プライバシー保護の動きは リテールメディア の追い風か、逆風か

DIGIDAY

リテールメディアネットワークが広告費のシェアを伸ばすなか、新たなプライバシー保護法が新たな機会と新たなリスクを生んでいる。

リテールメディアはより広範なコマースメディアの一部であり、eコマースと並ぶ位置づけでありながら、各種のeコマースチャネルと広告費を奪い合う関係にある。しかし、データプライバシーに関しては、業界全体がさまざまなレベルのリスクに直面している。米国のネット通販上位100サイトを分析したプライバシーテクノロジー企業のロッカー(Lokker)によると、通販サイトに設置されたcookie、ピクセル、トラッカーなどが買い物客のデータをそれと気づかずに暴露するおそれがあるという。

プライバシー保護の動きがリテールメディアを加速させた

もちろん、なかには何年も前から独自のリテールメディアネットワークを運営している小売企業もある。だが、データを基盤とするセールスプラットフォームの新規立ち上げ見直し規模拡大を進める小売企業が増えてきたのは最近のことだ。

その一因となっているのが、プライバシー規制の厳格化を背景とした、サードパーティCookieに代わるファーストパーティデータの需要増だ。しかし、米国で施行された一連の規制がリテールメディアの急成長を加速させるほど、一部の識者が言うとおり、エージェンシーは断片化の進展と法的なグレーゾーンへの対応を迫られるだろう。

2018年のケンブリッジアナリティカ事件を受けて、カリフォルニア州が新たなプライバシー保護法を可決すると、同様の法整備に動く州がいくつも現れた。米連邦議会では連邦法制定の協議が続いている。カリフォルニア州に続き、コロラド州、コネティカット州、ヴァージニア州、ユタ州でも、今年同様の法律が発効し、2025年にはアイオワ州がこれに加わる。

さらに、モンタナ州、インディアナ州、ニューハンプシャー州でもプライバシー関連の法律が成立し、現在法案を審議中という州も10を超える。各地で州法が発効し、広告のトラッキングに対する消費者の意識が高まるに伴い、マーケターや消費者保護団体も、さまざまなデータ共有方法についてオプトイン率やオプトアウト率を注視している。

ファーストパーティデータとセカンドパーティデータ、さらには購買意向の強い数百万規模の買い物客という強みを背景に、小売企業たちは自社のツールを活用し、あるいはソーシャルネットワークやアドテク企業と連携して、各種の新機能を構築している。たとえば、大手ディスカウントチェーンのダラーゼネラル(Dollar General)は3月にメタ(Meta)との提携を発表した。共同で地方に暮らす消費者へのリーチを提供するという。

その好調ぶりについて、CMOのチャド・フォックス氏は、「期待を上回る成長だ」と述べている。ダラーゼネラルの戦略は、単なるリテールメディアネットワークにとどまらず、オーディエンスの供給にも注力するというものだ。フォックス氏によると、同社のメディアネットワークのうち、10%から20%がオンサイトで、残りはオフサイトだという。ダラーゼネラルのメディアネットワークは、2022年にプラットフォームを立ち上げて以来、広告主の数を当初の21社から現在の51社に伸ばしてきた。来年までにさらに100社を獲得する計画という。

「グレー」なリテールメディアデータの取り扱い

確かに、サードパーティCookieの廃止を追い風に、リテールメディアは大きく成長した。その反面、このセクターには、デジタル広告のエコシステムの他部門に備わるような防護柵がまだ整備されていないと、一部の識者は懸念する。また、プライバシーに関する方針が州ごと、あるいはプラットフォームごとに異なるため、質の高いリテールメディアデータが大量かつ永続的に確保できるのか、疑問視する声も聞かれる。

さらに、各州のプライバシー保護法や業界標準が各種の個人情報にどう対処しているかという点についても疑問が呈されている。消費者金融保護局(CFPB)や連邦取引委員会(FTC)などの規制当局は、潜在的に有害な商習慣から消費者を保護する方法を意欲的に模索している。従来、ソーシャルネットワークは機密扱いされるべき属性データを広告のターゲティングに活用しているとして、大きな批判にさらされてきた。

