スターバックスの Web3 戦略、ブランドNFTの試金石に:「最大の課題は顧客にとっての価値を明確に示すことだ」

DIGIDAY

スターバックス(Starbucks)は、デジタルイノベーションのいくつもの分野で最前線を行くパイオニアだ。同社が新しく打ち出したWeb3ロイヤルティプログラムも、コーヒーの世界をはるかに超えた将来を占うリトマス試験紙になるだろうという意見がある。

2022年12月8日、スターバックスは既存のリワードプログラムにブロックチェーン技術を組み込む初の本格的な取り組み「スターバックス・オデッセイ(Starbucks Odyssey)」のベータ開始を発表した。まずは米国の会員と従業員から成る少人数集団(具体的な人数は未公表)が、新しい特典や体験を手に入れることができるNFTとポイントを集める「ジャーニー」(旅)に招待されることになる。

オデッセイで顧客にリワードを提供

弱気の仮想通貨市場、不透明な経済の先行きから、そもそもブロックチェーンベースのプロジェクトに時間と資金を投じるだけの価値があるのかと疑問視するマーケターも存在するが、スターバックスが広く名の知られたブランドであることと、同社のデジタルイノベーションの実績から、オデッセイを注意深く見守る目も多い。マーケターや業界ウォッチャーによれば、オデッセイの展開に注目するのは、それがブランドNFTに対する消費者の関心を示す指標となる可能性があるからだという。

2022年9月に発表され、2023年に対象を拡大する予定のオデッセイによって、スターバックスはロイヤルティプログラムにNFTを取り入れた大手ブランドのひとつになる。コレクティブルNFTに対する関心が薄まるなか、デジタル資産をより一層活用しようと図る企業もあるが、スターバックスのような取り組みも企業のあいだで模索され始めているところだ。オデッセイではコーヒー農園のバーチャルツアー、スターバックスの歴史を学ぶアクティビティ、インタラクティブゲームなどが用意される。「スタンプ」(NFT)を集めると、エスプレッソマティーニの作り方を学べるバーチャルクラス、各種グッズやアーティストとのコラボ作品、スターバックスの店舗イベントやコーヒー農園への招待といった特典が入手できる。

スターバックスはオデッセイの詳細に関するインタビューには応じなかったが、同社CMOのブレイディ・ブルワー氏はブログでオデッセイを「次のビッグ・イノベーション」と呼び、顧客にリワードを提供する方法だと書いている。「これまでにない方法で会員にリワードを提供し、会員とつながるため、Web3の技術を活用している。たとえば、収集・所有できるデジタルなスタンプや、デジタルコミュニティ、新しい特典、リアルとデジタル両方の没入型のコーヒー体験などが提供される」。

大手QSRがWeb3を活用できるかどうかの指標に

オデッセイは、Web3ロイヤルティプラットフォームであるフォーラム3(Forum3)の協力を得て構築された。フォーラム3の共同創業者は、スターバックスをよく知る同社の元最高デジタル責任者、アダム・ブロットマン氏だ。スターバックスの現在のロイヤルティプログラムを開発したほか、モバイル注文・決裁システムの設計も主導した。なお、スターバックスは人気のNFTマーケットプレイス、ニフティゲートウェイ(Nifty Gateway)とも提携している。

Web3領域のマーケターは、Web3を熱烈に支持する人々がスターバックスのようなブランドの参入を受け入れるか(それともスターバックスがWeb3をあまりにも単純化してしまったと感じるか)、注目するだけの価値はあると話す。

イノベーション企業のハウス・オブ・アテンション(House of Attention)のパートナーであるイスラエル・マースキー氏は「スターバックス・オデッセイの始動は、大手QSR(クイックサービスレストラン)でのカスタマーエンゲージメントのレベルアップにWeb3が活用できる段階にあるのかを判定するリトマス試験紙だ」と語った。「同時に、そのような基盤の上に魅力的な体験を構築することができるのか、スターバックスの能力も試されている」。

マースキー氏は、オデッセイの焦点をコミュニティづくり、ファンのエンゲージメント、既存のリワードプログラムやデジタルプラットフォームなどのほかの部分との一貫性に置いているのは正解だと話す。だが成功の可否は、その体験が最終的にどれだけ創意工夫に富んだものになるかにかかっている。

最大の課題は長期的なエンゲージメントを維持すること

仮想通貨大手のコインベース(Coinbase)元投資家で、現在は仮想通貨に懐疑的な立場を取るリロン・シャピラ氏は、企業はオデッセイがロイヤルティプログラムとして成功するかという点に注目すべきだと話す。「成功した場合にはマネをすべきだが、ブロックチェーン部分は無視していい。多くの企業では必要になることなどないかもしれないからだ」。

加えて、「ブロックチェーンであることをユーザーが認識しないかもしれないそうだが、それでは単なるロイヤルティプログラムと同じではないか」とシャピラ氏は話す。「そもそも基本的に信用のあるスターバックスが、誰が何をどのシステムで所有しているのかという記録を追跡するのにブロックチェーン技術を採用するのはかなりおかしな話だ」。

ブランド向けNFTプラットフォームのミント(Mint)でCMOを務める共同創業者のマット・ワースト氏は、Web3技術の初期採用に踏み切った大手ブランドや脇から様子をうかがっているほかのブランド、そして資金を投じるだけの価値があるのだろうかと思い巡らす投資家など、オデッセイが「炭鉱のカナリア」なのかに注目している主要集団がいくつかあると話す。

ワースト氏によれば、「スターバックスがデータ戦略を導入する可能性もあり、それも他社にとって参考になるかもしれない」という。「いずれにせよ、最大の課題は顧客にとっての価値を明確に示し、長期的なエンゲージメントを維持することだ」。

また、「これは明らかな(CRM)施策だ」とワースト氏は語った。「ロイヤルティやメンバーシップなど、どの形態であっても、オポチュニティはさまざまな方法でエンゲージメントを維持し続けるところにある。メールには限界がある。検索行動にも限界がある。だが、今や所有権の証明を通して、支持者やお得意様、店舗・レストランの来店者とつながる直接的な手段があるのだ」。

[原文:How the new Web3 loyalty program at Starbucks will be a litmus test for the future of branded NFTs

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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