美容業界は、ステータスシンボルとしての「バスルームの洗面台」に賭けている。
TikTokでラグジュアリーなハンドソープのレビュー動画や、デート相手のバスルーム用品を評価する女子の動画がトレンドになるなか、ハンドケアとボディケアが手の届きやすい最新のラグジュアリーカテゴリーとして浮上し、美容企業の関心を集めている。4月には、ロレアルグループ(L’Oréal Group)が、ボディケアとスキンケアブランドのイソップ(Aesop)を企業価値25億ドル(約3486億円)で買収する契約を締結したと発表、このカテゴリーに大きな賭けに出た最新の企業となった。
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「一般的にボディケアには、つけたままにするカテゴリーと洗い流すカテゴリーがあり、どちらもここ数年、消費者が身体全体の健康状態を重視するようになったことで、ブランドのポートフォリオにとってさらに重要となっている」と述べたのは、ミンテル(Mintel)のビューティ&パーソナルケア・シニアアナリスト、カーソン・キッツミラー氏だ。IRIと米国国勢調査局からミンテルがまとめたデータによると、2022年の米国のボディソープの小売売上高は推定6%増の42億ドル(約5856億円)、ボディケアは4%増の36億ドル(約5020億円)となっている。
ハンドソープはバスルームに飾るアート
TikTokは、バスルーム用品を自己表現とする考え方への関心を高めることに貢献している。ある人気のトレンドでは、女の子たちがデート相手のバスルームに忍び込み、ハンドソープ、シャンプー、ボディソープ、スキンケアの品質を評価し、そのブランドのチョイスが相手の何を物語っているのかについてコメントしている。@alenashopsによるもっとも人気の動画のひとつは、マレー・ヒル近くに住む投資銀行家のデート相手のバスルームに置かれたセタフィル(Cetaphil)、OGX、ヘッド&ショルダー(Head & Shoulders)の製品を披露し、500万ビュー以上と67万件の「いいね!」を獲得した。
バスルームで発見される究極のハンドソープブランドは、イソップだ。そう動画で指摘したのは、コメディTikTokerのパシャ・グロズドフ氏で、バスルームを格付けする彼のパロディ動画では、デート相手のハンドソープが「本物の」イソップなのか、それともデュープを詰め替えたボトルなのかを評価する姿を彼自身が演じている。
TikTokではイソップへの熱狂が拡大中だ。同ブランドのカルト的なハンドウォッシュ「レザレクション(Resurrection)」といちばん近い香りで、41ドル(約5720円)も払わなくても見せびらかす用のボトルに詰め替えられるデュープ製品をすすめる動画とともに、ハッシュタグ#aesopdupeは100万ビュー近くを記録している。
キッツミラー氏によると、調査回答者の40%が、自宅に客を招いたときにおしゃれなブランドの製品に交換していることを認めている。
ハンドソープは「テイストや自分自身に対する評価、自分の家やおもてなしに対する価値観を示す」と述べたのは、フレグランスとキャンドルのブランド、ボーイスメルズ(Boy Smells)の共同創業者マシュー・ハーマン氏だ。同ブランドは昨年ハンドソープを発売し、その後すべての在庫を完売した。ハンドソープは「自分のバスルームで輝くささやかな存在となる。バスルームに飾るアートのようなものだ」と同氏は言う。ボーイスメルズのブランディングについて、ハーマン氏は「進化した価値観と包容力がありながら、シックであること」を伝えていると説明した。
「誰かのバスルームにあるすべてのブランドを合わせると、その人のさまざまな側面が実際に描き出される。明らかに、それはひとりの人間の一面を表す肖像画だ」と同氏は述べた。
日常で触れるアイテムは手の届く贅沢品
近年、非常に多くのラグジュアリーのハンドソープやボディケア製品が市場に登場するなか、TikTokerはニッチなブランドを求めて広範囲を探索している。スキンケアインフルエンサーのベン・ネイリー氏(@benneiley、フォロワー数55万7000人)による8万2000以上の「いいね!」を獲得したTikTokの動画では、イソップのハンドソープを「OK」と表現しながらも、ディプティック(Diptyque)、バイレード(Byredo)、マリン・アンド・ゴッツ(Marin + Goetz)、サングレ・デ・フルータ(Sangre de Fruta)のハンドソープをすすめている。
サングレ・デ・フルータの創業者でCEOのアリソン・オードリー・ウェルドン氏は、「家を自分の好みや価値観を反映した聖域にしたいという願望がますます重要になってきているようだ」と話す。同社のカルト的なハンドソープ「ガーデン・オブ・アーシー・デライツ(Garden of Earthly Delights)」は48ドル(約6700円)で販売されており、ハンド、ボディ、バス用品はブランドのトップセラーだ。「自宅のさまざまなタッチポイントで毎日使用するアイテムは、ありふれた作業や必要性から使うものではなく、喜びや快楽の源になり得る。自分で楽しんだり、空間の美しさに貢献したり、ゲストとさりげなく共有したりできる、手の届く贅沢品だ」。
キャンドルやフレグランスの既存顧客に向けた展開
