SNSによって変化した2022年の デジタルマーケティング :データ活用、コンテンツ戦略の構築、コマースの取り組みまで内容を再考

DIGIDAY

この10年近く、SNSのクローズド・プラットフォームがデジタルマーケティングを席巻してきた。様子をうかがっていた広告主は、巨大なオーディエンスやデータ主導の広告、コンテンツが豊富なフォーマットを手にして、今やシリコンバレーに湯水のごとく予算を注ぎ込んでいる。

しかしながら2022年、プライバシー保護と不透明な経済といういわゆる「逆風」が(そのうえ、さらに激しい競争とユーザーベースの進化も相まって)、プラットフォームに投資する巨人やマーケターたちに新たなチャンレンジを創り出した。

大手プラットフォーム各社は2022年の1年間、業界共通の問題と各社独自の問題に取り組んできた。ビッグテックや小規模なスタートアップ、さらには広告主自体を対象にした法律や規制、調査、訴訟の圧力が増すなか、Appleの追跡アプリの変更で、ビッグテックは収益に打撃を受け、ターゲティングやメジャメントの能力も低下した。一方、TikTokのようなライバル企業との競争激化や、イーロン・マスク氏が経営権を握ったTwitterの混乱ぶりで、どこで広告を打つべきなのか、何を避けるべきなのかを考えるときに、業界の存在意義が問われるようになった。

「今この時点で、バイヤーになろうとは思わない」。そう話すのはマーケティングニューロサイエンスのスタートアップ企業ダート(Dirt)の共同創業者でCEOを務めるライアン・アンソニー氏だ。「2022年、ライフタイムバリューに優れたモデルで失敗せずにすんだ広告主を1社も思い浮かべられない」。

ファーストパーティデータの移行が重要に

嵐のような1年を送った結果、マーケターやエージェンシーの経営陣、アナリストをはじめとする専門家は、データの活用からコンテンツ戦略の構築、コマースの取り組みまであらゆる内容を再考するようになった。TikTokの台頭や若年層ユーザーの需要、クリエイターエコノミーの成長、ブランド安全性の問題で、すでに複雑化していた現状がさらに複雑化し、企業のなかには通常の戦術を再考し始める企業もでてきたのだ。

そうして検討するなかで、注目されるのがデータの重要性である。2022年夏、顧客管理プラットフォーム最大手のセールスフォース(Salesforce)が6000人のマーケティングリーダーを対象にした調査を実施したところ、75%が依然として少なくとも部分的にサードパーティデータに依存しているものの、68%はファーストパーティデータに移行予定であると回答していることがわかった。その一方で、消費者のプライバシー保護対策が当局の要請や業界の標準を超えていると回答したのは51%であり、2021年の61%から減少している。

「この1年は猶予期間のようなものなのかもしれない。というのも、マーケターがファーストパーティデータに入れ替えて、SNSプラットフォームで、適切なコンテンツと適切なターゲティングを創り出せるように取り組んでいるからだ」とセールスフォースのマーケティングクラウドでプロダクトマーケティング担当バイスプレジデントを担うジェイ・ワイルダー氏は話す。「あるプラットフォームから別のプラットフォームにオーディエンスを変える動きもあり、マーケターはその動きに追いついていこうとしている」。

TikTokの台頭、インフルエンサーの内製化

調査会社ガートナー(Gartner)の調査によると、予算が最も多く配分されるのは依然としてSNSの広告で、10.1%を占めるという(2021年の11.3%よりも減少)。しかしながらTikTokとピンタレスト(Pinterest)の巨大なオーディエンスや進化を続けるコンテンツフォーマット、拡大する広告ツールは、さまざまなタイプの広告主にとって魅力的だ。

FacebookやYouTube、インスタグラムはどれもTikTokに遅れまいと躍起になっている。その結果、プラットフォーム各社はこの1年、互いのフォーマットをコピーし、アプリのユーザーを失わないようにするので精一杯だった。8月31日にはスナップ(Snap)が大きな事業再編計画を発表、コミュニティの成長や拡張現実(AR)などSnapchat(スナップチャット)ならではの差別化要因を見直すことを明らかにしている。

ガートナー・マーケティング(Gartner Marketing)のディレクターアナリストであるクラウディア・ラッターマン氏は、「TikTokとインスタグラムはオーディエンスの気を引こうと競争しているものの、両者のコンテンツの違いは今後も曖昧なままだろう」と話す。

