パンデミックから3年、有効期限を迎えている3つのリテールテック・トレンド

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パンデミックから3年近くが経ち、一部のリテールテックのイノベーションが有効期限を迎えている。

インスタグラムは2月初め、ユーザーがライブストリームで商品をタグ付けできる「ライブショッピング機能」の運用を3月で終了すると発表した。ほぼ同時にウォルマート(Walmart)も、受け取り専用の最後の2店舗を閉店し、10年近くにわたった実験を終了すると発表した。Amazonはそれより数カ月早い10月、宅配ロボットのスカウト(Scout)のテストを中止すると発表した。

小売業者はこの数年間、eコマースと非接触ショッピングの成長に対応するため、これらの種類のテクノロジーに多額の投資を行ってきた。しかし、Covidによる行動制限が緩和されはじめると、人々は、たとえばオンラインではなく店舗でショッピングを行うなど、パンデミック前の行動に逆戻りするようになった。パンデミックが人々の関心の中心から去っていくにつれ、これらのトレンドの開発に対する注目は薄れていった。

コンサルティング企業のアリックスパートナーズ(AlixPartners)で小売プラクティスのパートナーおよびマネージャーディレクターを務めているジョエル・ランポルト氏は、これらのテックへの投資は、人々が好む買い物の仕方を無視する傾向があると語る。

同氏は次のように述べている。「一般的な原則として、顧客の行動は少しずつしか変えることができないということだと思う。顧客が望む買い物の方法、ブランドと関わる方法、店舗と関わる方法と自然に合致しているものは長く続く可能性が高い」。

eコマースの過剰宣伝も落ち着いてきた。2月のデジタルコマース360(Digital Commerce 360)の分析によれば、eコマースへの支出はこれまで6四半期続けて、1ケタから10.7%成長してきた。45%から50%の成長を見せていた2020年とは比較にならないほどである。

インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)でプリンシパルアナリストを務めるスージー・デビッドカニアン氏は次のように述べている。「カーブサイドピックアップや、BOPIS(オンラインで購入して店舗で受け取り)などに手を出す小売業者も多かったが、消費者はついていけていなかった。全般的にeコマースでは、誰もが起きると思っていたような需要の増加が長く続かなかった」。

ここでは、パンデミックから生み出され、その後勢いを失いつつある3つのテックトレンドについて見ていこう。

ライブショッピング

パンデミックがはじまってから数カ月後、多くのブランドは中国におけるQVC形式のライブショッピングモデルの隆興に魅せられた。インサイダーインテリジェンスによれば、中国でのライブストリームショッピングは2021年に約3000億ドル(約41兆1000億円)の売上を生み出した。各ブランドは、このショッピング方法が米国でも流行ることを期待して、矢継ぎ早に自社独自のライブショッピング番組を立ち上げた。

自社商品を展示し、売上を増やすために、近年になってライブショッピング番組を開始した小売業者は多く、メイシーズ(Macy’s)ノードストローム(Nordstrom)、ウォルマート(Walmart)はそのうちのいくつかの例だ。ウォルマートが2020年に行った最初のショッピングイベントは、当初予測されていた7倍もの再生回数を記録した。

これらの小売業者はライブショッピングへの投資を続けたが、消費者による受け入れは依然として芳しくない。モーニングコンサルト(Morning Consult)の最近の調査では、回答者の大多数である約78%はライブショッピングイベントに参加したことがないと述べている。同じ調査から、これらのライブショッピング番組について見聞きしたことがあるのは回答者のわずか31%であることが示されている。

インスタグラムとFacebookの親会社であるメタ(Meta)は、ライブストリーミングの成長についてそれほど確信していないようだ。インスタグラムのライブショッピング機能は2020年に企業およびクリエイター向けに広く利用できるようになったが、最近になって削減された。またメタはFacebookのライブショッピング機能、たとえば商品のプレイリスト作成や商品のタグ付け機能などを廃止した。同社はこの発表において、Facebookやインスタグラム用のリール(Reels)への注力を計画していると述べた。同社はその理由を、「消費者の視聴行動が短編動画にシフトしているため」としている。

小売業者がこれらのライブストリームを開催できるようにしているテック企業でも問題が起きているようだ。ライブショッピング新興企業のFirework(ファイヤーワーク)は、ザフレッシュマーケット(The Fresh Market)やウォルマート(Walmart)などの小売業者と提携しているが、11月のインフォメーション(The Information)のレポートによれば、従業員の10%をレイオフした。TikTokのライブeコマースへの参入も、昨年ファイナンシャルタイムズ(Financial Times)がインタビューした3人の人物によると、英国ではライブストリームショッピングのプロジェクトが目標を達成できず、インフルエンサーが離脱しはじめている。