近年、フレグランスレーベルがローンチしたボディケアやハンドケアは、フレグランス専門のコミュニティで関心を集めている。
「香水がトレンドであり、ハンドウォッシュなどのフレグランス周辺の商品もトレンドになっている」とTikTokのクリエイター・マーケティングのグローバルヘッド、クジ・チクンブ氏は言う。チクンブ氏は、20万6000人以上のフォロワーがいるTikTokアカウント@sircandlemanでキャンドルやフレグランスのレビューを行っている。彼のお気に入りのハンドウォッシュは、ホームコート(Homecourt)のシシ(CeCe、32ドル、約4460円)、カウシェッド(Cowshed)のリフレッシュ・サヤスキンケア・ハンドウォッシュ(Refresh Saya Skincare Handwash、40ドル、約5580円)、ラフコ(LAFCO)のフドゥボア・リキッドソープ(Feu de Bois’s Liquid Soap、26ドル、約3620円)だ。「キャンドルを通じて家の中にさまざまな香りがもたらす感覚を一度受け入れた人は、新しい上質な香りを身体にまとってみることに前向きだ。キャンドルは、すばらしいフレグランスの世界への入り口だ」。
キッツミラー氏によると、2022年のミンテルの調査では、ボディケア消費者の購入に影響を与えるものとして、フレグランスが上位に挙げられている。
キャンドルブランドのラフコは、「ここ数年で」ボディケアが平均18%の成長を遂げていると創業者兼CEOのジョン・ブレスラー氏は述べた。
ボーイスメルズのハーマン氏は「新しいカテゴリーで新規顧客を取り込むよりも、既存顧客向けの製品ポートフォリオをさらに深めることが重要だ」として、同ブランドのハンドソープは、既存のキャンドルファンやフレグランスファンにアピールすると語っている。
若い消費者にとって手の届くステータス
コングロマリットが所有するニッチなラグジュアリーフレグランスブランドは、ステータスの象徴であるボディケア製品も扱うべくフランチャイズを拡大している。2022年にプーチ(Puig)が買収したバイレード(Byredo)は、4種類の香りのハンドソープと7種の香りのボディウォッシュを提供している。エスティローダーカンパニーズ(ELC)の最新の財務報告によると、前四半期に「2桁」の成長を遂げたルラボ(Le Labo)は、現在、ひのきのハンドウォッシュが売り切れとなっている。LVMH傘下のファッションブランド、ロエベ(Loewe)は、2021年にハンドソープをローンチした。
メイクアップやフレグランスと同様に、ラグジュアリーボディケアやハンドケアは、若い消費者にとって4000ドル(約55万円)のハンドバッグを買わなくてもステータスを伝えることができる手の届くセグメントだ。フレグランスインフルエンサーの@perfumerism(フォロワー数35万人)のあるTikTokの動画では、エマという名前の大学生が、自分とハウスメイトが大学の荒れた生活空間のためにディオール(Dior)のハンドソープを買う理由は、「本当に人生におけるちょっとしたこと」だからと述べている。
「レベルアップするためのものなのだ」とハーマン氏は言う。「次の自分を表現するために一歩踏み出すか、そう遠くない未来における自分自身の姿にレベルアップする」。
「高級なボディソープやハンドソープを選ぶことは、セルフケアの印であり、人生の細部にこだわり、上質なものを好むという印である」と、女優コートニー・コックス氏のラグジュアリーホームケアブランド、ホームコートのCEO兼共同創業者のサラ・ヤンケ氏は言う。同ブランドのハンドケア製品は、現在、売上の4分の1を占めている。
ブランド側はどのホテルやレストランに製品が置かれるかを重視
あるハンドソープにカルト的なオーラを作り出すには、ラグジュアリーな香りを強調すると同時に、シックな美学とパッケージングが重要だとキッツミラー氏は指摘した。
さらにビジネスに関していえば、製品から連想されるイメージを重視して、ブランドは製品がどこの洗面台に置かれるのかを慎重に吟味している。ルラボは以前からヒップなレストランに好まれるブランドとして知られているが、イソップはホテルやレストランのパートナー候補をすべて評価していると、2017年に同社のゼネラルマネージャーが語っている。詰め替え可能なボディケアブランド、ユニ(Uni)の創業者兼CEOアレクサンドラ・キーティング氏は、同ブランドは南カリフォルニアのレストラン、グレートホワイト(Great White)やサーフロッジ(Surf Lodge)のほか、アートギャラリーのガゴシアン(Gagosian)と「文化的な関連性」のあるパートナーシップを結び、「顧客が行くあらゆる場所」に存在することに注力してきたと述べた。
ハーマン氏は、現在ボーイスメルズはホスピタリティパートナーの候補と話をしており、いくつかの問いを評価していると述べた。すなわち「これはブランドとして正しいと感じられるか。ブランドとどのような関連性があるか。その店に行くのはどういった客層か。店の客の価値観が当社の価値観と一致していると感じられるか」といった点である。
[原文:Beauty brands battle for the bougie bathroom]
LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)