ブランドのなかには、この数年Facebookとインスタグラムの出稿を減らして、TikTokのオーガニックリーチで成功を収めている企業もある。ほかにも、クリエイターとコラボする場合には単にSNSの広告で終わらせないブランドもでてきている。たとえばオンライン学習プラットフォームのスキルシェア(Skillshare)は、独自のプラットフォームに限定せず、講師がオーディエンスを抱えるプラットフォームを活用しており、インフルエンサマーケティングの予算は2年前よりも減少した。

「論理的に考えると、YouTubeは最大の競合相手なのだが、現実的には収益増加に貢献してくれている」とスキルシェアのCEOマット・クーパー氏は話す。「講師がスキルシェアのクラスをYouTubeで売り込もうとニュースレターで売り込もうと、その相手がロボットではなく人であることは間違いない」。

SNSのコンテンツ活用方法は予想もしないような進化を遂げた

動画が成長した結果、マーケターは「クリエイティブ資産がどのように見えるのか」だけでなく、「クリエイティブ資産の活用を向上させるにはどうすればいいのか」も考えるようになった。ユーザー作成コンテンツ(UGC)やクリエイターエコノミー、ジェネレーティブAIのような人工知能は、2022年のマーケターのコンテンツ戦略の一環だったが、2023年はその優先順位がさらに高くなりそうだ。

調査会社フォレスター・リサーチ(Forrester Research)の首席アナリストであるケルシー・チッカリング氏は、「TikTokはSNS広告をブランドファーストからクリエイター主導に変えた」と話す。

これまでコンテンツはブランドの顔であり、中心を担うものだったが、SNSのコンテンツ活用方法は予想もしないような進化を遂げている。若年層は現在もTikTokの検索エンジンを利用して、情報や製品を探す一方で、一部のリサーチャーは検索結果に懸念を示し、危険性の高い誤情報があると指摘している(TikTokの機能は検索の王者Googleでも利用可能。つまり、今後さらに競争の激化が予測される)。そのほかにも、掲示板サイトReddit(レディット)を利用して、同じReddit利用者(Redditer)からアドバイスをもらったり、検索時に「Reddit」という単語を追加して関連する結果を見つけ出したりする人たちもいる。

「おそらく衝動買いをやめようとして、検索しているのではないか」と話すのはRedditで法人マーケティング担当バイスプレジデントのティモ・ペルズ氏だ。「消費傾向は依然として続いている。ただ、何にお金を使うのかよく考えるようになった。それに、買い物を正当化する必要が高まっている。今ではアドバイスをくれるだけのサイトが多い」。

デジタルエージェンシーのVMLY&RでSNSを統括するリズ・コール氏によると、プラットフォームとその機能が重複することで、それまで個々のプラットフォームだったものが進化し、複数のプラットフォームがまとまってソーシャルウェブを形成するという。コール氏の見解では、プラットフォーム各社のユーザーはいろいろな意味でオーディエンスがかぶっている。つまり、個別のプラットフォームの枠を超えたコンテンツが必要になるということだ。この変化は、エージェンシーがコンテンツを作る方法も進化させている。

「私たちは今、とくに興味を示さないオーディエンスでも興味を持ち、思わずスクロールを止めてしまうようなコンテンツを用意するのではなく、コンテンツを探す人たちに向けたコンテンツを作るべきなのではないかと考えあぐねている」とコール氏は話す。

既存のTwitterは崩壊し、広告の出稿は流動的に

2022年のプラットフォームの変化といえば、つい最近、最大の激震が走ったばかりだ。イーロン・マスク氏が2カ月前にTwitterを買収してからというもの、多くのマーケターが、Twitterへの広告出稿を一時停止したり、どのようにしてオーガニックコンテンツを扱うべきなのか、問題山積の「青い鳥」から撤退すべきなのかを考えたりして対応してきた。その一方で、新しい時代になってもTwitterを気に入っているマーケターもいるようだ

マスク氏の経営権獲得がTwitterと広告主の与える真の影響は、ここしばらく不透明なままかもしれないが、同社は今回の激変により全社規模で広告収益に何千万ドルもの損失を被ることになるだろうともいわれている。

