クリエイターエコノミー の拡大で、IPビジネスが個人クリエイターも可能に:「ビジネスチャンスはますます広がるだろう」

DIGIDAY

「知的財産(IP)」といえば、ディズニーのような巨大グローバル企業のためにある言葉だと思われがちだ。実際、ディズニーはミッキーマウスをはじめとする人気キャラクターや、マーヴェルのフランチャイズ映画を大量に保有し、商品販売やコンテンツ配信などを通じて巨額のライセンス収入を得ている。それがいまや、個人の動画クリエイターたちも、このIPビジネスの分け前にあずかろうとしている。

この10年で、クリエイターが小売企業などを相手に肖像権のライセンス契約を結び、商品開発などで連携するケースが急増した。それどころか、化粧品や衣料品からコーヒーのような嗜好品まで、商品分野の別を問わず、独自の物販事業を立ち上げるクリエイターも現れている。もっと最近では、ジェリースマック(Jellysmack)やスポッター(Spotter)のように、クリエイターの過去の動画作品、いわゆるバックカタログの使用権を獲得するために、数百万ドルのライセンス料を支払う企業も出てきた。さらに、クリエイターが過去の作品や既存のフォロワーから新たな収入源を生み出す潜在的な機会として、NFT(非代替性トークン)にも注目が集まっている。

IP事業の「民主化」が進む

「我々のクライアントにとって、ビジネスチャンスは確実に広がっている」。そう話すのは、タレントエージェンシーのUTAでデジタルタレントエージェントとして活動するマザド・ババヤン氏だ。ババヤン氏は顧客であるクリエイターたちと連携して、それぞれのコンテンツチャネルを活用したコマースビジネスを開発している。

クリエイターを顧客とするタレントマネジメント会社、アンダースコアタレント(Underscore Talent)の共同創業者で出資者でもあるレザ・イザド氏も、「クリエイターがオーディエンスを収益化する機会はかつてないほど大きくなっている」と述べている。

クリエイターのIPを収益化する機会が爆発的に増えている背景には、いわゆる「クリエイターエコノミー」の急拡大がある。タレントマネジメント会社やマルチチャネルネットワーク(MCN)など、クリエイター重視の企業は10年前にも存在した。しかし近年は、コマースやライセンス事業など、特定分野に注力する企業も増えており、コンテンツやフォロワーから新たな収入源を開拓できるクリエイターの幅が広がっている。メディア企業のインフォメーション(The Information)によると、米国におけるこの種のクリエイターエコノミー企業は、2021年の幕開け以来、すでに60億ドル(約7800億円)超の資金を調達しているという。

「クリエイターエコノミーは、ディズニーが完成させたIP事業のフライホイール効果を民主化した。個人のクリエイターたちにもその恩恵が波及している」。そう語るのは、戦略アドバイザリーサービスを提供するロックウォーター(RockWater)で、マネジャーを務めるアンドリュー・コーエン氏だ。

さらに、タレントマネジメント会社スラッシュマネジメント(Slash Management)を創業し、プレジデントを務めるジェイク・ウェッブ氏は、「クリエイターに投資される資金を見れば、コンテンツに価値があること、IPに価値があることが分かる」と述べている。

クリエイター支援に取り組む企業たち

たとえば、ジェリースマックとスポッターは、クリエイターと結ぶバックカタログのライセンス契約に、今後数年間でそれぞれ5億ドル(約650億円)6億7000万ドル(約870億円)を投じる計画という。スポッターの創業者でCEOのアーロン・デブヴォワース氏は、「1万ドル(約130万円)程度の案件にも対応するし、5000万ドル(約65億円)超の取引も歓迎する」と述べている。一方、デジタルスタジオの運営とコンテンツの権利管理をおこなうコラボ(Collab)で最高戦略責任者を務めるエリック・ジャックス氏によると、同社がクリエイターに支払ってきたコンテンツ使用料は、この10年間で2億ドルを優に超える。さらに、クリエイターと共同で商品の開発や販売をおこなうファンジョイ(Fanjoy)は、創業者兼CEOのクリス・ヴァッカリーノ氏によると、2014年以来、クリエイターに対して5000万ドル(約65億円)以上を支払ってきたという。

