VC創業者でTVスターのロブ・ディアデック氏が語るブランド支援:自身の資金を投入し、ともに「死の谷」を乗り越えるまで

DIGIDAY

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スケートボードのスターであるロブ・ディアデック氏は、わずか18歳で最初の企業を設立した。同氏がスケートの世界に人脈を持っていたことが、トラックのブランドの立ち上げに結び付いた。トラックとは、スケートボードの車輪を支えるアクセルのようなものである。同氏はロゴを自分で描き、エイリアンの陰謀論を読んだことをきっかけに、会社にオリオン(Orion)という名前を付けた。

それから30年後、かつてのMTVリアリティショーのスターである同氏は、少なくとも5つのブランドを、同氏のベンチャー企業のディアデックマシン(Dyrdek Machine)から合計4億5000万ドル(約612億円)でエグジットするため支援した。

ディアデックマシンは2016年に、「ベンチャーキャピタルスタジオ」として創設され、CGPスナック、フィルタ付きシャワーヘッド、プレミアム価格のフットウェアなど、多種多様なブランドを手がけてきた。このモデルは資本注入を行った(同社はこれまで、18のブランドをサポートするために合計3000万ドル[約40億8000万円]を出資してきた)だけでなく、創業者への事業戦略支援も行ってきた。ディアデック氏は自分の資金を投資ラウンドに注入するだけでなく、実質的な共同創業者として、構想段階から、立ち上げ、そして「死の谷」と呼ばれる段階を超えて、地位を固めるまで、企業と直接面談し、共同で作業してきた。

同氏は7月、米モダンリテールのインタビューに応じ、どのような新興企業が同氏の目を引くのか、顧客の獲得チャネルを知ることが初期の成長の鍵である理由、そして初期投資のコストが上昇しているいま、ディアデックマシンの新興企業のいくつかに数百万ドルもの自己資金を投入する理由について語った。以下の対談内容は簡素さと明瞭さを考慮し、編集を加えたものである。

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――どのような種類の商品や部門にもっとも関与したいと考えているか?

特定の商品へのこだわりはない。肝心なのは市場の未開拓分野を見つけることだ。そして、未開拓分野は、非常に多種多様かつ独自の形で存在する。

当社はコンフォートフットウェアのブランドのルッソ(Lusso)を保有している。アグリーでコンフォータブルなフットウェアの大手3社といえば、クロックス(Crocs)、アグ(Uggs)、ビルケンシュトック(Birkenstocks)だろう。なんとこの3社だけで売上は実に36億ドル(約4900億円)にのぼる。そこで我々は、同じ種類の外観、つまり丸っこいアグリーシューズでプレミアムな商品はないことに気がついた。そこで、コンフォートシューズのプレミアム版ともいえるルッソクラウド(Lusso Cloud)を立ち上げ、フットウェア分野に参入した。

当社が最近立ち上げたもうひとつの大きなブランドに、ジョリースキン・コーポレーション(Jolie Skin Co)がある。我々は、500億ドル(約6兆8000億円)規模のスキンケアやヘアケアの市場において、そもそも美容ルーティンのために使う水がどれほど汚れているかをなぜ考慮しないのか、不思議に思っていた。フィルタ付きのシャワーヘッドでさえ比較的小さな市場で、時価総額が10億ドル(約1360億円)にすぎないのは驚くべきことだ。そして、これは「単に、水をフィルタリングする手間をかけたくない人が多いのでは」とも思えたので、リスクもあった。しかし、当社が会社を立ち上げたとき、サイトに郵便番号を入力すれば、その地域の水に含まれている汚染物質が表示され、それらの汚染物質が肌や髪にどのような作用を引き起こすか、そしてフィルターによってそれをどう軽減または排除できるかを確認できるシステムを作り上げた。そして当社は、この商品で市場を開拓した。

この分野は本当に未開拓で、規模が非常に小さく、その分野には消費者はいないと思わせられるという意味で危険だった。そして、これは、「いや、これは実際に消費者と結び付いていた。彼らは単に、そのことを考えたことがないだけだった」というケースだった。

――一緒に仕事をする価値のある創業者やアイデアは、どのように決定するのか?

