メディア環境の細分化でクライアントの要望は増加: PRエージェンシー は一芸ではなくオールラウンダーに

DIGIDAY

現在、PRエージェンシーは多くのことを求められている。PRのプロによれば、根本的な原因はクライアントが単なるメディア掲載以上のことを期待するようになったことだ。一部のエージェンシーはクライアントの需要に対応し、経済が不安定なときも競争力を維持するため、アーンドメディア以外のサービスを拡大している。

メディア環境がますます細分化するなか、クライアントはTikTokのバイラル戦略からブランデッドエディトリアルコンテンツまで、PRパートナーにあらゆることを以前より頻繁に依頼しているとコミュニケーションの専門家は口をそろえる。また、経済の不確実性もPRエージェンシーのプレッシャーになっており、市場シェア拡大のためのサービス拡充が進められているという。

求められるのはオールラウンダー

メソッド・コミュニケーションズ(Method Communications)の共同創業者兼CEOであるデイビッド・パーキンソン氏は、「クライアントに幅広いサービスを提供できれば、経済の浮き沈みを乗り切る助けになるだろう」と断言する。「今はすべてをカバーするエージェンシーが求められている」。

メソッドの顧客にはMeta(メタ)、パーソナルファイナンスブランドのクイックン(Quicken)、オーバーストック・ドット・コム(Overstock.com)などが名を連ねる。この数カ月、メソッドはアーンドメディアの枠を超えるため、コンテンツエディター、デザイナー、マーケティングマネージャーといった多彩な人材を新たに採用している。

パーキンソン氏によれば現在、フルタイムのスタッフ100人のうち、25人が純粋なマーケティング担当者だという。これまでのあいだ、収益全体に占めるマーケティングの割合は10%程度だったが、2023年は25%に達する見込みだと同氏は補足する(正確な数字は明かしていない)。事実、エージェンシー関係者を対象にしたDIGIDAYリサーチの調査でも、59%の回答者が2022年に提供サービスの数を増やしたと述べている。

一方、世界規模のPRコミュニケーションエージェンシーであるスリング&ストーン(Sling & Stone)の米国支社は2022年秋、アーリーステージのスタートアップを対象にした新サービスを立ち上げた。目まぐるしく変化するクライアントのニーズに合うよう、より柔軟な契約条件を設定している。

エグゼクティブバイスプレジデントのエリン・グラント氏によれば、アーリーステージのスタートアップに特化した新サービスのリテイナーフィー(固定料金)は月額7000~7500ドル(約94万円~100万円)で、アーリーステージを過ぎたクライアントは月額1万2000ドル(約160万円)からだという。つまり、この新サービスを利用すれば、理論的にスタートアップは毎月数千ドルを節約できるということだ。

オンラインでの存在感が重要

「私がPRの仕事を始めたとき、紙の出版物や雑誌への掲載が成功の証しだった」とグラント氏は振り返る。「私たちは進化を続け、デジタル化が進んでいるため、当然ながらPRに対する考え方も変化している」。

米国アトランタを拠点とするUMGMTストラテジック・コミュニケーションズ(UMGMT Strategic Communications)のCEOであるミラン・モブレー氏によれば、UMGMTは最近、従来の出版物よりソーシャルメディアを重視する戦略に変更したという。

モブレー氏はDIGIDAYに宛てたメールのなかで、「私たちはジャーナリストやメディアを愛しており、それはこれからも変わらない。ただしクライアントのトラフィックを増加して売上につなげるには、オンラインでの存在感が重要であり、私たちが追うべきトレンドだ」と説明している。

あらゆる場所にメディアは存在する

英国と米国に拠点を置くシーン・グループ(SEEN Group)は10年前にその前兆を感じ、コミュニケーションの枠を超え、クリエイティブサービス、コンテンツ制作、ブランド体験などのサービスを構築してきた。

しかし、この3年間で多様なサービスを求めるクライアントが増加。インフルエンサーマーケティング、具体的には、マイクロインフルエンサーやナノインフルエンサーのブームに乗じ、シーンは6月にソーシャルメディアでクライアントとナノビューティークリエイターをつなぐ新サービスを米国で立ち上げる予定だ。シーンの米国の顧客にはバイレード(Byredo)、ロレアルプロフェッショナル(L’Oréal Professionnel)、ダブ(Dove)などのビューティーブランドが含まれている。

DIGIDAYの取材に応じた匿名希望の広報担当者によれば、PRはもはや一芸に秀でた仕事ではなく、コミュニケーションエージェンシーはメディア掲載に関するクライアントの期待に応えるため、総力戦で臨むことを求められているという。

変化のペースが速く、細分化された現在のデジタル環境では、印刷物からテレビ、ソーシャルメディア、ブランド所有のチャネルまで、あらゆる場所にメディアが存在する。そのため、クライアントはPRエージェンシーのパートナーにこれまで以上に期待を寄せており、ときには口コミで広がることを含め、刻々と変化するデジタル環境でより柔軟に対応することを求めている。一方、エージェンシー自身は一度限りの購入者よりブランドアンバサダーをつくることに重点を置き、ゆっくりだが長続きするブランド構築の価値をクライアントに伝えようとしている。

これからPRそのものの在り方が変わる可能性

経済の不透明感が業界を覆い、マーケティング予算がかつてないほど精査されている今、クライアントはすべてのサービスを1カ所で賄いたいと考えるようになっているとエージェンシー関係者は口をそろえる。

シーン米国支社のマネージングディレクターを務めるメリッサ・サンソン氏は、「最大の要因は彼らがブランドのストーリーを考えて伝える上で、そのすべてをリードしてくれるパートナーを求めていることだ」と話す。「確立されたチームとすべてを1カ所で完結できるのであれば、彼らはその費用を正当化できる」。

一見したところ、エージェンシーのサービス拡充はコミュニケーション分野のトレンドとして拡大しており、ここからPRそのものの在り方が変わる可能性もある。「PRエージェンシーは今後、広がるメディア環境と多様化するストーリーテリングチャネルにおける成功とは何かを再考することになるかもしれない」とグラント氏は述べている。

「PRを成功させるには、さまざまなことを実行する必要があり、そうしなければひとつのことにすべてを賭ける結果になる。これはどのようなマーケティングチャネルにも当てはまることだ」と同氏は語った。

[原文:Fragmented media landscape changes what clients expect from PR agencies

Kimeko McCoy(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)

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