巨大IT を猛追する、 ディズニー という新たな伏兵:データ量と Hulu のアドテクが鍵

DIGIDAY

メディア各社のあいだではこのところ何年も、GoogleやMetaのような巨大企業を相手にした広告主の予算獲得競争について取り沙汰されてきた。こうしたメディア企業やテック企業は、オーディエンスの規模といい、そのオーディエンスから得るデータ量といい、依然として別格だ。しかしながら、その差をゼロにはできないまでも、縮めようと果敢に挑戦する企業もある。その数少ない企業のひとつがディズニー(Disney)だ。

「何しろ、ディズニーはデータ量が違う」。そう話すのはエージェンシーのある幹部だ。「ディズニー傘下企業にはHuluも含まれる。Huluは広告サポートコンテンツのCTV最大アプリだ。確かに業界のトップはYouTubeだが、プレミアムコンテンツで見ると、現時点ではHuluが最大である。それ以外にも、テーマパークビジネスもあり、ファーストパーティデータやクルーズラインが含まれる。こうしたさまざまな事業を多角的に扱えば、当然、規模は巨大になる」。

ディズニーでは、規模に関して具体的な数字を発表している。たとえば、同社メディアプロパティへのユニークビジター数は米国で月間2億1800万人、世帯IDは1億件、インターネット回線に接続されたコネクテッドTVのIDは1億6000件、デバイスIDは1億9000件。この数字はいずれも、3月3日に開催が予定されているディズニー・アドバタイジング(Disney Advertising)主催の広告主向けイベント「テック&データショーケース(Tech&Data Showcase)」で、同社プレジデントのリタ・フェロー氏が発表するものだ(※原文記事は3月3日公開)。

5年の歳月を費やして

とはいえ、いくら規模が大きくても、広告主に役立つように利用できなければ意味がない。この5年間、ディズニーが取り組んできたのはその部分だ。2017年、ディズニーはそれまでさまざまなTVネットワークに分かれていた広告売上チームをひとつにまとめる方向に動き始めた。それ以来、プロパティに使われているバックエンドテクノロジーの融合に向けて、徐々に努力を積み重ねてきた。社内にある従来のテレビサービスやストリーミング、デジタルプロパティの広告出稿促進もその一環だ。

フェロー氏は米DIGIDAYのインタビューで、2020年10月にディズニーがディズニー・メディア&エンターテインメント・ディストリビューション(Disney Media & Entertainment Distribution)の創設を発表した際、直線的ビジネスが導入されると話した。

「その結果、現在ではひとつの組織で、アドレス可能なプラットフォームはもとより、自社リニアプラットフォームもすべて利用できるようになっている。さらに、テクノロジーの視点でみると、こうしたプラットフォームは多岐にわたっているので、一分野の業務を社内でひとつにまとめることが可能になる。つまり、販売からターゲティング、プランニングまで、顧客をトータルに見ることができるのだ」とフェロー氏は付け加えた。

着実に進んでいる統合化

誤解のないようにいうと、ディズニーの統合化はまだ現在進行形で、独自のアドサーバーにかかわる膨大なアドテクの統合もまだ終わっていない。とはいえ2022年に入り、統合化が着実に進んでいることを示す情報が、ディズニーから発表されている。

  • Huluの一時停止時の広告フォーマットや、イッキ見向け広告フォーマット、ショッピングが可能な広告フォーマットの使用をディズニーのほかのプロパティにも拡充
  • Huluのセルフサービス型広告出稿ツールをディズニーのセルフサービス型広告出稿ツールとしても利用し、ディズニーのほかのプロパティからのインベントリー(在庫)を提供
  • Huluのアトリビューションツールをディズニーのアトリビューションツールに拡大し、ディズニーのほかのプロパティも網羅

ディズニー・アドバタイジング(Disney Advertising)でクライアントソリューションおよびアドレス化担当エグゼクティブバイスプレジデントのリサ・バレンティノ氏は、「(1)統合化、(2)弊社の規模と範囲に応じたオーディエンス、この2点が実現できないかぎり、上記4点はいずれも不可能である」と話す。

Huluの買収が意味するもの

すでにお気づきの読者がいるかもしれないが、2019年にディズニーがHuluを完全子会社化したことで、上記4項目の大半は着々と実現に向かっている。その結果、ディズニーは、TVプログラムを有する優れた広告サポートストリーミングサービスを手に入れるだけでなく、Huluのアドサーバーも手に入れることができた。このアドサーバーは、広告業務を独自のインフラに移行しているディズニーにとって、統合化の中心となる要素である。現時点では、Googleのアドサーバーは依然としてディズニーで使用されているが、今後もこの状態が続くということはない。

