10月第3週にマンハッタンにて開催されたイベント、Advertising Week New Yorkでステージに立った多くのメディア企業にとって、「やるなら思いきりやれ」が2022年度の動画コンテンツにおける戦略であることは、明らかだ。そして、YouTubeだけにフォーカスする手法は、もはや通用しない。
ストリーミングや劇場用の動画制作を行うタイム社
タイム社(Time)はステージ上で、社内スタジオであるタイム・スタジオ(Time Studios)と制作中の約30のプロジェクトについて、30分ほど語った。設立から約2年、同社は『ギャビー・ギフォーズ・ウォント・バック・ダウン(Gabby Giffords Won’t Back Down)』[2011年に銃乱射事件で重症を負った元米下院議員を追うドキュメンタリー]といった劇場用長編映画や、『jeen-yuhs カニエ・ウェスト3部作(jeen-yuhs: A Kanye Trilogy)』[米人気ラッパーを20年以上にわたって追った大作]などのNetflixドキュメンタリーシリーズを制作し、100年の歴史を誇るブランドに新たな風を吹き込み、現代のオーディエンスにもアピールしている。
「2022年に作ったいくつかの映画は、1ドル(約140円)も儲からない」と、タイム・スタジオのトップでCOOのイアン・オレフィス氏は語り、しかしすべてのプロジェクトが金銭的目標を達成する必要はなく、新たなオーディエンスにリーチ、あるいは文化的なストーリーテリングの観点でインパクトを残せれば、その価値を証明できる、と言い添えた(ちなみに、タイム社は2018年、大富豪で、セールスフォース[Salesforce]の共同創業者、マーク&リン・ベニオフ夫妻に買収されている)。
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長編映画の制作には莫大な経費を伴うが、それでもタイム・スタジオは2022年、タイム社の年間収益の約25%を生んでおり、後者はそれをライセンス契約や広告主を惹きつける高品質動画の制作に充てている。「エミー賞候補のコンテンツに携わっているのと同じタイム・スタジオのチームが、アウディ(Audi)やロレックス(Rolex)と2分の短尺ものを制作している」と、オレフィス氏は話した。
ただし、タイム・スタジオは確かに、YouTubeや自社所有および運営の諸チャンネル用に短尺ドキュメンタリーコンテンツを制作はしているが、オレフィス氏によれば、ストリーミングプラットフォームや劇場での配信/配給機会を有する長尺プロジェクトのほうが財務リターンは高く、同部門のフォーカスはそこにあるという。「短尺の、高級なドキュメンタリーコンテンツは、かなり厳しい」と、同氏は言い添えた。
イー!ニュースらは配信先としてTwitterに注目
イー!ニュース(E! News)やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のバイサイド(Buy Side)といったメディア企業は一方、デジタル動画プロジェクトの配信先として、Twitterなどの一般的ではないプラットフォームに目を向けており、そこに動画を投稿することで、Twitterのアクティブな、参加意識の高いユーザー層の関心を引いていきたいと話した。
イー!ニュースは週間番組『ホワイル・ユー・ワー・ストリーミング(While You Were Streaming)』を制作し、Twitterで配信している。その週に最もバズったTV番組の総括を発信し、さまざまな会話を生むのが狙いだ。
「人間として、我々は基本的に、自らの意見を確認したり、心を開いたりするために、会話を必要としている(中略)。Twitterはそうした会話の鍵となれる場所のひとつだ。一方、イー!ニュースは、ブランドとして、ポップカルチャーの動きに敏感だが、それに関する即時のフィードバックや会話を持てる場所が欠けていた」と、イー!ニュースのEVPで編集長のタミー・フィラー氏は話した。
一方、WSJのバイサイドの幹部らは、視聴者を消費者に変える同社のライブストリームショッピング番組に対する関心を、Twitterオーディエンスのなかに生みたいと考えている。
しかし、ほかのパブリッシャー勢は大きく後れを取っている。
G/Oメディア(G/O Media)は現在「黄金期」にあると、CEOジム・スパンフェラー氏はいわゆる炉辺談話(ファイアーサイドチャット)で話したものの、自社ブランドのための編集コンテンツを作成するために動画制作チームをつい最近再編成したばかりだと話した。
「我々はYouTubeを通じて、新たな一歩をようやく踏み出したばかりであり、今後、TikTokおよびオニオン(The Onion)といくつか実験をするつもりでいる。ただ、ほかの多くと比べてかなり後れを取っていると思う」と、スパンフェラー氏は話した。
[原文:Advertising Week Briefing: Media companies evolve digital video use to increase audience, ad revenue]
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)