暗号決済 をローンチするために必要なこと 。そしてブランドがまだそれを「必須」と考える理由

DIGIDAY

暗号通貨は混乱期にあるかもしれないが、ラグジュアリーメゾンのグッチ(Gucci)、ライフスタイルブランドのパクサン(Pacsun)、そしてeテイラーのファーフェッチ(Farfetch)などファッションブランドや小売業者は、複雑な手順に従って暗号通貨による支払いを受け入れるという姿勢をやめていない。

実際にそうしたことを経験しているブランドのエグゼクティブによれば、適切なプロバイダー探しから変動リスクへの対応まで、このトレンドに飛びつく前に検討することがたくさんあるという。だが、最終的にはそれだけの価値があるという点で、多くの人の意見が一致している。

Z世代の顧客とつながるための暗号の導入

よい点としては、暗号の導入によって、小売業者は若くてトレンドに敏感な買い物客のデモグラフィックにアクセスできるようになり、特別な体験を作り出すことに役立っている。そう話すのは、最近ファーフェッチと契約を結んだグローバル暗号通貨プラットフォームのルヌ(Lunu)のパートナーでチーフマーケティングオフィサーのヴァディム・グリゴリアン氏だ。「似たようなブランドが暗号決済を提供するなら、いつでもブランドを乗り換えるという人もいる」と彼は言う。

カリフォルニアに拠点を置くライフスタイルブランドのパクサンは、Z世代の顧客とつながることを意図して昨年10月にWeb3通貨の受け入れを開始した最初の大手小売業者の一社だ。その過程では、さまざまな小売業者の暗号チェックアウトオプションをテストして実際的な経験を積むといったマーケットリサーチを行っている。「カスタマーエクスペリエンスを理解し、人々が行っていることから多くを学ぼうとした」と、パクサンのチーフインフォメーションオフィサーであるシャーリー・ガオ氏は述べている。

外部プロバイダーと提携するハンズオフ方式

暗号通貨の受け入れを検討している企業に向けて作成された2021年の報告書でデロイト(Deloitte)が指摘しているように、暗号決済を可能にする方法には、ハンズオンとハンズオフの2種類がある。暗号通貨の利用を事業全体に拡大することを目指す技術に詳しい企業が、あらゆることを自社で行うことを選択する一方で、ほとんどのファッション企業は、暗号による取引を促進するためにルヌやビットペイ(BitPay)といった外部の決済プロバイダーと提携するハンズオフ・アプローチを選択している。

パクサンがハンズオフ方式を選択した理由について、ガオ氏は「ファッション小売企業として、すばやく成功したかったし、顧客に利便性を提供したかった。エンゲージメントを求めていた」と強調した。パクサンは、プロセスの簡素化と財務リスクの軽減のため暗号プラットフォームのビットペイと提携している。「すぐに作動したので、こちらでデジタルウォレットを用意する必要もなかったし、あらゆるコンプライアンスや法的な承認を得る必要もなかった」。

企業はやりたくなければ、どの時点でも暗号を直接扱う必要はない。「企業は暗号ウォレットを持つ必要すらない。VisaやMasterCard、そのほかの決済プロバイダーとやっているように、(プロバイダーに)登録すればいいだけだ」とグリゴリアン氏は述べている。

決済ゲートウェイは、小売業者の実店舗やオンラインストアのPOS(集計システム)」に統合することができ、プロバイダーが最初から最後まで取引を担当する。「この統合はスムーズで、(決済の)プロセスに混乱はない」とルヌのグリゴリアン氏は説明した。決済プロバイダーは小売業者に代わって顧客から暗号通貨を受け取り、取引時の為替レートで不換紙幣に交換した後、小売業者に現地通貨で支払を送金する。このプロセスは通常のクレジットカードの取引と同じように機能するもので、わずか3秒しかかからない。

適切なプロバイダーを見つけることとコスト面が課題

パクサンのガオ氏によると、暗号決済を採用する際にもっとも困難なのは適切なプロバイダーを見つけることだ。彼女はプロバイダー6社をリストアップし、2週間かけて評価した結果、最終的にビットペイに決定した。検討する際に彼女が重視したのは、パートナーの安定性と持続性、指示のもとで容易な操作とエンゲージメントサポートが得られること、そして技術チームの質の3点である。「あらゆる法的な面やその他すべてが整っていて、すでに面倒な部分が済んでいる適切なパートナーが見つかりさえすれば、あとは接続してテストを行うだけで、うまくいった」とガオ氏は述べた。

