eスポーツ 業界を蝕む、ゲーミングコミュニティ特有の「毒気」:「ブランドはこの手の問題に極めて敏感だ」

DIGIDAY

オンラインゲーミングコミュニティのメンバーが、自分たちが属するコミュニティ特有の「毒気」に気づいてから久しい。とくに最近の騒ぎで、eスポーツファンのダークサイドが明るみに出た。

ブランドは当初ゲーマーにリーチする手段としてeスポーツの利用を検討していたが、ファンによる炎上が日常化するeスポーツ業界はもはや地雷原に変わりつつある。

ブランドセーフティ上の懸念

もちろん、ファンの問題行為はeスポーツに限った話ではない。従来のスポーツでも熱烈なファンは血の気が多いことで有名だ。対面であれオンラインであれ、ファン同士で乱闘になることは珍しくない。世界各地で大きな試合や大会が開催されるたびに暴動がよく起こるほどだ。

しかし、eスポーツの場合は、ファンもプロのプレイヤーも接触するのがオンラインだけという特徴から、ファンの粗暴で傍若無人な面が目立ち、しかも女性蔑視で人種差別的な態度が目につく。

「eスポーツの多くは、ライブストリーミングが中心だ。ライブストリーミングでなければ、コンテンツのVODコメント欄になる」。そう話すのは、カナダ有数のeスポーツ団体ルミノシティ・ゲーミング(Luminosity Gaming)を率いるアレックス・ゴンザレス氏だ。

同氏はさらに、「一般的なスポーツの場合、オンラインで解説するファンがいたり、SNSで盛り上がったりする。でも盛り上がるのは、たいてい試合を生で観戦している人たちではないだろうか。外野席から選手に野次を飛ばしても、試合が終われば家に帰って、それでお終いになる」と言い添える。

それでは、eスポーツコミュニティの有害性を示す現状と、そこから見えてくる、eスポーツ業界が抱えるブランドセーフティの課題についてチェックしていこう。

女性インフルエンサーのシムコ氏、受賞が原因で炎上

3月12日に開催されたストリーマーアワードで、Twitchの人気ストリーマーであるカエデ・シムコ氏(ハンドルネーム:Kyedae)がファーストパーソン・シューティングゲームValorant(ヴァロラント)のベストValorantストリーマー賞を受賞した。ところがその直後に、その受賞を詫びている。賞にノミネートされていた別のストリーマーであるタリク・チェリク氏(Tarik)のファンの怒りを買い、「オンラインで叩かれるのでは」と不安に駆られたからだ。

チェリク氏がツイートで攻撃的なファンを非難したものの、Twitchの有名ストリーマーが、賞を受賞した途端に守りに入らなければならないと危機感を覚えたという事実は変わらない。その賞も本来なら、シムコ氏の人気と腕の高さを世間に知らしめるものになるはずだったのだ。なお、シムコ氏、チェリク氏、ストリーマーアワード運営者のQTシンデレラ(QTCinderella)は本記事に対するコメントを差し控えている。

この状況から明らかになったのは、世界で最も若く、最も成長が著しいeスポーツシーンに数えられるValorantのコミュニティの特徴が、「罵り合い」であるということだ。

「何かの賞で、その受賞者が気に入らなければ、毒をまき散らすだけだ」とValorantのニュースサイトVLRの記事を書くディオゴ・サントス氏は話す。「このコミュニティは、少し説明があれば問題ないようなことでも、思わず噛みついて糾弾してしまう傾向にある」。

キャスターのダーデン氏、誰もが知る事実を口にして叩かれる

2023年2月、「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends、以下LoL)」チャンピオンシップ・シリーズでキャスターを務めたギャビー・ダーデン氏(ハンドルネーム:LeTigress)は、試合前の発言で物議を醸した。主要eスポーツ団体TSMで噂される運営の問題点や、その問題を暴いたLoLのプロプレイヤーであるイーリャン・ペン氏(ハンドルネーム:Doublelift)の役割について触れたのだ。

TMSとペン氏(TMSから移籍し、現在はワンハンドレッドシーヴス[100 Thieves]所属)、双方のファンが即座にダーデン氏の非難をはじめ、ダーデン氏とライアットゲームズ(Riot Games)がそれぞれ、発言に対して謝罪のコメントを投稿するに至った。

しかしながら、ダーデン氏の発言は単に、それ以前からすでに取り沙汰されていた誰もが知る問題点に触れただけだ。自明の事柄を言及したことを謝罪するという決断に対して、ライアットゲームズのコミュニケーションチームには、驚きを隠せないメンバーもいた。ファンの怒りに屈することになりかねないと感じたからだ。

この炎上で注目されたのは、ゲーミングやeスポーツのコミュニティでは、女性やフェム系の有名人のほうが、男性の有名人よりも慎重に発言しなければならないという特有な状況だ(本件に関して、ダーデン氏、ペン氏、ライアットゲームズはいずれも、米DIGIDAYに対してコメントを控えている)。

「自分の意見を発言したり、意見を曲げなかったりすると、叩かれることは最初からわかっている。でも、これ以上慎重になるなんて無理だ。発言は内容も方法もよく計算して行っている。私は私であり、自分の進む道に自信を持っている」。そう話すのは、Twitchストリーマーで、少数派の声をTwitchで代弁しているRekltRaven氏(ハンドルネーム)だ。「だからといって、とても慎重に行動する女性やフェミニン男子を、私がとやかく言うことはできない。インターネットが自分たちの実社会を映し出す鏡であることを私たちは忘れがちだ。こういうことが起こると、世間には依然として偏見があると感じる」。

