プロバイオティクス 市場拡大も一時的な流行に過ぎないのか?【ビューティー&ウェルネス ブリーフィング】

DIGIDAY

米国ではトレンドや流行が大いにもてはやされるが、それが特に顕著なのがダイエットとビューティの分野だ。

特にダイエットの場合、最終的にはあまりにも単純化されていたり、単に間違っていたりするような特定の栄養学的理論が、10年周期くらいで世間を席巻している。1980年代と1990年代には低脂肪・無脂肪食品が圧倒的人気を誇っていたが、いまでは一部の脂肪は体に良いことが栄養学的にわかっている。2000年代初頭には高脂肪食を推奨しながら炭水化物を悪者扱いするアトキンスダイエットが登場した。2010年代になると、体重管理に一般的な健康管理も加わったパレオ、ケトジェニック、ホール30などのダイエットが登場し、細分化が進んだ。そしていま、2020年代に入って注目されているのが腸内バランスで、その話題と原理の中心にあるのがプロバイオティクスだ。

プロバイオティクス市場が拡がる理由

「腸の健康」への注目でほかと異なるのは、それが「ホリスティックヘルス」、特に「美の健康」という考えと極めて相性が良い点だ。ヒトの腸とそこに生息する何兆個もの微生物から成るマイクロバイオーム(微生物叢)については完全に解明はされていないが、それが消化だけでなく健康全般において重要な役割を果たし、体重と代謝免疫システム、さらにはメンタルヘルスにさえ影響することは一般常識となっている。プロバイオティクスは腸の健康とマイクロバイオームに直接関係すると考えられ、それがゆえに一般消費者向け商品での人気が高まっている。ユーロモニターインターナショナル(Euromonitor International)の2021年のレポートによると、プロバイオティクス市場は全体で480億ドル(約6兆2400億円)を超える。胃腸の問題や免疫のサポートとプロバイオティクスとの関連を示す研究や科学的知識に加え、健康増進商品に対する一般的な需要の高まりもあって、プロバイオティクス市場は2020年から2021年のあいだに世界全体で8%拡大しているという。

マイクロバイオームが話題の中心へ

プロバイオティクスが腸のマイクロバイオームで果たす役割に関する知識が増えるに伴い、それは髪や肌の健康、口腔衛生に関係するマイクロバイオームの話題の中心に躍り出るようになった。ドランクエレファント(Drunk Elephant)、コレス(Korres)、バイオサンス(Biossance)、ドクターバーバラシュトルム(Dr. Barbara Sturm)、トゥラスキンケア(Tula Skincare)などのスキンケアブランドはどれも、スキンケア商品にプロバイオティクスを何らかのかたちで使用する。一部のブランドでは、肌に塗るスキンケアに加えてプロバイオティクスの経口カプセルも売り出し、体の内外から働きかける総合的なビューティルーティーンを提供している。

トゥラスキンケアを創業した、消化器専門医で本も執筆しているロシニ・ラジ博士は「トゥラが設立された2014年当時、プロバイオティクス抽出物がスキンケアにおいて画期的であることはわかっていたが、このコンセプトを取り上げている学者やブランドはあまりなかった」と語る。「その後、プロバイオティクスを使用するスキンケアと、ブロバイオティクスやマイクロバイオーム関連の研究に対する関心が飛躍的に伸びた。現在ではほぼ毎月、肌関連のマイクロバイオームの会議が開催されている」。

プロバイオティクスはまだ初期段階

栄養企業のメソドロジー(Methodology)の最高医療責任者を務める消化器専門医のウィル・ブルシェビッチ博士は、プロバイオティクスに対する関心が爆発的に高まったのは、医療分野においてリボ核酸を使用した科学的なブレイクスルーがあったからだと説明する。2006年以前は、細菌、微生物、菌類の観測で主に使用される培養皿でプロバイオティクスを培養することができず、研究が難しかったという。ブルシェビッチ博士の仕事は、コンブチャやキムチといった発酵食品など、プロバイオティクスが自然に存在する、食物繊維が豊富に含まれる食事や種類の豊富な食事を奨励することが中心だ。

プロバイオティクススナックバーのブランドであるベリウェリ(BelliWelli)の共同創業者のケイティ・ウィルソン氏は「『腸の健康に良い』『腸にやさしい』などの表現は使い古されてしまって消費者にはもう響かない」と話す。「腸の健康をうたうブランドを築いていく上で難しいのは、いかに『腸の健康』という言葉を使わずに腸の健康を訴えるかで、それがとてもうまくできるのがプロバイオティクスだ」。