「我々はこうした先進的な技術や優れた能力を数多くHuluで育ててきた。今は、そうした技術を利用して、ディズニーアドサーバーを構築し、ディズニーブランド全体で使用できるように展開している段階にある。この事業は着々と進んでおり、このままその方向で続けていく予定だ」と話すのは、ディズニー・メディア&エンターテインメント・ディストリビューションで広告プラットフォームを担当するシニアバイスプレジデントのジェレミー・ヘルファンド氏。「そのため現在は、[GoogleのアドサーバーとHuluのアドサーバーが]混在している状態である。最終的には、すべてディズニーのアドサーバーが使われることになる」。

「我々が今取り組んでいるのは、弊社のさまざまなデジタル広告を統合するだけでなく、直線的ビジネスとしても対応することだ。そのため、事業全体のアドレス化やターゲティング、収益、在庫管理の分野では、直線的かつデジタルなビジネスを目指している」とディズニー・メディア&エンターテインメント・ディストリビューションでCTOを務めるアーロン・ラベルジュ氏は話す。

ここでも重要なのは、拡大化を考慮すること、そして、ディズニーの拡大化に直線的なアプローチを加えることである。直線的なアプローチを加えれば、テック大手との差別化を図るのに役立つ。というのも、テック業界の巨人たちはコンピューターやスマホの画面を独占しているかもしれないが、テレビの画面ではその優位性を保てていないからだ。それに、Google、Meta、Amazonの3社独占市場外で、ターゲットを絞った広告を打ちたい広告主に対しても選択肢の幅を広げることになる。

エージェンシー幹部たちの関心

「世界を牛じるGoogleやFacebookの傘下企業と闘う人たちにはいつもエールを送っている」と別のエージェンシー幹部が話す。

テック業界の巨人たちに競争を挑むTVネットワーク企業はディズニーだけではない。コムキャスト(Comcast)のNBCユニバーサル(NBCUniversal)も同様にオーディエンスデータをまとめており、同じくコムキャスト傘下のアドテクプラットフォーム、フリーホイール(FreeWheel)と兄弟会社の関係を大切にしている。また、こうしたTV企業がテック企業にどの程度太刀打ちできるのかに関しては、「おそらくすでに差を少し縮めてきたのではないかと思う」と前段のエージェンシー幹部が述べている。

さらに別のエージェンシー幹部は、「一番がんばっているのは、おそらくNBCとディズニーだろう。ただ、それでもダントツとは言えない」と話す。

今回インタビューした3人のエージェンシー幹部の意見が一致したのは、「まだよくわからないのは、ディズニーがスケールアップするかどうかではない」という点だ。もうスケールアップしている。エージェンシー幹部たちが知りたいのは、「ディズニーがどの程度のスケールアップするのか」である。というのも、ディズニーには、広告主がリーチしたい特定のオーディエンスがおり、そのオーディエンスには、スポーツの生中継やスターウォーズの配信を見る人たちだけではなく、新車を求める人たちもいるからだ。

「ディズニーの動向を見るには、月間のユニーク数は確かに重要だ。しかし、同じ人に対して平均で何回リーチしているのか、どのような環境にいる人たちなのか、その人たちはどのような行動を取っているのか、健全な生活を送っているのかも重要である」とNBCについて語ったエージェンシー幹部は話す。

最初に登場したエージェンシー幹部は、「ディズニーの規模には目を見張るものがある。データの正確さはおよぶものがない。彼らはうちのデータに見合うものにするために、どのようにしてデータをひとつにまとめているのだろうか」と戸惑いを見せた。

「ディズニーはあの3社に負けない」

ディズニー・アドバタイジングのバレンティノ氏によると、そのためにディズニーは、ディズニー・セレクト(Disney Select)のファーストパーティデータプラットフォームで得られるオーディエンスのセグメント数を1年前の1000余りから、2000セグメント近くまで増やし、そのうえ、エクスペリアン(Experian)のようなプロバイダから得た購入意思のあるオーディエンスのデータなど、サードパーティのデータをディズニー・オーディエンス・グラフ(Disney Audience Graph)に組み込んでいるという。

とはいえ、データは燃料にすぎない。つまり、燃料をエネルギーに変換可能な内燃機関がなければパワーは発揮できないのだ。そこでまたポイントになるのが、ディズニーのアドテクインフラの統合化の話である。

「私なら、Google、Facebook、Amazon3社のすぐ次にディズニーをあげるだろう」と最初のエージェンシー幹部は話す。「しかし、来年、その半年後、2年後となれば、状況は変わるのではないか。ディズニーはあの3社に負けないのではないかと私は思う――もちろん、培った技術をすべてひとつにまとめることができれば、の話だが」。

[原文:How Disney is using its audience data and Hulu’s ad tech to compete with Google, Meta and Amazon

TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU

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