デニムの 現地生産 への需要が高まる:コスト削減やリードタイム短縮などのためニアショアリングの必要性

DIGIDAY

コスト上昇と高まる顧客ニーズに牽引され、サプライチェーンの革新とサステナビリティを優先するブランドが増えている。同時に少量生産の「クラフト」デニムの人気も高まっている。フレイム(Frame)は最近1万2000ドル(約168万円)のジーンズを発売し、ヒューゴ・ボス(Hugo Boss)は5月にハイエンドデニムラインのヒューゴ・ブルー(Hugo Blue)をローンチした。世界経済フォーラム(World Economic Forum)の報告書によると、新規の小規模工場は、デザイン、生産、マーケティング、販売などバリューチェーン全体で雇用を創出し、2030年までに世界で450万人の雇用を生み出す可能性がある。こうした工場では、50点から500点程度の小規模ロットの製品を生産する。

コンサルティング会社マッキンゼー(McKinsey)の2022年11月のレポートでは、ファッションブランドにとって小規模な現地工場は、最大20%のコスト削減、最大50%の市場投入時間の改善、最大70%のリードタイム短縮を可能にするとしている。世界的にも、経済的な問題からニアショアリング(近隣へのアウトソーシング)の必要性がさらに高まっている。

ブレグジット後の状況において、英国のファッション業界の国境内での研究開発に投資が行われるようになり、クラフトデニムの製造が英国内でニアショア化され始めている。英国では、ファッション素材の生産のほとんどが、ウールやツイードに集中している。しかし、ブレグジットに関連したヨーロッパからの商品輸送コストの上昇に伴い、英国政府は現地生産への投資を強めている。これはサステナブルな製造の新たな優先順位付けと互いに作用している。ヨーロッパでも小規模生産が増加しており、ポルトガルはサステナブルな生産を優先する小規模ブランドの重要なハブとなっているが、ポルトガルはまだデニムの製造には適していない。米国の衣料品生産のハブであるLAでは、サステナブルな工場が開設され始めている。

ブレクジットで高まるコストを下げることができる

2019年の時点で、英国におけるウィメンズと女児用のジーンズの輸出額は1億2800万ポンド(約2223億円)だった。マーティン・ローズ(Martine Rose)、ファロー(Fallow)、エンパイア(Empire)、ヘブトロコ(Hebtroco)、スタジオニコルソン(Studio Nicholson)などのブランドが英国でデニムを生産している。

イノベーションプラットフォームのファッション・フォー・グッド(Fashion for Good)のレポートによると、小規模工場では、従来の製造方法と比較して、水の使用量を最大90%、化学物質の使用量を最大50%、エネルギーの使用量を最大80%削減できるという。エネルギー使用は不況の圧力により2022年にコストが大幅に上昇したため、EUのデニムメーカーのあいだで懸念が高まっている。

2016年にロンドンにオープンしたクラフトデニムの製造拠点ブラックホースレーン(Blackhorse Lane)では、自社ブランドだけでなく、スタジオニコルソン、トースト(TOAST)、ミスターポーター(Mr Porter)といったブランド向けに小規模なデニムコレクションを製造している。ブラックホースレーンの創業者であるビルゲハン・アテス氏は、製造業歴34年のベテランだ。同社では週に最大2万8000点を製造している。アテス氏によると、世界的なコスト上昇とサステナブルな製造に対する要求から、ブランドにとってニアショアリングはますます望ましいものになってきている。

「世界中の工場が閉鎖されているため、以前は1500ポンド(約26万円)だった日本製の生地のコンテナが、いまでは7500ポンド(約130万円)になっている」とアテス氏は言う。「私たちは以前、日本の生地のジーンズをオランダ、ドイツ、フランスの顧客に280ポンド(約346円)で販売していた。だが、ブレクジット、つまりそれに伴う関税やお役所仕事のせいで同じ服を410ポンド(約4万8000円)で売っている」。現地生産であれば、こうしたコストを下げることができる。

英国政府によるファッションイノベーションへの投資

英国では小規模なファッションイノベーションの研究開発が、初めて政府の投資を受けることになった。4月、ブラックホースレーンは、サステナビリティに焦点を当てた英国初のデニム洗濯施設を開発するため、政府から8万ポンド(約1390万円)の投資を受けた。政府からの投資は、持続可能なイノベーションの推進を目的とした5年間のプロジェクトであるビジネスオブファッション・テキスタイル・アンド・テクノロジー(Business of Fashion, Textiles and Technology、以下BFTT)に由来している。このほかにも、英国では8つの研究開発プロジェクトに投資が行われている。

