マーケティングを担いつつある、 ゲーミング クリエイターたち:「製品をただ出すだけ、という時代は終わった」

DIGIDAY

ゲームデベロッパーが、個人のコンテンツクリエイターにマーケティングの可能性を見いだし、彼らの趣味をビジネスに変えることを支援するプログラムやプラットフォームに投資している。

ゲームデベロッパーの2Kは3月、「ネクストメーカーズ(NextMakers)」イニシアチブの第2期生を発表した。選ばれたゲーミングクリエイターの参加者に、同社の知的財産(IP)や業界人脈への特権的なアクセスを与えるトレーニングプログラムだ。

プログラムの拡大は、コンテンツクリエイターの取り込みをさらに進めるものだが、これは2KがゲームIPへの関心を高め、維持する自社の役割が増大していると認識していることのあらわれだ。

クリエイターに安定した立場を

2Kでインフルエンサーマーケティング担当シニアマネージャーを務めるミッチェル・インクロット氏によると、2Kはプログラムの参加者を、現在の人気やフォロワー数ではなく、ブランドカラーとの一致や「コンテンツ制作の未来への注力度」を基準に選定しているという。「ゲームタイトル別に分類できるので、4000人分の応募者リストを見て、さてどうしよう、というようなことにはならない」とインクロット氏は述べている。

2021年の第1期に続き、200人をトレーニングするネクストメーカーズ第2期では、昨年の同プログラムに参加し、2Kの人気シリーズ「ボーダーランズ(Borderlands)」をベースにしたポッドキャスト「ザ・ボーダーキャスト(The Bordercast)」などのコンテンツで引き続き同社と仕事をしている「Tess」氏や「Mitsu」氏などのクリエイターが指導にあたる(2Kが米DIGIDAYに紹介してくれたこの2人のストリーマーは、エンターテイナーとしてのキャリアと私生活を分けたいとの理由から、実名を伏せることを希望した)。

「当時、私はスターバックス(Starbucks)で働きながらコンテンツ制作をしていたが、ネクストメーカーズ・プログラムに参加して、もうその必要はなくなった」とMitsu氏は話す。「私は安定を手に入れた。家族の面倒を見られるようになった」。

2Kのネクストメーカーズ・プログラムでは、パーソナルブランドの構築や、それを潜在的なスポンサーに売り込むことに関するトレーニングセッション、専属のパーソナルトレーナーによるセルフケアのDiscordチャンネル、著名eスポーツ組織「100シーブス(100 Thieves)」の人材戦略ディレクター、ジェイムズ・デビッドソン氏といった業界リーダーとの対話など、趣味をフルタイムの仕事に変えるのに役立つリソースをクリエイターに提供する。「ピッチデッキなるものが存在すると聞いて、目からうろこが落ちたクリエイターもいるというのが、ちょっとした笑い話になっている」とインクロット氏は話す。

「クリエイターは我々の仲間」

プログラムの参加にあたって「交換条件」は一切なく、2Kは参加者に対して、同社タイトルに関連したストリーミングやその他のコンテンツ制作を行うようプレッシャーをかけることはない。「会社から、これをやるようにと指示されることはない」とTess氏は話す。「2Kが推奨し、価値を置くゲームへの信頼と愛があるので、あくまで自発的にやっている」。

参加者は、給与や給付金、会社の福利厚生を受けることはないものの、2Kはコンテンツキットを支給し、仕事の機会を用意し、総じて彼らを会社の一員のように扱う。実際、2KのオリジナルIPを広める彼らクリエイターは、本質的に同社の一員だ。

「コンテンツクリエイターは、さまざまな形で我々の仲間だ」とインクロット氏はいう。「『インフルエンサー』をある種の取引相手と見がちな企業は多いが、我々はその存在をマーケティングの未来と見ている」。

最終的な目標は、ザ・ボーダーキャストのような公式にサポートするコンテンツの制作に彼らを起用したり、彼らの個人ブランドの契約を支援したりすることで、クリエイターが安定した収入を得られるようにすることだ。こうした関与は、2Kのタイトルを中心にコミュニティを形成するオンラインのゲーミングクリエイター全体の利益につながる。

「このプログラムが与えてくれた大きなもののひとつが、生活の安定だ」とTess氏はいう。「参加する以前は、基本的に毎日8~12時間ストリーミング配信を行っていたが、それは大変なことで、非常にストレスがかかり、明らかに少し燃え尽き始めていた。ネクストメーカーズで仕事を得るようになって、量より質が重要なこと、無理をしなければ質は向上することを理解した」。

「クリエイター」が意味するもの

ネクストメーカーズのようなプログラムは新しいわけではない。以前から複数の取り組みが生まれており、個人のコンテンツクリエイターが持つパワーへの注目の高まりを示している。エレクトロニック・アーツ(EA)は2021年に「クリエイター・ネットワーク(Creator Network)を設立し、同様にEAタイトルを中心にコンテンツを制作するクリエイターに対して、コンテンツ制作の機会や後方支援を提供するようになった。

開発者以外では、インフィニットカンヴァス(Infinite Canvas)のように、クリエイターの収益化を支援する専門のスタートアップも登場しているが、創設者のタル・シャカール氏は、同社はロブロックス(Roblox)のようなメタバースプラットフォームのクリエイターに的を絞り、参加者に対してより踏み込んだマーケティング支援と金銭的援助を行っていると指摘する。「我々が行っていることは事実上、あるレベルでは、同業者たちと同じだ」とシャカール氏はいう。

「ただ、我々は主にロブロックスやフォートナイト・クリエイティブ(Fortnite Creative)などのオープンワールドプラットフォームのゲーム開発者たちと仕事をしている。つまりは対象とするクリエイターのタイプが異なる」。

実際、クリエイターパワーの高まりは、「クリエイター」が意味するものの大幅な広がりと並行している。フォートナイト・クリエイティブやロブロックスの開発者もクリエイターなら、TikTokのスターやTwitch(ツイッチ)のストリーマーもまたクリエイターだ。オンラインのクリエイター活動でキャリアを築くのに、今ほど絶好の時期はない。

しかし、クリエイターが厳密に何を意味するかについて、今ほど混乱や意見の相違が生じている時期もない。「これらの人々はすべて、何らかの形でクリエイターなのだろうか? 答えはイエスだ。しかし、この用語がカバーする範囲があまりに広いため、時に混乱をきたすレベルに到達しつつあるのも確かだと思う」とシャカール氏はいう。

コンテンツ流通の大きな変化

とはいえ、世界中の2KやEAのような企業にとって、この区別はさほど重要ではない。2KのネクストメーカーズやEAのクリエイター・ネットワークのような開発元が支援するイニシアチブが登場する以前から、ゲーミングクリエイターは、そもそも彼らのタイトルをマーケティングする存在であり、開発元が支援に指一本動かさなくとも、ゲームに対する関心と話題を生み出してきた。

それが現在では、開発元が指一本どころか、2Kにいたっては腕一本を丸ごと動かすレベルで支援に取り組み、クリエイターがその恩恵を受け始めている。

「これは、個人クリエイターとコミュニティが流通メカニズムのもっとも重要な部分を占めるという、コンテンツ分野における大きな変化の一環だ」とシャカール氏はいう。「かつては、製品はただ出すだけのもので、ユーザーやコミュニティの側はそれを受け取るだけだったが、時代は変わった」。

[原文:How a game development company wants to support the ‘future of marketing’ with content creators

Alexander Lee(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)

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