eスポーツ 分野の広告支出、非競技性にフォーカスし復活か:「ブランドが関与したい場所と方法が、より多様化している」

DIGIDAY

非ゲーミング分野の広告主たちはeスポーツへの広告支出を一時停止し、カジュアルなゲーミングへ焦点をシフトさせていたが、またeスポーツへの広告支出が復活している。

5月、eスポーツ業界では非ゲーミング・ブランドとの提携が相次いだ。ヘアケアブランドのガルニエ・フラクティス(Garnier Fructis)はティーム・バイタリティ(Team Vitality)と提携し、ホンダ(Honda)はチーム・リキッド(Team Liquid)と命名権契約を結んだ。ESLゲーミング(ESL Gaming)はASUSとスポンサー契約を結んでいる。6月末には、大手IT企業のヒューレット・パッカード・エンタープライズ(Hewlett Packard Enterprise、以下HPE)がイービル・ジーニアシズ(Evil Geniuses、以下EG)との提携を発表したことも、注目を集めている。

一見、これらの契約は何年にもわたってeスポーツ分野の特徴となってきた、よくあるブランドによるスポンサー契約に思える。しかし、実はこれまでのどのパートナーシップとも違っている。スポンサー各社はゲーミングやeスポーツにおける「競技性」を求めていないのだ。期待されているのは、これらの取引がeスポーツの競技性よりも、ゲーム領域が内包するライフスタイルの側面を好む、よりカジュアルゲーマーにこれらのブランドの露出機会を増やすことにある。

なぜeスポーツから支出は離れたのか?

これらの企業が求めているものは、初めてゲーム分野に参入したとき主流だった、「eスポーツキャンペーン」の実施方法とはかけ離れている。これまでeスポーツのパートナーシップは、ゲームが有する競技性がすべてであり、大会やリーグやチームのユニフォームを利用したキャンペーンは非ゲーミング分野広告主のあいだでマーケティング戦略の基礎となった。そしてしばらくのあいだ、これらの戦略はうまくいっていた。

実際BMWはこの成功を受けて、社内にeスポーツチームを立ち上げた。しかし最終的に広告主たちは、より幅広いゲーマーたちにリーチしたいと考え、そのオーディエンスを求めてeスポーツに投じた資金を別の場所へと持ち去ってしまった。

別の場所とはたとえば、eスポーツ組織ではなくゲーミング・インフルエンサーだ。カール・ジェイコブズのような著名なインフルエンサーたちは、ブランドパートナーシップの全盛期を経験してきた。これに対してeスポーツ企業は、暗号通貨/ブロックチェーン業界のような比較的新しい、あまり定着していない分野の企業と契約を結ぶなど、より遠くに目を向けなければならなかった。

ペプシ(PepsiCo)でゲーミングおよびeスポーツの責任者を務めるポール・マスカーリ氏は、「伝統的にeスポーツ団体は、(私の推測でもあるが)ハードコアな競争的なゲームに興味のある消費者に、より大きくフォーカスしてきた。なぜなら、そういった消費者こそがeスポーツという領域を支えてきたからだ」と述べる。「なので、もし『カジュアルゲーマーにリーチする』ことを目標にしているのであれば、ブランドはeスポーツではなくゲーミングインフルエンサーをもう少し見るべきだろう。とはいえ、最終的にはパートナーの提案次第だ」。

「方向転換」を図るeスポーツ組織たち

eスポーツ組織たちは、何もせずただこれらの広告主が去るのを見ていた訳ではなかった。なによりも各組織は、自分たちがコンスタントに利益を出す方法を知っていると、投資家に証明しようと躍起になっていた。そこで彼らが取った方法が、ゲームコミュニティの非競技的な側面をビジネスのコアに成長させるための資金投入だ。

これらは、競技から引退したのちフルタイムのインフルエンサーとしても活躍できるようチームメンバーをサポートし、競技だけに専念する選手をひたすら集めるのではなく、エンターテイナー専業やインフルエンサーの人材と契約するという形で実行された。

たとえば強豪チームで知られた100シーブズ(100 Thieves)は現在、トップレベル選手よりもインフルエンサーを圧倒的に多く抱えている。

初期の成功をあえて捨てるかのようなこれらeスポーツ組織からの方向転換は、マーケターのあいだでは好意的に受け止められているようだ。イービル・ジーニアシズのCEOニコール・ラポワンティ・ジェームソン氏は、同社のHPEとの最近の契約を「eスポーツ界最大のデータパートナーシップ」と表現した(具体的な契約額は明かされていない)。

「私が2019年にEGに加わったときのパートナーシップはすべて、競技そのものや競技の最適化にフォーカスしていた。現在、バッグメーカーのトゥミ(TUMI)のようなパートナーは、ゲーマーのライフスタイルをサポートするために私たちと協力しようとしているし、ウォッカブランドのアブソルート(Absolut)は、私たちのコミュニティにおいてLGBTQコミュニティをサポートするキャンペーンを展開している」とジェームソン氏は語る。「すべてのeスポーツ組織がそのように成長しているわけではないが、パートナーが関与したい場所と方法がより多様化していると思う」。

ゲームは不況に強い領域

経済不況の影響が危惧されているものの、非ゲーミング分野のブランドがより広い意味での「eスポーツ」業界に再参入するなか、ブランドパートナーシップの未来は有望に見える。

専門家たちによると、伝統的なスポーツビジネスはほかの業界よりも不況に強いと考えられてきたという。2008年の不況のような経済的な不況の間も、MLBやNFLの入場者数は好調を維持していた。2022年のeスポーツが置かれた状況は2008年とはまったく異なるものだが、団体のオーナーやリーダーたちは、不況を跳ね除ける同じ力が働いていることを期待している。別の言い方をすれば、eスポーツの組織は時宜にかなった前進を遂げているのかもしれない。

G2 Eスポーツ(G2 Esports)のイリーナ・シェイムズCROは、「ファンダムがあれば、パートナーは私たちに群がるだろう。なぜなら、ブランドにとっては、マーケティングメッセージに対してもっともオープンな時間と場所でオーディエンスにリーチすることが重要だからだ」と話した。

「プリングルズ(Pringles)であれレッドブル(Red Bull)であれ何であれ、彼らが私たちと提携しているのは、彼らがこのエコシステムの一部であることを知っているからだ。ファンはブランドが自分のお気に入りの分野をサポートすることにとても興奮している」。

多くの人が推測するように、不況が起こるのが今年であろうと2023年であろうと、ブランドはゲームとeスポーツに対して強気になっている。業界の仕組みに対する彼らの理解の高まったことも、その熱意を削ぐことにはなっていない。ペプシのマスカーリ氏は「われわれはまだ全力で前進している」と語った。「私たちは今でもゲームこそが主要な情熱のポイントであり、消費者に価値を提供し、付加するための素晴らしい方法であると考えている」。

[原文:Despite mounting recession fears, esports brand partnerships are on the upswing

Alexander Lee(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)

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