ナイキ 、小売店からの撤退加速:空白スペースを狙う競合ブランドたち

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ナイキ(Nike)がシューズストアから姿を消すときが迫っているという事実は、卸売業界全体を揺さぶりつつある。

競合他社は、これまでシューズストアにおいてナイキが占有していたスペースを勝ち取るだけでなく、同社のD2C(ダイレクト販売)戦略に倣おうとしている。

アディダス(Adidas)は5月5日、レディース、キッズ、アパレルのフランチャイズの開発と展開も含む長期的なパートナーシップをフットロッカー(Foot Locker)と締結した。一方、卸売業者とスニーカーのブランドは、同様に戦略の見直しを図っている。DSWは、ナイキが同社経由での商品の販売を停止すると発表してから、ニューバランス(New Balance)、スケッチャーズ(Skechers)、ブルックス(Brooks)など、ほかのアスレチックブランドを重視するようになった。また、ほかの小売業者も独自でD2C転換を行い、プライベートブランドを立ち上げて利益率を上げようとしている。

ナイキの売上に依存していたフットロッカー

ナイキは昨年、自社のD2C戦略を加速させるため、DSW、アーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters)、オリンピアスポーツ(Olympia Sports)などいくつかの小売業者で自社商品の販売を停止することを発表した。ナイキの実店舗での存在感が薄れたことで、同社は競合他社が店舗の棚を奪取し、脚光を浴びる可能性を与えることになった。

ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストを務めるマット・ムーラット氏は次のように述べている。「一般に小売業者は、顧客をコンバージョンに導く可能性がもっとも高いと思われるブランドをプロモートする。ナイキが小売業者で販売されなくなったという事実から、いくつかの小売業者はほかのブランドをより積極的にプロモートするようになった」。

長年にわたり、ナイキの商品の販売は、多くのシューズストアにとって大きなセールスポイントだったと、専門家たちは語る。たとえばフットロッカーの場合、同社の年次レポートによれば、ナイキは2020年の売上の75%を占めていた。DSWの場合、2020年の売上の7%がナイキだった。

ナイキが卸売パートナーから離れることで、ほかのシューズブランドが販売シェアを握る機会が生まれた。オーセンティックブランズグループ(Authentic Brands Group、ABG)は5月中旬、ナイキが提携を打ち切ったもうひとつの販売店であるメイシーズ(Macy’s)とのパートナーシップを拡大すると発表した(ただし、メイシーズのフィニッシュライン[Finish Line]店舗ではナイキ商品の扱いを続ける)。この契約は特に、百貨店である同社でリーボック(Reebok)商品の品揃えを拡充するものだ(ABGは3月にリーボックの買収を完了した)。ABGは同様の契約を2月にフットロッカーと締結し、この契約によってシューズの小売業者であるフットロッカーはいくつかのリーボックのアイテムについて、独占的な流通チャネルとなる。

ナイキ撤退後の空白スペース

一部の競合他社がD2Cに移行する一方で、スケッチャーズは反対の方向をとり、卸売や小売業者のパートナーシップを通じて売上を伸ばしていくことに注力している。同社の第1四半期の決算発表では卸売がD2C売上よりも大きく伸び、それぞれ33%と16%の成長を見せた。スケッチャーズのCFOを務めるジョン・バンデモア氏は、同社がより多くのアイテムを、より高い価格で小売パートナーに販売できたと語っている。

「ブランドの立場から見ると、各ブランドはそのような独占的なパートナーシップを結ぶことで、本質的には提携している小売業者のあいだでより多くの棚が割り当てられることに期待している」と、ムーラット氏は述べる。これらのパートナーシップにより各ブランドは、小売業者のウェブサイトや店舗でより目立つように取り上げられるようになるとも、同氏は付け加えている。「ナイキはこの分野から立ち去り、アディダスやリーボックなどが、実質的にナイキによって空けられた小売店の棚に入り込む機会を与えたことになる」。

しかし、D2C戦略を推進している企業はナイキだけではない。アンダーアーマー(Under Armour)は同社の再建戦略の一環として、D2Cに集中するため、北米の卸売店舗から最大3000店舗撤退すると、2020年に語った。アディダスは昨年、2025年までにD2Cが収益の50%を占めることを計画していると語った。

アディダスのスポークスパーソンは、同社がD2Cの野心にかかわらず、小売パートナーとの連携も続けると語った。「当社の『Own the Game(ゲームを支配する)』戦略の目標は、当社独自のチャネルで売上の50%を生み出し、したがって同時に、小売パートナーからも50%を生み出すことだ。当社は今後数年間にわたり、両方の分野で成長し、2025年にも依然として多数の小売業者と協力することを望んでいる」。

販売戦略の見直しを迫られる小売店

プレイサーエーアイ(Placer.ai)のマーケティング担当バイスプレジデントを務めるイーサン・チェルノフスキー氏は、大手ブランドが自社のD2C戦略を進めるにつれ、卸売店は自社の戦略を調整し、商品を発見するための場所として自分たちを位置づけしなおす可能性があると語る。

チェルノフスキー氏は次のように述べている。「その分野の多くの、またはすべての企業を扱っている場合、ブランドで重要なのは発見プロセスだ。自社のブランドがどのようなものかを理解することは、卸売業者にとって、ブランドにとってと同じように重要なことだ」。

卸売業者はすでに、特定ブランドへの依存を減らすため、自社の品揃えをより多様化したいという希望を表明している。フットロッカーのCEOを務めるリチャード・ジョンソン氏は、同社の商品への出費のうちひとつのベンダーが55%を超えることを想定していないと語った。ジ・アスリーツ・フット(The Athlete’s Foot)は3月、米モダンリテールに対して、同社はアディダス、プーマ(Puma)、リーボックなど各種ブランドについて、アパレルの展示と店内の体験を向上させる機会を見いだしていると語った。

ほかの卸売業者はプライベートブランドに投資している。たとえば、フットロッカーは2021年10月、クラシックなストリートウェアのシルエットを中心としたLCKRという新しいアパレルラインを発表した。DSWを保有しているデザイナーブランズ(Designer Brands)は4月、2026年までに自社のプライベートブランドの売上を2倍にすることを計画していると語った。

ガートナーのムーラット氏は、ナイキが一部の卸売業者から商品を引き上げたことがどのような影響を残すかはまだ明らかでないとしている。ナイキや同業他社がD2C戦略で成功した場合、ほかのブランドもあとを追い、卸売業者にとっては困難を引き起こす可能性がある。しかし現在のところ、各ブランドはより有利な取引を結ぼうとするだろうと同氏は予測している。

[原文:As Nike cuts ties with retailers, competitors look to take its place in wholesale]

Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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