リカーレント は、次世代 メディア・コングロマリット か?:プライベートエクイティの後押しを受けて

DIGIDAY

メディアブランドを次々と傘下におさめていくデジタルメディア企業のリカーレントベンチャーズ(Recurrent Ventures)は、2022年に入っても、そのスピードを緩める様子はない。

CEOのランス・ジョンソン氏によると、ノースエクイティ(North Equity)が保有するリカーレントベンチャーズは、昨年夏以降、月平均でメディアブランドをひとつ獲得しており、その数は現在で20に達している。

主に苦闘しているレガシーのメディアブランド、特に自動車やアウトドアなどのホビー分野のブランドを買収し、エディトリアル部門はキープしたまま、それ以外の部門をリカーレントベンチャーズで一元化するという手口はこれまでのところうまくいっているようだ。ジョンソン氏は、2021年の同社の売上高は3倍になり、年間の利益率は20%以上になると予想しているが、具体的な数字は明かさなかった。

メディア業界が抱える重要な疑問

リカーレントベンチャーズが今年以降にどのような実績を達成できるかは、メディア業界が抱える重要な疑問を紐解く鍵になるだろう。その疑問とは、同社が次々に新しい会社を急速に統合していくなかで、このアプローチはスケールできるのか、というものだ。そして、これらのデジタルブランドをうまく成長させることで、メディアにおけるプライベートエクイティの評判を変えているのだろうか、というものだ。

こうした疑問が浮上するのは、メディアに焦点を当てたプライベートエクイティファンドに資金が流入し続け、その結果買収が活発化しているからだ。プライベートキャピタルとヘッジファンドに関するデータプラットフォームであるプレキン(Preqin)によると、通信とメディアに焦点を当てたグローバルプライベートエクイティファンド(米国拠点のものを含む)は2021年に46のファンドで168億ドル(約2兆円)を調達した。これらのファンドによる買収案件の数は、2019年の28件から2021年には35件に増加し、プライベートエクイティやベンチャーキャピタルの投資先企業がより小規模な企業や資産を買収するアドオン案件の数は、2019年の22件から2021年の51件へと倍増した。

ブリーチャーリポート(Bleacher Report)、インバース(Inverse)の共同創業者デビッド・ネメッツ氏は、2019年にインバースをバッスルデジタルグループ(Bustle Digital Group)に売却したが、リカーレントとバッスルデジタルグループには「多くの類似点がある」と指摘した。「持ち株会社モデルは(中略)コンデナスト(Condé Nast)、ハースト(Hearst)、メレディス(Meredith)、タイム(Time)といった従来型の出版社や雑誌の持ち株会社が残した空白を埋めるものだ」と述べた。これらの出版社は自社のビジネスモデルと、印刷からデジタルへの移行に「苦労」しており、それは「彼らがずっと内部に焦点を当てており、バイヤーというよりもセラーになっている」ことを意味している、とネメッツ氏は言った。

「デジタルメディアの世界で私の仲間たちが期待しているのは、一部の(プライベートエクイティの)プレイヤーが現れて、これらの買収を実行し、独立した出版物にとっての新しい出口となることだ」と彼は付け加えた。「ほかの大手企業にとっては(特別買収目的会社の)市場が不透明なことを考えると、プライベートエクイティたちが強力な財務支援を持っていることは重要だ。彼らの実績は、ニッチなメディアブランドをサポートし、成長させる方法を理解していることを示している」。

前面で独立、背面では統合

メディアの従業員が、自分たちの新しいオーナーがファイナンス企業であることを知ると、それは自分たちの出版物や自分たちの仕事にとって終わりのように感じられるかもしれない。ローカルニュース機関を食い物にし、コストを削減し、スタッフを解雇することで知られるオールデングローバルキャピタル(Alden Global Capital)のようなヘッジファンドが存在するからだ。

しかし、リカーレントベンチャーズはこれまでのところその逆を行っており、その理由のひとつは、同社が買収したタイトルのほとんどにおいて、カットすべきものがほとんど残っていないからだ。同社は、20のブランドに240人の従業員を抱えており、前年の100人から増加している。ジョンソン氏は今年初めまでに300人にしたいと考えている。人員数の増加の一部は、ポートフォリオ内のブランドを強化したことによるものだ。現在40人の従業員を抱えるボブヴィラドットコム(BobVila.com)は、リカーレントが買収した時にはわずか4人の従業員しかいなかった。ただし、人員数増加の多くは小さなブランドの継続的な買収によるものになるだろう。

コンサルティング会社クオンタムメディア(Quantum Media)の社長エイヴァ・シーヴ氏は、「19のブランドに対して200人の従業員は、非常に小さなスタッフ規模」と述べた。

リカーレントベンチャーズは、プールされたリソースのおかげで小規模なチーム運営をすることができているようだ。デジタルブランドをひとつ買収すると、そのブランドの編集チームとオーディエンスチームだけを残し、セールスチーム、技術プラットフォーム、マーケティング、プロダクトとエンジニアリング、HR、SEO、コマース部門に関しては同社全体で統合したチームを通じて強化される。「私たちは理に叶うところでは機能を(全社で)共有している」とジョンソン氏。

これらのリソースを共有することは、同社の現在の収入源の種類にも合致する。プログラマティック広告、ダイレクト広告、アフィリエイトコマースがそれぞれ約1/3を占めている、とジョンソン氏は言う。

シーヴ氏の見解では、このアプローチは、ブランド価値のあるレガシーなタイトルを運営しているが、ビジネスに苦しんでいる従来のメディア企業が周期的に再構築を行う様と類似している。ひとつのオーナーの下で統合された複数のタイトルは、個別に売却されて独立して運営されるか、小規模なオーナーによって運営され、その後別の親会社によって買収される、といった具合だ。