しかし、これらの企業は、大規模なフォロワーを持つ上位1パーセントのクリエイターに限って取引しているわけではない。むしろ、幅広いクリエイターの支援に力を入れている。たとえば、ジェリースマックはYouTubeのチャンネル登録者が数千万人にのぼるクリエイターと契約する一方で、登録者数が5万人程度のクリエイターとも仕事をしていると、プレジデントのショーン・アトキンス氏は述べている。

IPを収益化する機会が中堅や中小のクリエイターに広がっていることは、クリエイター経済が拡大していること、さらにはフォロワーに対するクリエイターの影響力が認められつつあることの証左でもある。肖像権のライセンス契約や会社の立ち上げなど、コマース関連の機会の広がりは特に顕著だ。

タレントマネジメント会社のマターメディアグループ(Matter Media Group)の創業者でCEOを務めるイヴゲイル・アンダル氏によると、「中堅クリエイターのなかには、独自ブランドの立ち上げや、気に入りのブランドとのコラボレーションに、より野心的に乗り出す者が数多く現れている」という。

IPマネタイズ化の機会は拡大

ブランドへのライセンス供与は、著名なクリエイターが大手ブランドと限定的に展開する小規模なコラボレーション、いわゆるカプセルコレクションに端を発する。そう話すのは、インフルエンサーマーケティングエージェンシーのビーソーシャル(Be Social)を創業し、CEOを務めるアリ・グラント氏だ。インスタグラムが「ストーリーズ」の投稿にリンクを追加できるようにしたことで、こうした機会がより多くのクリエイターに開かれた。グラント氏によると、コラボレーションを模索するブランドにとって、リンクのパフォーマンスは、クリエイターがフォロワーを動かして商品ページを訪問させ、商品を購入させたか否かの証拠ともなるという。

ファンジョイも商品販売でクリエイターと連携する際は、同様の手法で評価をおこなっている。クリエイターとコラボ商品を展開するにさきだって、クリエイターの影響力を測るテストを実施するのだという。具体的には、自分のフォロワーをインスタグラムからファンジョイのサイトのポップアップページに送り、そこで電子メールアドレスや電話番号を提供してもらうというもの。「最初の段階で1000件のメールアドレスや電話番号を集められるクリエイターなら、商品を売る力もあるだろうとの感触が得られる」と、ヴァッカリーノ氏は述べている。

クリエイターが自分のIPをマネタイズする機会は現在でも多く存在するが、今後、その数は増える一方だと思われる。これまでのバックカタログのライセンス契約は、基本的に、クリエイターのYouTube動画をFacebookやSnapchatなど、ほかのソーシャルプラットフォームで配信することに主眼を置いていた。しかし、ストリーミングサービスの急増により、配信先の選択肢はさらに広がっている。UTAのババヤン氏は、「ストリーミングには多大なビジネスチャンスがある。今後半年から1年のあいだに顕在化してくるだろう」と述べている。

NFTの活用も

さらに先の話ではあるが、クリエイターがIPを収益化する機会はNFTにもある。実のところ、クリエイターによるNFTの活用はすでにはじまっている。たとえば、ネルクボーイズ(Nelk Boys)は2022年1月にNFTコレクションで2300万ドルを稼ぎ出した

「これを可能にするためのテクノロジーはすでにある。そして詰まるところ、この話は権利管理の問題に行き着く」とスラッシュマネジメントのウェッブ氏は話す。「NFTはクリエイターたちに多くの機会をもたらす一方で、長期的な権利管理や著作権の議論にも一石を投じるだろう」。

[原文:‘The opportunity has never been bigger’: How the creator economy has opened options for creators to profit from their intellectual property

Tim Peterson(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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