BuzzFeed News閉鎖、その「元凶」となった要素はなんだったのか

DIGIDAY

BuzzFeed(バズフィード)が報道部門の「BuzzFeed News(バズフィードニュース)」を閉鎖する。同社の創業者で最高経営責任者(CEO)のジョナ・ペレッティ氏が4月20日に配信した従業員向けのメールによると、ソーシャルファーストで運営してきたこのニュースサイトへの「過剰な投資」により、閉鎖を余儀なくされたという。

この社内向けのメールで、ペレッティ氏はこう述べている。「ソーシャルメディアのオーディエンスを主な読者として想定していたにもかかわらず、無料のニュースサイトを運営するのに必要な『拡散力や経済的な支援』がプラットフォーマーから十分に得られなかった。そのことに気づくのが遅すぎた」。

ペレッティ氏はこのメールのなかで特定のプラットフォームを名指ししてはいないが、BuzzFeedの首脳陣は過去数回の決算説明会において、Facebookから流入するトラフィックが激減していると訴えていた。

ソーシャルメディアブームは下火に

多くのパブリッシャーがSNSからの流入減と、それによる他サイトから流入するトラフィック全体の減少を経験している。実のところ、SNSプラットフォームが縦型短編動画に注力するのは、自社サイトから流出するユーザーを引き留めるためだ。他方、Twitterは不安定で、TikTokは使用禁止の危機に瀕しており、SNSユーザーの人気を二分するプラットフォームはそろってパブリッシャーの信頼度を下げている。

ソーシャルメディアのオーディエンスを想定し、彼らの拡散力を当てにして創設されたニュースブランドは、2016年を彷彿させるアルゴリズム由来の問題に再び直面するかもしれない。

匿名で取材に応じたBuzzFeedの元幹部はこう話す。「BuzzFeed Newsはソーシャルメディアのエコシステムに拠って立つ企業なのに、そのエコシステムが失われてしまった。一方、ハフポスト(HuffPost)はソーシャルメディア以前の企業だ。そしてソーシャルメディア時代が幕を開けると、ある意味BuzzFeedのせいで影が薄くなった。やがてソーシャルメディアのブームは下火になるが、潮が引いた岩場でハフポストがしっかり生き残っていた」。

SNS流入に依存するモデルは低迷

BuzzFeedのエドガー・ヘルナンデスCROとクリスチャン・ベイズラーCOOが今後数週間のうちに退任するほか、全従業員の15%にあたる180人が解雇されるもようだ。BuzzFeed Newsの従業員は60人前後で、ニューヨークタイムズ紙(The New York Times)の報道によると、一部は社内の別の部署への異動を検討するようだが、具体的な人数は明らかにされていない。BuzzFeedは2022年12月にも従業員の12%を削減し、同年3月にはニュース部門を対象に早期退職者を募集した。

BuzzFeed Newsの読者には、同じ運営母体のハフポストに移行してほしいとペレッティ氏は願っている。BuzzFeedは2020年にハフポストを買収した際、黒字化をめざして70人の人員削減をおこなった。ペレッティ氏は従業員宛のメールで、「ハフポストはいまも黒字運営を維持しており、サイトに直接流入するロイヤルな読者もいる」と述べているが、この主張を裏づける具体的な数字は示されていない。

BuzzFeedの広報によると、BuzzFeed Newsは唯一の不採算部門だというが、黒字化に必要な数字についてはコメントを差し控えた。

FTIコンサルティング(FTI Consulting)のテレコム、メディアおよびテクノロジー部門で企業金融の責任者を務めるジャスティン・アイゼンバンド氏はこう話す。「SNSからの流入に依存する収益化モデルは、ここ数年、苦戦を強いられている。SNS流入への依存は、この1年の広告市場全体の厳しさと相まって、経営の維持を難しくしている」。

収益性の問題

コムスコア(Comscore)のデータは注目に値する。このデータによると、2023年の1月から3月期、ハフポストとBuzzFeed Newsの平均月間ユニークビジター数を比べると、前者が後者をわずか13%上回るにすぎない。具体的には、ハフポストが2260万人で、BuzzFeed Newsは2000万人前後だった。2022年も、通年でBuzzFeed Newsが約1950万人だったのに対し、ハフポストが2240万人で、その差はわずか15%程度である。

シミラーウェブ(SimilarWeb)のデータによると、SNS流入への依存度はハフポストよりもBuzzFeed Newsのほうが高い。アイゼンバンド氏はこのデータを分析し、米DIGIDAYに提供、米DIGIDAYもこのデータを確認した。

