Appleの Vision Pro 、新し物好きのマーケターが様子見の姿勢を見せる理由

DIGIDAY

マーケターは、光り輝く目新しいものを何でも好みがちだ。だが、NFTやメタバースにいち早く投資した彼らのなかにも、アップルのVRヘッドセット「Vision Pro」については様子見をするつもりだという人たちがいる。

マーケターらは、このヘッドセットの可能性に心を奪われていると口々にいう。また、正式発売は来年になるため、まだ時間がある。だが、新しいトレンドにすばやく飛びついても成果を得られなかった経験から、今回は慎重になるマーケターもいるようだ。少なくとも、テトリス(Tetris)、スプライト(Sprite)、ハズブロ(Hasbro)といったブランドのマーケターは、6月初めにラスベガスで開催された「ライセンシング・エキスポ(Licensing Expo)」でそう述べていた。

「いまのところ、私たちが先陣を切って何かに挑戦するようなことはない」と、ハズブロでライセンス商品担当プレジデントを務めるケイシー・コリンズ氏はいう。「私たちは静観している。次の挑戦者やその次の挑戦者になるかもしれないが、今はチームが事実調査を進めているところだ」。

ブランド毀損を避けるため

NFTやメタバースの人気が下火になりつつある今、ブランドはVision Pro向けのVRマーケティングに乗り出すことに慎重な姿勢を崩していない。昨今の経済情勢もあり、慌ててこの技術に飛びついて、ターゲット顧客の信頼を損なうことは避けたいと考えているのだ。

コリンズ氏によれば、NFTが大流行した時期、ハズプロは暗号通貨やNFTの環境、ねずみ講の可能性、そしてこの技術に対する世間の否定的な見方を懸念していたという。同社は2021年に「パワー・レンジャー(Power Rangers)」コレクション、2022年に「モノポリー(Monopoly)」ゲームでNFT分野に参入したが、ROIが予想を下回ったため、それ以上の取り組みを断念した。

「私たちにとっては、ブランドの評判を守ることが重要であり、少しでも不快感を持たれるような分野には飛び込みたくなかった」と、コリンズ氏はNFT空間について述べている。

今回は投資に踏み切る前に、Vision Proの活用によって実際にどのような効果がもたらされるのか見極めたいと、コリンズ氏は語った。

ターゲットへのリーチに最適なのか

ゲームブランドのテトリスでプレジデント兼CEOを務めるマヤ・ロジャース氏は、新しいプラットフォームやテクノロジーが登場するたびに、リソースとマーケティング費用をどのように振り分ければカジュアルゲーマーとハードコアゲーマーへのリーチに最適なのかを見極めなければならないと話す。また、テトリスはこの2年間、多数のブランドからメタバースの話を持ちかけられたが、すべて断ってきたという。

「昨年、一昨年と大々的な宣伝が行われたが、私たちは振り回されるばかりで、『(メタバースが)宣伝どおりのものなのかどうか、どうすればわかるんだ』という感じだった。そのため、私たちはより慎重になっている」と、ロジャース氏は振り返る。また、メタバース戦略のようなものを成功裏に行うには、多くの時間と人材、リソースが必要だと付け加えた。

ただし、同社は「PlayStation VR」で遊べるゲーム「TETRIS EFFECT(テトリス・エフェクト)」で、初となるVRのテストを行っており、Vision Proの機能を使えば、続編を開発してゲーム内広告を掲載する機会が得られる可能性もあると、ロジャース氏は強調した。

マーケターらによれば、Vision Proの発売は来年になるため、マーケターやブランドにとっては、複数のオーディエンスを同時にターゲットにしたコンテンツ、インタラクティブな体験、および広告を開発する時間が十分にあるという。米DIGIDAYはVision Proの広告料金に関する計画についてAppleにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

消費者は本当に関心を持っているのか

スプライトでクリエイティブ戦略担当ディレクターを務めるA.P.チェイニー氏は、Vision Proで大きなメリットとなる可能性があるものとして、ユーザーが仮想環境を選んだりカスタマイズしたりできる点を挙げた。これについては前出のロジャース氏も同様の見解を持っている。また、Vision Proではユーザーが完全なVR体験を利用できるようになるはずだ。具体的には、リビングルームやオフィスなどでメニューを表示してアプリやゲームを選択したり、音声コマンドやちょっとしたハンドジェスチャー、それに目の動きを使って、仮装環境内でオブジェクト、アプリ、ゲームを移動したりすることが可能になる。

だが、Vision Proに対して楽観的な見方をしながらも、この技術を検討するにあたっては、Vision Proがマーケティング的に意味のあるものでなければならないとチェイニー氏は話す。「この点を常に注視し、消費者が何を利用して何に関心を持っているのか、私たちがどのようにビジネスに取り組んでクリエイティビティを高めればいいのかを見極めないのは怠慢だ。そのため、私たちは確認と調査を欠かさず行っている」と、チェイニー氏はいう。「キャンペーンに踏み切る前に、そのキャンペーンやKPIが対消費者という点で意味があることを必ず確認したいと考えている」

データ分析プラットフォームのスタティスタ(Statist)が公開した2021年のリポートによると、VRとAR(拡張現実)の市場規模は、世界全体で2024年までに2969億ドル(約42兆9800億円)に達すると予想されている。現在の市場規模は、2021年に記録された307億ドル(約4兆4450億円)を10倍近く上回り、2022年比で91.2%の増加となっている。

最終的にはブランド体験を一変させる存在に?

VRダイレクト(VRdirect)の共同創業者でCEOを務めるロルフ・イレンベルガー氏は、マーケターやブランドが、パンデミックの時期にQRコードを活用したときと同じようにVision Proを取り入れることで、将来に役立つ技術革新を起こせるようになると予想している。Vision Proのメタバースが今後さらに進化すれば、Vision Proはバーチャル体験でブランドを後押しできるものになるはずだと、同氏は確信しているようだ。

「企業やブランドはこの数年間で、私たちが最終的にこの道に進むことを理解した。2020年3月のように短期間で一斉にとはいかないかもしれないが、最終的には、仮想体験を最前線に押し上げたパンデミックのときに見られた多くのことが、時間とともに進化し、改善され続けるだろう」と、イレンベルガー氏は語った。

[原文:As Apple enters the VR headset market, brands take a wait-and-see approach

Julian Cannon(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)

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