もちろん、誰にも確かなことは言えない、でも私が持ってる判断材料はそれだけだから。

――オフィスでの安心感はどの程度だった? マスクやソーシャルディスタンスといった、然るべき感染対策が講じられ、しっかり守られていると感じた?

さっきも言ったように、改善の余地は大いにある。マスク着用の義務を強化して、常につけさせるようにすれば、随分違うと思う。それと、布マスクには効果がない、という点を明確にすることも。N95かKN95じゃないと意味がないんだと。本当に、そういうルールを強制しないと駄目なのよ。「マスクをつけないと、こういうことが起きる」という説明は経営陣から一度もないし。本当に何にもないのよ。ただあいにく、私はそこまで気が強くないし、誰かがマスクをつけてないからといって、自分から何かを起こすつもりはない。だから、ワクチン接種の要請は嬉しいわよ。とってもありがたいし、ほっとしてる。いまはブースター接種の要請に注目してる。

――早くオフィスに戻りたいと思う?

まったく思わない。正直、嫌よ。いまはオミクロン感染急拡大の真っ只中。それが落ち着く前にオフィスに戻るなんて、非常識もいいところよ。というか、オフィスだけの話じゃない、でしょ? 通勤するには、地下鉄に乗らないとならない。一人ひとり、大小の差はともかく、それぞれに生活があるし、それが職場に持ち込まれることになる――たとえ、その中の誰かがルールをすべて、きちんと守っていたとしてもね。自宅でできるZoomをわざわざ会社に行ってやらせる命令なんて、馬鹿馬鹿しいにも程があるわよ。

――RTOプラン(Return To Office Plan/勤務体制に関する対応計画)の策定に際して、メディア企業がするべきことについては?

従業員の言葉に耳を傾けること、それが第一。どんな形が一番働きやすいと社員は思っているのか。実際に業務を行なっている人にしか、ベストな仕事の進め方はわからないんだし。コロナ禍の最中に出社させるのは、経営陣がそうしたいという理由だけで命令するのは、独裁的と言うしかない。ブースター接種の要請は素晴らしい。マスクの義務化も役に立つと思う。それと、一律じゃなくて、柔軟な対応も――リスクの高い人、幼い子どもがいる人、高齢の親と同居してる人には欠かせない。柔軟性は絶対に必要、だって、ストレスで苦しんでる人に良い仕事はできないから。そんなの常識でしょ。従業員が毎日、いつ命に関わる病気にかかるかもしれない、という恐怖に怯えている状態で、生産性の向上なんて、期待できるわけがない。

[原文:‘There were seven cases on various floors that week’: Confessions of a media employee who returned to the office

SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)

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