南極で見つかった未踏の世界最高峰「狂気山脈」に挑む登山家たちの姿を描くアニメ「狂気山脈 ネイキッド・ピーク」はどのように作られているのか原作者・まだら牛が語る

GIGAZINE
2023年05月13日 12時00分
取材



クトゥルフ神話と登山を融合させたTPRG「狂気山脈~邪神の山嶺~」を原作としたアニメ「狂気山脈 ネイキッド・ピーク」の制作プロジェクトが進行しています。制作資金の一部をクラウドファンディングで募ったところ、目標の800万円に対して1億円以上が集まり、パイロットフィルムが作られました。マチ★アソビ vol.26では、原作者であり自らアニメ化企画を推し進めているまだら牛さんが、多くの観客を前にトークイベントを行いました。

アニメ映画『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』公式サイト
https://nakedpeak.jp/


会場はufotable CINEMAシアター1で、座席は満席。抽選で選ばれた人が参加しました。


まずは制作ドキュメンタリーとパイロットフィルムが上映されました。この内容はYouTubeで見ることが可能です。

【配信アーカイブ】『狂気山脈 ネイキッド・ピーク』 パイロット・フィルム & 制作ドキュメンタリー – YouTube
[embedded content]

上映後、まだら牛さんが企画経緯から最新の進捗まで、ありとあらゆることを語ってくれました。

そもそもの原点にあるのは、H・P・ラヴクラフトが生み出した架空の神話体系「クトゥルフ神話」です。その一編が、1930年代の南極最奥地で見つかった標高1万メートル超えの未踏峰「狂気山脈」で、調査を行う中で人知を超えた何かに出会う「狂気の山脈にて」。

まだら牛さんは、「もし現代において、再び狂気山脈が見つかったらどういった物語が展開されるか」というTRPGのシナリオを作成しました。

登山家たちのクトゥルフ神話TRPG – YouTube
[embedded content]

このTRPGシナリオをアニメ映画にしようというのが本企画です。しかし、まだら牛さん自身は1人でアニメを制作できるわけではないため、その第一歩としてパイロットフィルムを作ることに。このあたりの計画は登山になぞらえた図で示されています。


パイロットフィルム制作にあたり、まだら牛さんは出資可能な全財産を出した上で支援金を足せばまず完成までたどりつけるだろうと考え、800万円を目標としたクラウドファンディングを実施しました。

しかし、フタを開けてみると目標の800万円を突破したどころか、最終的に支援者が1万1862人、支援総額が1億1930万191円という結果になりました。

狂気山脈 アニメ映画化プロジェクト – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
https://camp-fire.jp/projects/view/477736


あまりにも多くの支援が集まったことにより、まだら牛さんは「ハードルが上がってしまい、むしろ生半可なものは出せないのでは……」と不安を抱くことに。


また、アニメ業界の状況として「お金があればアニメ化できる」というわけではないというのも難しいポイントでした。TRPGのアニメ化はアニメ業界でも考えていた人がいるらしく、クラウドファンディングの盛り上がりに合わせて「うちでやりませんか」と声をかけてくる会社がいくつもあったのですが、どこも「ラインが空くまで3年待って欲しい」という話だったとのこと。

クラウドファンディングで大金を集めながらも、パイロットフィルムの着手まで3年もかかるということは、それだけ支援してくれた人を待たせるということであり、同時に、本編の制作まではさらに時間がかかるということ。「これは正攻法では無理だ」と考えたまだら牛さんが出会ったのが、熊谷友作監督の所属するステロタイプでした。

ステロタイプはMVやPV、CMなど短尺の映像を専門とする会社で、その中でアニメーションを活用するというスタイルであり、通常のテレビアニメやアニメ映画などのラインとは違うやり方だったことから、短い時間で高いクオリティのパイロットフィルムが完成しました。

しかしこの先、アニメ映画本編を制作するとなると、このままのメンバーのみでやっていくにはマンパワー不足であり、また、アニメ映画のノウハウも持ち合わせていないということで、本編制作に向けた第2回クラウドファンディングが行われています。

2回目を実施するかどうかはメンバー内でも意見が分かれたところだそうで、まだら牛さんとしても1回目のクラウドファンディングで大きな支援があったにもかかわらず本編制作に至らなかったことにふがいなさを感じたとのこと。しかし、制作ラインが確保できるまでの間に手を止めることなく、「設定を詰める」「脚本を仕上げる」「構成を決める」「絵コンテを進める」など少人数でもできる部分を進めておき、体制が決まったとき一気に進めるための当面の応援を求めるということで実施されることが決定。