なぜブランドが気にすべきなのか

一般的ななゲーミングファンなら、こうした物議に耳を貸そうとは思わないかもしれないが、eスポーツシーンに資金を提供するブランドパートナーにしてみれば、見逃すわけにはいかない。ブランドセーフティはeスポーツで問題視されており、業界トップの賞を勝ち取ったストリーマーがそれを謝罪しなければならないという事態は、広告インベントリとしての価値を考えると決してプラスにならない。

エージェンシーのストライブ・スポンサーシップ(Strive Sponsorship)でマネージングディレクターを務めるマルフ・ミンズ氏は、「有害なコンテンツの拡大というのはeスポーツに限られた問題ではない。しかし、そもそも競争は観るものの心を揺さぶるもので、感情に訴えるコンテンツになり得るポイントが数多く存在する。有名人が参加して、eスポーツのように熱くなる競技であればなおさらだ。そのうえオーディエンスは若年層が多いとなれば、対策がない限り有害なコンテンツがeスポーツで広がるのは当然だろう」と語る。

また、「ブランドはたいてい、この手の問題に極めて敏感で、慎重を期して極端に走らない共感できるコンテンツを作ろうとする。これはクリエイティブという観点で考えると、なかなか厄介だ。というのも、バランスを取りながらエンターテインメント性が高く、プレーヤーがわくわくするようなコンテンツを作るには、高いスキルが必要なのだから」と続けた。

これまでのところ、具体的なリスクはそれほどない。しかしすでに今回の騒動が、2024年のストリーマーアワードの開催に直接影響を与えている。この状況を受けて、イベント主催者のQTシンデレラがファンに話したところでは、2024年はValorantカテゴリーを授賞対象から除外しようと考えているという。

「ブランドがビジネスを展開するリアルな世界は、我々が思う以上に保守的である」。そう指摘するのはブランドスタジオのキングスランド(Kingsland)でCEOを務めるダグラス・ブランデージ氏だ。同氏はこれまでに、オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)ともLoLとも取引の経験がある。「二度あることは三度ある的に続くものは反射的に避けようとする。何せゲーミング、とくにeスポーツでは、毎週とはいかなくても毎月必ずスキャンダルが生じている」。

職務を全うすると叩かれるジャーナリストたち

ネットで有名なクリエイターやインフルエンサーが荒らされているだけでなく、eスポーツ専門のジャーナリズム部門はオーディエンスの増加にも苦戦してきた。その結果が、2022年に業界全体を襲ったレイオフの嵐だ。業界におけるジャーナリストの扱い方を見れば、なぜ多くのパブリケーションが足がかりを見つけるのに苦戦してきたのかがわかる。

ワシントン・ポスト(The Washington Post)のジャーナリストであるミカエル・クリメントフ氏が、eスポーツ組織オプティク・ゲーミング(OpTic Gaming)の担当者に、同チームのプレーヤーが複数の不正行為疑惑にかかわっている件について尋ねたところ、同社チーフ・ゲーミング・オフィサーのマイク・ルファイル氏がTwitterでその質問を批判し、クリメントフ氏に対するファンの反発に火をつけた。

また、eスポーツの記者ジョージ・ゲッデス氏が3月16日にクラウドナイン(Cloud9)のValorant向けロースター(選手登録リスト)をすっぱ抜くと、「発表を台無しにした」として、チェリク氏がゲッデス氏を公式に批判した(残念ながらValorantファンのあいだで見られる『ゲッデスいじめ』はお決まりのネタ扱いされており、2月にはクリメントフ氏がサブスタック[Substack]に関連記事を投稿しているほどだ)。

米DIGIDAYはワンハンドレッドシーヴスが最近実施したレイオフについて書いたが、ある有名インフルエンサーが何の根拠もなくその記事を「クズ」だと言い放つと、怒れるワンハンドレッドシーヴスのファンたちから叩かれた。

eスポーツとファンの距離感は限りなく近い

eスポーツのファン層はたいていとても熱い。チームのファンは、将来自分の押しのチームで仕事やプレーができるかもしれないと考えている。その結果、業界にとってマイナスの影響を与える記事は、その内容がどんなものであれ、多くのeスポーツファンの怒りを買う傾向にあう。それは業界が批判されると、自分の将来が脅かされると考えるからだ。

平均的なeスポーツファンは、プロの記者よりもインフルエンサーから情報を得るのが一般的で、メディアをお気に入りのチームのマーケティング手段としてしか考えていない。決して、権力者に対して真実を訴える機会だとは捉えていないのだ。状況がこのままであれば、eスポーツジャーナリストは今後、記者としての本分を果たそうとするだけで、とんでもない批判をうけることになりかねない。

「NBAの試合を見て、自分がNBA級のバスケットボール選手になることはないだろうなと思う。でも、コール・オブ・デューティ(Call of Duty)の画面を見ていると、『ちょっと待てよ、自分だってこのくらいはできるんじゃないか』と感じる」と、ルミノシティ・ゲーミングのゴンザレス氏は指摘する。「ゲーム視聴者の多くがそんなふうに思う。つまり、企業がとりあえずeスポーツのイベントを開催しようと考える理由はそこにある。まずゲームを見せて、あのレベルで戦いたいと思わせるのだ」。

[原文:Why the esports community’s toxicity is becoming the industry’s most enduring problem with brands

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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