長年にわたり、マーケターはFacebookやインスタグラムなどのプラットフォームに対して料金を支払って広告を届けるペイドメディア戦略に熱心に取り組んできた。ソーシャルメディアにおける有料広告は元々は顧客獲得とスケールアップを目指すD2Cブランドから始まった戦略であったが、今では大手マーケターの標準的な手法となっている。
もちろん、Appleのユーザープライバシー機能であるATTが開始されて2年が経ち、TikTokが台頭し、その他様々なプライバシー変更があったことで、ソーシャルメディアにおける有料広告の状況はここ数年で劇的に変化している。
それに加えて、経済不況が原因でマーケターたちはコスト削減を求められている。そのため、有料メディアだけでなく、オーガニック戦略も見直すようになっていると、エージェンシーの幹部たちは言う。彼らによると、最近では(クライアントの)マーケターたちからのオーガニックに関する質問が増えているという。
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オーガニックリーチが再び重要に
「Facebookとインスタグラムが主要だったが、TikTokがオーガニックコンテンツの炎を再燃させた」と、クリエイティブエージェンシーのメカニズム(Mekanism)で最高ソーシャル責任者兼パートナーを務めるブレンダン・ガハン氏は言う。「Facebookやインスタグラムではオーガニックリーチはかなり限定的だった。しかし、いまやTikTok(および他のプラットフォームが類似のフォーマットを採用することで生じる波及効果)により、オーガニックリーチが再びますます重要になってきている」。
かつて、極限までパーソナライズされたペイドメディア戦略の可能性に魅了されていたマーケターたちは、今ではオーガニックソーシャルの力やブランドたちがTikTokで爆発的な注目を集める瞬間に魅了されていると、マーケターやエージェンシー幹部たちは語る。同時に、不景気の影響で予算が削減されるなか、これらの幹部たちには、今後はペイドメディアへの支出を減らすよう指示が出されている。
「この1年間で、何人かのCMOたちから、『自社のマーケティング戦略がメディア戦略になっているように感じているが、それが間違っていることは理解している』と言われてきた」と、VMLY&Rのグローバル最高コネクションズ責任者であるエイミー・ウォーリー氏は語る。「彼らはどうすればメディアプランよりも大きなマーケティング戦略を持つことができるか、と尋ねてくる。彼らは有料広告、獲得、アーンドメディア、オウンドメディア、そしてブランドが存在できるすべての場所を検討している。オーガニックソーシャルもその一部だ」。
ウォーリー氏は続けて、「マーケターは、より小さいリソースでより多くの業績を成し遂げるよう求められている。それによって、ペイドメディアに過度に依存していることにも気がついた」と述べている。
ソーシャルペルソナに注目が集まる
オーガニックへの再注目により、一部のブランドが基本に戻り、エージェンシーに現在の「ソーシャルペルソナ(ソーシャル上の投稿内容が持つ性格・傾向)」が何であるべきか見極めるのを助けてもらうよう求めている。エージェンシー幹部の何人かは、最近のピッチではソーシャルペルソナの支援を求められることが常だと言っている。
「多くのピッチがあるわけではないが、確かに以前よりも増えている」と、ペレイラ・アンド・オデル(Pereira & O’Dell)の最高グロース責任者、モナ・ゴンザレス氏は言う。「これは主に、ペイドメディアの効果が減少しているため、強力なオーガニックコンテンツ戦略が必要だからだ。新規顧客や既存顧客が『ソーシャルペルソナ』という言葉を使うところを聞いたことはないが、(ソーシャルペルソナという言葉)はただ『ソーシャルブランドガイドライン』を別の表現で述べただけだ」。
UMの米国最高グロース責任者であるグラント・オグバーン氏も、マーケターからソーシャル・ペルソナの支援を求めるリクエストを目にしている。「私たちが(ソーシャルペルソナ)をどのように捉えているかというと、ブランドのターゲットオーディエンスの設定だ」とオグバーン氏は言う。
「もっとも優れた例は、ソーシャルメディア上のファーストフードブランドだ。ユーモアがあり、機知に富み、文化の最先端を追っている。それらはブランドの価値観を表現し、競合他社を攻撃するためのユーモアを注入するために機能している。ペルソナは効果を最大化するために一貫性を保たなければならない」。
シンプルなペイドメディアから、複雑な「人間性」に
ソーシャルペルソナは新しい概念ではない。 ソーシャルメディアが始まって以来、広告代理店はブランドのためにペルソナを作成してきた。その方法に関する確立された戦略も存在している。しかし、マーケターの焦点が再び向けられるようになったのは、一部のブランドがソーシャルで目立つために、特定のニッチコミュニティに焦点を当てることを求めているからだ。
「しばらくの間、物事が非常に停滞し退屈になっていたと思う」ガハン氏は言う。「Facebookやインスタグラムが支配的でありペイドメディアに圧倒的な重点が置かれていた。ペイドメディアは非常にシンプルだ。ソーシャル全体でのペルソナや人間性はあまり注目されていなかった」。
しかし、今その状況は変わりつつあり、マーケターはそれに適応しなければならない。
Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)