TikTok への対応、一部のマーケターは警戒しつつ投資は続行:「TikTokを避けることも、優先度を下げもしないが、対策はある」

DIGIDAY

TikTokの花の盛りは過ぎつつある。少なくとも一部のマーケターはそう考えているようだ。

ただし広告費についてはその限りではなく、TikTokへの広告投資はいまも続いている。陰りが見られるのはむしろ心理的な側面だ。マーケターたちが4年にわたって発しつづけたTikTokに対する強烈な熱意は、ためらいや疑念、場合によっては強い不安に道を譲りつつある。

疑問が増した公聴会

ライフスタイルブログの「ウィムジーソウル(Whimsy Soul)」でCEOを務めるカラ・ハームス氏はこう話す。「クリエイターやマーケティングの観点から、TikTokのバイラル動画に備わるリーチ力と圧倒的な影響力を高く評価する。それでも、ひとつの籠(かご)にすべての玉子を入れるのは賢明ではない。すでに、私は自分のTikTokフォロワーをほかのプラットフォーム、たとえばインスタグラム、メールマガジン、ブログなどに分散する手はずを整えた」。

1年前なら、このような意見は異例だっただろう。昨今では、それほど珍しくもない。

これにはいくつか要因がある。TikTokの効果測定に関する問題など、古くから知られる要因もあれば、競合するアプリや機能が増えているなどの新しい要因もある。しかし、TikTokをめぐる地政学的な葛藤ほど話題性のある要因は見当たらない。

たとえば、先月23日に開かれた米議会の公聴会で、TikTokの周受資(ショウ・ジ・チュウ)CEOは議員たちから何時間にもわたって厳しい追及を受けた。同氏はユーザーのデータを中国政府から保護する対策を講じていると主張したが、議員たちを納得させるには至らなかった。

この公聴会について、MMIエージェンシー(MMI Agency)でソーシャルマーケティングのシニアディレクターを務めるサム・ケンドリック氏はこう話す。「TikTokは安全対策の要件について、マーケターとひとつひとつ確認しているようだが、こうした取り組みも先の公聴会では理解を得られなかった。公聴会で議論されたTikTokの安全対策について、議会はあら探しと批判に終始した。だが、ソーシャルの領域という要素について、議会は十分に理解していない。Facebookに対する公聴会でも同じことが起きた」。結局、マーケターにとっては、答えを出すより疑問を増やす公聴会となった。

匿名で取材に応じたあるマーケターは、公聴会の後にTikTokの幹部と面談し、こうした疑問に対する答えを求めた。この幹部の説明は、周氏が公聴会で証言した内容とほとんど変わらなかったという。いわく、TikTokは海外の投資家が所有しており、米国ユーザーのデータはすべて米国内のサーバーに移行している。結局、TikTokの得体は知れないままだ。

現状維持以外に選択肢なし

マーケターたちはTikTokをめぐるこの空騒ぎを3年前にも経験している。当時、ドナルド・トランプ前大統領の政権下でも、TikTokアプリの米国内での使用禁止が取り沙汰された。当然、今回の事態に対しては、前回よりも心構えができている。公聴会が開かれる以前から、彼らは緊急事態に備える計画を用意していた

あるアドテク企業の幹部は、TikTokとの取引関係を考慮して匿名で取材に応じ、こう話した。「TikTok関連のアナウンスメントはすべて保留にした。現在、同アプリが置かれている状況が極めて緊迫しているからだ」。

いまは、最善を期待し、最悪に備えるときなのだろう。

「米国でTikTokが使用禁止になるかもしれない。この可能性に、音楽マーケティングのコミュニティは震撼した」。音楽およびエンターテインメント分野でコンサルティングサービスを提供するCADマネジメント(CAD Management)の創業者、クレイトン・デュラント氏はそう打ち明ける。「我々音楽マーケティングに携わる者の多くが、世界中のファンとつながるためにTikTokを重用している。弊社では反動的な立場からクライアントに助言しているが、TikTokに対する先行き不安から、短編動画のコンテンツをYouTubeショートに移行させるものも少なくない」。

あくまでも一部のマーケターにとってではあるが、TikTokは将来的に重大な不利益をもたらす存在になるかもしれない。中国政府による米国民の監視や反米プロパガンダの道具となる可能性、それどころかすでにそのように利用されている可能性が提示されているからだ。これを否定する明確な証拠が出ない限り、マーケターたちが警戒を緩めることはないが、それでも広告出稿は継続するもようだ。出稿停止の痛手はあまりに大きく、一方でそのリスクはあまりに漠然としており、現状維持以外に選択肢が見つからない。

解決策も今のところ特になし

ザ・ソーシャルスタンダード(The Social Standard)のジェス・フィリップスCEOはこう話す。「まさにこの件に関して、全社的な会議を開いたばかりだ。TikTokの不透明感は確実に増しているが、ばっさり切るには厄介な問題がいくつかある。第一に、トランプ政権下でもTikTokが禁止になると散々騒いだが、結局何も起きなかった。第二に、ブランドやインフルエンサーはTikTokに首まで浸かっている。彼らにとっては非常に有用なツールなのだ」。

