インフルエンサーの AI 利用、ブランドセーフティや透明性はいかに担保するのか

DIGIDAY

インフルエンサーマーケティングおよびソーシャルメディアでのAI利用がますます盛んになるなか、メディアエージェンシーはインフルエンサーと仕事をする際、透明性を優先し、ブランドの安全性対策を強化せざるをえなくなっている。

コンテンツクリエイターとエージェンシーは引き続き、ジェネレーティブAI制作によるビジュアル/サウンドのソーシャルメディアフィルターやAIインフルエンサーへの利用を試しているが、それが公的に公開するコンテンツとなれば、倫理的および法的な諸問題が生じる。

エージェンシーとそのクライアントの場合、AIコンテンツ使用の非開示には、ブランドおよびその評判を傷つけてしまうリスクを伴う。かたやインフルエンサーは、フォロワーに対する自らの真正性とエンゲージメントを損ないかねない。

浮かび上がる懸念

「エージェンシーにとって、そして我々が関わるパートナーにとって最大の懸念は常に、AI絡みのアトリビューション問題だ」と、IPG傘下のエージェンシーであるR/GAでアソシエートストラテジーディレクターを務めるアレクシス・デブルナー氏は話す。

また、インフルエンサーマーケティング企業であるインフルエンサー(Influencer)のCEOベン・ジェフリーズ氏は、「コンテンツが『マニュアルのようだ』と見なされると、そのブランドに対するフォロワー/オーディエンスの信頼度を落とす恐れもある」と言い添える。さらに同氏は、AI生成コンテンツによって永続されかねないディープフェイクテクノロジー、誤情報、有害なバイアス(偏見)およびステレオタイプ(固定概念)をリスク要因として挙げる。

加えて、「テクノロジーを利用したインフルエンサーマーケティングの推進、そして消費者が真に共鳴する人間的要素の維持、という両者のバランスの確保がブランドには必須となる」とし、「とどのつまり、AIはそれ自体にはバイアスがなく、基盤とするデータに拠っているだけだ。もしもそのデータが不完全な、あるいは差別的なものであれば、そこから生成されるコンテンツも当然そうなる」とまとめた。

AI利用の開示

多くのインフルエンサーはAIを――動画フィルターや短尺動画生成から、翻訳ツール、パーソナライズドコンテンツの制作に向けた人々の行動および嗜好の分析に関する戦略まで――さまざまなかたちで利用している。ジ・インフルエンサー・マーケティング・ファクトリー(The Influencer Marketing Factory)によれば、2023年米国でアンケート調査に応えたクリエイターの94.5%前後が、AIをコンテンツ編集および生成に使用している。

エージェンシーネットワークを形成するディアモンクス(Media.Monks)のチームはAI利用について協議する際、そうした点を契約でカバーするようにしている。同社ソーシャル部門グローバルヘッドのエイミー・ルカ氏によれば、契約に関する打ち合わせでは必ず、コンテンツへのAI使用に関する透明性と開示に触れるという。

インフルエンサーは「そのコンテンツの創造に関する基本的ルールを暗黙のものとして明確に理解しておく必要がある」と同氏は言う。また、「これについては、倫理の面からもっと多くの問題点が出てくるだろうが、それよりも重要なのはブランドの安全性と透明性の点だと私は思う。というのも、どんなに注意していても、たった1人のインフルエンサーが真正ではない、あるいはAIを介したコンテンツを制作してしまえば、それまでだからだ」と付け加える。

たとえば、マスカラといったコスメ商品を販売するブランドおよびインフルエンサーの場合、偽(フェイク)まつげの使用は厳禁だ。ファンデーションといったスキンケア商品の場合も同じで、フィルターや拡張ツールを使って肌の色合いや見かけを変えるのは、真正性を担保するため、禁止されている。

「自分の本物のまつげでなければならない」と同氏は言い、「我々が見せたいのは、そのマスカラがどれだけ効果的なのかであり、つけまつげといった偽物ではない(中略)突き詰めて言えば、重要なのはそのコンテンツがどう創られているのか、どんなメッセージがそこに込められているのか、ということだ」と続けた。

求められる業界の基準と協力

ジェネレーティブAIの利用はまだ始まったばかりであり、だからこそいくつか問題は必ず出てくるだろう。それゆえ、「既存の核となる法的枠組み」と「AI利用に関する透明性」が重要になってくると、ルカ氏は指摘する。「AIはブランド勢にとっての新たな未開拓地であり、AIを使うなら長期的ブランドエクイティと信頼を損なわぬよう、責任ある倫理的なかたちで利用するしかない。半端な使い方では、未来のブランド勢にとって巨大なリスクとなる」。