BFTTの評価委員会責任者でロンドン芸術大学研究開発マネージャーであるアシュレー・ダン氏は、ブラックホースレーンの成功は、資金調達アプローチを変える必要がある証拠だと述べている。「私たちは、資本投資を伴うような資金調達の構造を若干変えることを検討している」と同氏は言う。「英国のメーカーがビジネスを拡大するには、最先端の機械の導入が不可欠だということが証明できた。技術面や環境面でファッションに投資する価値があることを投資家に伝える必要がある」。

「もしあなたが小規模なデザイナーで、従来はトルコやモロッコ、ポルトガルでデニムを作っていたなら、(生産の)最低ラインはずっと高くなる」とアテス氏。「ここではそれが低減され、かなり環境的に進歩している地元の施設を使っている」。ブラックホースレーンは一般公開されており、ロンドン芸術大学と提携して学生や研究者にデニムの製造について教育を行っている。ロンドン芸術大学は英国を代表する芸術大学で、卒業生にはフィービー・ファイロ氏やステラ・マッカートニー氏などのファッションデザイナーがいる。

LAでのデニム生産を構築

LAではクラフトデニムの製造を見つけるのはもっと難しい。とはいえ、企業が輸送コストの削減、二酸化炭素排出量の削減、地元の研究開発施設の構築などを目指しているため、現地生産の需要は伸びている。ここ数年、アメリカンデニムの価値が高まっており、LAを拠点とするリフォーメーション(Reformation)のようなサステナビリティを重視するブランドは、当初LAでの生産を構築した。

「デニムを初めてローンチしたとき、LAを拠点とするサプライチェーンを構築したが、選択肢は少なかったとはいえ(製造)パートナーはいくつか存在していた」と、リフォーメーションのチーフサステナビリティオフィサー兼オペレーション・バイスプレジデントのキャスリーン・タルボット氏は言う。「サステナビリティの観点からすると、ほとんどの施設はまだ成熟の過程だったり、あまり投資していなかったりといった状態だった。技術やイノベーションの面で規模を拡大してレベルアップを図ろうとしたとき、LA以外のいくつかのグローバルハブはもっと確立されていて、進んでいることがわかった」。同ブランドはトルコに着目し、サステナブルなメーカーであるストローム(Strom)や、有機栽培のコットンを優先するボッサ(Bossa)と連携した。

だが、リフォーメーションには「他のアパレルカテゴリーでもLAでの製造における存在感」があり、サステナビリティとビジネスの両方の理由から、デニムのサプライチェーンをニアショア化する選択肢を引き続き検討する予定だという。

米国に進出する海外の製造工場

サステナビリティを重視するブランドであるエバーレーン(Everlane)にとって、デニムの製造に関する厳格な基準を維持することが優先事項だ。同社のサステナビリティ・ディレクター、カトリーナ・ブーティス氏は、「工場パートナーを選ぶ際には、世界中で最高の工場を探し、地理的な問題よりも当社の価値観とサステナビリティの目標に合致するパートナーを優先している」と述べている。

エバーレーンは、ベトナムのサイテックス(Saitex)を通じて製造を確保した後、2017年に最初のデニムコレクションを発表した。サイテックスはデニム製造で最高の環境基準のひとつを保持している。水の98%をクローズドループシステムでリサイクルしており、さらにエネルギーには電気を使い、デニムのダメージ加工にはレーザーを使用、ジーノロジア(Jeanologia)の環境影響測定で各デニムスタイルの影響を記録している。サイテックスは、メイドウェル(Madewell)、Jクルー(J.Crew)、マーラホフマン(Mara Hoffman)などのブランドとも取引している。

サイテックスは、2021年にLA初の垂直統合型デニム工場を開設した。この工場は5万2000平方フィート(約4830平方メートル)の広さで、ベトナムの工場よりも小規模な生産に力を入れている。2022年、エバーレーンはサイテックスのLA工場を活用し、カプセルコレクションを製造した。

「サイテックスや他の同様の志を持つ工場は米国への進出を続けており、エバーレーンとしては、当社のコアバリューを守ることができる、責任と透明性のある新たなパートナーシップを築くことに前向きである」とブーティス氏は述べた。

小規模で迅速な製造のメリットは、限定的で品の高いコレクションに注力したい企業が、現地生産でそれを実現できることを意味している。

だが、サイテックスによれば、LAの工場では機械を購入するための追加資金が必要だ。米国政府はそのような資金提供を行っていないが、ファッション法の一環として、ニアショアを行う企業は30%のリアショアリング税額控除を受けられる見込みである。

[原文:Demand for local denim production is on the rise]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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