iOS14 から1年、広告主が変化を振り返る:「デジタル広告に対する考え方を変えることに」

DIGIDAY

この1年、Appleが導入したアプリのトラッキング制限はデジタル広告業界を震撼させ、モバイル広告の効果測定に大きな打撃を受けた広告主は、予算をほかに移すことを余儀なくされた。

ただ、この激変への適応に取り組んだ12カ月間は、AppleのATTが広告の問題ではなく、アトリビューションの問題であるということをメディアバイヤーたちに明らかにした。トラッキングが難しくなったからといって広告の効果が薄れているわけではない。難しくなったのは、それぞれの広告にどれくらい効果があったのかを測ることだ。

「100万ドルの問題」

iOS14以来、ユーザーはアプリやサイトを横断するトラッキングをオプトアウトできるようになった。こうしたトラッキングは、IDFA(広告識別子)と呼ばれるモバイル端末の識別子を使用して行われる。IDFAは、広告を見た後に商品を買ったか、アプリをダウンロードしたかを知る上で不可欠な役割を果たすものだ。IDFAの共有をオプトアウトする人が増えるに従い、マーケターのデータのギャップも大きくなっていった。

とはいえ、すぐさま影響が現れたわけではない。変更そのものも、徐々に進んでいった。AppleがiOS14.5を発表したのは2021年4月末だが、14.6が公開される2021年5月下旬までユーザーにアップグレードを迫ることはしなかったため、ATTのプロンプトが表示されるiOSのバージョンが実際に広くダウンロードされるまでには少し時間のギャップがあった。2021年6月末には、iOSユーザーの77%以上がアップデートを済ませていた。その数字は、現在は若干下がって75%となっている。

その後、さらに新しいバージョンも公開された。イーマーケター(eMarketer)によると、米国のiOSユーザーの37%がATTプロンプトを通してトラッキングにオプトインしている。

Appleが実際に制限を始めた最初の数カ月は、ROAS(広告費対効果)とCPA(顧客獲得単価)が従来の数字にまったく及ばないものになってしまった、と語るのはテキサスを拠点とするフルサービスエージェンシーであるMMIでメディア担当シニアバイスプレジデントを務めるフレディ・ダバギ氏だ。マイクロソフト(Microsoft)、オレイ(Olay)、Amazonなどのクライアントを擁する同社は、何かしらのパフォーマンス情報を探り出そうと、キャンペーンの実施に以前より資金や時間をかける結果となったそうだ。

ダバギ氏は「アトリビューションはいつでも100万ドル(約1億2500万円)に値する究極の問題」だと話す。

広告費の費用対効果が向上

全体的に、マーケターの予算はこのアップデートを受けてAppleから離れている。イーマーケター(eMarketer)の報告によると、2021年2月上旬時点でのマーケターの予算はiOSとAndroidの両OSのあいだでほぼ半々に分かれ、43.84%がiOSアプリのインストールキャンペーン、56.16%がAndroidへと向けられていた。プライバシー制限が登場してからほんの数カ月後の2021年6月には、Appleの割合は30%を下回るまでに落ち、Androidの予算割合は70.29%にまで伸びている。

このトレンドは、データが少なくなれば広告のパフォーマンスも悪くなるのではないかという広告主の不安を反映している。当初の報告では、ATTが全般的にアプリ内広告の価値を失わせたかのように見えていた。だが、グプタメディア(Gupta Media)の戦略・アナリティクス担当ディレクター、ジョーダン・マドックス氏によれば、そうではない場合も多いらしい。

Appleの制限が導入される前、グプタメディアのクライアントであるフェンダー(Fender)は、Facebookやその製品とはアトリビューションの正確さが異なるTikTokやYouTubeなどで大規模な展開を行うことに強い懸念を示していた。

だが、iOSの変更によってフェンダーはその考えを見直さざるを得なくなり、マドックス氏によれば「アトリビューションROAS目標の一部について態度を軟化させた」そうだ。その結果、プラットフォームに対する広告費がFacebookだけではなくYouTubeも含めて再配分され、最終的には新規ユーザー獲得による収益増大で広告費の費用対効果が向上したという。

多様化を後押し

ATTは、メディア予算をどこにどのように向けるべきかを見直す機会となり、メディア支出の多様化を推進させている

「全体的にFacebookの費用がかなり高い場合が多く、最適化を図っていたクリック、コンバージョン、ROAS、CPAなどの効果が弱くなっていた」とダバギ氏は話す。具体的な数字は挙げなかった。

