LiveRamp が売却を検討か。アドテク 企業の競争はますます激化

DIGIDAY

データオンボーディングで業界大手のLiveRampが、数カ月前から売却の可能性を検討していると、この動きに詳しい情報筋が述べている。売却先の候補には、グルーバルな情報サービスを展開するエクスペリアン(Experian)などが挙がっているようだ。

米DIGIDAYが複数の情報筋から聞いた話によれば、ナスダック上場企業で時価総額がおよそ16億ドル(約2225億円)に上るLiveRampは、売却の可能性を探る予備交渉を数週間前から行っているという。

注目を集めるLiveRamp製

ウォール街の投資家がアドテク企業に厳しい質問を浴びせるなか、株式市場に長くとどまってきたLiveRampの運命は、この大きな業界の行く末をある程度示すものになりそうだ。同社は2014年にアクシオム(Acxiom)に買収されるかたちでナスダックにデビュー。その後、2018年にアクシオムのマーケティングサービス部門をIPGに売却している

その一方で、LiveRampの「ランプID(RampID)」は、サードパーティCookieの廃止が迫るなかで、広告ターゲティングと効果測定にとって主要な決定論的ソリューションのひとつとなっている。Googleが2024年でのサードパーティCookie廃止に向けた準備を「Chrome(クローム)」ブラウザで進めていることが、業界に重要な課題をもたらしているのだ。

また、LiveRampのクリーンルーム製品「セーフヘブン(Safe Haven)」も、この1年間にAmazon Webサービス(Amazon Web Services)やGoogleのPAIRといった主要なプライバシー戦略でローンチパートナーとして名前が挙げられるなど、繰り返し注目を集めている。

市場の変化による関心の高まり

情報筋によれば、売却の可能性を探る話し合いは2022年後半に始まったという。この時期は、2021年に歴史的な高値を付けた上場アドテク企業の株価が急落していた頃だ。

たとえば、LiveRampの株価は、時価総額が10億ドル(約1390億円)をわずかに超えた第4四半期に最安値を記録したが、インバウンドの問い合わせが相次いだのもこの時期だったと、情報筋は述べている。

だが、2022年11月に第4四半期の最安値となる1株あたり15.62ドル(約2170円)まで下げたLiveRampの株価が回復し、今年2月には1株あたり28ドル(約3890円)近くで取引されていることから、こうした議論は冷え込んだと考えられていた。

匿名を条件に語ってくれたある情報筋によれば、売却のような協議は2023年の最初の90日間(会計年度末の四半期)にまとまるのが理想的だったという。この期間は、LiveRampが年間の見込み客の大部分を生み出す重要なカンファレンス「ランプアップ(RampUp)」を開催する時期でもある。

LiveRampとエクスペリアンの協議が完全に停止したかどうかは不明だ。両社の担当者はコメントを控えている。「弊社の方針として、市場の噂や憶測にはコメントしない」と、LiveRampの広報担当者はメールによる声明で述べている。

激化する競争

LiveRampで働いていたある関係者は、ランプIDの採用率がある程度上がったとしても、Cookie後の世界では同社の製品が持つ独自の強みをアピールするのは難しいだろうと、米DIGIDAYに対して述べている。シンセラ(Sincera)のデータにおいて、ランプIDは市場で最も成功した決定論的IDソリューションと評価されているにもかかわらずだ。

エクスペリアンがLiveRampに関心を持った背景には、ライバルのトランスユニオン(TransUnion)との競争がこの分野で激化している事情もありそうだと、この協議に詳しい別の関係者は述べている。この2社はどちらも、2020年にアドテク企業を買収している。エクスペリアンはタップアド(Tapad)、トランスユニオンはトゥルー・オプティック(Tru Optik)だ。

「ある程度の価格、たとえば1株あたり20ドル~24ドル(約2780~3340円)であれば、(LiveRampを)買収する価値はある」と、商業的な理由で匿名を希望したこの関係者は付け加えた。そのうえで、ハブ(Habu)やサムーハ(Samooha)といったクリーンルームプロバイダーとの競争激化によって、LiveRamp製品の独自の強みが損なわれる可能性があると、この人物は指摘している。

LiveRampの価値

LiveRampは5月下旬、2023会計年度の最終四半期の売上高が前年同期比5%増の1億4900万ドル(約207億円)、通期の総売上高が13%増の5億9700万ドル(約830億円)になったことを明らかにした。同社は(当然ながら)この数字をポジティブに捉えているが、注意すべき重要な点がいくつかある。

情報筋によれば、LiveRampの現在の時価総額(2023年5月の終値で約16億ドル)から考えれば、売却額は20億ドル(約2780億円)程度になる可能性があるという。ただし、時価総額以上のプレミアムを得るには、広告主に提供するバンドルの一部としてさらに付加価値を提供できることを、潜在的な買い手に納得してもらう必要があるだろう。

LiveRampの株式について投資家にアドバイスしているザ・ベンチマークカンパニー(The Benchmark Company)のシニアリサーチアナリストであるマーク・ズグトビッチ氏は、ライプランプのサブスクリプション収入が相対的に減少している点を取り上げ、同社のサービスがコモディティ化している可能性を指摘した。

「こうした企業はどこも、IDやクリーンルームを提供してテストや測定ができるようにすることを目指しているが、これはいわば理想郷だ。現実には、広告主やパブリッシャーが常にそうしたがっているわけではない」と、同氏は米DIGIDAYに対して述べている。「彼らは、ときには不可知論的な第三者測定や独自のクリーンルーム技術を利用し、どれかひとつのIDを使って価格を圧縮したいと考えている」。

サードパーティCookieの廃止路線がもたらすもの

一方、ニューストリートリサーチ(New Street Research)の証券アナリストで、かつてポートフォリオにLiveRampを組み込むことを投資家に勧めていたダニエル・サーモン氏は、サードパーティCookieの廃止が迫るなかで、「LiveRampは理論的には優れているはずだ」と述べつつも、尋ねるべき重要な疑問がいくつかあると指摘した。

「Cookieの価値が下がっている状況を利用し、Cookieの代わりに人々が移行してくるツールになることが、この会社の以前からのテーマだ」と、同氏は米DIGIDAYに対して述べ、「LiveRampにとってサードパーティCookieへの依存度の低下が、この数年の収益に影響をもたらしてきたことを同社は公に認めている」と話す。

「だが、そもそもランプIDの方法論においてCookieがどれほど重要なのかについては、より幅広い議論が以前からある」と、サーモン氏は付け加えた。

[原文:Amid a dearth of ad tech M&A, LiveRamp fielded inbound inquiries over a potential sale

Ronan Shields(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:島田涼平)

Source

タイトルとURLをコピーしました