当社は、企業のエンジンがどのように結合され、連係動作するのかについて一般的な知識を持っている創業者を見つけようと試みる。企業の管理と構築を行った経験があり、それらに接触ポイントを保有している人物を探す。したがって、はじめて起業を行う人物を育てるわけではない。これは、起業家としての技術を習得するのは厳しい道であるためだ。もっとも、ときにははじめて起業を行う人物を選ぶこともある。実際のところ、経験を積んだ起業家の最高の事業を探しているといってもいい。その起業家は、自分のすべての経験から、そのアイデアを作り上げるに至ったということだ。

――あなたは以前のインタビューで、新興企業が直面する「死の谷」のことに言及した。これがあなたにとってどのような意味を持ち、そしてあなたとディアデックマシンはその過程において新興企業をどのように導くのかを聞かせてほしい。

「死の谷」に関する最大の試練と苦難は、D2Cブランドを立ち上げようと誰もが考えるということだ。起業家は立ち上げを行うが、顧客の獲得とコンバージョンをどのように行うかを思いつかない。コンサルタントを雇うと、このブランドやあのブランドをどのように成長させたかを話してくれる。起業家はその方法を試みるが、それはうまく働かない。そうすると、「では、小売を試みるべきなのか?」ということになるのだ。

当社は、ビジネスの全体を常にオムニチャネル戦略として考える。最初に行くべき場所はどこか、商品に適切な市場はどこで見つかるのか? といったことだ。なぜなら、デジタルネイティブで、顧客獲得や顧客維持に適したビジネスを考えることは、小売店で見つかるような種類の商品とは完全に異なる種類の商品だからだ。スーパーフードを原料とするスナックバーのマインドライト(Mindright)のような商品は小売店のほうがよく売れる。ルッソのようなブランドはオムニチャネルレベルのほうが、両方の面でコンバージョンできるため、より効果的だ。

ジョリーとフィルタ付きのシャワーヘッドは、圧倒的にD2Cのほうが適している。これは顧客の生涯価値が非常に大きいためだ。シャワーヘッド本体を販売したあとでも、顧客はフィルターを3カ月ごとにサブスクリプションで購入することになる。そして、このビジネスが特別で興味深いのは、顧客にシャワーヘッドを取り付けさせるのは大変なことだが、外させるのはさらに大変だということだ。このビジネスでは、サブスクリプションビジネスで見たことがないほど解約が少ないのだ。

――インフレが激しく、投資のコストが上昇している現在、創業者と投資家が直面している最大の課題は何か?

若い企業の基礎が堅牢なものでなく、サステナビリティや持続的な成長への道筋が明確でない場合、資金調達は非常に難しくなるだろう。「投資するから、うまくいくか試してみて」というような人たちから資金を獲得するのは、早期の段階では非常に厳しくなるだろう。そして、より大きな段階では、以前のように転換を続けるための資金がなくなるのだ。

インフレと、それが消費者の支出や企業の位置に及ぼす影響については、極めて不透明な状況だ。サプライチェーンの問題や商品のコストの問題など、商品の価格に影響を与えるさまざまな要素があり、そして消費者に対して適切な価格で価値を生み出すために、価格調整を行うべきかといった問題を考慮する必要がある。現在のところ、これは不明瞭な部分で、見極めることが困難な提案だ。そこで、原則に立ち返ることにする。すなわち、適切なアイデアがあり、適切な消費者に向けた適切な経済は、決して悪い結果にならない。

――このような状況のなか、創業者は、ほかにどのような資金調達の方法を考えているのか?

持続可能で収益性の高いビジネスを構築し、事業拡大のために支出を自由にコントロールできるのであれば、それは、非常にイノベーティブで100億ドル(約1兆3600億円)の市場機会を持つようなタイプを除き、実際に利益を得られる唯一の場所となるだろう。私は、大規模なディスラプター向けの大きな資金がそこに集まると考える。実際には、より初期投資を必要とし、事業拡大の規模が小さいCPG製品や原料が、このような状況下で資金を調達するのに苦闘するだろう。

私の保有する企業はグレーゾーンの会社が多いので、今回のラウンドで資金調達を行う代わりに、すべて私が資金を供給した。私はルッソに500万ドル(約6億8000万円)出資し、スーパーフードを原料とするスナックバービジネスのマインドライトには、このラウンドで100万ドル(約1億3600万円)、黒人所有の美容品ブランドのデオンリーブラ(Deon Libra)と当社のストレスケアラインにも100万ドルを出資した。これらはすべて、持続可能で明確、利益性の高いゾーンに入るための資金であり、状況がさらに困難になるであろう来年に、成長資金を簡単に調達できるようにするための戦略だ。

この状況下では、すべての事業を、再度市場に出す前に、収益性と持続性へとまっすぐ進む軌道に、確実に乗せることを選ぶ。この状況で市場に出しても、時間とエネルギーを無駄にするだけだろう。それよりもこの時点では、このコアグループとポートフォリオに対して、自分で出資を行うことを選ぶ。これらは長期的な可能性と成長のために不可欠であることを私は熟知しているからだ。

[原文:How Rob Dyrdek sherpas founders through big ideas and the business journey]

Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Azione

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