5年後の新型コロナはどうなっているのかを描いた「パンデミックの3つのシナリオ」とは?

GIGAZINE
2022年06月19日 20時00分
メモ



日本でもマスク着用義務に関する規制緩和の議論が進められているなど、一部の国や地域では予断を許さないながらも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック収束の兆しが見え始めています。そんな中、世界中の科学団体を束ねる国際学術会議(ISC)が、5年後にパンデミックがどうなっているかのシナリオを3つにまとめました。

Unprecedented & Unfinished: COVID-19 and Implications for National and Global Policy
(PDFファイル)https://council.science/wp-content/uploads/2020/06/UnprecedentedAndUnfinished-OnlineVersion.pdf

Forecasting the next five years of the COVID-19 crisis – Scimex
https://www.scimex.org/newsfeed/five-more-years-of-covid-19-crisis-ahead,-forecasts-leading-global-science-council

Here’s How The Next 5 Years Might Look: Scientists Outline 3 Likely Pandemic Outcomes
https://www.sciencealert.com/this-is-what-the-next-5-years-of-the-pandemic-might-look-like

ISCは2022年5月17日に公衆衛生学、ウイルス学、経済学、行動科学、倫理学、社会学の専門家ら20人の識者による提言を報告書にまとめて、その中で「新たな国際的協力がなければ、少なくとも今後5年間は不平等が悪化しつづける可能性が高い」と結論した上で、2027年までに国際社会が歩む可能性がある3つのシナリオを示しました。

◆シナリオ1:ワクチン接種率71%以上
最も楽観的なこのシナリオは、高いレベルの国際協力により世界人口の71%以上の人々がワクチン接種を受けることができた未来を描いたものです。「コラボレーション・プラス(Collaboration Plus)」と名付けられたこのシナリオでは、ワクチン開発と流通能力の強化により世界的に高い予防率が維持されており、有効な抗ウイルス薬が低所得国でも手頃な価格で広く利用できるようになっていることが想定されています。

このシナリオでもCOVID-19の根絶には至っておらず、低所得国ではCOVID-19の再流行により医療システムに負荷がかかることがありますが、パンデミックの最盛期に比べればはるかに制御しやすいものとなっています。また、パンデミックの脅威が低くなった結果、多くの国々は国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」を最優先にすることができるとのことです。


残念ながら各国のワクチン接種プログラムの間には激しいギャップがあるため、接種率の向上だけでなく世界各国の協力も必要とするこのシナリオの可能性はあまり高いとは言えないとのこと。ISCは国際社会の現状について、「各国政府は国際的な協調関係ではなく国家戦略を優先しており、このことがパンデミックを長引かせてきました」と指摘しました。

◆シナリオ2:ワクチン接種率60~70%
最も可能性が高いと考えられているのが、接種率が70%以下にとどまる「継続性(Continuity)」シナリオです。このシナリオでは、ウイルスの進化に伴って継続的にアップデートされる効果的なワクチンが開発されていますが、主に低所得国を中心に未接種者がいるほか、先進国でもワクチン忌避の人々が集団免疫の獲得の障害となっています。

この想定では多くの国々で追加接種が可能になっており、社会的な回復メカニズムへの投資も実施されていますが、取り組みが散発的で国際的にも国の中でも温度差があります。その結果、COVID-19は世界中で風土病と化し、季節ごとに流行するため、ワクチンの更新や抗ウイルス薬の開発継続が必要になります。

2021年3月に公開された海外メディア・Voxのドキュメンタリー映像でも、「国際社会はCOVID-19の初期の封じ込めに失敗したため、天然痘のような根絶には至らずインフルエンザのような風土病になるだろう」との予測が示されていました。

「新型コロナウイルスは撲滅できるのか?」という疑問に答えるムービー – GIGAZINE


◆シナリオ3:ワクチン接種率60%未満
最も避けるべき未来が、ウクライナ戦争のような地政学的緊張や保護主義政策、パンデミック対策における協力体制構築の失敗などから世界中で社会情勢が悪化し、接種率が低迷して不平等がまん延したシナリオです。この「失われた回復(Missed Recovery)」シナリオでは、引き続きロックダウンや在宅勤務政策、厳しい社会的制限などが必須で、COVID-19は世界のあちこちで制御不能かつ危険な再発を繰り返すだろうと予見されています。

このような未来を回避するため、専門家は「世界各国の政府が協力して医療体制に投資し、教育や貧富の不平等の拡大に対処していかなければならない」と提言しています。また、気候変動や環境破壊が進むと、将来的に別のパンデミックが発生するリスクも高まるため、「気候変動の抑制への取り組みにはCOVID-19対策並みの国際協調が必要」とも主張されています。


国連事務総長特別代表(防災担当)兼国連防災機関長を務める水鳥真美氏は、声明の中で「私たちは、次の危機に備えつつ不平等に対処する多国間システムを構築するため、一層努力しなければなりません。それが新たなパンデミックであれ、気候変動であれ、紛争であれ、私たちにはこの2年間から学ぶ機会が与えられています。もしそれができなければ、SDGsは私たちの手が届かない所に転がり落ちてしまうでしょう」と述べました。

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