1日あたりのメディア総接触時間は、「メディア定点調査2022」(博報堂DYメディアパートナーズ)によると、週平均で445.5分。つまり1日のうち7時間半近くものあいだ、私たちは何かしらの情報に触れていることになる。
情報があふれるこの時代に、組織を率いるビジネスパーソンはどのように情報を収集し、活用しているのだろうか。
ブランドやパブリッシャーで活躍中のDIGIDAY+会員にインタビューする本企画、プレミアムインタビュー「業界人に聞く! ビジネスパーソンの情報活用術」。第1回は株式会社 ポーラ ブランドマーケティング部 部長 中村俊之氏に話を聞く。
ポーラ・オルビス ホールディングスの基幹ブランド企業として、ビューティケアを中心に事業を展開するポーラ。よりよい顧客体験を作るためのマーケティング変革とビジネスプラットフォーム構築を全社横断的に進め、2019年からは日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の代表幹事も務める同氏が実践する情報活用術とは――。
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ーーいま担当している業務内容や事業領域は?
ブランドマーケティング部の部長として、「コミュニケーション企画」と「CRM」という2つの課を見ている。マーケティングコミュニケーションは、ブランディングやプロモーションの企画立案・メディアのバイイングや各種施策の実行など宣伝部のイメージにに近いもの。CRMチームでは、WebやSNS、アプリなどの自社メディア運用を含むCRMコミュニケーションのほか、マーケティング領域のDX推進も担当しており、横串の形で各事業部と連携しながら進めている。
部のミッションは顧客理解を徹底したうえで、既存のお客様との関係性を深め、新しいお客様との接点を作っていくコミュニケーション開発と、そのためのプラットフォームを構築すること。「ポーラがお客様により良い体験をお届けするために何ができるか」というアプローチで戦略を立て、さまざまなプロジェクトを展開しているが、具体的な部門KPIとしては新規顧客数、ロイヤル顧客数、ブランド指標、各プロジェクトの進捗とアウトプットを設定している。
ーー業務のためにどのような情報を収集し、活用しているか。
私は情報を大きく4つ、厳密には5つのカテゴリーに分けて考えている。
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1〈業界〉に関する情報
2〈顧客〉に関する情報
3〈社内〉に関する情報
4〈世の中〉に関する情報
・(業務に関係する)マーケティング、コミュニケーションのこと
・(業務とは関係のない)世の中全般の時流など
それぞれのカテゴリーのなかに興味や課題感を軸に自分なりの「情報の引き出し」を用意したら、あとはひたすら情報を浴びる。私は特段、記憶力が高いわけではないので、情報に触れるたびに頭のなかの引き出しに振り分けたり、ラベルの追加や整理をすることで、認識のアップデートや時代の変化に気づきやすくなるよう、意識している。
ーーよく使う情報源には、どのようなものがあるか。
基本的にはSNSのタイムラインに流れてくる関係性のある方々を起点とした情報を浴びながら、業界紙をはじめとした各種媒体のほか、少し感覚的なものはInstagram、商品情報やレビューなどはTwitterというようにSNSは目的に応じて使い分けている。またニュースは、自分のタイムスケジュールに合っていて端的に情報を収集しやすいことから、NHK『おはよう日本』の5~6時枠を録画。それをスマートフォンで“音声メディア”として聴きながら、シャワーを浴びるのが毎朝の習慣になっている。
顧客情報については、エステ併設型のサロンビジネス、百貨店のコーナーにECと、ポーラは基本的にダイレクトビジネスなので、もともとお客様の声を聞きやすい土壌があり、毎日上がってくる情報にアクセスできるプラットフォームを構築している。
またマーケティング事例に関しては、自分たちの課題にミートしているかどうかを短期的な軸と中長期的な軸で判断して選択する。ビジネスモデルに共通点がある保険業界などからヒントを得たり、異業種や海外の事例から新たな視点を得ることが多い。
ーー情報収集・整理をする際、「情報の引き出し」のほかに意識していることは?
