なぜプーチンの戦争勝利への決意表明はゼレンスキー訪米と同日だったのか

アゴラ 言論プラットフォーム

ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ロシアとの戦争が始まって以来、初めて外遊し、米国のホワイトハウスを訪問、バイデン大統領と会談した。バイデン大統領は会談後の記者会見で、「ウクライナへの軍事支援を今後も続けていく」と述べた。具体的には、総額18億5000万ドル(約2400億円)規模の追加軍事支援として、地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」などの供与を約束した。

国防省理事会拡大会議で演説するロシアのプーチン大統領(中央)左セルゲイ・ショイグ国防相、右ロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長(2022年12月21日、クレムリン大統領府公式サイトから、写真タス通信)

パトリオットは、ロシア軍のミサイル攻撃や無人機攻撃などに対抗する地対空ミサイルで、ゼレンスキー氏は、「ウクライナの防空能力を大幅に強化できる」と歓迎している。

ゼレンスキー大統領は米連邦議会の上下両院合同会議で演説し、第2次大戦時の米大統領フランクリン・ルーズベルトやチャーチル英首相の有名な演説の一部を引用し、「ウクライナ国民は絶対的な勝利を勝ち取る」、「ウクライナは降伏しない」と決意表明した。ゼレンスキー氏は、「米国のウクライナへの支援は決して慈善ではなく、世界の平和と民主主義への投資だ」と強調している(時事通信のワシントン発参考)。

ホワイトハウスでバイデン大統領と会談するゼレンスキー大統領 ゼレンスキー大統領SNSより

同じ時期、モスクワ国防省で開催された同省理事会拡大会議でロシアのプーチン大統領は軍部指導者に向けて演説し、「ロシアはウクライナでの戦いで勝利すると確信している。一歩一歩、軍事目標を実現していく」と説明し、ウクライナ戦争勝利への決意を同じように表明した。プーチン氏の演説は戦争で亡くなった兵士たちへの1分間の黙祷から始まった。演説はTVで中継された。

プーチン大統領は、「ウクライナ戦争はロシア軍にとって貴重な経験だ。ソ連軍が勝利した1812年のナポレオンに対する愛国戦争や、第1次および第2次世界大戦を思い出し、勝利のために前進しなければならない」と檄を飛ばし、「われわれは先端武器を導入し、軍の再軍備を急がなければならない、例えば、無人機の利用だ。また、核戦力の戦闘準備を進めていかなければならない」と主張、改めてウクライナで核兵器を使用する意思のあることを示唆している。

同時に、軍リーダーたちに、その軍事的活動の改善を要求する一方、「軍隊は150万人に増やす。建設的な批判には注意を払うべきだ」と語っている。プーチン氏の演説は、ウクライナでの全ての軍事目標を達成するという強い意志を再確認したものと受け取られている。

なお、核兵器について、プーチン氏は演説の中で「私たちは、核トライアド(大陸間弾道ミサイル、弾道ミサイル搭載潜水艦、巡航ミサイル搭載戦略爆撃機の3つの核兵器)の戦闘準備を維持し、改善し続けている。それは、私たちの主権と領土の完全性、戦略的平等、そして世界の力の全体的なバランスが維持されるための主な保障だ」と述べている。

興味深い事実は、ゼレンスキー大統領の訪米とプーチン大統領の国防省での演説が同じ日に行われたことだ。多分、プーチン大統領はゼレンスキー大統領の訪米という極秘情報を入手し、米国側のパトリオット供与を聞き、ロシア側の決意をウクライナ、米国に向かって表明したのだろう。米国のパトリオット供与に対し、プーチン氏は無人機を駆使し、必要ならば核兵器の使用を示唆するなど、軍事分野でもウクライナと米国に対抗する姿勢を鮮明化したわけだ。

参考までに、プーチン氏は米国を含む西側がウクライナ問題で突っ込んだ対策をした時には必ずその前後に返答している。例えば、ドイツ南部バイエルン州のエルマウで6月26日から3日間の日程で先進7カ国首脳会談(G7サミット)が開催され、ウクライナ支援問題が協議された時だ。プーチン大統領は、ウクライナに武器を供給するG7を含む西側に対して答えている。

具体的には、6月25日、核搭載可能な弾道ミサイルのベラルーシへの供給を表明し、同月26日にはキーウ空爆を再開、27日にはウクライナ中部のショッピングモール空爆と、G7開催期間の3日間、ロシア軍は立て続けにウクライナ空爆を強化している。今回の国防省理事会拡大会議の内容もその流れからみれば明らかだ。

ゼレンスキー大統領の訪米とプーチン大統領の国防省での演説から、ウクライナ戦争はここしばらくは停戦の可能性は少なく、2023年の新年に入っても継続する可能性が一段と現実味を帯びてきた。ゼレンスキー大統領は「来年が転機となる」と語り、ロシア軍との戦いが大きな山場を迎えるだろうと予想している。

なお、プーチン大統領は戦局を打開するために新年早々にもベラルーシ軍とロシア軍の連携によるキーウ制圧を再度考えている、という憶測が流れている。プーチン大統領は12月19日、ベラルーシを訪問、ルカシェンコ大統領と会見し、両国の軍事協力の強化で一致している。

プーチン大統領もゼレンスキー大統領もウクライナ戦争の勝利を誓って決意表明しているが、一方が勝利すれば、他方は敗北を意味する。しかし、戦争で敗者は確かに存在するが、勝利者はいるのだろうか。

アメリカのホワイトハウス kanzilyou/iStock


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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