「なぜチュチュアンナで買うのか? そこに店舗があるから」 : 女性用レッグ&インナーウェアSPAが、いま渋谷に出店する理由

DIGIDAY

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現在、国内で約250の直営店を運営しているチュチュアンナが、新しく渋谷センター街に店舗をローンチする。コロナ禍で小売業のあり方が大きく変化するなか、同社ならではのウィズコロナ戦略が、そこには強く示されている。

女性用レッグウェア・インナーウェアのSPAである同社は、店頭を基軸に10〜20代を主要な顧客にした商品を企画開発してきた。だが、顧客のロイヤル化が進んでいなかったことなどから、顧客セグメントや各顧客層へのデプスインタビュー、それを基にしたペルソナやカスタマージャーニーの設計など、顧客理解を深めるための調査を半年に渡って実施した。現在は、顧客とのタッチポイント拡大を目指して直営店の出店攻勢をかけるとともに、LTVの向上を見据えたクロスユース率アップやロイヤル顧客育成などに取り組んでいる。

4月26日に東京・渋谷にオープンした「チュチュアンナ渋谷センター街店」もこうした戦略的出店の一環であり、同社が推進するOMO(Online Merges with Offline)施策をいち早く導入したり、30代を主対象にしたMDを組むなど、チュチュアンナの最新の取り組みを体感できる店舗になるという。

「なぜチュチュアンナで買うのか? というアンケートをしたところ、そこに店舗があるから、という回答が多かった」と話すのは、同社デジタルマーケティング部マネージャー西岡和也氏だ。西岡氏は、顧客分析調査を行った社内チームの中心メンバーであり、調査結果に基づき顧客のロイヤルティを高めるためのデジタル施策を打ち出してきた。「タッチポイントを増やせば、お客様にチュチュアンナを選んでいただける機会がより増えるという仮説のもと、出店の加速度を上げている。渋谷店も、チュチュアンナの『今』を発信し、新しい『出会い』がある場所にしたい」という西岡氏に、渋谷店オープンのねらいや具体的な取り組み、その背景にある出店・顧客戦略について聞いた。

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――渋谷への出店は3年ぶりだ。オープンの経緯は?

ウィズコロナが本格化するなか、都心回帰の動きが我々の店舗の売り上げにも現れはじめていた。コロナ禍においては郊外への出店に力を入れていたが、都心回帰の兆しをキャッチして、都心への出店を改めて模索していた。また、チュチュアンナでは、「ベーシック&コンテンポラリー」という商品コンセプトのもと、ベーシックなものづくりでお客様に喜んでいただくとともに、季節性やトレンド性があるものを提案してお客様の感動体験や満足度を上げていくというミッションがある。都心への出店を加速していくなかで、そのミッションを体現するにはどの場所がふさわしいかを考えたとき、流行の発信基地であり、以前出店していた渋谷をそのファーストステップとして選んだ。

――なぜ、センター街への出店なのか?

従来の出店スタイルは、客数や客単価が期待できる場所への出店が中心だった。一方、渋谷店は、チュチュアンナの「いま」を伝える広告塔としての役割も担っていく。店舗はセンター街にあり、駅前のスクランブル交差点からも非常に近いため、多くの方にチュチュアンナのことを認知していただく機会になると期待している。

これまで、10代・20代のお客様を想定した出店が多かったが、渋谷店は、30代のお客様も想定している。渋谷は再開発などによってオフィスビルも増え、街全体が「大人の街」になってきている。チュチュアンナの新しいブランドの形を発信する場所としても適切なのではと感じている。

――品揃えや顧客体験などにおいて、渋谷店ならではの特徴は何か。

まず内装に関しては、30代の方の来店も意識し、木目調やモルタルを用いるなど、これまでのチュチュアンナにはない落ち着いたイメージを創出している。2つめが、チュチュアンナの主力であるソックス、インナー、ウェアすべてを取り揃えるということだ。これまで都心店では、手軽に買える靴下を中心に打ち出すことが多かったが、インナーやルームウェアなどもしっかりと訴求する。特にインナーについては、フィッティングルームを4室設置するなど強化していく。

ソックスやインナーは渋谷店限定商品を用意した。ソックスはキャリア層に向けたカラーバリエーションが豊富なアイテムや、スクランブル交差点をモチーフにした面白みのある商品もラインナップしている。こうした商品を定期的に投入することによって、新しいものに出会える、楽しみを感じていただけるような店舗にしていきたい。

――アイテムを横断展開するねらいは?

たとえば、楽しいデザインのソックスを見つけたとき、自分にフィットしたインナーを見つけられたときの感動体験というのは、リアル店舗ならではの良さだと思っている。我々は、せっかくソックスもインナーもウェアも取り扱っているのだから、それぞれが生み出す情緒的な価値をしっかりと伝えていくことができれば、いずれも支持していただけると思っている。つまり、ひとりのお客様にソックスもインナーも買っていただくことができれば、結果的にカスタマーシェアが拡大し、客単価も上がり、店舗全体の活性化につながっていくものと考えている。

――OMOの一環として、渋谷店ではどのような取り組みを行っていくのか?

