短編動画の収益分配、 クリエイターファンド は機能するのか:より持続可能なクリエイターの収益化の機会が必要に

DIGIDAY

クリエイターファンドの登場は、ソーシャルメディアプラットフォームからクリエイターへの激励のように見えた。「素晴らしいコンテンツをありがとう、これが報酬だ。これからもよろしく」と伝えているようだ。

しかし、その考えは覆され、変化を続けている。プラットフォームとクリエイターをひとつにするために考案されたものが、摩擦の原因にもなっている。すべては報酬(金)についての問題だ。クリエイターたちは必ずしも、クリエイターファンドが自分たちの仕事の対価を適切に支払っているとは感じておらず、一方でプラットフォームはきちんと支払っていると考えていた。

その結果、クリエイターたちはクリエイターファンドがどのように支払いを決定しているかについて、プラットフォームからの説明が曖昧だと訴えるようになった。そして、その疑問にプラットフォームは耳を傾け、クリエイターファンドの見直しを始めたのだ。クリエイターたちが歓迎してくれることを願い、全く異なる選択肢に置き換えたプラットフォームもある。

現状の環境はしばらく続く

最も話題になっているのは、TikTokのクリエイティビティ・プログラム・ベータ(Creativity Program Beta:TikTokクリエイターファンドの後継版)とYouTubeパートナープログラムの拡大(YouTubeショートファンドの後継版)だ。どちらも短編動画の収益化に特化している。

しかし、変わらない事実がある。エンダーズ(Enders)のシニアリサーチアナリストであるジェイミー・マクイーワン氏は、「短編動画はYouTubeの長編動画やインスタグラムのフィードほど収益化できないという事実に対する応急処置だ。そのため、競合他社に対抗するためだけでなく、クリエイターに自社の新製品を支持してもらうためのインセンティブが必要だ」と指摘する。

上記の指摘は、「その通りだ」といえるだろう。問題はクリエイターファンドはもともと短編動画を育てるための暫定的な手段としてつくられたもので、決して長期計画の一部ではなかったことだ。

簡単に言えば、短編動画が台頭するなか、より多くのクリエイターとそこに集まる何百万ものユーザーを囲い込むため、反射的に動いた賜物だといえる。そのため、プラットフォームはより多くのクリエイターを囲い込むことができ、その結果として数百万人のユーザーを獲得することができたのだ。ただし、各プラットフォームにとって長期的な計画は未完成であり、まだしばらくは現在の状態が続くだろう。

本来の目的はクリエイターの維持

YouTubeショートは最近、クリエイターに支払う金額を減らしている。メタ(Meta)はリールのクリエイターファンド(リール再生ボーナスプログラム)を米国で一時停止し、その後継として収益分配の仕組みづくりを進めている。どちらもコンテンツの報酬を支払う最良の方法をまだ見つけていないようだ。いずれにせよ、クリエイターファンドの焼き直しになることはないだろう。

クリエイターファンドの本来の目的とは少なくとも当初、クリエイターにより多くのコンテンツを生み出してもらうこと、そのモチベーションを維持することだった。その目的こそ、達成しているといえる。

オースティンで3月に開催されたサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)で、TikTokの製品責任者だったショーン・キム氏はそのことを認めている。ただし、同氏によればTikTokにとっての初めてのクリエイターファンドは、クリエイターが収益を得るためにつくられたわけではなく、ただ競争に対応しただけだという。厳密に言えば、収益は後から付いてきたものだという。

不満と改善

さらに、クリエイターファンドのインフラに関わる共通の問題がある。TikTok、YouTube、メタのクリエイターファンドはいずれもクリエイターの数にかかわらず、上限がある(または、あった)。つまり、プラットフォームが人気を博し、短編コンテンツを制作するクリエイターが増えるほど、分け前が小さくなるように作られていたのだ。

しかしながら、クリエイターファンドが全く機能していないわけではない。TikTokはクリエイターファンドに対する不満など、クリエイターソリューションに関するクリエイターからのフィードバックを受け、クリエイティビティ・プログラム・ベータ(業界では、TikTokクリエイターファンド2と呼ばれている)を発表した。

理論的には、クリエイティビティ・プログラム・ベータは最初のクリエイターファンドより上手くいくはずだ。より排他的なプログラムなため、参加者が少なく、よりコントロールしやすい。そのため、高いインセンティブが得られる。TikTokで690万のフォロワーを獲得しているアビー・バーナー氏をはじめとするトップクリエイターたちは、TikTokの新しいクリエイタープログラムとその報酬にまだ違いを感じていないようだが、評価を下すのは時期尚早だろう。