カーブサイドピックアップ

カーブサイドピックアップなど、非接触のオムニチャネルサービスは、パンデミックのあいだにCovidに触れる機会を減らすために広く使われるようになった。そして、車を降りずに商品を受け取れるというアイデアは一部の人々にとって有益なことは証明されたものの、一方で、カーブサイドピックアップを見切りはじめているところも出てきている。

ウォルマートはいまだ多くの店舗でカーブサイドピックアップを行っているものの、受け取り専用店舗のコンセプトは破棄したようだ。同社は2月に2つの店舗を閉店したが、インサイダーによれば、ルイジアナのメテリーにあったもうひとつの受け取り専用店舗も昨年閉店した

買い物客が人ごみを心配しなくなったため、カーブサイドピックアップのユースケースは減少しつつある。コストコ(Costco)のCFOを務めるリチャード・ガランティ氏は2021年9月、「あまり利用されなかった」ことを理由に、カーブサイドピックアップのテストを中止した。同様に、デジタルコマース360のレポートには、書店チェーンであるバーンズアンドノーブル(Barnes & Noble)が、サービスを利用する顧客の数が減少したことから、カーブサイドピックアップ用の場所や屋外標識をなくしたことが記載されている。

ランポルト氏は、一部の小売業者にとっては買い物客が注文した商品を車から受け取るより、店舗に入るようにするほうが得られるものが多いと語る。

同氏は次のように述べている。「カーブサイドピックアップは、非耐久消費財、アパレル、テキスタイルなどの店舗では、意味がないために消滅していくだろう。受け取り手順を工夫すれば、顧客が店舗にいるあいだにさらに多くの品物を買い求めるように誘導することが可能だ」。

コールズはこれを試みているようだ。同社は2020年に開始したカーブサイドピックアップの運用を中断して店舗内での受け取りに切り替えたと、アクシオス(Axios)に語った。

自律型ロボットによる配達

パンデミックを契機として、人間の接触を避けて商品を配達する方法についても多くの実験が行われた。各企業は自律型ロボットやドローンによる配達を自社の運用に組み入れるという構想を検討していたが、パンデミックがきっかけとなってそのテストをさらに増強するようになった。しかし、自律型ロボットによる配達は大規模に展開されず、テストした小売業者はすぐにいくつかの問題に直面した。

Amazonの宅配ロボット「スカウト」は、クーラーと似た外観のロボットで、ドアの前で停止すると蓋が開き、顧客が注文した品を受け取れるように設計されている。ある企業の広報担当者は、現在のところ、このロボットは要求されるように機能せず、プログラムは顧客のニーズを満たしていないと、ブルームバーグ(Bloomberg)に語った。

フェデックス(FedEx)もまた、同社のラストマイル配達ロボット「ロクソ(Roxo)」の開発を停止すると発表した。ロボティクス24/7(Robotics 24/7)の入手した社内メールによれば、同社の最高変革責任者を務めるシュリラーム・クリシュナサム氏は、このロボットが「要求される短期的な価値の要件を満たさなかった」と述べている。

一方で、2020年に開始されたセーブマート(Save Mart)とロボット配達会社スターシップテクノロジーズ(Starship Technologies)とのパートナーシップは6月に終了した。両社は別離の前も数カ月にわたってパートナーシップを拡大してきたため、この発表は驚きをもって迎えられた。スターシップは同月、グローバルチームを11%削減すると発表した。

小売業者の教訓

パンデミックは小売業者の意思決定の最優先事項ではなくなり、これらの小売業者は有用でなくなった投資を軽減することを迫られている。

「テクノロジーに関する決定が自社のブランドと適合していることが何より重要だ」と、インサイダーインテリジェンスのデビッドカニアン氏は語る。同氏は、小売業者は新たに流行したものを、それが自社ブランドに適しているかどうかを考慮せず取り入れる傾向があり、パンデミックの最中は特にその傾向が強く発揮されたと付け加えている。

アリックスパートナーズのランポルト氏は、小売業者がどのテクノロジーに投資するかについて、より慎重になる可能性が高いと述べる。現在の小売業者は、人件費などのコスト削減に役立つテクノロジーに資金を投下することを検討していると、同氏は付け加えている。

同氏は次のように述べている。「これらの業者は、特に資金の投資についてはより慎重になるだろう。これらの業者が挑戦したことには敬意を表するが、それは多額の代償を伴う失敗だ」。

[原文:3 pandemic retail tech trends that have lost their luster]

Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Ivy Liu

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