メディアエージェンシーの世界で、 AI はユビキタスを達成したか?

DIGIDAY

マーケティングやメディアをめぐるエコシステムでは、AI(人工知能)を活用したメディアバイイングやプランニングのためのツール、テクノロジー、プラットフォーム、データ製品を、新しく開発したという企業の発表を聞かない日はない。この技術革新の大半は、デジタル消費に対する消費者の行動パターンが劇的に変化したことに起因しており、メディアエージェンシー、クリエイティブショップ、マーケターたちは、この新しい行動パターンをより深く理解しようと躍起になっている。

メディアエージェンシーの世界では、AIは通常、機械学習やパターン検出の形で活用されるが、この領域は基本的にストラテジストやアナリストが担っている。次に、サードパーティCookieの廃止をふくめ、さまざまなユーザーシグナルの利用が難しくなっていることも、機械学習やデータ収集の自動化に拍車をかける要因となっている。AIの第3の用途は、できるかぎりバイアス(偏り)を排除し、バイイングとプランニングにおける倫理的境界線を維持することだ。

専任の上級幹部を配置する企業も

日々の業務でAIの活用を効果的に進めるため、エージェンシーのなかには専任の上級幹部を配置するところもある。たとえば、1月中旬、グループエム(GroupM)は同社のプロダクトおよびサービスを統括する最高責任者として、当時カラ(Carat)の最高デジタル責任者を務めていたキム・ジヨン氏を迎え、グループエム傘下のエージェンシーで活用する新たなツールの発掘や実装を託した。キム氏は手始めに、基礎的なAIと高度なAIを区別した。基礎的なAIとは、時間を取られるプロセスを簡素化し、この作業から従業員を解放して、創造的な仕事や、機械ではうまく処理できない作業に集中させるための技術を指す。一方、高度なAIの活用範囲と目的は、前者よりもはるかに広範だという。

「高度なAIは、事業の成果を総合的に管理し、かつそれを大規模におこなうための技術だ」とキム氏は説明する。キム氏によると、北米担当最高経営責任者(CEO)のカーク・マクドナルド氏は、「サービスカンパニーというより、クライアントのためのソフトウェアカンパニーをめざすべきだというビジョンを持っている」という。「私の優先課題は、独自のツールを活用して、メディアに関する意思決定が収益増やライフタイムバリューに与える影響をよりよく理解し、コンバージョン、インプレッション単価やクリック単価、ブランド認知の上昇率などの報告にばかり気を取られないようにすることだ」。

基礎的AIに関しては、キム氏はこう述べている。「このような技術をいまだに導入していないメディアエージェンシーは、今後さらに増えるであろう膨大なデータ量に圧倒され、完全な機能不全に陥るだろう」。

キム氏によると、同社でAI技術の活躍が期待される領域はいくつかあるという。ひとつは同社専有の大規模なデータプラットフォームで、知見、アクティベーション、効果測定を連動させる「コレオグラフ(Choreograph)」だ。さらに、投資リスクを計算する「データ・エシクス・コンパス(Data Ethics Compass)」での活用も視野に入れているという。最後にキム氏は、マインドシェア(Mindshare)の研究施設で、行動データと感情データを連係させてプランニングに反映させるニューロラボ(Neurolab)にも言及した。

ペタバイト規模のデータを分析

IPGのアクシオム(Acxiom)、キネッソ(Kinesso)、マターカインド(Matterkind)も、機械学習ツールを活用して(テラバイトを上回る)ペタバイト規模のデータを分析している。同様に、ピュブリシスメディア(Publicis Media)も傘下に抱える多様なエージェンシーで、AIの導入を加速させている。同社でデータ検証とテクノロジーを統括するケイリーン・オーネック氏はこう話す。「データシグナルの排除、データの流動性、データへのアクセス制限の進行を背景に、各種機能へのAIの組み込みが進められている。パートナー企業のあいだでも、将来的なリアルタイムプログラマティックへの対応を見据えて、AIや予測モデリングへの傾倒が見られる」。

さらにピュブリシスは、エージェンシーやクライアントのニーズに基づいて、同社独自のアルゴリズムをカスタマイズする技術を構築した。最近公開されたデシジョニング・サイエンス・フレームワークというこの仕組みは、AWS(Amazonウェブサービス)を活用して多様なシナリオに合わせたカスタムアルゴリズムを生成する。同社のデシジョニング担当シニアバイスプレジデントを務めるパトリック・フーリハン氏によると、「適切なオーディエンスに的を絞った訴求がますます難しくなるエコシステムにおいて、新規ユーザーの開拓を大規模におこなう」ことが目的だという。

メディアエージェンシーにサービスを提供するベンダーたちも、AIを活用した取り組みを強化している。昨年11月、メディアプランニングおよびバイイング関連のソフトウェア企業で、8000件近いデータセットを管理するテルマー(Telmar)が、AIを活用したSaaS型のインサイトプラットフォーム「ヘリクサ(Helixa)」を買収した。エージェンシーやマーケターは、ヘリクサを活用して消費者の親和性に見られる常とは異なるパターンやつながりを検出できる。

ヘリクサの創業者兼CEO、フロリアン・カーラート氏はこう話す。「ヘリクサ特有のオーディエンス分析がAIの世界で注目を集め、テルマーのようなメディアバイイングやプランニング領域の企業から関心を寄せられるようになった。買収をテコに事業を拡大すれば、活躍の場がさらに広がること、世界をまたにかけた彼らの顧客ネットワークを利用できることなどを勘案して、テルマーは手を組むにはぴったりの相手だと考えた」。

オープンウェブへのテコ入れ

最後に、AIがメディアエージェンシーにもたらす分析力の向上は、ウォールドガーデンに対抗するうえでもプラス材料となる。ウォールドガーデンの影響力とリーチ力(そしてAIを効果的に活用して広告主のID戦略やROI改善に貢献する能力)は、メディアの世界全体に広がりつつある。クオントキャスト(Quantcast)のコンラッド・フェルドマンCEOはこう指摘する。「ウォールドガーデンの広告がうまく機能しているのは、彼らが膨大なデータを持っているだけでなく、非常に効果的な機械学習やAIの技術を持っているからだ。しかもそのシステムを極めて容易に使うことができる」。

フェルドマン氏は、オープンウェブにテコ入れすることで、デジタルメディアの領域に均衡を促そうとしている。「オープンウェブはその性質上、オーディエンスの多様性を約束する。断片的であることは、オープンウェブのすばらしさや多様性の源である一方、バイイングはいっそう複雑化する。我々は信頼性が高く、情報提供可能なオープンウェブを作りたい。機械学習がそこで果たす役割は極めて重要だ」。

[原文:Media Buying Briefing: Has artificial intelligence reached ubiquity across the media agency landscape?

MICHAEL BÜRGI(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)

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