デジタル通貨を受け入れようと決断してから、それを稼働させるまでには数週間かかる。パクサンの場合は、8週間弱を要した。そして費用もさまざまだ。最近の報告によると、ほとんどの小売業者は暗号決済を可能にするのに100万ドル(約1億3380万円)以上を費やしている。

だがグリゴリアン氏によれば、「ほとんどの場合、(小売業者の)チームの時間ということに関しては、ほんのわずかな投資で済む」という。

さらに彼はこう述べた。「オンライン(ストア)の場合であれば、コストとなるのは時間だけだ。おそらく(小売業者の)法務チームによる数時間の作業と、技術チームによる数時間の作業となるだろう。オフラインの場合なら、(決済用の)端末に対する支払いも必要になる」。

パクサンの投資について、ガオ氏は詳細について言及しなかったものの「これは別の決済手段なので、実際にはあまりコストはかからない」と述べた。「(コストは)どのようなビジネスアプローチや技術的ソリューションの導入を選択するかによる」。

ベルリンを拠点とする決済プロバイダーのルヌは、店舗内端末とオンライン決済用ウィジェットで、オムニチャネル暗号化ソリューションを提供している。ルヌによると、当初はほとんどの小売業クライアントがオンラインのみでの暗号決済を行いたいとしていたが、現在では、オフラインとの統合に興味を持つファッションブランドが増えているという。オンラインかオフラインかを問わず、小売業者が支払う手数料は各取引の1%で、これは多くのクレジットカード会社の取り分よりも少ない。

小売にとって暗号通過での支払いのリスクは?

パクサンは現在、ビットコイン、イーサリアム、ドージコイン(Dogecoin)など11種類の暗号通貨や複数の異なる暗号ウォレットを受け入れている。グリゴリアン氏によると、売上の90~95%はたった2種のコインで行われている。すなわちビットコインとイーサリアムだ。

暗号通貨は常に変動しており、最近では史上最大の下落を経験した。主要なWeb3通貨であるビットコインとイーサリアムの価格は最近になって再び上昇しているが、暗号通貨の価値は2021年11月の史上最高値から合計で約70%も下落している。インフレーションの上昇と予測不可能なボラティリティを考えると、暗号への投資はリスクが高いといえる。

しかし販売会社にとっては、決済プロバイダーと連携する際には、財務的なリスクは低いままだ。「小売業者は暗号を扱わないので、つまりは変動にさらされることはない。購入の瞬間に暗号から不換紙幣へ自動的に両替されるからだ」とグリゴリアン氏は説明した。要するに、変動リスクは顧客が負うということだ。

リターンの場合、顧客は為替レートの状況によって、より少ない金額かより多くの金額を受け取ることになる。「ブランドとして顧客のことを深く考えているので、評価期間に社内ではそのことを徹底的に話し合った」とパクサンのガオ氏は述べた。

だが、この分野で投資を行っている顧客は、自分たちがリスクを負っていることをよく理解している。「保証がないのが面白い部分なので、そうした人々は気にせず、この一般的なプロセスを受け入れている」と彼女は言う。

暗号通貨の受け入れは将来的に必須

いまのところ、デジタル通貨で買い物したいと思っている人々のコミュニティは非常に小さい。2021年に米国で暗号通貨を利用している成人の大半は、投資目的のために行っていた。米国連邦準備理事会の調査によると、前年中に購入や支払いのために暗号を使用したと回答した人はわずか2%しかいなかった。パクサンにとって、暗号で支払う買い物客の数は、現在は一般客のごく一部にすぎない。その詳細については同社は言及を避けている。

しかしながら、その数は徐々に増えており、将来の決済はデジタルになるという点では専門家も意見が一致している。「ブランドは(暗号を)理解し、受け入れ、扱いに慣れる必要がある」とグリゴリアン氏は言う。「我々はまだこの技術の発展の始まりに立っているにすぎない。売買の方法だけでなく、情報の記録や保存、権利の保護の方法を大きく変えることになるだろう」。

「すべての最高情報責任者が、暗号通貨の受け入れは必ずやらなければならないことだという点で合意している。ただそれをいつできるか、というだけの問題なのだ」とガオ氏も述べた。

[原文:What it takes to launch crypto payments — and why brands still consider it ‘a must’]

LARA GROBOSCH(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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