シミラーウェブのデータによると、2023年の1月から3月、BuzzFeed Newsの直接流入がトラフィック全体の31%だったのに対し、ハフポストでは57%を占めていた。ソーシャルチャネルからの流入はBuzzFeed Newsが26%のところ、ハフポストでは13%にとどまっている。また、SNS流入のうち最大を占めるのが両サイトともにFacebookで、BuzzFeed Newsは56%、ハフポストは55%となっている。

縦型短編動画への傾斜が深まるにつれて、アイゼンバンド氏は「パブリッシャーがソーシャルメディアプラットフォームに設置した外部リンク、いわゆる被リンクがSNSのウォールドガーデン内部で効果的に拡散されなくなってきた」と述べている。そもそも縦型短編動画への注力が、ユーザーを自社のアプリ内に引き留めることなのだから、それも当然と言えよう。同氏によると、Facebookが一番の元凶だという。

BuzzFeed Newsのたどった道

ハフポスト(旧称ハフィントンポスト[The Huffington Post])は2005年に創設された。ペレッティ氏は共同創業者のひとりである。翌2006年には「副業」としてBuzzFeedを立ち上げた。2011年にAOLがハフポストを買収すると、ペレッティ氏はハフポストを去り、BuzzFeedに専念することに。政治メディア「ポリティコ(Politico)」の記者だったベン・スミス氏を編集長に指名した。

2020年にBuzzFeedがベライゾンメディアグループ(Verizon Media Group)からハフポストを買収し、ハフポストは再びペレッティ氏の管轄下に収まった。

カロリーナ・ワスラヴィアック氏がBuzzFeed Newsの編集長に就任したのは2022年6月のことだ。このとき、黒字化までのタイムリミットは1年だった。ワスラヴィアック氏はBuzzFeed Newsのスタッフに宛てた電子メールのなかで、こう述べている。「第1四半期は目標値を上回る業績を達成し、2023年内の財務立て直しを計画していた。ところがそのわずか4ヶ月後に、時間切れを告げられた」。

「閉鎖の決定は、編集幹部やニュースの収益化に向けた彼らの努力の進捗状況を反映したものではない」と、BuzzFeedの広報は電子メールで述べている。「弊社の業績の現状と弊社を取り巻く経済情勢に鑑みて、もはやBuzzFeed Newsを独立した組織として運営していくことはできないという判断に至った。いま現在必要なのは、収益増を見込める事業部門に経営資源を集中させることだ」。

元凶はAIやIPO?

2021年6月、バズフィードは特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて株式を公開すると発表した。この計画の一環として、同社はハースト(Hearst)とベライゾンからコンプレックスネットワークス(Complex Networks)を3億ドル(約400億円)で買収した。この当時、バズフィードの評価額は15億ドル(約2017億円)だった。

ところが1年後、同社の株価は上場時の株価の3分の1を下回る、1株3ドル(約400円)前後で取引されていた。実のところ、上場前から投資家たちによる資金の引き揚げが相つぎ、その額はバズフィードの上場を目的にSPACが調達した2億8750万ドル(約308億円)の実に94%を占めた。

BuzzFeed Newsの上席記者(いまでは「元」だが)のアルバート・サマハ氏によると、BuzzFeed Newsの閉鎖が発表された当日に招集された同部門の全体会議で、ペレッティ氏はこう語ったという。「黒字化へのプロセスを6、7年前に開始するべきだった」。

3月におこなわれたBuzzFeedの第4四半期決算説明会で、ペレッティ氏は「今年はビジネスモデルの中核にAI(人工知能)を据える」と発表した。その具体策の第一弾がオープンAI(OpenAI)のAPI連携で、クイズなどのコンテンツ作成でAIの活用を開始している。また、BuzzFeedクリエイターネットワークも2023年の優先課題のひとつだという。

一方、この決算説明会では人員削減については触れず、2022年に「BuzzFeed Newsで希望退職者を募集した」と述べるにとどめた。

拡大路線に潜むリスク

M&Aアドバイザリー企業のプログレスパートナーズ(Progress Partners)でシニアマネジングディレクターを務めるサム・トンプソン氏は4月12日のインタビューで「BuzzFeedやヴァイスメディアグループ(Vice Media Group)のようなメディア企業は、この10年、持続可能なビジネスモデルを構築しようと奮闘してきた」と述べている。2021年の上場当時、BuzzFeedの株価は1株あたり約11ドルだったが、現在はその数分の1にまで下落した。4月21日金曜日午後現在(米国現地時間)、同社の株式は1株あたり0.70ドルで取引されている。報道によると、ヴァイスワールドニュース(Vice World News)も同様の窮地に追い込まれているようだ。

トンプソン氏はこう話す。「ベンチャー投資家なら誰でも、この状況を見てこう言うだろう。『アーリーステージの企業に投資をする理由があるだろうか。そういう投資がうまくいった例など見たことがない』と」。その結果、メディア企業たちはノンコア事業や業績不振の資産を売却し、収益性やマージンの高い事業部門に経営資源を集中させはじめると、トンプソン氏は語った。