レイザーフィッシュ(Razorfish)のコンシューマー&コンテンツエクスペリエンス部門グループVPアリエル・カーター氏も同じく、AI利用の開示はインフルエンサーマーケティングにおいて今後ますます重要になると話す。同社が仕事をしているインフルエンサーらはすでに、さまざまなAI生成のサウンド、フィルター、編集をソーシャルメディア上で使っているが、「ジェネレーティブAIの発展には、業界の基準および協力がよりいっそう求められる」と、同氏は指摘する。

「フィルターやサウンドといった諸々は、いまや当然のものとして出回っており、その使用の開示についても、必ずしも求められているわけではない。ただ、その点についてジェネレーティブAIに関する管理/規定や、クリエイターとAI利用の未来についての検討が求められているのは確かだ」と、同氏は説明する。「そこは我々がともに進んでいくべき新たな未開拓地であり、業界の確立に欠かせないことだ。だからこそ管理/規定はそのための重要な第一歩になるだろう」。

一方で法的側面だけでなく、CMIメディア・グループ(CMI Media Group)はキャンペーン時の正確なターゲティングと、ブランドを守るためのコメントモデレーションにも注目している。ペイドソーシャル部門アソシエイトディレクターであるビアンカ・ブランド・クロウパ氏によれば、CMIメディア・グループは新たなプロダクトとコンテンツ制作に関するオファーについて、法律/プライバシー問題の専門チームと緊密な連携を取っているという。

「我々は実際、さらに念を入れて関連コンテンツをすべてその法律チームにチェックさせている」とクロウパ氏は言う。「彼らはすべてを正確に検証する(中略)すべて問題ないと、我々が自信を持って言えるように」。

インフルエンサーマーケティングにおけるAIの未来

ますます多くのインフルエンサーがコンテンツの制作だけでなく、ビジネスの効率促進にAIを利用するなか、インフルエンサーマーケティング企業のインフルエンチャル(Influential)でCEOを務めるライアン・ディタート氏は、「AIという新技術はビジネスの急速な発展を可能にする」と話す。同氏の会社ではクライアントを保護するべく、データはすべてAIブランドセーフティ戦略――7年前に導入した独自の安全機構――に則って同意を取り、匿名化しているという。

「多くはクリエイティブなコンセプトやクリエイティブなブリーフ、顧客やクリエイターのサポートチケットの生成、アイデアの発想源としてもAIを利用している」と同氏は言い、「我々にとっては、AIは計算機と変わらない、より効率的になるための強力な道具でしかない」と続けた。

メディアモンクスのルカ氏はまた、セレブとインフルエンサーが自分そっくりの肖像または声をAIで創造する――つまり、自らのクローンを創る――可能性もあると指摘する。そしてそれを、人々がソーシャルメディアを超えて交流できるライブイベントやコンテンツ、エクスペリエンスへと発展させることもできるとも話す。「リビングヒストリー(生きている歴史)の観点から見ると、極めて興味深いことが起きている」。

異なる言語圏へのリーチや、ブランドセーフティへの活用

また、異なる市場/原語の人々に広くリーチするコンテンツのAI創造も、インフルエンサーマーケティングにおけるビジネスチャンスになりうる。進化を続けるAIおよび翻訳ツールを使えば、インフルエンサーは幅広い言語モデルを利用し、自身のコンテンツと複数の他原語音声を同期できる。

「AIおよび幅広い原語モデルの登場のおかげで、コンテンツの言葉自体のコンテクストを極めて高い精度で維持できるようになった」と、メディアモンクスのエンタープライズオートメーション部門グローバルVPマイケル・バラレゾ氏は話す。「もともとのテキストを文字に起こし、合成した声に翻訳版を読ませればいい。いまではそれがすべて自動でできる」。

また、「一部のAIは、動画の人物の喋り言葉を分析し、その翻訳版を口の動きに合わせることもできる」と同氏は述べ、「これはいつも言っていることだが、いまのAI技術は最低のレベルにある。今後、ここから進歩する一方だ」と続けた。

そして皮肉なことに、AIにはAIコンテンツが生むリスクの一部を最小化することもできるだろう。たとえば、インフルエンサーのジェフリーズ氏が説明するように、AIは投稿されたコンテンツやキャプションを分析し、その情報の多様な――たとえば宗教や年齢など、デモグラフィックの異なる――オーディエンスによる受け止め方に関する洞察を供し、ブランドの安全性に寄与できる。

「そうしたAIによるチェックは、コンテンツを適切で、なおかつ期待する類のインパクトを持てるものになるよう、ブランドが必要な微調整を加えるための一助になりうる」。

[原文:How media agencies are tightening brand safety and transparency measures as influencers tap AI

Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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