ボックス・メディアが独自の SSP をローンチした理由:「自分たちのドメインを思うがままにできる」

DIGIDAY

よく言われるように、うまくいってほしいことがあるのなら、人任せにしないで自分でやったほうがいい。いままさにこれを実感しているのが、ボックス・メディア(Vox Media)だ。同社は現在、表向きには料金を取っておきながら、結果的にプログラマティック広告の効率低下を招いているアドテクベンダーとの関係解消に向けて動いている。

ただし、他のパブリッシャーのように、こうしたベンダーの一掃に乗り出しているわけではない。ボックスの取り組みは、それとはまるで違っている。

同社のそれは、独自のSSPのローンチだ。自社のインプレッションの価値を最大限にまで高めるために、アドテクパブリッシャーが利用している(が、一般的には所有していない)、「例のアレ」である。

これを行うため、ボックスの広告運用幹部はSSPを活用して、自社の広告ユニット、アテナ(Athena)に利用できる広告スペースをSBネーション(SB Nation)やザ・バージ(The Verge)などの自社サイトで管理、販売、最適化している。さらにその対象は、全米およびローカルの広告マーケットプレイス、コンサート(Concert)を構成するプレミアムパブリッシャーにも及ぶ。ボックスのSSPは、いわばこのマーケットプレイスの発展型だ。

独自テクノロジーを持つ意味

2016年のローンチ以降、コンサートは成功をおさめてきたが、そこに投じられる資金の大半は、プログラマティックではなく、直接取引によってもたらされてきた。アドテクは、インベントリを大量販売するパブリッシャーにとってはありがたい存在だが、そういえるのは、そのフォーマットが標準化されている場合だけだ。

標準化されていないものに関しては、専用のSSPが必要であり、ボックスがいままさに乗じようとしているのがこれである。その過程で同社は、プログラマティックの登場以来、ほとんどのパブリッシャーが避けてきたリスクを取ってきた。

ボックス・メディアでメディア売上部門のシニアバイスプレジデントとコンサートの責任者を務めるA・J・フルッチ氏は、次のように語る。「独自のテクノロジーを持っているおかげで、自分たちのドメインを思うがままにできる。サードパーティ製のテクノロジーに依存する非標準的な広告プロダクトを抱えていると、自社のプロダクトロードマップは常にリスクにさらされる」。

大手のパブリッシャーにとって、このような自律性はこれまで以上に重要になっている。入札を処理する仲介業者の数を減らしたいと、マーケターたちは思っており、そうなればなるほど、パブリッシャーにとっては都合がいい。

パブリッシャーとSSPの関係

ボックスのようなパブリッシャーは通常、複数のSSPを介して広告を売りに出している。そうすることで、そのインプレッションの価格を入札開始後に押し上げてくれる、エクスチェンジの「経路」をいくつも用意している。これが利益をもたらすこともあるが、反対に悪影響をもたらすこともある。

SSPが増えるということは、それがなければパブリッシャーのところに行っていたであろう落札の分け前を取る方法も増えるということになる。ましてや、オーディエンスデータがこれらの業者に間違って漏れてしまう確率も高まる。

ボックスのコマーシャルチームはSSPを独自に運営することで、そのインプレッションを対象とする複数の入札から収益を上げる能力を損なうことなく、こうした問題を回避できるようになった。少なくとも、インベントリーの重要部分に関してはそうだ。

ボックスのSSPはいまのところ、特定のアテナ広告フォーマットをザ・トレード・デスク(The Trade Desk、以下TTD)から入札するマーケターにしか販売していない。したがって、別の広告フォーマットを求めるマーケターや、ザ・トレード・デスク以外のDSP(デマンドサイドプラットフォーム)を使っているマーケターは、今後も別のSSPを介することになる。

ただし、この状態がずっと続くことはないだろう。こうしたマーケターの獲得に向けて、アテナ以外の広告フォーマットの順次の追加と、TTD以外のDSPの導入を検討する計画もすでにある。

