ウクライナ危機 で再度問われる、ブランドの広告への責任

DIGIDAY

ロシアのウクライナ侵攻により、広告主はどこになら広告を掲載することが許容されるのかという点について熟考を迫られている。その結果、ニュースパブリッシャーの収益は、トラフィックの急増にもかかわらず伸びていない。

おなじみのジレンマだ。米DIGIDAYのある情報筋によれば、もっとも需要の高いコンテンツの広告価格は、広告主が公共責任への注意を優先する結果、最大で20%も低下する。

ウクライナ危機はまた、パンデミックのあいだに広告主が力を入れてきた、ブランドセーフティの新たな側面もあらわにした。

パブリッシャーの売上への影響

この2年間、ニュースコンテンツにおけるブランドセーフティ意識が高まる機会(新型コロナウイルス感染症のパンデミック、2020年の米大統領戦の結果を覆そうとするストップ・ザ・スティール運動[the Stop the Steal movement]、ジョージ・フロイド氏の殺害、2021年1月6日の国会議事堂乱入事件など)に何度も対処してきた結果、メディアエージェンシーは概してクライアントに、ニュースコンテンツをただ完全にシャットアウトしてしまうよりも、十分に注意して広告を展開するよう勧めている。

IPG傘下のUMワールドワイド(UM Worldwide)でグローバル最高メディア責任者を務めるジョシュア・ローコック氏が、クライアントにアドバイスするのは、「質が高く信頼できるニュースにこだわる」ことだ(UMのクライアントには、塗料メーカーのベーア[Behr]、フードデリバリーのグラブハブ[Grubhub]、エンタープライズ・ホールディングス[Enterprise Holdings]、H&Mなどがある)。「我々はクライアントに、ジャーナリズムとニュースの支援を続けるよう促している。出資を中断している広告主はいない。侵攻の影響はまだ、国内での外出禁止令や小売店の閉鎖には至っていないからだ」(※原文記事は3月2日掲載)。

しかし、ほかの持株会社のブランドセーフティ担当者も述べるように、個々のクライアントの特性次第の部分もあるため、画一的な決定を下すわけにはいかない。たとえば、ローコック氏はCNNに対して、「侵攻の重大さを考慮して」、IPGのクライアントの広告を字幕やピクチャー・イン・ピクチャーとして表示しないよう求めたという。

パブリッシャーにはすでに影響が出はじめている。時事ニュースへの広告オペレーションに携わる、ある情報筋が米DIGIDAYに語ったところによると、侵攻について解説するコンテンツのCPMは平均を約20%下回っているという。なお、これ以上の具体的な数字は得られなかった。

一部の広告主はロシア企業との関係を見直しており、また自動化され無秩序に拡大したアドテクシステムが、ロシア政府関係者により、ウェブサイトにマルウェアを侵入させたり、誤情報を拡散させたりするためのルートとして利用されていないことの確証を求めている。

こうしたサイバー攻撃からパブリッシャーを守る事業を展開するメディアトラスト(The Media Trust)で、マーケットプレイスイノベーション担当責任者を務めるコーリー・シュナー氏は、侵攻開始直後にこうした懸念が顕著に高まったと述べる。「(2月末の)週末にかけて、FacebookとTwitterは(サイバー攻撃の)取り締まりを行った。だが、オープンなプログラマティックエコシステムでは、こうしたこと(正体不明のアクターによる入札や再販)が多方面からやってくるため、対策がはるかに難しい」と、シュナー氏は明かす。

CNNなどのパブリッシャーと提携するアドテク企業、アウトブレイン(Outbrain)で企業開発・戦略パートナーシップ担当バイスプレジデントを務めるクレイグ・ヒューズ氏は、広告主はメディア責任を企業責任と同等のものとして考えはじめていると語る。

「どこに、どのように広告を提示するかの意思決定について、さまざまなことを考える必要がある」と、同氏はいう。「ブランドセーフティの構成要素は理解しやすいが、ブランド適切性の構成要素は、よりつかみどころがない」。

この点に関して、アウトブレインは「クオリティレーティング(Quality Rating)」と呼ばれるツールを提供している。これは、困難な意思決定を「パブリッシャーに必要な売上と、(広告主が求める)質と関連性を両立させる、アルゴリズムを用いたソリューション」によってサポートするものだと、ヒューズ氏は説明する。他企業の取り組みに目を向けると、ZEFRはGARM(Global Alliance of Responsible Media:責任あるメディアのグローバルアライアンス)が定めるウォールドガーデンにおけるプレビッドおよびポストビッドの業界水準と直接照らし合わせるプラットフォームを立ち上げ、ブランドが「センシティブな社会問題」などのジャンルで、自社にとって適切なリスク閾値を選べるようにした。また、ニュースガード(NewsGuard)など業界の専門家集団とともに、除外リストの策定も進めている。

広告主はニュースに出資すべきか?