現在、メタやGoogleらはこうしたシグナルの活用を控えているようだが、プライバシー保護の有識者のなかには、小売企業が決済情報や取引記録などの金融情報を適切に収集し、利用し、そして安全に保管できているのか疑問に思う者たちもいる。一部のリテールネットワークやアドテク企業は、個人を特定できる情報を使用しないと表明しているが、eコマースの性質上、グレーな部分は残される。

IPG傘下のメディアエージェンシーであるUMワールドワイド(UM Worldwide)で最高プライバシー責任者を務めるアリエル・ガルシア氏は、「業界標準らしいものが何もない現状、こうした機微データの扱いについては、今後さまざまな検討や議論が活発化するだろう」と述べている。

ピュブリシス(Publicis)傘下のシトラスアド(CitrusAd)で最高技術責任者(CTO)を務めるアダム・スキナー氏はこう話す。「エージェンシーの幹部たちも、消費者が異なるリテールメディアネットワークをまたいでプライバシー設定を容易に管理できるのか、あるいは彼らの設定が広告のターゲティングや効果測定にどう影響するのかなど、さまざまな疑問を抱えている。しかし、こうした顧客データの断片化による問題は、小売企業よりも広告主にとってより深刻だ」。

「小売企業はデータの送り先に注意する必要がある」と、スキナー氏は話す。「PinterestやFacebookなど、サードパーティのソースにデータを送信するようになると、小売企業は彼らウォールドガーデンの戦略に疑問を抱くようになる。送信したデータがどこに行くのか分からないからだ」。

「プライバシー」の価値は人それぞれ

VMLY&Rの執行役員で米国メディアを担当するジェニファー・コール氏は「Cookieの設定を積極的に管理する人が年々増えているようだ」と指摘する。コール氏によると、「必要なCookieのみ許可する」人が約3分の1、「特定のCookieを選択して許可する」人が3分の1で、何も変更しない人が残り3分の1だという。企業は以前からデータプライバシーについては警戒してきたが、コール氏によると、「ルール作りもその運用も、新しい法律はこれまでより厳格になるのではないか」と懸念するクライアントは増えているようだ。

「ゆくゆくは、法律家よりも消費者に主導権を握ってほしい」とコール氏は言う。「消費者はデータの共有にある程度寛容だと思う」。

リテールメディアが直面する問題は、そのメリットを上回るものでは必ずしもないと、ガートナー(Gartner)のアナリストであるマイク・フロガット氏は論じる。同氏によると、確かに、リテールメディア業界の断片化に加え、カリフォルニア州などでは消費者のオプトイン率が低下している。また、広告主たちも広告の買いつけ先を3つもしくは4つ程度のリテールメディアに限定しているようだ。しかしその反面、小売企業は割引特典や個人のニーズに合う商品の提案など、顧客に対して具体的かつ独自のメリットを提供することも可能だという。

「プライバシーの価値は誰かに指摘されなければ気づかないものだ」とフロガット氏は話す。「クーポンと引き換えなら、個人情報を提供する価値があると考える人もいる。一方、それで迷惑メールを大量に送りつけられるなら、その価値はないと考える人もいるのだ」。

一部のリテールメディアネットワークやそのパートナーたちは、個人情報に頼るよりも、検索意図や商品の絞り込み機能などを重視する方向に動いている。たとえば、大手スーパーマーケットチェーンのクローガー(Kroger)も「クローガープリシジョンマーケティング(Kroger Precision Marketing)」というリテールメディアプラットフォームを運営しているのだが、そのメディア戦略とメディアプロダクトを統括するバイスプレジデントのマイケル・シュー氏は「消費者の属性情報よりも、過去の購買行動などのデータを重視する」と述べている。

「プライバシー保護がリテールメディアデータの輝きを増す」

クリテオ(Criteo)は複数のリテールメディアネットワークと連携するアドテク企業だが、最高収益責任者を務めるブライアン・グリーソン氏はプライバシー保護法について「コマースメディアにとって非常に大きな後押しとなる」と述べている。

「エコシステムのなかに悪質な業者がいるとして、そういう業者を排除するためにこうした法律を作っている。悪質な業者が排除されれば、リテールメディアのデータは輝きを増す。小売企業と彼らが提供する広告機会により大きな価値が生まれるだろう」。

[原文:How privacy regulations could help — or inhibit — growth in retail media networks

Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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