ウォルマート、広告事業でもAmazonと競合:ソーシャルメディアとの提携で小規模企業呼び込む

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ウォルマート(Walmart)は、TikTokやスナップ(Snap)などのソーシャルメディアプラットフォームを自社の広告テックプラットフォームに統合することを決定した。これはアメリカ最大の小売業者である同社が、最大のライバルであるAmazonの広告ビジネスの急成長に追従しようとしていることを示している。

ウォルマートの小売広告ネットワークであるウォルマートコネクト(Walmart Connect)は9月20日、スナップおよびTikTokとのパートナーシップを開始し、広告主がこれらのソーシャルメディアプラットフォームで広告配信できる機会を提供することになった。「TikTokとウォルマートコネクトによる市場初の実験により、広告主はTikTokでインフィード広告を掲示できるようになる」と、ウォルマートのエグゼクティブ・バイスプレジデントおよび最高収益責任者を務めるセス・デレール氏は同社のブログ投稿で述べた。一方、広告主はウォルマートコネクトを通じて、はじめてスナップの広告ユニットを買い取れるようになるとも、デレール氏は付け加えた。

デジタル広告で3位に成長したAmazon

ウォルマートがパートナーシップの道を選んだことは、Amazonがデジタル広告分野で享受してきたスイートスポットを破壊する可能性がある。Amazonは昨年、FacebookとGoogleに続いてデジタル広告で3番目の業者の地位を固めた。Amazonの広告ビジネスは同社のマーケットプレイスでの成功や、同社のテックにおける競合他社がアクセスできない顧客データの宝庫から恩恵を受けてきた。また、Amazonは、テック大手企業Appleが最近自社のソフトウェアに加えたプライバシー変更からも利益を得ている。たとえば、多くのCPG企業は広告経費をAmazonに移行させてきた。これは、Appleがユーザーに対して、広告主にユーザーの追跡を許可するかどうかを選べるようにしたことで、Google、Facebook、インスタグラムでのソーシャル広告が有効でなくなってきたためだ。また、Amazonはローカル広告の新しい広告商品を重視し、同社のホールフーズ(Whole Foods)店舗において広告を配置する新しいスペースを開拓することで、自社の広告ビジネスの成長を試みてきた。

Amazonは、広告部門の利益が第2四半期に18%増加し、87億5000万ドル(約1兆2600億円)に達したと報告した。これは、同期間におけるAmazon全体の収益の増加率である7%を大きく超えている。昨年Amazonは、広告収益で310億ドル(約4兆4700億円)を記録した。広告がAmazonに大きな利益を生み出しているという事実は、明らかにウォルマートのようなライバルも注目している。

ブランドがAmazonで成長するよう支援しているアカディア(Acadia)で小売マーケットプレイス戦略責任者を務めているキリ・マスターズ氏は次のように述べている。「これは、トップオブファネルの発見で常に苦闘してきたAmazonに対する切り札だ。Amazonはトップオブファネルにあらゆる発見の仕組みを導入し、TikTokなどに相当するプラットフォームを独自に作り上げようと試みてきた。そのようななかで、ウォルマートはあっさりとTikTokやスナップと直接接触し、これらのプラットフォームで広告を行えるよう交渉した」。

Amazonもまた、消費者向けウェブサイトから、ツイッチ(Twitch)のようなプラットフォームでの動画再生まで、広告商品の幅を広げようとしている。シアトルを拠点とする大手テック企業である同社は、同社の広告支援ストリーミングサービスのフリービー(Freevee)で、ストリーミング動画コンテンツのインタラクティブ広告も昨年開始したと、同社の投資家リレーションのディレクターは最新の決算発表で語った。

「ウォルマートとAmazonのあいだでこのような戦いが繰り広げられるのは皮肉なことだ。ウォルマートはここでは劣勢であるためだ。ウォルマートが、小規模の小売業者をすべて叩き潰してきた巨大企業だという歴史的な立ち位置を考えると、さらに皮肉なことだ」と、マスターズ氏は述べている。

広告事業に本腰を入れるウォルマート

ウォルマートはこの1年から1年半のあいだ、広告ビジネスに燃料を追加してきた。同社は2021年1月に広告販売部門を再設計し、ブランド向けの新しい広告テクノロジーや、店舗内のレジやディスプレイ画面での新しい広告ユニットを追加した。8月には、ウォルマートDSP(Walmart DSP、Demand Side Platform)というオフサイトの広告ネットワークを立ち上げた。

直近の四半期で、ウォルマートのグローバル広告収入は、北米のアドテク事業であるのウォルマートコネクトと、同社が後援しているインドのeコマース新興企業であるフリップカート(Flipkart)の広告収入により、約30%増加した。ウォルマートは現在、LinkedInで数千の広告職の募集を行っている。

「ウォルマートの広告ビジネスはAmazonの10分の1以下だが、同社は明らかに、雇用、技術構築、パートナーシップの形成などを通じて、その差を縮めることを意図している」と、マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の創設者でCEOを務めるジョーザス・カジウケナス氏は、米モダンリテールへのメールによる声明で語った。

Amazonの代理店であるコマースキャナル(Commerce Canal)のCEOを務めるライアン・クレイバー氏は、ウォルマートとAmazonとのあいだの広告戦争のいきさつについて、もう少し慎重に注釈している。「これらの追加チャネルにより、ウォルマートはこれまでにTikTok、スナップ、ロク(Roku)に参入したことがない広告主に対して、これらのチャネルを簡単にテストできる方法を提供する。すぐにAmazonの広告ビジネスに影響が及ぶことはないと私は考えている。ほとんどのクライアントは、これらの新しい広告手段をテストするため、ウォルマートへの予算を少しずつ増やしていくことになるだろう」と、同氏は述べている。

クレイバー氏は、自身のクライアントの大半がウォルマートの広告パフォーマンスとスケーリングに失望してきたが、今回の構想はおそらく役に立つだろうと語っている。

「イノベーションのはじまり」

一方、これをAmazonの広告収入の伸びを食い止めるための方法とみなしている者もいる。Amazonなどのeコマースプラットフォームでオンライン広告を出稿する業者を支援しているパックビュー(Pacvue)のプレジデントを務めるメリッサ・バーディック氏は、こうした動きによって、Amazonからほかのリテールメディアプラットフォームに広告予算が移行する可能性があると述べている。

インスタカート(Instacart)やクローガー(Kroger)などほかの小売業者も、最近になってリテールメディアを充実させようとしている。インスタカートは3月、広告ソリューションを含むさまざまなサービスやテクノロジーを小売業者に提供するインスタカートプラットフォーム(Instacart Platform)を発表した。5月には、新しいショッパブル広告の運用開始も発表した。ライバルのクローガーは9月、動画とコネクテッドTVの広告在庫を含む広告サービスを拡大した。3月には、サードパーティーのプラットフォームが自社の広告在庫にアクセスできるようにした。

「これはイノベーションのはじまりだと、私は考えている。我々はインスタカートやウォルマートから数多くのイノベーションを目にしてきたし、今後も目にすることになるだろう。そこで課題となるのは、ブランドに対して、数多くの雑多な情報に惑わされず、重要なものを見極めるように教育することだ」と、パックビューのバーダック氏は述べている。「圧力もあるため、最高のイノベーションを最大のデータとともに提供し、それが効果的でインパクトがあることを証明できる業者が最終的に成功するだろう」と同氏は付け加えている。

[原文:Amazon Briefing: ‘Trump card’: How Walmart’s new advertising partnerships take direct aim at Amazon]

VIDHI CHOUDHARY(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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