渋谷店では、リアルとデジタルの垣根を取り払った購買体験ができるような取り組みを実験的に行っていきたい。実は、渋谷店がオープンする前の週、インフルエンサーを招いたインスタライブを店舗内で実施した。インフルエンサーとのコラボ商品を紹介しつつ、渋谷店のことについても触れていただいたり、店舗内を紹介していただくことで、オンライン上で渋谷店を知っていただく機会を提供した。今後、店舗でイベントを実施して、オンラインで配信するなどの取り組みにもトライしていきたい。お客様にとって、リアルとデジタルのどちらでも同じように情報収集でき、そこでの発見や感動が生まれる、シームレスな環境作りを目指している。


渋谷センター街店は地下1階・地上1階の2フロア構成で店舗面積は約190平方メートル。インナーの売り場構成比は全店舗平均45%に対して70%。フィッティングルームは通常の店舗の2倍にあたる4室を用意した。

――チュチュアンナでは現在、顧客セグメントに応じた出店戦略やマーケティングを実施している。その前提となる顧客分析調査はどのようなものだったのか。

チュチュアンナはもともと、お客様全体に占める非会員構成比が高い傾向にあった。そこで、ロイヤルカスタマーを創造し、LTVを向上させるための施策が必要となったのだが、まずは我々自身のこと、お客様のことを知らなければ、そのための出店戦略も顧客戦略も立てることはできない。それが、顧客分析調査を実施した理由だ。もちろん顧客データに基づいたマーケティングはこれまでにも行ってきたが、ここまで深掘りした調査は初めてであり、さまざまな気づきがあった。

我々自身のことを理解するうえで不可欠だった「なぜチュチュアンナで買うのか?」という問いに対して多かったのが、「そこに店舗があるから」というシンプルな回答だった。店舗があれば、お客様は利便性や商品に魅力を感じて来店してくださることを認識できた。現在出店を加速しているのだが、さらに出店してタッチポイントを増やせば、お客様にチュチュアンナを選んでいただける機会がより増えるのではないかという仮説に基づいている。

また、顧客へのアンケート調査で気づいたのが、我々がメインターゲットとしてきた10代顧客の離反が想像以上に大きかったことだ。ブランドのことさえ知らない、ブランド名を知っていても買ったことがない、といった声も多かった。顧客データで10代顧客の購買が下がってきていたのは認識していたが、認知さえされていないというのは、今回の調査をしなければ把握できなかったことだった。

今後は、LTVを高めるうえでも、ブランド体験の初期段階を担う10代のお客様とのタッチポイントをしっかりと作っていきたい。ただし、今回の調査結果で明らかになったように、「買わない」のと「知らない」では全く意味が異なる。そもそも認知されていなければ、10代向けの商品をどれだけ作っても、買っていただけるはずがない。10代の方々に刺さるようなコンテンツづくりや、共通するコンセプトを持つブランドとのコラボレーションなど、ブランド認知に向けた取り組みも併せて実施していきたい。

――出店を加速しているということだが、今後の出店計画について教えてほしい。

我々は、直営店舗、フランチャイズ店舗、卸販売、EC販売と、多角的な販路を持っている。今後、よりお客様とのタッチポイントを増やしていく構想であるが、なかでも直営店舗に関しては、出店数そのものを増やしていこうとしている。国内では現在約250店舗の直営店を運営しているが、さらに店舗網を拡大していきたい。ウィズコロナが進むなか、直近半年から1年においては、都心への出店を加速していく計画だ。

出店数を増やすのと同時に重要なのが、店舗とECのクロスユース率を上げていくことだ。当社でクロスユースしている顧客の購入金額が、クロスユースしていない顧客の約4倍という数値も出ている。新店舗が立ち上がり、新規顧客に来店いただくなかで、そのお客様とどれだけ多くのタッチポイントを作れるかが課題となる。アプリ会員になっていただくためにお声がけする、店舗での初回購入時にECのご案内をする、さらには、アプリをインストールしていただいたお客様にECやキャンペーンのご案内を自動配信するなど、クロスユースのための仕掛けをあらゆる場所に作り、シームレスに購買体験ができる環境を整えていく。

――オンラインストアへの需要が急速に伸びている時代に、積極出店をする戦略を取っている。一方、OMOを推進し、従来の実店舗依存からの脱却も図っている。チュチュアンナにとって、現在の実店舗の意義とは?

これまでは集客装置としての役割が大きかったが、今は、実店舗でしかできない体験により重きを置いている。たとえば渋谷店の場合、複数のアイテムカテゴリーをワンストップで買えること、フィッティングの環境が充実していることなど、期待以上のサービスを提供していくことで顧客の感動体験を生んでいきたい。

フィッティングアドバイスといった接客の時間にも大きな価値がある。レジ業務を簡素化するなどオペレーションの部分をテクノロジーを使って改良・改善することで、お客様と向き合う時間をいかに捻出していくかも、我々の使命のひとつだと考えている。

さらに、実店舗の醍醐味は、「出会い」にあると思っている。商品の柄やディテールなどを感じ取ったり、目当てではなかった商品が目に飛び込んでくるというのは、リアルな店舗ならではの体験だ。商品や接客を通じて生み出される感動や、好奇心をくすぐられるような発見など、実店舗での体験に価値を見出し提案していく余地はまだまだあると思っている。

もちろん、シームレスな顧客体験を実現するうえで、デジタルにおいても実店舗のような体験や発見を実現することも求められるだろう。デジタルにしかできない体験とともに、そうした価値も追求していきたい。

――チュチュアンナを「愛されるブランド」にしていきたいという。「愛されるブランド」とは具体的にどういうことなのか。

愛されるブランドになるには、まず我々がお客様のことを深く理解することが大事だと思っている。当たり前のことではあるが、我々はその部分をまだまだやれていなかった。なぜ我々の商品やサービスを気に入ってくださったのかを理解することができれば、その後はそのお客様に対して適切なタイミングで新たなサービスをお勧めしたり、コンテンツを配信することができる。我々からの提案が有益なものとなり、その結果、商品やサービスを気に入ってくださるだけでなく、ブランドそのものを好きになってくださる可能性が広がる。相思相愛という言葉があるように、愛されるブランドになるためには、お客様のことを知る努力を積み重ねることが重要なのだと感じている。

Written by 戸田美子

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