YSLボーテの Web3 ロイヤルティプログラムはCRMの新たな解釈を提案

DIGIDAY

6月に開催されたカンファレンス、ヴィヴァテック・パリ(VivaTech Paris)での最初のNFTドロップで2万4000人の新規ウォレットオーナーを獲得したYSLボーテ(YSL Beauty)は、コレクティブルなNFTを通じてロイヤルティプログラム3.0を構築している。ロイヤルティプログラムや顧客維持管理に関する新たな顧客行動をテストするため、これまでに3つのNFTコレクションをリリースした。

ラグジュアリー美容ブランドのYSLボーテは、昨年から、音楽アーティストと関連した無料のものから購入できる限定版NFTのドロップまで、さまざまなタイプのNFTコレクションをテストしている。後者には、1月にドロップされたヒーローコレクションのブラックオピウム(Black Opium)に関係するNFTがある。2022年10月のローンチメトリックス(Launchmetrics)のデータでは、ブラックオピウムは720万ドル(約9.5億円)で、同月のフレグランスの中でもっとも高いMIV(Media Impact Value)だった。MIVは、インフルエンサー、印刷メディア、セレブリティ、公式サードパーティパートナー、ブランドのメディアチャネルの影響を追跡するローンチメトリックスの独自の指標である。

NFT販売の目的はオウンドチャネルへの誘導

6月にローンチしたYSLボーテのデビュー作「ゴールデンブロック(Golden Block)」NFTは、YSLのWeb3エコシステムへの大量参入を提供し、顧客に将来のドロップへのアクセスを与えている。その人気とエンゲージメントの結果、ブランドは1月のNFTのドロップをブラックオピウムの製品シリーズにつなげることを選択した。ブラックオピウムシリーズの製品を購入した先着2000人に、購入特典として「ビューティナイトブロック(Beauty Night Block)」NFTが送られている。さらに、14種類の超レアバージョンのNFTが購入できるようにもなった。このドロップは、CRMコミュニケーション、eコマースサイトのバナー、ソーシャルメディアを通じてプロモーションされた。「ブラックオピウムのフランチャイズを通じて新しいものをテストしたい」と、YSLボーテ・インターナショナルのチーフデジタル&マーケティングオフィサー、ダイアン・ヘッケ氏は語り、ブランド初のARとゲーミングのテストの焦点でもあったことを付け加えた。

超レアな「ビューティナイトブロック」NFTには、NFTデザインのプレミアムメタルプリントと、ブラックオピウム・オードパルファンおよび新しいブラックオピウム・ル・パルファンのボトルが入ったブラックオピウム製品セットがついている。今年の第4四半期には、購入者にさらなる特典が用意されているとヘッケ氏は述べている。このNFTは48時間以内に売り切れとなった。

NFT販売の目的は、購入者をYSLボーテのオウンドチャネルに誘導することだ。「私たちは常に、YSLボーテの買い物客のセフォラ(Sephora)やブーツ(Boots)でのオンライン体験と、当社のD2C(体験)との差別化を図ろうとしている」とヘッケ氏は言う。「当社では購入特典のような独自の差別化要素を通じて、eショップを最高のブランド体験を届ける旗艦店として捉えている。また、(サードパーティの)eリテーラーを介するよりも、当社のタッチポイントを介した方が、買い物客の成熟度を測定しやすい」。

NFTは少ない費用で新規顧客の獲得ができるか

1月の超レアなNFTのローンチは、YSLが初めてNFTのコレクションを販売したことを示している。これらのNFTは、3月6日に2000人の「ビューティナイトブロック」のNFTホルダー全員が購入できるようになった。YSLボーテのWeb3サイトでのプライベートセールの後、ブランドは3月8日に一般販売向けにNFTをリリースしている。本稿執筆時点では、279点のNFTのうち218点がまだ入手可能で、0.2ETH(288ドル、約3万8000円)で販売されている。

YSLボーテとNFTコレクションのウォレットで提携したアリアン(Arianee)のCEO兼共同創業者であるピエール=ニコラ・アーステル氏によると、ブランドはこの売上に幻滅してはおらず、ここで得られた学びが今後の顧客獲得へのアプローチに同様に役立つとしている。

「通常、キャンペーンを行う場合、ROIや目的は、フォロワーやeメールの数を増やすことだ。今、問題になっているのは、NFTはSEOやソーシャル広告よりも少ない費用で新規顧客を獲得することができるのか?ということだ」。YSLボーテは、NFTプロジェクトに対する投資額については提示しなかった。

Web3はCRMを刷新する機会

「組み合わせることができるというのが、当社のロイヤルティ3.0プログラム内でのアイデアだ。したがって『ナイトブロック』と『ゴールデンブロック』のNFTの両方を所有すれば、ほかのものにもアクセスができる」とヘッケ氏は述べた。「これは、NFTを集める際のゲーミフィケーションプロセスにつながるもので、当社はこれをテストすることに興味がある」。YSLのNFT「ブロック」プログラムは今後も継続される予定だ。2023年には同ブランドはさまざまなコンポーネントのあるNFTドロップをさらに計画しており、Web3のどの機能が、主にWeb2のコミュニティにとって魅力的かをテストする。

一方、Web2のロイヤルティプログラムは、YSLボーテクラブ(YSL Beauty Club)という段階的なプログラムだ。ポイント制を採用しており、ヘッケ氏いわく「VIPアクセスから限定ギフトまで、会員だけの非常に特別な体験」を提供する。また、サステナビリティへの取り組みなど、ブランドのコミットメントも強化している。ヘッケ氏は、YSLボーテクラブの会員数の公表は避けたが、その数は、現在2万4000人の会員を抱える同社のNFTコミュニティを上回っているという。

「Web3は、顧客関係管理(CRM)を刷新する機会であり、Web2のCRMをWeb3で複製することではない」とヘッケ氏は話す。「ユーザーとブランドのつながりを改革したい。従来のCRMは購買行動に基づくものだったが、Web3ではエンゲージメントに基づくものになる。Web3では、コミュニティと長期的かつ常時接続のロイヤルティプログラムを持つことができるかもしれない」。

YSLは、ロイヤルティプログラム3.0をアクセシブルにすることに注力している。アディダス(Adidas)やグッチ(Gucci)といったブランドのNFTプログラムと大きく異なるのは、「ブロック」コレクションは今後も無料で提供される予定であることだ。「YSLのWeb3ロイヤルティプログラムの成長に使用する場合、NFTはもはや希少性や独占性とはあまり関係ない。むしろ、ブランドと当社のWeb3ビジョンに興味があるすべての人に参加してもらうためのものだ」とヘッケ氏は述べている。

[原文:YSL Beauty’s web3 loyalty program offers a new take on CRM]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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