いまだ不透明なマイクロソフトと Netflix の提携:ザンダーがDSPの最前線に躍り出るには?

DIGIDAY

2022年7月19日、米動画配信大手Netflix(ネットフリックス)は第2四半期の決算で、契約者数の減少が予測を下回ったと発表した。とはいえ、有料会員は100万人近く減少しており、保留中のアドテク契約の開始がさらに注目を集めている。

Netflixの独占提携先としてマイクロソフト(Microsoft)が浮上すると、それまでの予測が覆され、流れは一気にソフトウェアの巨人へと変わった。確かにこの数カ月、マイクロソフトのアドテク企業ザンダー(Xandr)とゲーム大手アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)の買収が発表され、同社の広告業界への再浮上が明らかになっていたのは間違いない。

マイクロソフト&Netflix提携の全貌は依然としてはっきりしない。NetflixのCOOグレッグ・ピーターズ氏は、同社の広告で利用するのはマイクロソフトのプラットフォームだけになると話し、マイクロソフトのあの柔軟性があれば、じっくり時間をかけてアドテクと広告売上の両方を刷新していくことができると絶賛した。

複数の関係筋から米DIGIDAYが聞いたところでは、ザンダー(旧アップネクサス:AppNexus)はストリーミングやデジタル動画の広告主のあいだではそれほど人気がないため、マイクロソフトの選択に驚いた部分もあると語った。

実際、7月13日のマイクロソフト選択の発表までは、広範な経験を持つコムキャスト(Comcast)とGoogleと比較すると、この両社がNetflixの広告アドスタックを担当するのではと見られていた。

中途半端な状態……

この広告提携は、NetflixがAmazon Web ServicesからMicrosoftのAzureに移行するという、有利なクラウドサービス契約の前触れではないかとの憶測もある。

複数の情報筋(いずれも機密事項のため匿名を希望)が米DIGIDAYに語ったところによると、コムキャストにはピーコック(Peacock)、GoogleにはYouTubeがあるが、マイクロソフトには競合するストリーミングサービスがないので、すでにRFP(提案依頼書)の段階からマイクロソフトに分があったと話す。

2022年5月、マイクロソフトアドバタイジング(Microsoft Advertising)のバイスプレジデントであるロブ・ウィルク氏は、CTVが同社の広告戦略で重要な役割を果たし、スクリーン横断型アトリビューションサービスも市場参入(GTM)戦略で重要な役割を果たすだろうと説明した。

米DIGIDAYは、サービスローンチ時、広告バイヤーがプラットフォームのどの部分を利用できるようになるのかマイクロソフトに問い合わせたが、回答は得られなかった。しかしながら、大手デジタルメディア、インサイダー(Insider)の取材で一部の詳細情報が明らかになっている。それによると、競合相手の収益保証(アドテクの初期段階では、RFPを勝ち取れるかどうかは通常これが重要になる)が、残念な数字だったという。つまり、Netflixは「収益がほしい、しかも早く」という状態であることが推察される。

米DIGIDAYが話を聞いたザンダーの複数の関係者によると、Netflixとの交渉はマイクロソフト側の主導で進み、ローンチ時にアドテクがどのような形になるのかといった情報を説明するスタッフはほとんどいなかったという。

オープンか、クローズか

今なお話題の疑問は、提携発表時にマイクロソフトが使用した「独占(exclusively)」という言葉が具体的に何を意味するのか、また、ザンダーのアドサーバーを中心に展開するのか、それとも、デマンドサイドのプラットフォームも含め、ザンダーのスタックをそのまま利用するのか、ということだ。

業界の見解はふたつに分かれている。完全専用、つまり、「ウォールド・ガーデン」で、10年前の旧アップネクサス(AppNexus)メッセージングと比較すると、方針が完全にUターンしているという考えと、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)など競合他社のDSPがこれからもNetflixのインベントリーにアクセスできるかもしれないと期待を抱いているのでないかという考えだ。

自社のPR方針により匿名で答えてくれたエージェンシーホールディンググループのある幹部は、先週同僚が詳細情報を得ようとマイクロソフト(とザンダー)の営業に連絡を取ったところ、先方はほとんど情報をもっていなかったと話している。

しかしながら、同じ幹部によると、Netflixに対する収益保証は繰り越されるのではないかという。営業が広告業界にいかに働きかけるのかの問題だが。

「もちろんエージェンシー側は自分たちがうまくできるようにしたいと考えるだろう。Netflixがお金をほしがっていることは(重々)わかっているので、結構な額を出してくるだろう」と先述の幹部は話す。「たとえば、『今年はどのくらいいけるのか? 3年間にするか?』そんな感じだろう」。

お互いのデータの掛け合わせが鍵

マディソンアレイ(Madison Alley)のマーケティングテクノロジー&データ担当ディレクターのスーザン・モクベル氏は提携の技術情報はまだ詳細が公表されていないが、発表時の「独占(exclusive)」という言葉はおそらくザンダーのアドサーバーのことを指しているのだろうと話す。「ザンダーなら、ほかのDSPがNetflix経由で購入できるように対応可能だ」とメールで回答した。また、2023年のローンチ時には、おそらくプログラマティックバイイングが提示されるだろうとも述べている。

「ザンダーからNetflixのインベントリーを購入する最も効率的な方法は、PMP経由だ。こうした取引は、プログラマティックメディアバイイングのエージェンシーやプラットフォームを使えば、(Netflixと)直接実現できる。デマンドが調整されている取引では、適切なターゲティングテクノロジーやデータインフラ、切れ目のないシステムの一体感があれば、Netflixはインベントリーを現金化しやすくなるだろう」。

また別の機会に、前述のエージェンシーホールディンググループ幹部が、Netflixのインベントリーをどのくらい利用できるのかで、マイクロソフトのアドテク戦略の未来が決まるだろうと話した。「マイクロソフトもザンダーも、この状況が、最後尾からDSPの最前線に躍り出ることができる、またとないチャンスであることをわかっている」。

一方、ザンダーのパートナーアドテク企業で、セルサイドの商品Curateを扱っているアドルディオ(Adludio)のCEOポール・コギンズ氏は、オーディエンスのオーバーレイが利用できれば、プレミアムがつくだろうと話す。「広告主にとって、Netflixのデータを(マイクロソフトの)Xboxデータにオーバーレイできれば、鬼に金棒だ」とコギンズ氏。「これはあくまでも想像にすぎないが、オーバーレイできるのであれば、おそらく成功の理由のひとつになると思ってよいだろう」。

[原文:Uncertainties remain but Microsoft’s Netflix pact is the clearest window to its designs on ad tech

Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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