一部チャネルでは価格引き上げがあり、それが問題をさらに大きくした。グプタメディアのFacebook CPMトラッカーを見ると、iOSの変更の影響が最高に高まっていた2021年の第3四半期、FacebookのCPMの平均は約3.85ドル(約482円)に上っている。この数字はずっと同じ水準で推移していたが、ホリデーシーズンなど特定の時期になると急上昇し、一時は7ドル(約875円)を上回るまでになった。ATT以前の2021年第2四半期の平均値は3.29ドル(約412円)だ。

iOS14が広告業界に与えた全体的な影響がどのようなものであったかというと、広告を見た人の行動としてはさまざまな可能性があるものの、プライバシーに関する変更で従来のようにその行動すべてが報告に含まれなくなったというのが実質的なところだ、とマドックス氏は説明する。「広告の効力の感触をつかむには、ほかの方法も検討できなければならない」そうだ。つまり、フェンダーをはじめとする広告主は、全体的な消費者動向を見る必要があるということだ。

レモンからレモネードを作るには

この1年間、広告主はAppleが課した制限というレモンからレモネードを作ろうと努力してきた。

ソーシャルエージェンシーのモディフライ(Modifly)の有料広告責任者であるブランドン・ビアンカラニ氏は、iOS14.5が最初に公開されたとき、その前は好調であったクライアントがKPIを一定に保つのに苦労し始めたと話す。カリフォルニア州を拠点とする同社のクライアントには、スーパー・コーヒー(Super Coffee)やフィットネスドリンクのセルシウス(Celsius)、ビームCBD(Beam CBD)などが名を連ねる。

「全般的にデータに欠如した部分ができてしまい、多くの場合それが原因で最終利益(人工的な結果)が示すものとは違う状況が描き出されていた」とビアンカラニ氏はメールで語った。

こうした欠如を埋めるため、モディフライではアトリビューションプラットフォームのウィキッドレポート(Wicked Reports)を活用し、カスタマージャーニーをより包括的に可視化して、ペイドメディアのアトリビューションと調整が迅速にできるようにしている。同社ではクリエイティブの多様化も重視しており、動画広告フォーマットも増やしている。

ビアンカラニ氏によると、iOS14によって生み出された基本的な問題は解決されていないが、広告主が広告のパフォーマンスについて調べることのできる先は増やせたという。

データ不足の埋め合わせ

データや調査結果が不足するなか、広告主は広告のパフォーマンスに関する報告を絞り出そうとさまざまな手を使うほかない。データの不足を知見やテスト計画の工夫で埋め合わせている、とビアンカラニ氏は話す。「同じドアを同じ画像1枚で叩き続け、スロットマシン的なアルゴリズムに頼るだけではもううまくいかないのは明らかだ」という。

グプタメディアのマドックス氏も同様の意見で、さまざまなデジタルパフォーマンスチャネルを試すという方法もあると話した。「アトリビューションが不完全な環境で、CPAが高くても許される場合には、ほかのチャネルを拡大することができた」とマドックス氏は話す。「あらためて総合的な見直しを行い、デジタル広告に対する考え方を変えることになった」。

だからといって、iOSの変更に対する広告主の当初のパニック状態に意味がなかったというわけではない。メディアバイヤーによれば、第1四半期は費用も高くなり、混乱していたという。だがやがて、その混乱は実用主義に取って代わられた。

総合的なアプローチ

多くの広告主にとって、デジタル広告といえばつまるところコンバージョンのための手段でしかなかった時代があった。メディアバイヤーによれば、ブランド認知度やブランドリフト、オーディエンス拡大などの指標は、広告の成功という全体像で考慮されるものだった。iOSの変更で、業界はより総合的なアプローチを取らざるを得なくなっている。メディア支出を分散化するだけでなく、カスタマージャーニーをよりよく把握するため、ブランドリフトやブランド認知度などを含む幅広い種類のKPIをレポートに入れていく必要がある。

「マーケティングは一種のアートであり、現在はレアリズムから印象派に後戻りした状態。筆数が少ないという制約によって細部ではなく全体像に注目することを余儀なくされている」とマドックス氏はメールで語った。「全体的なブランドリフトをどう推進しているのか、現在の取り組みがLTV(ライフタイムバリュー)にどう影響するのかが、ポストATTの世界における報告で重要な位置を占めることになる」。

今後もさらなるプライバシー対策が予定されるなか、ファーストパーティデータやその他工夫を凝らした対策の獲得競争となるだろうとダバギ氏は話す。

「こうした変更によって、オンラインで一攫千金をうたう一部の儲け話は抑制されるだろう。だが、長期的に事業を展開するブランドにとっては、これは一時的な支障にすぎない」とタバギ氏は語る。「この業界にこれまであったほかの問題や混乱と同様、彼らは今回の件も乗り越えていくだろう」。

[原文:‘It changed the way people perceived digital advertising’: Advertisers reflect on iOS 14 changes a year later

Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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