広告主との直接的なつながりを強化する

こうしたアップデートが行われるのは当然のことだ。アドテクの独自開発に大金を投じたあと、初期段階のまま放置するようなパブリッシャーはいない。プロプライエタリ型のSSPよりも、特定の広告フォーマットを特定の広告主に安く売れる方法がある場合は別だが。

「いまやエコシステムの大半を所有しているのは、スケールをコモディティ化できる構造を持つサードパーティのアドテク仲介業者だ。そうしたなかにあって、我々のSSPの目的は、パブリッシャー主導のマーケットプレイスと広告主のあいだにある直接的なつながりを強化することだ」と、フルッチ氏は語る。

ここがボックスのSSPのポイントとなる。他のSSPと真っ向から競合することではなく、自社の最重要インベントリーの一部をどのように販売するかに対して発揮する影響力を強化することが、その目的なのだ。取引を完了するために、別の企業が義務づけるテクノロジーを使う必要はない。自社のインプレッションに投じられるメディア費を確実に増やすために、料金を支払う必要はない。

ボックスはこうした条件をいままで以上に設定できるようになる。少なくとも、計画ではそうなっている。そして例によって、アドテクの悪魔は細部に宿っている。すなわち、そもそもこうした条件に進んで耳を傾けるマーケターがそこまでいるのだろうかという疑問だ。

ローンチに関し、一方では、フルッチ氏が感じているポジティブな反応から判断すれば、そんなことは問題ではないのだろう。

競争が激化する市場で生き残るには

しかし他方では、フルッチ氏はこの反応を売上に変えていかなければならない。差別化が進んでいない一方で、競争が激化しているSSP市場では、これは簡単なことではない。専用の広告ユニットというだけでは、この市場で突出するには不十分だろう。しかし、そのまた一方で、これがボックスの切り札ではないということだ。同社のSSPの真のセールスポイントは、もっと根本的なところにある。

「昨年、プライベートマーケットプレイスの取引がオープンエクスチェンジでの購入を上回った。その理由は、バイヤーたちが品質を求めているからだ。彼らは自分が何を購入しているのかを知りたがっているのだ」と、フルッチ氏は語る。「プログラマティックのパイプで主に利用できるものよりも、はるかに大きなインパクトがあるクリエイティブでそれを実現できれば、その効果は絶大だ」

こうしたことは以前から言われていた。プレミアムパブリッシャーは数年前から、何を購入するかにもっと注意を払うようにマーケターに勧告してきた。しかし、さまざまな理由から、マーケターがこうした警告に耳を傾けることはなかった。

だが、いまは違う。彼らはいま、サードパーティCookieを使わずにユーザーをトラッキングおよびプロファイリングする準備を進めている。そして、いま彼らがテストできるもっともスケーラブルなものが、パブリッシャーがキュレートするオーディエンスなのだ。ボックスのファーストパーティデータソリューション、フォルテ(Forte)が、コンサートSSP内でUnified ID 2.0と統合されるのは、そのためだ。

ボックスの試みは広がるのか?

ボックスのSSPはトレンドにはなっていない。そう見るのが妥当だろう。このようなオペレーションを支持できるパブリッシャーは、そう多くはない。その意味では、SSP各社のCEOは一息つけるだろう。

デジタルメディアコンサルタント企業TPAの英国担当責任者、ダン・ラーデン氏は、次のように語る。「広告主がいかがわしさのレトリックや透明性の問題を口にするようになって以来、仲介業者の排除は常に避けられないものだったように思う。

そしていま、これまで以上に、バイサイドとセルサイドが金額に見合う価値を示す必要性がある。そこから見えてくるのは、ポジティブなものばかりだ。SSPは非常にスマートなやり方で、デマンドサイド、すなわちキュレートされたマーケットプレイスに向けてデマンドサイドサービスと製品を開発してきた。その一方でDSPも、すべてのバイヤーが求めるインベントリーにつながりやすくするということにおいて、その機能を向上させている」

[原文:‘Masters of our domain’: Vox Media launches its own SSP

Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:分島 翔平)

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