実店舗への投資を強化しはじめた大規模小売店:ターゲット は店舗の「倉庫化」進める

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パンデミック後の購買行動が正常化するにしたがい、大規模小売店は新年に向けて実店舗への投資を強化している。

今月はじめ、大規模小売チェーンのターゲット(Target)は、オンライン注文の店舗内フルフィルメントを重視して、15万平方フィート(約1万4000平方メートル)の巨大店舗を開店させると発表した。これは、同社の平均店舗面積よりも2万平方フィート(約1860平方メートル)広い。ターゲットは、この店舗レイアウトを、今後数年間かけて導入する予定だ。一方、大手化粧品店のアルタ(Ulta)は40を超える店舗で、魅力的な価格だけでなくテーマとトレンドを押し出すように商品の展示方法を再編している。また今夏は、大規模家電量販店のベストバイ(Best Buy)が、顧客の入店時に販売中の新製品を紹介する対話型ディスプレイやモバイルセルフレジなどのデジタル機能を備えた、今までに類のない小型実店舗を開店させた。

実店舗型小売店は、パンデミック初期のロックダウンによって企業が次々と一時閉店を行っていた時期から大きく変化した。Eコマース売上高の一時的な急騰が落ち着いた今、小売店は顧客が長期的には何を望んでいるかをよりよく理解し、それにより、新しい課題に気づき始めている。実店舗に回帰する顧客が増える一方で、今も、BOPIS(オンラインで購入、店舗で受け取り)のようなフルフィルメントオプションは人気が高い。同時に、小売店は2021年に起きたサプライチェーンの崩壊に関係する過剰在庫問題への対応をしながら、低価格志向の消費者の気を引くために競争をしなければならない。

この状況に適応するため、大規模小売店や専門小売店はあらゆる手段を講じて、実店舗を刷新している。「小売店がこの数年間に中断した、あるいは遅らせた投資の流れを再開することで、2023年にはさらに大きな変化が起きると予想する」。マーケティング会社のカンター(Kantar)で小売業界分析ディレクターを務めるティファニー・ホーガン氏は、米モダンリテールにEメールでそう述べている。「この変化は、経営と運営を効率化する新しいやり方と、小売店が販売する商品カテゴリーに消費者がアプローチする新しい方法を反映したものになるだろう」。

デジタルフルフィルメントのハブができれば、ほとんどの在庫を販売できる

ターゲットは、新しい大規模店舗によって需要をより満たしやすくなり、商品の品目数を増やすことで即日配送サービスを提供できるようになるとしている。また、同社は大規模店舗がデジタルフルフィルメントのハブとして機能すると見込んでいる。ターゲットの新店舗は、同規模の従来店舗と比較して5倍の広さのフルフィルメント用バックヤードを持つ。プレスリリースによると、これにより「ネットショップの注文の95%以上のフルフィルメントと、全販売の10%以上の即日配送サービス」が可能になるという。

グローバルアドバイジングファームのSSAアンドカンパニー(SSA & Company)でマネージングパートナーを務めるマシュー・カッツ氏は、米モダンリテールに「マルチチャネルやオムニチャネルの小売体験が継続的に進化するなか、商品を顧客の購買地点に近づけることはすでに目標とされている」と語っている。「顧客の即日配送、後日配送、翌日配送に対する期待を考えれば、できるだけ在庫をエンドユースに近づけることは重要だ」。

効率の観点から見ると、フルフィルメントを店舗内で行うことで、消費者の手元に商品を届けるために必要なステップ数(およびガソリンの量)を削減できる。これは経済的利益ももたらし、「企業は少しずつ増える利益によって、年間で数百万ドルを得ることができる」と、統合型商業ソリューションプロバイダのアプトス(Aptos)でカスタマーエクスペリエンス担当バイスプレジデントを務めるマイク・ヒューズ氏はいう。

ヒューズ氏は米モダンリテールにEメールで、商品を手に取るために店舗を訪れる顧客は衝動買いをする可能性があると述べている。同氏は、配送サービスは「通常、オンラインショッピングをする顧客に店舗の在庫を見せずにいたら失われていたであろう売上を維持できる」としている。

また、「小売店は(オムニチャネルの注文を満たすために予備として倉庫に過剰な在庫を保持する必要なしに)店舗内の在庫のほとんどを販売できるようになる。これにより、小売店は過剰在庫を安売りするのではなく、商品を定価販売できるチャンスが増える」と述べている。さらに、全国規模の配送センターではなく近くの店舗から在庫を送れば「配送コストを削減し、商品をより早く消費者に届けることができる」とも付け加える。

購買のキッカケは、用途・カテゴリー・友人とのソーシャル環境が重視される

小売店は、店舗内の商品の配置も変えている。ホーガン氏は、現在も多くの小売店は特定のカテゴリーで過剰在庫を抱えているため、優先的に商品のディスプレイを再考しているという。「在庫量の多寡を基に固定的な売り場を作ることが難しくなり、より柔軟で一時的な構造が取り入れられるようになった」