使っている化粧品は何か、どんな情報を摂取しているか、誰をフォローしているかなど、業種や年齢・性別に関係なく、出会った人に話を聞くことは意識的におこなっている。実は友人が経営する和菓子屋の商品開発をボランティアで手伝っているのだが、日頃の仕事とかけ離れたことのなかから意外な発見をすることもある。
ほかに心がけているのは、情報を見聞きしたら、すぐ行動に移すこと。たとえばリールにエクセルのショートカットをみて、とりあえずPCを開いてみたり、友人のオススメ投稿を見てそのまま商品を買ってみたり。
そして重要だと思う情報は業務連絡のついでにメンバーに伝えたり、気になった記事をFYIメールやチャットに入れたりして共有している。また社外セミナーなどで得た情報はテーマごとに自分でまとめ、ある程度蓄積されて整理できた段階で、必要そうなメンバーに展開するようにしている。
ーーコロナの前と後で、情報収集にどのような変化があったか。
リアルな人との出会いや情報収集はかなり意識しないとできなくなった。私は中途入社だったこともあり、組織を横断したプロジェクトを進める際はなるべく直接フロアに出向いて話をしていたが、いまはそれも難しくなっている。
大きな変化といえば、やはりミーティングがオンラインになったことだろう。場の制限がなくなり、参加しやすくなったけれど、表情や空気が読みにくいことや、リアルでは成立する同時発言がオンライン上では会議のリズムを乱してしまうなど、必然的に一度のミーティングで交換する情報量がガクンと減った。
また“情報共有”という名目での会議招集も増え、資料確認なども増えている。それはそれで解決すべき課題ではあるが、いずれにせよ情報量は増えており、効率的に処理をしようとするので、「一見無駄だけど、実は大事だった」というような情報に気づきにくくなるリスクもある。
ーー大事な情報を見逃さないようにする秘訣は?
情報があふれるいまこそ、先ほど話した「引き出し」が役に立つ。見聞きした情報をなるべく構造的にストックすることを意識していけば、取捨選択の判断が早くなり、濃度の高い情報をキャッチアップする力が養えるのではないか。
あとは誰にでも得意不得意があるので、苦手な分野やテーマに関しては頑張りすぎず、サマリーなど構造を理解するにとどめ、時間を使いすぎないようにしている。限られた時間を効率的に使うには、自分の得意不得意を感じとりながら「引き出し」を意識して、情報を浴びるのがいいと思う。逆説的ではあるが、そうすることで流れる空気を感じたり、異なる文化や価値観に触れたり、新しい出会いと発見の機会を作ることができている気がする。
ーーいま会員であるDIGIDAY+のサービスはどう活用している?
前職の頃からDIGIDAY+の会員だが、海外の最新情報をいち早く日本語で読めるところが大きな魅力で、とくにプラットフォームに関する情報をよく見ている。中立性が高いところやロジカルかつポイントが明確なところ、そして情報というのは誰がすすめているかが重要だと思っているが、情報感度の高い人たちが記事をシェアしていることも信頼する理由のひとつだ。
昨今、社外の人と直接交流する場も減り、媒体の存在や記事の重みは以前より増しているのではないか。
私が代表幹事を務めている日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構で、昨年からU-35プロジェクトという若手の委員会を作ったのだが、魅力的なメンバーが揃っており、そこで出てくる話がいま一番刺激的で学びが多いと感じている。
組織マネジメントをしている方などの概念的な話に触れる機会はとても増えたが、実務を担当しているプレーヤーの生の声に触れる機会が減っている気がするので、高い視座で課題感を持っている担当者のリアルな現状を切り口にした記事が増えると面白いのではないかと思う。
■中村俊之(なかむら・としゆき)
POLA ブランドマーケティング部 部長 / デジタルマーケティング研究機構 代表幹事
新卒でコニカミノルタに入社し、計測器事業の営業、販売企画を経て、新規事業の立ち上げを担当。マーケティング&コーポレートブランディング部門に異動後は、ソーシャルメディアチームの立ち上げ、コーポレートブランディングに従事。その後、グローバルデジタルコミュニケーション組織のリーダーとして、グローバルWebサイト統合をはじめとしたプロジェクトを推進。2018年ポーラに入社し、CRM戦略を担当。全社横断的に顧客接点を統合していくためのマーケティング変革とプラットフォーム構築に取り組み、2019年からは日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の代表幹事も務めている。
Written by 山本千尋
Photos by 高村瑞穂