幕を閉じた今年の カンヌライオンズ 、AIや脱炭素の話題は結局どうなった?

DIGIDAY

地中海からカンヌに向かって吹く暖かな風が、ビーチパラソルをひっくり返したり、クロワゼット通り沿いのイベントスペースの仮設屋根を引きはがしたりした一方、ジェネレーティブAIの熱い風は、プログラマティック広告の状況に対する不満の高まりのなか、カンヌライオンズでの会話の大半をこの話題が占めていたにもかかわらず、それほど大きな影響を与えなかったようだ。

AIが至るところに偏在するという事実は、AIを使ってあれができる、これができると約束するピッチやプレスリリースを何十と受け取った参加者や報道陣のメール受信箱のなかでこそ意識されていたようだ。そうしたメールのほとんどは、ジェネレーティブAIの真の可能性を浅はかに利用する内容に過ぎなかった。

ジェネレーティブAIが与えたもの

それでも、この進歩の速い(そして学習速度の速い)テクノロジーがエージェンシーの世界にどのような影響を与えるかについて、真剣な議論は止まらなかった。たとえば、真にパーソナライズされたメディア・プランニングと広告実施によって約束される、クリエイティブな広告コンテンツの何千回もの反復に対する飽くなきニーズを満たすために、この技術が活用されることだ。

PMGの創設者で最高経営責任者(CEO)のジョージ・ポプステファノフ氏は、米DIGIDAYのポッドキャストインタビューで、「クリエイティブは今、最も影響を受けている分野だと思う。基本的に我々はジェネレーティブAIを使って、撮影後1日で5万以上の異なるバリエーションの動画を作成できるようになるだろう」と話した。

一方で、ワークアンドコー(Work & Co)の共同創設者であるモハン・ラマスワミ氏は、「AI技術が来年、あるいは今後数年かけて成熟していくにつれて、ブランドやエージェンシーはAI技術を日々の制作作業を減らし、クリエイティビティに再投資するチャンスだと考えている」と言う。「私にとっての大きな収穫とは、AIがクリエイティビティと差別化に関する水準を実際に引き上げる可能性があることに、業界が気づいていることだ」。

メディアエージェンシーではもう数年にわたってデータ処理や分析を早めるのに役立つ機械学習ツールや、人間よりも機械のほうがよりよく、より速く実行できる機能としてジェネレーティブではないAIが使われてきた。しかし、S4キャピタル(S4 Capital)のマーティン・ソレル氏は、DIGIDAYとのポッドキャストインタビューで、さらに階層化したジェネレーティブを構想していると語った。

「AIでできることは(中略)組織全体に知識を水平展開する能力を与えることであり、モデルに近づけることだ。つまり、より速く、よりよく、より安くという我々の信条に、AIやそれ以上のものが加わることで、我々はより能力的に、より機敏に、より迅速に対応し、デジタル・エコシステムをよりよく理解し、以前よりも効率的になる」とソレル氏は話した(ソレル氏は2018年のデビュー以来、AIが突然再び注目を浴びるまでは話題にしたがらなかったピュブリシス[Publicis]のAI機能、マルセル[Marcel]に似たものを表現している)。

より効率的かつ効果的な方法

単なるデジタルの現実に話を戻すと、広告業界(この場合はマーケター)に何十億ドルもの広告費と投資費を浪費させることになるアドテク界の行き過ぎた行為(とそれを助長するエージェンシー)に対する不満が、再燃していることを感じ取ることができるだろう。とはいえ、この問題に苦言を呈している大手のマーケターのなかには、定期的にこの行為を罰するために財布を振り回しているようには見えない。

全米広告主協会(ANA)の直近のプログラマティックリポートは、昨今のデジタル社会に漂うバッグストック在庫の程度を明らかにした。業界のベテランアドバイザーでコンサルタントのルー・パスカリス氏は、「マーケターはベンダーからログレベルのデータを参照することを要求し始めており、ベンダーがそれをできない理由を言い出すようなら、そこから立ち去るべきだと提案した。ほんの少しの透明性は、平均的なプログラマティック購入が着地する4万4000個のサイトからの撤退に大いに役立つだろう」と言う。

大手独立系企業にせよ新時代のエージェンシーにせよ、既存の大手エージェンシーに対抗する勢力は、より効率的かつ効果的な方法でクライアントのメディア需要を満たすという。しかし、問題の根深さを考えると、それが可能かどうかはまだわからない。ただし、大手エージェンシーはこの計画を実行していると、クロワゼット通りのあちこちで噂された。その理由は、新たな収益を生み出すコンサルティングやデータサービスの強化に取り組んでいるあいだ、これが当面の稼ぎ頭のとなるからだ。

炭素排出量削減を考え始めるエージェンシー

最後に、ポジティブな面としてはエージェンシー界がようやく炭素排出量について真剣に理解し、行動するようになったという感覚があることが挙げられる。最も、業界が地球に与える影響を減らすために炭素排出量削減について話し合おうと、何千人もの人々が飛行機を乗り継いでカンヌに集まっているようでは意味がないだろう――。

ここでもまた、ジェネレーティブAIがより大規模なコンピューティングと処理能力(つまりエネルギー)を必要とすることを考えると、プログラマティックな世界が悪者のように見えてしまう。

カーボン排出測定会社スコープ3(Scope3)の最高執行責任者(COO)兼共同創設者であるアン・コグラン氏は、DIGIDAYのポッドキャストインタビューで、「デジタルなものはフワフワしたものではなく、物理的な影響をもたらすという事実は、少なくともジェネレーティブAIについて考え始めている人々の心に警鐘を鳴らすはずだ」と語っている。

それが問題になる前に、業界が解決策を見つけることを期待したい。ただし、マルティネスホテルのビーチサイドのレストランが、ハトやカモメを寄せ付けないために考え出したような策では困る。何しろ彼らは、ランチテーブルの上に舞い降り、自分たちのランチを捕らえるよう訓練された鷹を連れた2人の鷹匠を配置したのだから。

[原文:Media Buying Briefing: As Cannes Lions fades from memory, its problems and potential stay put

Michael Bürgi(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)

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