eスポーツ に興味を失いつつあるEA。これからのゲームパブリッシャーとeスポーツの関係は?

DIGIDAY

eスポーツ業界、とくにプロチームにとって厳しい時代が続いている。このような難しい時代を経て、最大手のプロチームは、好調なときに賞金を分配しないことを選択したパブリッシャーから離れつつある。

米DIGIDAYで独占取材した6人の情報筋によると、EAとゲーム開発会社であるリスポーン・エンターテインメント(Respawn Entertainment)が、20のeスポーツ団体とのあいだで、ゲーム内アイテム販売における「収益分配イニシアチブ」の導入計画を中止した。そのため、エーペックスレジェンズ(Apex Legends)は参加するプロチームの流出に直面している。

ゲームパブリッシャーは、eスポーツの基本となるゲームIPを所有していることから、eスポーツにおいて大きな力を持ち、ほとんどすべてにおいて最終的な判断を下している。彼らは組織にとってマイナスになることを避けたいと考えているのだ。パブリッシャーが関与し、公正なビジネスモデルを採用しているeスポーツタイトルは、プロチームを惹きつけ、維持する傾向がはるかに強い。

eスポーツチームの離脱

EAとの交渉に関わった2つのeスポーツ団体の幹部のメールによると、EAは2022年9月16日にゲーム内アイテム販売におけるeスポーツ収益分配の協議を打ち切った。失敗したレベニューシェアプロジェクトの具体的な内容は、eスポーツ団体がEAとの関係を壊さないよう慎重を期すため、これまで明らかにされておらず、検証もされていない。なお、リスポーン・エンターテインメントを傘下に置くEAは、この記事へのコメントを拒否している。

それ以来、エーペックスレジェンズにおけるALGSのレベニューシェア交渉に関与していた、チーム・リキッド(Team Liquid)、G2 eスポーツ(G2 Esports)、クラウドナイン(Cloud9)、NAVI、スペースステーション・ゲーミング(Spacestation Gaming)など少なくとも5つの最上位チームが「ロースター」(チームメンバーのこと)を解雇し、eスポーツタイトルから永久に去っている。これらのチームのうち2022年9月から最初の離脱は始まっていたが、関係するチームの幹部は今まで言及することを避けてきた。

「EAとリスポーン・エンターテインメントは、数カ月前からALGS(Apex Legends Global Series、エーペックスレジェンズ グローバルシリーズ)においてそれぞれ規模が異なる複数のレベニューシェアモデルを検討していた」と、複数のチーム幹部は述べている。そして、これらの協議は有望にみえたが、契約が結ばれることはなかった。

ある幹部は、「我々を信じてほしいと言われている状況だった」と語り、別の幹部は「デジタルグッズのレベニューシェアが常に議論の中心だった」と述べている。

再交渉の取り組み

EAとリスポーン・エンターテインメントは、最終的にこれを断念した。その代わりに、彼らはチームに一律6万ドル(約780万円)のライセンス料を提示したが、これはチームが公平だと感じる金額よりもはるかに低いものだった。ちなみに、とくに北米の最上位チームでは、スポンサー契約1件につき年間100万ドル(約1億3000万円)以上を稼ぐこともある。EAとの話し合いに参加したある団体の幹部は、別のタイトルでのレベニューシェアの取り決めについて、「私は(タイトル名は伏せた)あるゲームで1四半期にその金額(6万ドル)の2倍は稼いでいる」と語った。

EAの提案に対し、TSMとチーム・リキッドを中心とした各チームは拒否する書簡を作成した。この書簡は米DIGIDAYに公開され、「我々は、提案されたライセンス供与に納得しておらず、また、このライセンス供与に関する決定が誠実におこなわれたとも考えていない」と書かれている。ここには、レベニューシェアの協議に参加している20社のうち、14社の幹部による署名があった。

その内訳は、ワンハンドレッドシーヴス(100 Thieves)、アライアンス(Alliance)、クラウドナイン、コムプレクシティ・ゲーミング(Complexity Gaming)、ダークゼロ(DarkZero)、フェイズ・クラン(FaZe Clan)、フナティック(Fnatic)、G2 eスポーツ、NAVI、NRG、センティネルズ(Sentinels)、スペースステーション・ゲーミング、チーム・リキッド、TSMとなっている。

打ち切られる協議

EA側は、ゲーム内のスキン販売について、上限なしの50:50のレベニューシェアと、MG(ミニマムギャランティー)を付けるという対案を提示した。

また、一律のライセンス料ではなく、販売実績に基づく修正案を提示した。スキンを最も多く販売した3つの組織が16万ドル(約2080万円)、次の3つが12万ドル(約1560万円)、次の6つが8万ドル(約1040万円)、そして下位8つが6万ドル(約780万円)を獲得することになったが、レベニューシェアは含まれていなかった。

そこで、各チームはEAとリスポーン・エンターテインメントに対して、できるだけ50:50に近い上限なしのレベニューシェアモデルを検討するよう、再度申し入れを行なった。「我々が持つ多数のeスポーツタイトルやリーグにおける経験によって、ALGSが世界最高のeスポーツリーグを作りあげるために役立つ視点を提供できる」と、そのメールには言及していた。

このカウンターオファーの後、EAは「エーペックスレジェンズとALGSをめぐる有意義で双方にとってメリットのあるパートナーシップを構築するために、チームとどのように協力するのがベストかを社内で議論するためには時間が足りない」との理由で、協議を完全に打ち切った。

滅びゆくeスポーツ

EAによる不十分な資金提案や、リスポーン・エンターテインメントによるeスポーツチームへの対応は消極的であるという噂は、数カ月前からあった。また、EAとリスポーン・エンターテインメントが取り組みを停止した2022年9月頃から、エーペックスレジェンズのeスポーツチームのスキンがリークされていた。あるチーム幹部は、開発元のリスポーン・エンターテインメントと共同スキンの設計と開発を、2022年3月に開始したと述べている。