第1回の10倍・8000万円を目標として「全期間でなんとか集まれば」と実施されたクラウドファンディングは、またも2日で目標額を突破。2023年5月14日(日)の締め切りに向けて、記事掲載時点で支援者数は1万3000人以上、支援額は1億5000万円以上が集まっています。

映画「狂気山脈 ネイキッド・ピーク」本編制作プロジェクト – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
https://camp-fire.jp/projects/view/653933


「ここまで何が行われてきたか」についてのタイムラインを説明するまだら牛さん。アニメーション制作をステロタイプと一緒に行うことになり、実制作に入ったのは2022年4月のこと。


制作ドキュメンタリーの中で語られていますが、アニメ化の理由の1つは、本格的な登山、クライミングのアニメはこれまでにあまり存在していないから、というもの。ちょうど直近、2021年に夢枕獏のベストセラー小説を「孤独のグルメ」で知られる谷口ジローが漫画化した「神々の山嶺」がフランスでアニメ映画化されていますが、それぐらい。アニメ調のキャラクターで、アニメらしい表現で、ということになるとちょっと見当たりません。

7/8(金)全国公開『神々の山嶺』本予告 – YouTube
[embedded content]

このため、作り方にしても絵面にしても、参考になるものがなく、何が必要なのか、どうすればこの映画が作れるのかということの正解が分からず、実制作に入るまでは、ただただ「この先、何が必要になるか」を考えて事前準備と資料集めをしていたとのこと。

その中で行われたのが「狂気山脈隆起会議」です。


TRPGはプレイヤー同士が会話をしながら進めていくので、目の前にどういう光景が広がっているかは、ゲームマスターの言葉を受けてプレイヤーがそれぞれ想像します。ところが、その脳内に広がっていた映像を形にするにあたっては、ちゃんとした共通認識が必要になります。「狂気山脈隆起会議」は、どういう山なのか設定を詰めて、それを立体モデルにするための場というわけです。

ベースとして用いられたのは、南極の氷の下の地形図。小説「狂気の山脈にて」はまだまだ南極に未解明の部分が多かった1930年代に書かれていますが、「南極のこのあたりで山脈が見つかった」と記述されている座標にはガンブルツェフ山脈があったそうです。

これで「本当に『狂気山脈』はあるのでは?」となった制作チームは、地質学研究者・山岡健さんに南極に関する調査を依頼。その結果、もし南極の氷がすべてなくなってガンブルツェフ山脈が姿を現すとなったときには、本当に高さ1万メートル超の山脈に育つ可能性があることがわかりました。そこで、作中で描く狂気山脈はできるだけリアリティを追及し、南極の地形図をもとに、さまざまな検討を重ねて立体モデルが作られることになりました。

まだら牛さんは夢として、狂気山脈の山頂を南極の氷河の最高地点・ドームアーガスに設定したことから、映画が完成した暁には、「狂気山脈」の聖地であるドームアーガスで最速上映会をやりたいと考えているとのこと。なお、現地の平均気温は-20℃です。

「狂気山脈隆起会議」のほかに、1月~3月には事前準備として、必ず作中で出てくることになるアイスクライミングの資料映像撮影が行われました。これは、アイスクライミングの動きはアニメ化されたことがないはずで、描けるアニメーターさんもいないはずなので冬の間にしか撮れない映像を撮っておこうという考えによるもの。


クライミングを担当したのは、世界大会に日本代表で出ることもあるというプロ・アイスクライマーの八木名恵さん。赤岳鉱泉で冬の間作られている人工の氷の滝で映像の撮影が行われました。

また、氷壁ではないところのクライミング資料の撮影も行われました。まだら牛さん自身が登山をすることもあって、映像作品でのクライミングシーンはだいたいの作品で間違っていて「そういうやり方だと死ぬ」というようなことをみんなやっているため、「クライミング警察が怒らないものを作ろう」というところを目指したそうです。実際に、日本有数のクライマーである平山ユージさんに見てもらったところ「これはすごいです。バッチリ合っています」とお墨付きをもらったとのこと。


アニメーション制作にかけて、まだら牛さんはプロではなく自分で絵も描けないため、レイアウトや作画、動画、美術、色彩といった部分は専門の方々に任せて、コンテまでを熊谷監督と膝をつき合わせて詰めていったそうです。


厳しいスケジュールでなんとか制作が進んでいく中で困ったのは音周り。パイロットフィルムには効果音をほとんど入れておらず、わずかに冒頭と末尾にだけ入っています。その中に「装備を外して地面に落とす」音があるのですが、いざ上がってきた絵に音をつけてみたらまったくそれっぽいものにならず、環境を変えて録音したり、別の音にしたりといろいろやったもののダメで、結局、2023年の年始早々、まだら牛さんは山岳監修の山屋さんや音響の方に声をかけて実際に山の中で音を録ることに。


