「過大評価は企業を失敗に導いてしまう」: D2C 投資の見直しを促す、新興ファンドの胸の内

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多くのベンチャーキャピタルが、D2Cブランドからeコマーステック系の新興企業に目を向けるなか、新しい投資家は、消費者向け新興企業の評価額を見直すことを望んでいるという。

デボラ・ベントン氏とアマンダ・シュッツバンク氏により創設されたウィロウグロースパートナーズ(Willow Growth Partners)も、そのようなファンドのひとつだ。ウィロウは昨年、2800万ドル(約33億9000万円)の開始資金を公開し、それ以降、ハイチェアやプレイセットなどの子供用品を販売しているラロ(Lalo)や、ヘルシーなマカロニアンドチーズのブランドのグードルズ(Goodles)などの新興企業に投資してきた。

ナスティーギャル(Nasty Gal)とシューダズル(ShoeDazzle)の両方で過去にCOOを務めたことがあるベントン氏は、多くの新興企業が「あまりにも高い評価額で、多すぎる資金を調達し、投資家たちが期待するような成長を実現するために適切な構造ではなかった」のを近年に目にして幻滅したと語っている。たとえばファッションアパレルの新興企業であるナスティーギャルは、同社がピーク時に3億5000万ドル(約424億円)に評価され、6500万ドル(約78億7000万円)を調達したのち、2017年に破産を申請した

ベントン氏は、ウィロウでは別の手法を試みていると語る。同社は100万ドル(約1億2100万円)から400万ドル(約4億8400万円)の収益を生み出す新興企業を対象に、250万ドル(約3億300万円)から300万ドル(約3億6300万円)のシードラウンドを主導し、役員に就任することを求めている。同社の目標は、投資先企業が10億ドル規模のIPOになることではなく、CPGコングロマリットのような戦略的買収企業へのエグジットを想定した評価額で資金調達するように奨励することだと、ベントン氏は語る。同氏は、昨年末にプロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)に買収された美容品ブランドのファーマシーズ(Farmacy’s)を、各ブランドが見習うべき結果のひとつだと言及している。

「このように、4億ドル(約484億円)、5億ドル(約605億円)、6億ドル(約726億円)という金額で戦略的ファンドや成長ファンドに売却すれば、誰もが素晴らしいエグジットを手にすることができる」とベントン氏は述べる。

以下に示すのは、筆者とベントン氏とで最近行った対談のいくつかの要点で、簡素さと明瞭さを考慮し編集を加えたものである。

◆ ◆ ◆

――消費者向けブランドが集中すべき適切な指標は何だと考えるか?

当社は、価値主導型ブランドと呼ばれるものに特に注目している。消費者は、自分がコミュニティの一部であると感じ、自分が賛同できると感じるブランドを支援するため、自分たちのお金を使うと考えている。この価値主導を実行するには、消費者との関係性に着目する必要がある。

当社は、消費者とのあいだに長期的な関係を構築することを求めている創設者やブランドを支援することに大きな関心を持っている。ここで、ブランドを評価する重要な指標となるのが、ライフタイムバリュー(生涯価値)だ。このために重要なのは、購入の頻度、平均注文価格、そしてリピート購入だ。そしてこのコンテキストにおいて、獲得コストをライフタイムバリューによって簡単に相殺できるよう、自社のマージンプロファイルに焦点を合わせている。

――SaaS企業は収益の20倍以上でエグジットを行うのが従来の考え方だったが、消費者向けブランドにはどのような評価が妥当だと考えるか?

美容品の分野では、収益の5倍から10倍程度だと見ている。これは成長の速さ、マージンプロファイル、チーム自体、そして収益性があるかどうかによって変化する。これら以外にも、そのブランドはどの程度プレミアムなのか、データはどれだけの価値があるのかなど、数多くの要因が関係する。戦略において着目するのは本質的にこのような部分だ。

アパレルでは多少数値が低くなる。当社はアパレルにあまり関わっていない。私はエンジェルとして、アパレルに多少関わったことがある。事業を的確に進めるのが困難なカテゴリーで、アパレル固有の課題がある。しかし、これらの企業は私の見たところ、売上収益の2倍から4倍で取引される。

健康、ウェルネス、CPGはおそらく4倍から5倍の範囲だろう。食料品や飲料品も差異が激しい。アルコールの分野ではこの倍率が非常に大きくなり、収益の20倍に達することもある。

食料品ではおそらく、売上収益の3倍から4倍だろう。食料品と飲料品ではもう少し難しくなる。食料品には多くのイノベーションが起きている。このような例として、ビヨンドミート(Beyond Meat)が株式を公開したときに見られた熱狂的な評価額の急騰が挙げられるが、これらは例外的なものだ。このような評価額と急騰が最終的にどのような結果になるのか、私にも確信が持てない。

――ハイテク企業への評価額が、消費者向けブランドにとっては意味をなさないという主張が、何年も前から数多く存在している。ベンチャーキャピタルたちが消費者向けブランドの評価方法を見直すという点について、何か進展が起きていると感じるか?

起きていると思う。私は毎日5〜10人の創設者と対談しているが、多くの創業者が私のところに来て「典型的なテックベンチャーの道をたどりたくない」と語る創設者が増え続けていることが、その進展が起きているというもっとも大きな兆候だと考えている。

また、テック系ベンチャーキャピタルが、こうしたすばらしい小規模のシード企業を過大評価し、過剰な資本を投下し、結果的にその企業を潰してしまう例を、残念ながら100は挙げられる。私はこのような企業と毎日対談し、「なぜこの評価額を上げたのか? これからどうするつもりなのか? 御社の行っていることはすばらしいが、たとえ1年後でも、私が御社に投資するとしたら、1年前に御社が最後のラウンドを終結した時の3分の1以下の金額で投資するだろう」というような話をしている。

このような過大評価は、企業を成功ではなく失敗へと導いてしまう。そして、結局はそれが、創設者への害でしかないと感じ、もどかしく感じている。

[原文:DTC Briefing: How Willow Growth Partners is rethinking the venture capital calculus for consumer brands]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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