これは広告だけの問題ではない。多くの企業がカスタマーサービスのチャンネルやオーディエンスの反応を知るためのソーシャルリスニング、通知をはじめとするさまざまな取り組みにTwitterを利用しており、こうした活動は競合他社のプラットフォームでは実現できるものではなく、同じような効果を得られるものはほかにないのが現実だ。ブランドにしてみれば、お手上げ状態である。

「Twitterで広告を出してそれでおしまいというのはもはや不可能だ」。そう話すのは、クラウドソーシングのファイバー(Fiverr)でチーフマーケティングオフィサーを務めるガリ・アーノン氏だ。「Twitterで広告を出すだけで、自社の立場を表明してしまう。出稿していた広告をやめるどうかは、ブランドとしてのあり方を示すことになるのだ。ファイバーはTwitterを利用しているが、その事実に対して顧客から賛否両論、さまざまな意見が届いている。ただ、苦情を訴える顧客が利用しているのがそのTwitterなのだから、実におもしろい」。

SNSの遺物である「ウォールドガーデン」のヒビが広がったおかげで、ブランドにはチャンスも訪れた。新しいオーディエンスを育て、消費者との対話の質を高めるためにこれまでにない方法を模索できるようになったのだ。広告エージェンシーのヒュージ(Huge)でコネクション戦略担当バイスプレジデントを務めるベス・トリパルディ氏によると、一部のブランドは、予算をRedditやDiscord(ディスコード)などの変わり種にまわし始めたという(Discordでは広告が許可されていないが、多くのブランドは独自のサーバーを構築し、直接ファンとつながる方法として利用している)。規模が大きいオーディエンスをニッチなコミュニティに分割するのは、従来のSNSマーケティングと比べるとなかなか厄介だが、そこには新しいクリエイティブなチャンスがあるとトリパルディ氏は話す。

「実際に話題を盛り上げている人たちは、決して何か権利を与えられているわけではなく、そもそも規模を大きくするためにいるわけでもない。」とトリパルディ氏はいう。「ブランドが入り込めるのはそこだ。ブランドなら価値を加えられるので、もっとファシリテーターとして役立つはずだ」。

ショッピングカートからソーシャルコマースへ

マーケターはオンラインショッピング戦略をSNS戦略に融合させようとしているが、その取り組みは「ソーシャルコマース」の成長にもつながっている。FacebookとTikTokはライブ動画のショッピングを試しており、ピンタレストは待望の新たなツールを構築している。さらにマスク氏でさえ、Twitterのコマースプラットフォーム色を強めたいと話している。

eコマースプラットフォームのMikMak(ミックマック)の場合、2022年のソーシャルコマースのトラフィックが2021年よりも19%増加した。2022年1月から11月までのMikMakのソーシャルコマーストラフィック(購入意思のクリックに基づく)は53%に伸びている。トラフィックが生じていれば変化も生じるものだ。たとえばソーシャルコマーストラフィック総合シェアを見ると、TikTokは2021年に第7位だったが、2022年には第3位に上昇した(2022年のシェアは、Facebookが56%で、その後にインスタグラム32%、YouTube 3.6%、Snap 2.3%、ピンタレスト1.3%、Twitter 0.15%と続く)。

MikMakの創業者でCEOのレイチェル・ティポグラフ氏によると、状況を変えた要因はひとつではなく、たとえばリテールメディアネットワークの台頭や広告アトリビューションの弱体化、ブランドとパフォーマンスマーケティングの合致など数多くあるという。ほとんどのオーディエンスがAppleのデバイスでトラッキングを拒否しているため、SNSアプリからリテールアプリへのトラフィック変更に頼らざるを得ない企業にとって、状況はとくに厳しい。アトリビューションが厄介な分野もあるが(一部のアプリや日用品など特定のカテゴリー)、ティポグラフ氏によると、MikMakでは、おもちゃや電化製品など検索頻度の高い製品分野などでよい結果が出ているという。

「これはテクノロジーの問題ではない。企業が互いにうまくやっていこうと思わないからだ」とティポグラフ氏はいう。「Appleが覚醒したのは2019年。ハードウェアで数十億ドル規模のビジネスができあがりつつあり、分け前をもらいたいと考えたのだ。周知の通り、Appleはアドテクを効果的に無効にしてきた」。

[原文:How social platforms changed digital marketing in 2022

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

Source

タイトルとURLをコピーしました