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暗号通貨の不安定さにもかかわらず、企業はWeb3とブロックチェーンへの投資を続けている。
Web3の構築プログラム、すなわちブロックチェーンテクノロジー技術に基づく分散型インターネットインフラは、この1年間にトレンドとなった。しかし、かつては果てしなく上昇し続けていた非代替性トークン(NFT)の価格が示すように、一部の業界ウォッチャーはこの種の運用が減速することを予測していた。
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しかし、特に大手小売ブランドのあいだでは、これは当てはまらないようだ。この数カ月にプーマ(Puma)、アロヨガ(Alo Yoga)、ラコステ(Lacoste)などのブランドが、自社独自のメタバース対応Web3コラボレーションをリリースした。そして、スターバックス(Starbucks)は9月12日、ロイヤルティプログラムの次の段階として、スターバックス・オデッセイ(Starbucks Odyssey)という新しいWeb3ベンチャーを正式に発表した。
既存のロイヤルティプログラムを拡張する新体験
スターバックスによると、「オデッセイの体験は、新しい没入型コーヒー体験へのアクセスを解除するデジタルコレクティブスタンプ(NFT)を獲得・購入する能力を会員に提供する」という。この発表では詳細がほとんど明かされていなかったが、プレスリリースでは、オデッセイが、同社の既存のリワードプログラムの延長線上にあることが言明されていた。新しいインターフェイスにより、メンバーは、コーヒーの知識に関するテストや教育を行うインタラクティブなゲームや挑戦など、いくつかのアクティビティに参加できるようになる。現在のところ、ユーザーはウェイティングリストに登録することができ、今年後半にリリースされるオデッセイへのアクセスを受け取ることができる。
この発表は、暗号通貨市場全体が冷え切ったのと時を同じくしていた。ビットコイン(Bitcoin)は8月に1万9000ドル(約272万円)を割り込み、2021年11月に記録された最高値の6万8000ドル(約972万円)から大幅に下落した。一方でNFTの売上額も、2021年に好調を経験したあとで、今年は減少し続けた。ジェイピージー・エヌエフティー・インデックス(The JPG NFT Index)によると、ブルーチップNFTと呼ばれるいくつかのプロジェクトの評価額は、4月から6月までに70%も下落した。
スターバックスの新しいプログラムは、同社が現在行っているゲーミフィケーションに焦点を当てたリワード戦略と似ている。同社は長年にわたり、ユーザーにポイントの獲得と交換を促すため、リアルタイムのゲームやチャレンジを実施してきた。同社の現在のプログラムには2500万人を超えるメンバーが参加しており、これらのメンバーは店舗内での消費額の約53%を占めている。
NFT分野にはじめて参入するブランドの多くは、特定の行動に対するリワードとして、できる限り多くの現実の商品やサービスにアクセスできるようにしているようだ。アロヨガのWeb3ベースのNFTでは、ロイヤルティの高い買い物客に対して、パーソナライズされたショッピングセッションやアロ専用のウェルネスクラブへのアクセスなど、現実でのリワードを提供している。
スターバックスは特に、すでに人気のある自社のリワードプログラムを、Web3のゲームによって成長させることをめざしており、このリワードは長期的な利益になる可能性がある。
変化する顧客の興味・関心に常に対応する
ロイヤルティプログラムプロバイダのクラルス・コマース(Clarus Commerce)でシニアバイスプレジデントを務めるマット・ケイツ氏は、この新しいテクノロジーは、スターバックスなどのブランドが、どのような種類のリワードを顧客が求めているかを把握するのに役立つ可能性があると語る。顧客はオデッセイを通じて、NFTを獲得し、無料の飲み物や食べ物を手に入れるか、スターバックスリザーブロースタリー(Starbucks Reserve Roastery)への訪問などより特別な体験を獲得することができる。
ケイツ氏は次のように述べている。「暗号通貨、NFT、Web3はリスクの大きい投資だというのは事実だが、これらはブランドが消費者と関わるための新しく、進化し続ける機会であるといえる。スターバックスのロイヤルティプログラムは、史上もっとも人気のあるロイヤルティプログラムのひとつであり、それが成功した理由の一部は、変化していく顧客の興味・関心に対応するために同社が実験してきたからだ」。
そしてスターバックスは、一般の消費者がもっと楽しめるプログラムにする方法を考えなければならないだろう。Web3をベースにした買い物客向けのリワードを提供しているほかのブランドとは異なり、スターバックスは自社のリワードをNFTと呼ぶことを避け、既存および新規のリワード会員が親しみやすいよう「デジタルスタンプ」と呼んでいると、ケイツ氏は注釈している。
ケイツ氏は、消費者にさまざまなコレクターズアイテムを提供するNFTや暗号通貨のマーケティングキャンペーンはすでに数多く存在するが、その実際の価値については、いまだに多くの人々にとって分かりにくいものだと付け加えた。
「Z世代はNFTの機能になじんでいるが、約43%の高年齢世代を中心とした消費者は、今のところデジタルアセットにそれほど関心を持っていないことがわかった」とケイツ氏は説明し、この関心の薄さと混乱のうちの多くは、おそらくこのテクノロジーがまだ黎明期にあるためだろうと言及している。
長期的な視野で捉える
Web3広告・テクノロジー企業のインソムニアラボ(Insomnia Labs)の共同創設者であるビリー・ファン氏は、Web3ベースのプログラムを構築するメリットはケースバイケースであると語る。「非常に多くの投資が行われている一方、消費者からの支持が比較的少ないため、誰がWeb3をうまく運用できるかはまだ不明だ」と、同氏は述べた。
Web3プロジェクトは、構築して一般向けに運用開始するまでに多少の時間が必要なことも考慮する必要がある。このため、小売企業が、NFTのようなデジタルトレンドに対する需要を長期的に予測するのは困難だと、ファン氏は語る。たとえばスターバックス・オデッセイは開発に数カ月を要しており、スターバックスがそのプロジェクトを予告したのは5月のことだ。
「スターバックスは、ブロックチェーンを使用して、将来的にはもっと簡単にほかのプログラムに移植できるようなポータブルなリワードシステムを作ることを、もう少し大規模かつ長期的に考えている」と、ファン氏は説明している。つまり、テクノロジーが進歩すれば、スターバックスリワード(Starbucks Rewards)の会員は、ポイントやリワードを保存する場所や方法を、より柔軟に選べるようになるということだ。
しかし、これはまだ先の話になるだろう。「現在のところ、これは消費者の観点からは面白いが、このようなプログラムがどの程度成功するかは未知数だ」と、同氏は話した。
[原文:Why companies like Starbucks are still investing in Web3 despite the crypto crash]
GABRIELA BARKHO(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Starbucks