統一されたチームを介してリソースを共有できることは、「(リカーレントが)まさにやるべきことだった」とシーヴ氏は言う。彼女はこのモデルを、古いブランドをデジタルの未来に引き込もうとしている以前のタイム社(Time Inc.)のような巨大な出版社や、コスト削減のためにグローバルチームを統合しているコンデナストの取り組みになぞらえた。

「どんな企業もできるだけ効率的に運営されるべきだ。(リカーレントでは)それがプライベートエクイティのマネーであるという事実は何の違いも生まない」と同氏は言う。「(会社の)固定費をできるだけ低く抑えて、投資の払い戻しを受けられるようにするのは、まったく当たり前のことだ」という。

中央集権型の販売組織構築

5月に同社は最高収益責任者としてマット・ヤング氏を雇い、既存のタイトルが持っていたセールス部門を利用して、中央集権型の販売組織の構築を支援した。タスクアンドパーパス(Task&Purpose)や、ボニー社(Bonnier)のタイトル、またドミノ(Domino)は買収時にはすでにダイレクトな販売チームを持っていたが、現在はリカーレントのほかのブランドにまたがって働いている。ドーナツ(Donut)の営業チームは2022年に統合される。

この中央集権化によって、同社はベライゾン(Verizon)、コンチネンタル(Continental)、CB2(CB2)、クレートアンドキッズ(Crate&Kids)といった大手広告主との直接取引を獲得した。ダイレクト広告の売上高は前年同期比で「ほぼ倍増」したとヤング氏は述べた。

スコット・マルクイーン氏は7月に採用され、同社のプログラマティック広告スタックを運営している。その後、多数の新しいエクスチェンジおよびSSPパートナーと契約を結び、彼の入社以来約30%RPMの増加につながった。

リカーレントは、自動車、軍事防衛、家庭とガーデニング、科学、アウトドア、ライフスタイルの各分野でブランドを運営しており、特定の業界でのスケールを改善することで、広告主にとってより魅力的な場所になると広告バイヤーらは述べた。

ダガー(Dagger)のメディア担当バイスプレジデント、アシュリー・カリム=キンシー氏はこう語る。「パートナーたちは複数のバーティカルを抱えるひとつのパブリッシャーを好む。リカーレントはまさにそれをやっている。同社は市場のニーズに注目し、それに応じてサービスを調整してきた」。

いずれ、ジョンソン氏は同社の収益に占める広告の割合を50%以下にしたいと考えている。「広告市場が急速に悪化したメディア業界にいたから言えるのだが、広告には依存したくない」とジョンソン氏は言った。

2022年には、サブスクリプションとメンバーシップ(現在同社の収益の約10%を占める)、マーチャンダイズ、イベント、製品ライセンスの拡大に注力している。

JancisRobinson.com、ドミノ、フィールドアンドストリーム(Field&Stream) 、アウトドアライフ(Outdoor Life)、ポピュラーサイエンス(Popular Science)などは、既存のサブスクリプションビジネスを抱えている。同社のサブスクリプション総会員数を明らかにしなかったが、ジョンソン氏は、独占コンテンツやマーチャンダイズ、対面イベントへのアクセスなどを提供する、さまざまなレベルのプランをさらに展開する予定だと述べた。

継続的に買収することの課題

これまで行われたものも今後行われる計画のものも含めて、リカーレントがこのようなペースで買収を行なっていることには、「本質的なリスク」がある、とネメッツ氏は言う。それは「新しい企業を次々と迅速に統合するためのロジスティック上の大きな課題」だ。

これらの課題について尋ねられると、ジョンソン氏は、リモートワークをしながら従業員をまとめるのに役立つ方法として、仮想イベント、オーディエンス部門が開催する毎月のミーティング、四半期ごとの全員参加ミーティング、学びを得るためのランチ企画を挙げた。同社の本社はマイアミにあり、ハブはニューヨークとサンフランシスコにあるが、従業員は全米各地に住んでいる。

企業と新しいスタッフをひとつに統合することに関して、「ビジネスを迅速に拡張することについてくる課題はあるが、それは良い課題であり、解決すれば良い結果をもたらす」とヤング氏は述べた。広報担当者によると、ケイン・ラッセル氏は3月にリカーレントに統合担当バイスプレジデントとして加わり、今後のブランドが同社の共有サービスチームと円滑につながるようにする責任を負っている。このプロセスには数カ月かかるという。

ノースエクイティに所属することの「最大の利点」は、同社が「買収と資金調達に完全に集中していること」だとヤング氏は述べ、「経営陣が事業運営、利益を最大限生み出すこと、従業員が働きやすい場所にすることに集中でき、資金調達や資金調達について心配する必要がない」とした。

リカーレントは「ニッチなオーディエンス層のためのワンストップショップを探している」マーケターにアピールするかもしれないが、他社と競争できるかどうかは「同社がカタログサービスをどのようにパッケージ化しているか、そして市場に出る前に各カテゴリの価値提案が明確に定義されているかどうかにかかっている」とカリム=キンシー氏は言う。

クオンタムメディアのシーヴ氏も同意見だ。「私の想像するところでは、(リカーレント)は自分たちをメディアの専門家だと考えている。彼らは自分たちの事業に合うようにバランスシートを調整しており、さまざまなブランドを横断する形で彼らの専門知識を活用している」。広告を販売するにしても、大規模ポートフォリオのブランド全体でSEOを可能にするにしても、その専門知識は「重要」だと彼女は言う。

[原文:Recurrent Ventures – the next big private equity-fueled media conglomerate?

SARA GUAGLIONE(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)
Illustration by IVY LIU

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