そうやって録音したことで音がようやくOKになり、撮影を行ってパイロットフィルムは完成。制作にあたってクラウドファンディングで支援を受けて作ったものなので、なによりも支援してくれた人に見てもらいたいのですが、実際問題、支援者全員を映画館に招待することは不可能。このため、作品は基本的にYouTubeで公開されています。

YouTubeで公開するにあたっては、観客の閲覧環境はほとんどスマホであると考えられるため、レイアウトからスマートフォンで見ても迫力があるようにと練られ、音合わせもBluetoothイヤホンで見たときにちゃちく聞こえないように調整を施しているとのことでした。

なお、映画の中に出てくる「SIX SUMMITS」というアウトドアブランドが現実にも出現しています。この名前は7大陸最高峰を示す「セブンサミッツ」に対して、作中世界では南極の狂気山脈はまだまだ未知の最高峰なので、6つの大陸の最高峰を示す「シックスサミッツ」という語が用いられるという設定から。

現実世界では「狂気山脈」が未知の未踏峰登頂を目指す話であることから、本当にSIX SUMMITSのメンバーがネパールヒマラヤの未踏峰・サウラヒマールに登頂してきたとのこと。さらに、リアルのギアも作られていて、声優・ファイルーズあいさんのお兄さんでプロアイスクライマーである門田ギハードさんに監修してもらっています。こうした試みを、本編公開までにあと4つぐらい計画しているとのことでした。


なお、トークイベントとは別に阿波銀行本店営業部2階の展示スペースを用いて、パイロット版製作資料展示会も行われました。


アイテムは原画なども含めてすべて撮影自由となっていました。


細かく指示が書き込まれています。


このシーンは実際にどうなったかという場面写真も展示されていて、比較することができました。


ドンと置かれたジオラマ


これが「狂気山脈(漆黒部)立体モデル」。樹脂粘土・スカルピーを用いて、有名造形作家である大山竜さんが制作しました。なお、険峻な山の形は「ゴジラっぽく」と決まったことが制作ドキュメンタリーで語られています。


同じく大山さんによる「古のもの」。複製原型に彩色を施したデコレーションマスターが2体作られ、1体はクラウドファンディングのリターン品になりました。


制作現場で用いられたクライミングギア類、大半はまだら牛さんの私物だとのこと。


設定資料集や、アニメの原作にあたる「狂気山脈~邪神の山嶺~」のリファイン版と狂気山脈を登りきった探索者のみが挑める後編シナリオ「未知なる山嶺を夢に求めて」を収録したTPRGシナリオブック「狂気の峰へ」も展示されていました。


シナリオブックはBOOTHにて無料でダウンロード可能です。

『狂気の峰へ』 クトゥルフ神話TRPGシナリオブック – FORESTLIMIT Publishing – BOOTH
https://booth.pm/ja/items/1071516


アニメ映画「狂気山脈 ネイキッド・ピーク」本編制作に向けたクラウドファンディングは2023年5月14日(日)まで受付中。残数が設定されているプランは以下の通りです。

500円:リターン品なし
2228円:オスコー財団会員カード1枚(第1回クラウドファンディングのリターンと同一品)
2568円:パイロットフィルムのパンフレットとグッズ2種(キービジュアルポストカード、ロゴステッカー)
2614円:登山記念バッジ“狂気山脈”バージョン
2745円:コージー・オスコーの姿が描かれたSNS風アクリルキーホルダー
3190円:設定資料集β1冊(第1回クラウドファンディングのリターンと同一品)
3776円:まだら牛さん直筆サイン入りA2サイズキービジュアルポスター
4401円:特別な「絵本」
6235円:クライミング・カラビナ「環つき」タイプと「ワイヤーゲート」タイプ(6色から選択可能)1個ずつセット
6740円:パイロットフィルム制作記録書籍
8611円:パイロットDVD(非売品)(第1回クラウドファンディングのリターンと同一品)
1万1862円:未公開映像DLカード
2万1230円:映画本編エンドロールに名前をクレジット
3万4000円:山岳立体模型キット「やまつみ」狂気山脈コラボモデル
3万5765円:クライミング・カラビナ「環つき」タイプと「ワイヤーゲート」タイプ全6色セット

映画「狂気山脈 ネイキッド・ピーク」本編制作プロジェクト – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
https://camp-fire.jp/projects/view/653933


この記事のタイトルとURLをコピーする

Source

タイトルとURLをコピーしました