大金を稼ぐことができない理由

多くのプラットフォームにとっての厳しい現実は、人々が短編動画の視聴により多くの時間を費やし、広告収入が少なくなっていることだ。実際、ミッドロールに大量の広告を挿入するには短すぎる動画で稼ぐのは難しい。

YouTubeを例にとって説明しよう。YouTubeで10分の長編動画を制作した場合、動画の前に広告を流し、動画全体に広告を挿入し、さらに、動画の後に広告を流すという選択肢がある。ひとりのクリエイターが制作した1本の動画で、より多くの広告収入を得ることができるわけだ。一方、同じクリエイターが30秒のショート動画を投稿した場合、時間があまりに短すぎるため、動画の前や途中に広告を流すことができない。その代わりに、ショート動画4~5本のあいだに広告1本が配置される。

YTジョブズ(YT Jobs)の共同創業者で、クリエイターでもあるパディー・ギャロウェイ氏は、「動画1秒あたりの広告数で考えると、実はあまり違いはない。ただし、短編動画は文字通り、短いという事実があるだけだ。そのため、同じように収益を上げることができない」と話す。つまり、YouTube、インスタグラムなどがより持続可能なクリエイターの収益化の機会を構築しようとしているのは理にかなっている。

実験の時期

TikTokはどうだろうか。TikTokは最近、クリエイターが長いコンテンツにペイウォールを設定できるシリーズ(Series)機能を発表した。そのほか、Snapchat(スナップチャット)は、特定のテーマで最高の動画を投稿したユーザーに賞金を授与するSpotlightチャレンジを導入している。プラットフォームにとって、今は実験の時期なのだ。

マーベリック(Mavrck)のインフルエンサーイノベーション担当アソシエイトディレクターであるリンジー・ギャンブル氏は、「プラットフォームはサブスクリプションやチップなど、クリエイターが収益を上げるためのツールを次々と発表している。クリエイターが収入を得る代替的な手段を用意し、プラットフォームの収益をあまり食いつぶすことなく、長く続けることできるようにしている」と説明する。「プラットフォームにとって大きな課題のひとつは、クリエイターの収益化を支援しながら、自分たちのビジネスを正しく行うことだ」。

しかし、このような新しいビジネスの流れは、問題の核心に直接的に対応するものではない。問題の核心とは、プラットフォームにとって短編動画は収益化が難しいという現状だ。たとえば、サブスクリプションやチップは、報酬の不足分を補う責任をクリエイター自身のコミュニティーに負わせるものだ。そして、当然ながらクリエイターたちはこれまでプラットフォームから直接得ていた報酬を自分のファンに頼ることに消極的だ。

革新的な方法は生まれてきている

ウィー・アー・ベリファイド(We Are Verified)のCOOを務めるフィル・ランタ氏は、「クリエイターファンドの代わりとなる最良の解決策はやはり、クリエイターのコンテンツで得た広告収入を分配することだが、これは構築もサポートも難しい」と話す。

確かにそのとおりだ。収益分配は、クリエイターへの支払いがチャンネルのパフォーマンスとより密接に結び付く。つまり、プラットフォームがコンテンツの対価を支払うことに変わりはないが、決してプラットフォーム自身の利益を損なってはならない。

YouTubeがショートファンドを廃止し、短編動画の収益化をパートナープログラムの一部にしたのはまさにこのためだ。クリエイターたちはことし2月から、ショートフィードに表示された短編動画で発生した広告収入の一部を得られるようになった。そして、これは長編動画を対象とした収益分配制度に追加されたものだ。

YTジョブズのギャロウェイ氏は、「YouTubeがクリエイターの収益化を実現する方法はとても革新的で、時代を先取りしている」と評価する。「今までにない最高のビジネスモデルだと思う。なぜなら、クリエイターはコンテンツをつくることで報酬を得ることができ、オーディエンスはお金を支払うことなく素晴らしいコンテンツを視聴できるためだ」。

ほかのプラットフォームが広告収入の分配を実現するには技術インフラが必要で、クリエイターに報酬を支払うだけでなく、クリエイターに広告収入を適切に分配する方法を計画しなければならない。つまり、クリエイターファンドは、より永続的な収益分配制度を検討し、実行する「足掛かりの役割」を果たしてきたといえるのではないだろうか。

[原文:Short-form video needs better monetization, creator funds aren’t the way to do it

Krystal Scanlon(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)

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