一方でアルタは今年、40を超える店舗での美容品の展示方法を根本的に変えようとしている。WWDによれば、これらの店舗では製品をテーマ別、すなわち、バス・ボディケア用品、「クリーンな」ブランド、旅行用、トライアルサイズなどに分類する。店頭には新ブランドをプロモーションする「キューザニュー(Cue the New)」セクションを設け、「ビューティーバー(Beauty Bar)」ではイベントやアクティビティを開催。店舗の左側には広いスキンケアのエリアがあり、メイクアップは右側に展開される。

アルタのチーフマーチャンダイジングオフィサーであるモニカ・アルナウド氏は、WWDに「私たちは常に、お客様が私たちと何を共有しようとしているかに注視し、修正を繰り返したいと考えている」と述べている。また、「私たちが『直感的に隣り合っている』と呼んでいるものだが、類似したカテゴリーをまとめ、お客様が入店したときに引き込まれるようにしたかった」という。

カッツ氏は、店舗内の商品の分類を変えることは特段新しくはないが、企業がそうしようとする意欲は変わったかもしれないという。「小売店は常に商品のディスプレイや組み合わせ、分類を進化させ続けている。そして、消費者も進化している。数年前は価格で購入を決めていたかもしれないが、現在は、用途・カテゴリー・友人とのソーシャル環境を重視している」。

アルタの新しい店舗レイアウトは「お客様が実際に美容品を購入する方法をより反映している」とホーガン氏。また、店舗内フルフィルメントと同様に、売上の増大にも貢献すると考えられている。「カテゴリー全体をまとめることで、アルタが『一括移行』と呼んでいる上位製品への買い換えを促しやすくなる」と同氏は述べている。

さまざまな規模の店舗を持つことが重要。店舗内店舗の実験も

コロナウイルスのパンデミックが商用不動産部門に大きな損害を与えたことは明らかだ。全米リアルター協会(National Association of Realtors)によれば、米国内における2500万ドル(約34億円)以上の小売店用不動産の販売額は、2019年5月から2020年5月までで83%も急落した。フォーチューン誌(Fortune)は2021年はじめに、米国内で1万2200という記録的な数の店舗が2020年に閉店したとしている。金融サービス企業のS&Pグローバルマーケットインテリジェンス(S&P Global Market Intelligence)の分析によれば、2020年に、大手小売店のニーマンマーカス(Neiman Marcus)、JCペニー(JC Penney)、Jクルー(J. Crew)、ブルックスブラザーズ(Brooks Brothers)を含む630の企業が破産を宣言した。

現在、買い物客は実店舗の店頭に戻りつつあり、企業は拡大モードに入っている。「今、振り子は逆方向に振れている。つまり、店舗の拡大と新規開店に向かっている」とカッツ氏はいう。また、「これまでは特定の規模の店舗を持つことが小売店にとって重要だった。そうすることでビジネスはうまくいっていた」と述べている。しかし今は、「多くの小売店が、適切に混在させることができるのであれば、さまざまな場所にさまざまな規模の店舗を持つほうが競争で優位に立てると気づいた」という。

これは、多くの大規模店舗にとっては、小規模な店舗を試すことを意味する。7月にベストバイは、同社で初めてとなるデジタル指向の小規模店舗をオープンすると発表した。7月26日に開店したノースカロライナ州モンローにあるこの店舗は、面積が5000平方フィート(約465平方メートル)で、一般的なベストバイの店舗の約7分の1である。プレスリリースによれば、この店舗では厳選された製品を販売し、修理などを扱う子会社のギークスクワッド(Geek Squad)のサービスを提供する。また、「顧客は実物を見てから選び、デジタルでアドバイスを受けるなど、あらゆることが店舗内でできる」という。店舗の外には「24時間ピックアップオプション用」ピックアップロッカーも併設している。

一部の小売店、とくに百貨店では売上増大と集客を目指して店舗内店舗を使った実験を行っている。たとえば、化粧品専門店のセフォラ(Sephora)は、2023年までに小売チェーン店コールズ(Kohl’s)の850以上の店舗に出店することをめざしている。一方、住宅リフォームチェーンのロウズ(Lowe’s)は、一部店舗でペットショップのペトコ(Petco)を店舗内店舗として開店させた。化粧品ブランドのグロシエ(Glossier)などは、実店舗にコミュニティベースの戦略を持ち込んでいる。ハイヴィ(Hy-Vee)やホールフーズ(Whole Foods)などの食品スーパーは、バーや広場のような第3のスペースに投資している

小売店の種類がどうであれ「今起きていることは、買い物体験の進化に過ぎない」と、カッツ氏は語る。「答えがあるわけではない。そこが小売業の楽しいところで、商品とディスプレイの両方で常に実験と改革を繰り返し、最終的には人と人との交流を作り出す」。

[原文:How big-box retailers are revamping their store formats]

JULIA WALDOW(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:島田涼平)

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