5月31日から6月2日までフロリダ州ネープルズで開催されたGlossyのファッション&ラグジュアリーサミットでは、業界のリーダーや関係者が、現在直面している大きな課題とそれを克服するために活用している戦術について意見交換を行った。以下では、注目の講演者のひとり、チコズFAS(Chico’s FAS Inc.)のCEO兼プレジデントであるモリー・ランゲンスタイン氏とのセッションにスポットを当てる。チコズ(Chico’s)、ホワイトハウス・ブラックマーケット(White House Black Market)、ソーマ(Soma)を所有する同社は、2022年の純売上高を21億ドル(約2943億円)と報告している。このセッションでは、同社が複数のチャネルでコミュニティを構築する革新的な方法に着目した。
コミュニティを育てること
「ある人が当社のマーケティング部門の社員に連絡してきて、自分の姉妹が(2022年の)ハリケーンですべてを失ってしまったと話した。家財道具を一切無くしてしまったことも悲惨だったが、長年集めていたチコズのジュエリーコレクションを失ったことが一番ショックだったという。そこでチームは思い切った対応をすることにした。本人が好きだったというジュエリーの写真を送ってもらい、こちらでアーカイブを調べて、彼女のためにそのお気に入りのアイテムをすべてそろえた。
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これがコミュニティというものだ。コミュニティとは、人々が互いに親切にして純粋に相手に興味を持つという真の土台の上に築かれるものであり、それ以上にすばらしいものはない。だが、ある種の型破りな対応をしてもOKだとチームに理解してもらうために、リーダーはチームが自発性を発揮できるよう取り組まなくてはならない。
人は本物でないものをすぐに見抜くことができる。その本物を生み出すには、非常に明確なビジョンと目的が必要だ。私たちが作るものは、誰にでも作ることができる。私たちにはすばらしい製品があるものの、差別化を図るのは人であり、人とのつながりである。それは顧客が戻ってくる理由でもある。顧客もチームも互いのことをよく理解している。その自然なビジョンと目的こそがコミュニティを形成する。リーダーとしてそういった点を明確にして、つねに強化していくことが、コミュニティを育み、継続させることにつながる。
意味のある関係を作るために、従業員をエンパワメントする
「大きな問題は、どうやって(従業員に)そうした1対1の関係性を築けるような資金や権限を与えたらよいかということだ。そのためには顧客のケアだけが重要なのではなく、従業員のことも同じようにケアしなくてはならない。あなたが部下と同様の関係を築かないかぎり、向こうもそうした関係を築きたいとは思わないだろう。これはコミュニティの成長を促す上で信じられないほど強力で、非常に重要なことだ。
1万1000人の店員を引きつけておくには、リーダーシップが不可欠だ。数カ月前、私はひとりの紳士から手紙を受け取った。そこには彼の娘が母親へのプレゼントを買うために、たった25ドル(約3500円)を持って私たちの店に来たときの体験が書かれていた。家に帰ってレシートを見たら計算が合わないことに気づいたと彼は書いていた。彼の娘にとってすてきな体験となるように、(ある従業員が)足りない分を代わりに出してくれていたのだ。
私が店長に連絡を取り感謝の言葉を伝えると、彼女は、会社が(病気の)娘の通院や治療に対応できるスケジュールで仕事ができるようにしてくれているので、会社のためなら何でもすると話してくれた。それが、最前線で働く人々に求めている姿だ。正しい決断を下して人々に正しいことができるよう、従業員をエンパワメントすることだ」。
有機的に生まれたカスタマーコミュニティについて
「この市場には、かなりの数の有機的に派生したコミュニティが存在する。そのひとつがホワイトハウス・ブラックマーケットのグループで、自分たちをブレスレット・ギャングと呼んでいる。不動産や銀行関係で働く女性たちのグループで、彼女たちは互いに助け合っている。これは会社とは何の関係もなく、彼女たちがみずから集まって生まれたものだ。たまたまホワイトハウス・ブラックマーケットの服が好きな人たちで、集まるたびにブレスレットを互いにプレゼントし合っている。
もうひとつはチコズのグループで、チコショッパーズと呼ばれている。これもまた会社とは何の関係もなく、3万人規模のFacebookのグループだ。このグループの4つのルールのひとつは、メンバーは親切でなければならず、政治の話は厳禁で、誰かに何かを販売してはいけない、というものだ。したがって家庭で何か問題を抱えている人も、職場で悩みがある人も、チコズでの買い物が大好きという共通点でつながっている。何か嫌なことがあった日に、このグループに参加すると、みんなが元気をくれる」。
コミュニティの活性化のためにテクノロジーを活用
「デジタルへの投資は非常に高価だが、とてつもなく重要だ。次の新しいアイデアや新たなツールがまだ必要なので、とにかく投資を続けなくてはならない。私たちのスタイリングツールであるスタイルコネクト(Style Connect)には370万人の顧客がいるが、3つのブランドを合計するとユニークカスタマーは約800万人だ。こうしたツールを通じてデジタルを成長させる方法を見つけるには、現場の(従業員の)声によく耳を傾け、ビジネスの成長に必要なものを提供しなくてはならない。したがって私たちは販売員や現場の従業員が何に困っているのか、よく話を聞くことに多くの時間を費やしている。
私たちが変えたことのひとつに、ロイヤルティプログラムがある。かなり長い間、ロイヤルティプログラムには約9割の顧客が登録していて、これは非常に高い数字だ。だが、もっともロイヤルティの高い最優良顧客が毎年2万2000ドル(約308万円)をブランドに費やしているということに気づいた。でもそうした顧客にとっての忠誠心やメリットは、年間100ドル(約1万4000円)を使っている顧客と何ら変わりがなかった。そこで、すべての顧客の購買情報を収集して分析するためのデジタルプラットフォームの構築に時間と投資を費やし、昨年、3つのブランドに分かれた階層モデルを作った。
とはいえ、ひとりの人間がすべてのトップカスタマーのための特典を決めることはできない。それは顧客が求めていることでもない。顧客が本当に望んでいるのは、(顔見知りのチコズの店員との)関係性であり、知り合いの店員にパーソナルギフトを決めてもらうことだ。だから今、私たちは(店員に)『(毎回)違うものになるだろうから、顧客にどんなギフトを贈るかはあなたが決めて』と伝えている。顧客はチョコレートがほしいのかもしれないし、夫婦でディナーに行きたいのかもしれない」。
[原文:Chico’s CEO Molly Langenstein on ‘drawing outside the lines’ to build brand community]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)