これは広告主が今まさに対峙している大きな疑問のひとつだ。パブリッシャーをサポートすることを、コンテンツが提示される広告に対して適切かどうかのブランドが定める基準よりも、優先すべきなのだろうか? 広告主は、広告を通じてニュースパブリッシャーを支援する道徳的義務を負っているのか?

ローコック氏も、オムニコム・メディアグループ(Omnicom Media Group)でデジタルアクティベーション担当マネージングディレクターを務めるライアン・ユーサニオ氏も、信頼できるジャーナリズムを支援することに強い信念を持っていると語る。

「私はチームに、そしてチームはクライアントに、『今まさにウクライナで命を懸け、何が起こっているかを客観的に世界に伝えているジャーナリストがいる』と説明している」と、ユーサニオ氏はいう。「もし我々がニュースから完全に撤退したら、質の高いジャーナリズムに本気で取り組んでいる企業に、多くの意味で背を向けることになる。とはいえ、すべてのクライアントに勧められることではない」。

つまり、どれだけ特定の広告主が特定のパブリッシャーを気にかけ、そのパブリッシャーに潰れてほしくないと思っているかによるということだ。4200ものニュースサイトの誤情報のチェックをおこなうニュースガードで共同CEOを務めるスティーブン・ブリル氏(もうひとりの共同CEOは、ウォール・ストリート・ジャーナル[The Wall Streer Journal]の元発行人であるゴードン・クロビッツ氏)は、ともに仕事をしたエージェンシーのほとんどは、どのサイトがブランドセーフティが保証されているかを示す、安全リストを利用するのが望ましいと理解していたと語る。

ブリル氏によれば、ブランドにとって安全といえるサイトが増えるほど、CPMが下がり、広告を提示し質の高いジャーナリズムを支えたいと考える広告主のためにもなる。ニュースガードは、IPG、オムニコム、ピュブリシス(Publicis)とパートナーシップを結び、ブランドガード(BrandGuard)サービスを通じて安全リストと除外リストを提供していると、同氏はいう。

ブランドセーフティ管理のすすめ

広告主にネガティブな、あるいは不安を引き起こすコンテンツを避ける権利があることに、議論の余地はないだろう。そもそも、広告の本質は心理的結びつきをつくりだすことだ。先日、CNNのウクライナ侵攻報道のさなかに、レストランチェーンのアップルビー(Applebee)の軽いノリのCMが流れ、このことが改めて浮き彫りになった。

コンテンツ検証企業は、多くが数十億ドルの評価額を獲得しているが、彼らもこうした板挟みの状況に立たされている。メディアバイヤーのあいだからは、現在提供されているソリューションに対する不満が絶えず漏れ聞こえてくる。不満の中心は、プラットフォームの姿勢が能動的というより受動的で、ユーザー作成コンテンツが広告にとって安全かどうかを判断するのに時代遅れなオープンウェブツールを使っているために、キャンペーンインサイトやターゲティング能力に支障が出ている点にある。

「今こうした話ができているのは喜ばしいことだ」と、トラステッドメディアブランズ(Trusted Media Brands)傘下のCTVデジタル(CTV Digital)でグローバル売上機会担当バイスプレジデントを務めるマイク・リヒター氏は述べ、エージェンシーもパブリッシャーも、こうした意思決定のために専門チームを組織すべきだと提案した。「今まさに起こっていることに対するソリューションも必要だが、誰もがこう問いかけるべきだと思う。『歴史上のこのできごとが幕を閉じたら、こうした会話もそこで終わりなのか?』と」

「エージェンシーの持株会社のパートナーからは、ベンダーが提供するソリューションへの不満が絶え間なく聞こえてくる。これは特定のアドテクに限った話ではない」と、ヒューズ氏はいう。「彼らが投資する主要プラットフォーム(YouTubeなど)に対する蓄積された不満であり、決まって今のような事態と同時に噴出する」

誤情報は一線を越えたのか?

IPGのローコック氏はそう考えており、彼が厳しく非難するのはアドテク業界だ。「アドテクのエコシステムは依然として、ロシアの誤情報メディアから収益を得て、デマを拡散している」と、同氏はいう。「過去には、米国財務省による制裁を受けてようやく、彼らは対策に乗り出した。ロシアのプラットフォームの資金源を断とうとしないアドテクには、道徳的落ち度がある。彼らはメディアエコシステムが武器として利用されるのを漫然と見過ごしている。EUの最近の声明や、マーク・ウォーナー上院議員がテック企業CEOに対策を求めたアウトリーチを見てもわかるように、規制は効果を発揮している」。

ローコック氏は、ソーシャルプラットフォームにも懸念材料があると指摘する。「彼らは人道危機を憂慮するお決まりの声明を発する以外に、積極的なアウトリーチを行っていない。規制当局が踏み込んだ要求をしている以上、彼らは行動を示さなければならない」と、ローコック氏は述べた。

[原文:Ukraine invasion exposes balancing act of brand responsibility in advertising

MICHAEL BÜRGI and RONAN SHIELDS(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:長田真)

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