ベリウェリは2021年3月に創業し、現在はスプラウツファーマーズマーケット (Sprouts Farmers Market)、ブリストルファームズ(Bristol Farms)、ハーモンズ(Harmons)などの地域チェーンで販売を行っている。また、どこであるかは公開されていないが、9月には全国チェーンを展開する小売企業でも扱いが開始される予定だ。顧客の大半は女性で、幅広い年齢層にわたる。ベリウェリの製品にはバチルスコアグランスGBI 30-6086というプロバイオティクス株が含まれる。ウィルソン氏によれば、小売売上の伸びにはOOH広告のビルボードが効果を挙げているそうだ。ビルボードには「ホットガールは過敏性腸症候群持ち」と書かれているが、これは急速に話題を集めソーシャルメディアでバズフレーズとなっている「ホットガール」に絡めたTikTok投稿に由来する。ソーシャルメディアで見られる他の「ホットガール」のジョークには、アトピー、腰痛、心の病など、「ホット」ではない悩みが連なる。

「プロバイオティクスが姿を消すことはないだろう。真に革新的なものだが、いまは極めて初期の段階にあるのだと思う。だが、これからは学んだことを応用して健康向上に実際に役立てていく段階に入っていく」とブルシェビッチ博士はいう。「問題は、サプリメントだけでは悪い食事を帳消しにできないことだ」。

一時的な流行になる可能性も

プロバイオティクスが一時的な流行で終わる方向へと進むとしたら、それは効果や科学的な裏付けがないからではなく、消費者側の誤った使用やブランド側の効用の誇張が原因だ。誰もがプロバイオティクス商品を摂取、使用する必要があるわけではない。特に必要もないのに摂取した場合、効果が見られない可能性がある。となると、いずれはプロバイオティクス商品を購入したり、マイクロバイオームの健康や美容にお金をかけたりすることにも熱が冷めてしまうだろう。ブランド側も、あらゆる肌トラブルに対する万能薬としてプロバイオティクスやそのマイクロバイオームに対する効用を宣伝する表現を厳しく見直す必要がある。TikTokの#ProbioticSkincareを単純にスクロールするだけで、5000万回を超える視聴が示され、吹き出物治療やアトピーのコントロールをはじめとする肌トラブルにプロバイオティクスがいかに役に立ったかを語る、美容系の投稿やスキンケアのプロによる投稿が見られる。結局のところ、ニキビやアトピーといった肌の悩みは単にマイクロバイオームの乱れだけに起因するものではなく、症状の継続や突然の発疹にはさまざまな原因が考えられるし、ビューティ商品におけるプロバイオティクスやプロバイオティクス抽出物の有効性についてはこれまでにも疑問が呈されている

「我々消費者は、誇大広告と真実とを見分けられなければならない。企業は常に大げさに見せては買ってもらおうと全力でがんばるものだ」とブルシェビッチ博士はいう。「消費者に対する私のアドバイスは、プロバイオティクスがどのような効果をもたらすのか、何を期待しているのかを自分自身に問いかけること。その問いに対する答えがなければならない。単に全般的に健康にいいから、というだけでなく、結果が計測できる必要がある」。

加えて、健康な人の腸管内ではプロバイオティクスの摂取によって細菌バランスが崩れてしまい、マイクロバイオームの多様性がかえって失われることにつながりかねないことを示す証拠も新たに出てきている栄養学は複雑で難しく、万人が同じというわけにはいかないのだ。

プレバイオティクスとポストバイオティクスが台頭

「科学の進歩は続くだろう。だが、そのペースは遅い。一方のマーケットトレンドは激しく波打ってどこにどう転がるかはわからない」とブルシェビッチ博士は話す。

最近のマーケットトレンドに、日々摂取するサプリにプレバイオティクスとポストバイオティクスを追加し、プロバイオティクスを挟んだサンドイッチ効果を狙う、というものがある。基本的に、プレバイオティクスとはプロバイオティクスとマイクロバイオームの成長と活動を活発にする食品成分で、ポストバイオティクスとは体がプレバイオティクスとプロバイオティクスの両方を消化したあとに残る代謝物である。健康なポストバイオティクスにはビタミンBとビタミンK、アミノ酸などの栄養素が含まれる。プレバイオティクスとポストバイオティクスは、ザ・ニュウコー(The Nue Co.)、ハムニュートリション(Hum Nutrition)、ミュラド(Murad)などのブランドで販売されている。シャワー前・シャワー後用の商品のように、既存の習慣を新しい習慣で挟むことでカテゴリーを拡大して売上増大を図る手法は、美容の世界ではすでに確立されたものだ。

その一方で、ウィルソン氏は常温保存可能な食品でプロバイオティクスが増えていくと考えている。現在は、常温でプロバイオティクスが長期間生存を続けることが難しいことと、常温保存食品の多くが製造時にオーブンその他の方法で加熱調理されてプロバイオティクス成分が死んでしまうため、その数は極めて少ない。ラジ氏は、何兆種もの微生物やプロバイオティクス株があることを考えると、よりパーソナライズされた商品が登場し、消費者の関心とより効果の高い商品の新たな波が起きる可能性があると予想する。

「パーソナライズされたプロバイオティクスやカスタマイズされたサプリメントに関してはまだ研究が必要だが、将来的にはこの分野でも有効な商品が出てくるものと考えている」とラジ氏は話す。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: Are probiotics a fad?

(翻訳:SI Japan、編集:山岸祐加子)

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