しかし、TikTokにそれほど夢中でないマーケターにしても、TikTokに対する疑念の払拭に苦労する公算は大きい。ユーザーのデータがTikTokアプリでどう収集され、有効化され、活用されるのか。さらにいえば、このような収集や活用を誰がおこなうのか。こうした疑念に対して、真に有効な解決策を見いだすのは極めて困難だ。そしてTikTokから何らかの答えを引き出すことも、現時点では難しいといわざるを得ない。

デジタルエージェンシーのクラウド(Croud)でディスプレイ、動画、ソーシャルの責任者を務めるアンソニー・マクロ氏もそう考えるマーケターのひとりだ。同氏はTikTokの営業担当者たちがともに仕事をするには不足がないとするかたわら、TikTokの事業規模と急速な成長に鑑みて、一般の営業員が政治的な問題に答えることは難しいだろうと理解もしている。

マクロ氏はこう説明する。「使用禁止が目前に迫っても、おそらく彼らは何も知らされない。新しいプロダクトのリリースでも、我々よりほんの数日前に知らされるのがせいぜいだ。しかし、それは彼らにとっても都合が良い。なぜなら、彼らは何も知らないのだから、我々に嘘をつくこともない」。

ギリギリまで利用はするが

要するに、マーケターが先の公聴会に無条件に反応することは期待できない。彼らがTikTokへの広告投資を減速させるとしたら、それは使用禁止を恐れてのことではなく、TikTok以外にも短編動画広告を提案するアプリが増えてきたからにほかならない。

ザ・ソーシャルスタンダードのフィリップス氏もこう話す。「ワシントンで起きていることを無視できるとは思わないが、マーケターたちは議会の決断と計画の実行には時間がかかることを知っている。私がブランドやクリエイターの立場なら、使用禁止になるぎりぎりまで、これまで積み上げてきた資産を最大限に活用しつつ、TikTok以外のプラットフォームへの移行を加速させるだろう」。

農家でいうところの、日の照るうちに干し草を作れというやつだ。

インフルエンサーマーケティングエージェンシーのリンキア(Linqia)で戦略担当バイスプレジデントを務めるキース・ベンデス氏はこう話す。「我々のブランドパートナーはTikTokを避けることも、TikTok戦略の優先度を下げることもしていない。それでも、TikTokの使用が禁止された場合に備えて、キャンペーンのクロスプラットフォーム展開を推進し、緊急事態に備える計画を準備している」。

彼らのいう緊急事態のための対策とは、TikTok以外の短編動画フォーマットにも柔軟に対応できるコンテンツ戦略を指す。クリエイターやインフルエンサーも同様に、TikTokでの再生回数に依存しない、マルチプラットフォーム戦略を持っている。ベンデス氏はこう説明する。「リールズやショートの台頭により、TikTokスタイルのコンテンツをマルチプラットフォームで展開する環境は整いつつある。おかげで、メタ(Meta)やYouTubeがこうしたフォーマットを導入する以前に比べて、TikTokの使用禁止に対する懸念は弱まっている」。

不測の事態に備える

いまのところ、このような計画はあくまでも不測の事態に備えるものであり、こうした事態が確実に起きると想定しているわけではない。実のところ、TikTok後の世界について真剣に考えているマーケターはほとんどいないし、考えるべき理由も見当たらない。あれこれいったところで、TikTokが中国政府と何らかの情報を共有しているという証拠は見つかっていないのだ。

とはいえ、ひとたび事態が動き出せば、それを止めるのは難しい。TikTokアプリをめぐる地政学的な問題が沸点に達すれば、マーケターたちも行動を起こさざるを得ないかもしれない。しかしそれまでは、一定の警戒心をもってこのアプリを使いつづけるだろう。

たとえば、ブルーアウアストゥーディオス(Blue Hour Studios)で戦略担当バイスプレジデントを務めるマット・ヒギンズ氏はこう語る。「小売、D2C、エンターテインメント、ファストフードなど、広範な業界のクライアントが慎重な楽観主義といった反応を見せている。弊社では抜本的な軌道修正は考えていない。しかし、日頃から緊密に連携しているため、TikTokの使用禁止だろうが、売却だろうが、運営上の変更だろうが、あるいはまったく何も起こらなくても、すぐに対処する態勢は整っている」。

いずれにしても、TikTokは「米国政府から不当に標的にされている」という主張を譲るつもりはないようだ。

同社は電子メールでこんな声明を出している。「ここしばらく、TikTokの立場については公の場でさまざまに議論されてきたが、それは確たる事実や、さらには「プロジェクトテキサス」をはじめ、弊社が米国で進めるさまざまな対策をまったく考慮していない。弊社は、ブランド、マーケター、エージェンシーをはじめ、活気あるパートナーエコシステムを構成するTikTokのステークホルダーたちと、オープンで継続的な対話をおこなっている。この対話を通じて、定期的に最新情報を提供するとともに、ユーザーやブランドから信頼されるエンターテインメントプラットフォームとして、弊社の活動に対するさまざまな問いにも答えていく所存だ」。

[原文:When it comes to TikTok, some marketers proceed with caution

Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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