EAとチームのあいだで交わされたメールによると、チームブランドのスキンは10月中旬にエーペックスレジェンズのマーケットプレイスに並ぶはずだったが、9月中旬になっても両者は経済条件交渉が終わっておらず、確約がない状態だった。

チームはスキン開発に人員を投入したが、EAが「特定のアイテム販売を一時停止する」とチームにメールで伝えたとき、幹部たちは契約上の合意にもかかわらず、資金を無駄にしたと感じた。

EAは2022年半ば、エーペックスレジェンズのゲーム内アイテムであるチームブランドの「バナー」を発売し、チームに一石を投じた。しかし、売上は控えめだった。「本当にわずかな売上だった」とあるチーム幹部は述べ、「バナーの売上が最低保証額である6万ドル(約807万円)を超えないチームもあった」と付け加える。

別の幹部は、チームがそのデザインに関与しておらず、アイテムが武器やキャラクターのスキンに比べて魅力的ではなかったからだと語った。「我々がデザインに関与していなかった最初のシーズンは非常にお粗末な商品で、誰も欲しくないものだった」。

収益重視か、それともマーケティング重視か

販売数が少なかったため、EAとリスポーン・エンターテインメントは武器やキャラクタースキンの販売に関するレベニューシェア契約は事業として見合わないと判断した。EAのビジネスの哲学が、eスポーツに対する姿勢にどのように影響するかを語る関係者もいる。

「仮にバンドル販売で1億ドル(約130億円)を稼ぎ、チームに2000万ドル(約26億円)を渡しても、チームが2000万ドル以上の売上をもたらすとは思えない、とEAとリスポーン・エンターテインメントは考える」とあるチームの幹部は述べている。

続けて、「収支面から見ると確かにそうかもしれない。しかし、そこが彼らの問題だ。ほかの開発会社なら『売上を20%押し上げることはないかもしれないが、チームは我々のエコシステムに投資し、eスポーツプログラムに参加することで我々は無償でマーケティングができる』と言ってくれる」と述べた。

しかし、EAとリスポーン・エンターテインメントは、そのようには考えない。議論の余地はあるものの、オランダとベルギーで過去に禁止されたペイ・トゥ・ウィンの仕組みである有料アルティメットチームモードやガチャ機能を実装するFIFAのゲームを見てみると、彼らは収益重視でマーケティングなどには関心がなく、利益を確保できればなんでもよいのだ。

EAはeスポーツにおける最悪のパブリッシャー?

eスポーツにおいて、レベニューシェアや給付金の形で支払われるパブリッシャーからの金銭的支援は注目を集める話題だ。財政難にあえぐチームは、スポンサー収入に大きく依存しており、従来のスポーツとは異なり、大きなメディア権利収入を期待することはできない。この問題の解決策の1つは、パブリッシャーがチームを金銭的に支援することだ。

その見返りとして、チームはパブリッシャーのゲーム宣伝により多くの労力をかけ、チームのリソースを集中させることができる。この解決のための方程式の一部が、eスポーツチームブランドのアイテムをパブリッシャーがゲーム内で販売し、その売上から得られる収益をチームと共有するというレベニューシェアなのだ。

あるチームの幹部はEAに批判的だった。EAがパブリッシャーで、リスポーン・エンターテインメントがデベロッパーという関係は、プロジェクト管理に手間がかかることを意味する。「正直に言うと、EAはeスポーツにおける最悪のパブリッシャーだ。ほかのどこより大幅に劣っている」。

eスポーツが生き残る唯一の方法

この収益分配協議の失敗については、責任を追及できる余地が残っている。少なくとも2人のチーム幹部によると、EAはeスポーツチームとのコミュニケーションを担当していたが、EAがグループ会社であるリスポーン・エンターテインメントを説得できなかったため、収益分配の構想は中止されたという。また、別の幹部が米DIGIDAYに語ったところによると、リスポーン・エンターテインメントではなく、EAの経営陣がレベニューシェアを進めたくなかったそうだ。

ほとんどのeスポーツ大会は最低保証を設けている。ライアットゲームズ(Riot Games)は、Valorantのエコシステムを組織化して、高額な参加費を支払うことなくチームに有利なレベニューシェアを重視している。

また、ほかの大会と同様にパートナーになったチームには年間の報酬を保証。ESLは、CS:GO(カウンターストライク:グローバルオフェンシブ)のプロリーグが、ルーヴル協定に基づき、総収入の25%をチームと共有することを保証している。

現在の状況でeスポーツが栄えるため(あるいは生き残るため)には、パブリッシャーからの援助が必要であることは明らかだ。

ディスラプト・ゲーミング(Disrupt Gaming)の創設者で、アストラリス(Astralis)の元北米事業部長であるマーク・フラッド氏(ハンドルネーム:キャッシュフロ)は、次のように述べている。「私たちが知っているすべてのeスポーツ、チーム、プロフェッショナルな雰囲気などが完全に消えたとする。ゲームファンによる草試合大会に戻り、パブリッシャーが100万ドル(約1億3000万円)の賞金プールを提供し、そういった大会はすべて「Challonge(草試合トーナメントのプラットフォーム)」を通じて運営される。パブリッシャーにとってそのような『草の根eスポーツ』は、大規模なプロダクション、超高額な給与、プロフェッショナルな運営が特徴である現在のeスポーツと同じくらい価値があるものと私は断言できる」。

[原文:Inside the breakdown of EA’s revenue share deal for Apex Legends esports

Billy Studholme(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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