こうした環境下、ほかのパブリッシャーたちも自社のメディアブランドの収益化について、さまざまな見直しをおこなっている。たとえば、4月初頭、プライベートエクイティの後押しを受けるリカーレントベンチャーズ(Recurrent Ventures)は、運営する20のメディアブランドのうち、唯一のグルメサイトである「サヴール(Saveur)」を売却した。また、ヴォックスメディア(Vox Media)はソーシャルファーストの動画ニュースサイト「NowThis(ナウディス)」を本体から分離した。今後、NowThisは独立したメディアブランドとして運営されることになり、ヴォックスメディアは少数株主として経済的利益を維持する一方、営業費等の負担を免れることができる。

メディア業界に特化した株式調査とアドバイザリーサービスを提供するヒューバーリサーチパートナーズ(Huber Research Partners)で、マネジングディレクターを務めるダグ・アーサー氏はこう話す。「ごく少数ながら、成功しているモデルには盤石なサブスクリプション収入があり、契約者の規模や利用状況に基づく広告収入がこれを補完している」。

FTIコンサルティングのアイゼンバンド氏は、「一般的なニュースでサブスクリプションを販売するのは難しい」と話す。そして、差別化要因のあるニュースブランドであれば、読者収入を確保するのは一般的に容易だという。アイゼンバンド氏は、成功事例として、地方および主要都市のニュースサイトや、金融(ブルームバーグ[Bloomberg]やウォールストリートジャーナル[The Wall Street Journal])など、特定カテゴリーに特化したニュースサイトを挙げている。

BuzzFeed Newsはサブスクリプションモデルを持たなかったが、同社のジャーナリズムを支えるためとして読者に寄付を募ったことがある。2018年のことだ。寄付や募金は一般的に、非営利サイトや社会活動サイトが取る戦術だ。

「営利企業が読者に寄付を募ってニュースサイトを運営するというのは少々ミスマッチのように思える」とアイゼンバンド氏は指摘する。BuzzFeedの広報はこれまでに受け取った寄付金の額については明言しなかった。

ブランドセーフティの懸念が広告事業の低迷を招く

ニュースメディアはここ数年、広告費の獲得に関しても、プログラマティック広告と純広告の別を問わず、一番の貧乏くじを引かされてきた。ブランドセーフティに関する広告主の懸念が原因である。

そしてメディアは供給過剰という問題にも直面している。市場には多くの在庫があふれており、バイヤーたちはもっとブランドセーフティに配慮したサイトがあれば、躊躇なくそちらに移る。プログラマティック市場では特にこの傾向が著しい。

メディアバイイングエージェンシーのメディアトゥインタラクティブ(Media Two Interactive)でメディアと戦略を担当するバイスプレジデントのトレイ・ディカート氏は、「ニュースサイトを一括処理でブラックリスト化できるようになり、我々の仕事はずっと楽になった」と話す。あるクライアントは、BuzzFeed Newsとハフポストがニュースカテゴリーであることを理由に広告出稿を拒否する一方、同じBuzzFeedの運営でもニュース以外のコンプレックス(Complex)やテイスティ(Tasty)には出稿するのだという。

ディカート氏のクライアントの場合、仮にニュースサイトへの広告出稿を検討するとしても、「ネガティブなニュース」に隣接して配信されることを避けるため、PMP経由でニュース以外のカテゴリーに出稿することが多いという。

ここ数年のM&Aによる事業の急拡大は巨額の間接費を生じた一方、BuzzFeedに広告主を集めるテコとなるのは、買収を通じて獲得してきたこれらニュース以外のメディアブランドとなりそうだ。

「SNSからの流入に依存する戦略をとるなら、コンテンツの量は確かに重要な要素だ。コンテンツが多いほど、見つけてもらいやすい」とアイゼンバンド氏は話す。もちろん、在庫が増えたからといって、その在庫を買い求める広告主が増えるとは限らない。

編集室の内側では

サマハ氏によると、木曜日に開かれたニュース部門とペレッティ氏の会合は、非常にエモーショナルな雰囲気だったという。「誰もが泣いていた。ある種のガス抜きだった」と同氏は話す。サマハ氏は長い記者生活のなかで何度かレイオフを経験してきたが、BuzzFeed Newsの「完全な閉鎖」ほど、「破滅的でドラマチック」な解雇劇はなかったと語る。

「瘡蓋(かさぶた)がたくさんできた」とサマハ氏は話す。目下、このBuzzFeed Newsの記者が自分に課したふたつの課題は、「職探し」と「長い休暇」だという。

[原文:How the social traffic that gave life to BuzzFeed News ultimately led to its demise

Kayleigh Barber and Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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