トルコ がいま、モバイルゲームの「シリコンバレー」に:ハイパーカジュアルゲームが量産される理由

DIGIDAY

モバイルゲームの利用が過去最高に達するなか、カジュアルゲーム分野の開発におけるリーダーとしてトルコが浮上している。

パンデミックの最中、モバイルゲームの人気は爆発的に高まり、何百万人ものユーザーが「ハイパーカジュアルゲーム」(キャンディ・クラッシュ[Candy Crush]のようなゲーム)に目を向け、何カ月にもわたるロックダウンと在宅勤務で生まれた時間を費やしている。このようなモバイルゲーマーの流入は、業界での活発な活動につながっており、最近ではテイクツー・インタラクティブ(Take-Two Interactive)が1月始めにソーシャルゲーム・デベロッパーのジンガ(Zynga)を127億ドル(約1.4兆円)で買収した。

モバイルはもっとも急速に成長しているゲームプラットフォームだ。ニューズー(Newzoo)の2021年度グローバル・モバイル・ゲーマーズ白書(2021 Global Mobile Gamers Whitepaper)によると、2021年のモバイルゲーム業界の売上は932億ドル(約11兆円)で、前年比7.3%増だった。2021年、モバイルゲームは世界のゲーム売上の52%を占めた。2019年から2024年にかけて、専門家はモバイルゲームの収益が年複合成長率11.2%で成長すると予測している。

テイクツーに買収される前、ジンガも数年前から買収を繰り返していたため、その結果、現在テイクツー傘下として小規模なモバイルディベロッパーが大量に抱えられている。これらの小規模なディベロッパーの多くはイスタンブールに拠点を置いている。そのことが、国際的なゲームのムーブメントをトルコにもたらした。ニューズーのアナリストによると、ジンガは過去4年間にトルコを拠点とする5つの開発スタジオを買収しており、そのなかにはトルコの大手開発スタジオであるピーク(Peak)やロリック(Rollic)も含まれているが、テイクツーによる買収がこれらの企業に影響を与える可能性は低いという。

モバイルファーストのゲーム業界

2017年以来、トルコのモバイルゲーム企業は数十億ドル(数千億円)の資金と投資を獲得しており、特に2020年6月にジンガがピークを18億ドル(約2074億円)で買収したことは注目に値する。これらの成功は、ほかのトルコ企業がこの分野に参入するきっかけとなり、イスタンブールでモバイルゲーム開発の洪水を引き起こした。「これは市場にとって朗報だ。(ゲーム開発企業が)成功していることを人々が見れば、自分も同じことをして成功することができる、と分かるだろう」と、モバイルマーケティング分析プラットフォームであるアドジャスト(Adjust)の中東・北アフリカ営業部門責任者であるオザン・シスマン氏は述べた。「これがトルコのゲーム業界が非常に重要である理由のひとつだ」。

トルコのゲーム業界はモバイルファーストとなっている。トルコのゲーム開発者のなかで、メジャーなゲーム機のタイトルにフォーカスしている企業はほとんどない。ゲームの微調整に何年も費やすことができるゲーム機用のゲーム開発とは異なり、モバイルゲーム開発は、どれかひとつが人気を得るまで多数のモバイルゲームを量産するスプレー&プレイ戦略に従うことができる。

「制作が簡単だ。ここトルコのゲームスタジオたちの構想は、年間10から15のゲームを生産し、そのうち
ひとつかふたつがヒットすることを願う、というものだ」と同氏は述べた。この戦略の結果、ピークのトゥーンブラスト(Toon Blast)のような人気のモバイルゲームが開発された。トゥーンブラストは、米国のiOSゲームの売り上げトップ5のひとつで、プレイヤーはグリッド内の色付きブロックをマッチングして得点を得るというものだ。

このモバイルファーストのアプローチはトルコ国内でも効果を発揮しており、ゲーミング・イン・トルコ(Gaming In Turkey)の2020年度トルコゲーム市場レポート(2020 Turkey Game Market Report)によると、2020年にトルコで消費者がゲームに費やした8億8000万ドル(約1013億円)のうち、およそ半分がモバイルゲームからの売り上げだったという。「それがトルコのゲーム会社が市場を支配している理由のひとつだ」とシスマン氏は言う。

トルコ政府からの支援も後押し

ルーダス・ベンチャーズ(Ludus Ventures)のようなゲームに特化したトルコのベンチャーキャピタル企業の出現は、イスタンブールにおけるモバイルゲーム産業拡大がもたらした影響のひとつだ。もうひとつの影響は、トルコのプログラマーやデザイナーが、遠く離れた国や大陸にいるカジュアルゲーム愛好家のためにゲームを作ることで、彼らの収入や生活水準が上昇していることだ。この勢いは衰えを見せていない。モバイルゲームが成長を続けるなかで、トルコのモバイルゲーム業界の経済力も高まっている。

トルコでのモバイルゲーム開発の成功には世界的な経済的推進力もある。トルコリラの相対的な価値が近年急激に下落しているため、国際的なモバイルゲーム市場から得られるユーロと米ドルは、トルコのゲーム開発企業と彼らが雇用しているトルコ人にとってかつてないほど貴重なものとなっている。「それは彼らにとってビジネスを非常に有益なものにしている」とシスマン氏は述べ、トルコ政府の海外へのゲーム輸出のインセンティブも助けになっていると付け加えた。具体的には、トルコ政府はAppleのApp StoreとGoogle Play Storeで課される手数料を代わりに負担してくれるため、トルコのモバイルゲーム開発企業が国際市場に参入するのがずっと簡単になっている。

トルコには伝統的に街角に、人々が集まってゲームを行う「キラサネス(kıraathanes)」という場所があり、そこでは小さなタイル状の牌を使ったオケイ(okey)と呼ばれるゲームなどが行われる。レスト・オブ・ザ・ワールド(Rest of World)の記事は、トルコのモバイルゲーム産業の興隆を、キラサネスに一因があるとしている。しかしこの分析に同意しない専門家もいる。「(トルコの)ゲームスタジオを設立した人々がもっと注目しているのはアメリカだ。彼らは皆、『どのような種類のゲームを米国市民または先進国の国民に販売できるか』を考えている」とルーダス・ベンチャーズのマネージングパートナーであるイスメット・ゴクセン氏は述べた。「したがって、ローカル市場の消費のトレンドであるため、私は、オケイとモバイルゲームのあいだに強い相関があるとは考えていない」。

実際、トルコのゲーム会社は、オケイのような国内で人気のあるゲームに焦点を当てるのではなく、国際市場への跳躍台として彼らの成功を利用している。トルコへの投資の成功に支えられて、ルーダスはシンガポール、フィンランド、さらには米国にあるゲーム開発企業への資金提供を開始した。2020年10月にジンガに買収されて以来、ロリックによるゲーム7本が米国のiOS App Storeで1位または2位になった。トルコ・リラの価値は横ばいになっているようだが、米ドルの相対的な強さがこの実入りのいいビジネスを長引かせる可能性は高い。

[原文:Why Turkey is becoming the Silicon Valley of mobile gaming

ALEXANDER LEE(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU

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