2023年も変わらない米 テレビ広告 の先行販売モデル:「すぐになくなるとは思わないが、重要性が低くなるかもしれない」

DIGIDAY

テレビ広告の「アップフロント(先行予約)」モデルは、長年大きな変革が起きるだろうと予測されてきた。しかし2023年になってもまだ、その変革は起きない。早くても大きな改革が実現するのは2024年になるだろう。

エージェンシー勤務のとある幹部は「今年は、新しいストリーマーや変わった経済状況など、さまざまな要素があり、興味深い年となる。そして24年には、状況が少し変わり始めるかもしれない。ただし、すべてが崖から落ちるような(大変革が起きるような)年はないと思う」と話した。

アップフロントが突然消える可能性は低い

端的にいうと、広告主、代理店、テレビネットワーク、ストリーミングサービスが長期契約を結ぶための年に一度のマーケットプレイスとしてのアップフロント・モデルが、2023年に突然地滑りのように流され消えてしまう可能性は低い。しかし、数十年前から存在していた形でのアップフロント・モデルは侵食されつつある。測定方法の変更、ストリーミングへのシフト、柔軟性の要求、購入アプローチ、経済の不安定性といったうねりが、崖に打ち寄せる波を引き起こし、海岸線を変えるように侵食を進めている。

オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)の最高投資責任者であるジェフリー・カラブレーゼ氏は、「アップフロントは廃止されるべきだとか、大手広告主は先行形式でメディアの広告予約をすべきではないという考えは、あまりにも行き過ぎている。しかし、昔の時代が過ぎたことを認めないのも間違いだ。私たちは業界として、顧客のニーズと期待が変化したことを認識しなければならない。それは、長い間続いた規範を手放し、エコシステム全体で、透明性の改善、柔軟性、変革を進んで受け入れなければならないことを意味する」と述べた。

アップフロント・モデルについてテレビ局幹部の1人は、「進化するかもしれないが、いくつかの重要なことは事前に合意される先物市場において基本的な構成要素になるとは思わない。(アップフロント)は構成要素として残るだろう」と語り、一方で別のテレビ局幹部は、「すぐにアップフロントがなくなるとは思わないが、年を経るにつれて、重要性が低くなるかもしれない」と話した。

測定方式に押し寄せる大きな変化

テレビ広告業界で現在起きている広告成果の測定方式の切り替えは、業界にとっては大きな変化である。ニールセン(Nielsen)による測定は何十年にもわたってアップフロント取引の主要な基盤となってきたため、代替の測定方法を採用する動きは大きな変化を示すといえるだろう。

テレビ局幹部は、「地殻変動(レベルの変化)といえば、通貨(テレビ広告業界における通貨としての測定)のことになるだろう。ほかの何よりも影響ははるかに大きい」という。

しかし、地殻はゆっくりと時間をかけて動くものだ。2023年は広告主や代理店、テレビネットワークが、業界の通貨として信頼できる測定プロバイダーを選別する試金石の年となるだろう。ニールセンは2024年に、従来の測定システムからニールセン・ワン(Nielsen One)に置き換えることを計画している。テレビ局の重役の1人は、ニールセンの測定システムのアップデートについて「本当にヒューズが飛ぶ(変革が起きる)のは、おそらく2024年9月だろう」と語る。

また、別のテレビ局幹部は、「売り側が新通貨(新しい測定に対応した)のレートカードを出す準備ができているとは根本的に考えられない」と話し、「業界が新通貨を導入するのはせいぜい15カ月先」だと予測した。

一方で、あるエージェンシー幹部は、「多くの人が、2022から2023年のアップフロントが、2023年から2024年のアップフロント・サイクルの変化のスタートラインと考えていた。私の感覚では、測定通貨の観点から考えると、2024年から2025年にその変化を起こすよう、2023年から2024年において準備が行われるだろう」と語る。また、「意味のある根本的な方法で前進させるためには、測定システムの面でより均一性が必要である」という。それぞれの測定プロバイダは、買い手と売り手から普遍的な支持を得る必要性が残っているからだ。

アップフロント契約における柔軟性

そして、ほかにも勢いを強めている動きがある。買う側は売り側に対し、先行取引においてより大きな柔軟性をを求め続けていることだ。テレビネットワークのオーナーたちは、リニアテレビ側ではより厳格でない解約オプションを譲歩し受け入れている一方で、ストリーミング側でも広告主に対して、インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau、以下IAB)が標準として定める14日間、100%の保証付きデジタル契約の解約オプションのサポートではなく、リニアテレビの条件を採用するように働きかけている。

IABは2023年から2年間かけて契約条件のアップデート(キャンセル基準の書き換えの可能性も含む)を開始するが、エージェンシー幹部たちは売り側で、現状の基準を維持するだけでなく、少なくともストリーミングとデジタルビデオの全在庫にまでその対応を拡大したいと考えている。また、広告全体の減速を受けて、エージェンシーの幹部たちは2023年のアップフロントは買い側に有利な方向にシフトし、買い側がより柔軟な選択肢を求めるポジションにつくチャンスがあると考えている。

別の事務所幹部は、「買い側はこの3年間、全体的に説明責任と柔軟性の向上を求めてきた。我々が交渉において優勢になったとき、我々はそのいくつかを押し進めることができる。それ以外の場合はそれが少し難しくなる」と話した。加えてテレビ局の幹部は、このような変更を一律にコミットしているわけではないが、事前のコミットメントに柔軟性が必要であることは認めている。

A+Eネットワークス(A+E Networks)の広告販売担当プレジデントであるピーター・オルセン氏は、「私は基本的に、売り側はマーケターが望む場所(望む条件)で会う(ビジネス交渉を行う)必要があると信じている。ビデオ広告のエコシステムは進化しなければならない。柔軟性に関する追加の議論はまだ検討中だ。キャンセル期間、(変更・キャンセルの)通知に必要な日数、閲覧期間を移動する機能など、これらは、市場を前進させているすべてのプレイヤーが行なっている交渉に盛り込むべきだ」と述べた。

ストリーミング市場の拡大は、アップフロントにとって脅威

ロク(Roku)やYouTubeのようなストリーミングのみの広告売り手は、一般的にアップフロントでも柔軟性を提供している。ストリーミングの増加に加えて、この分野では番組単位の広告購入からオーディエンス単位の購入への移行も見られる。どちらも従来のアップフロント・モデルにはあまり当てはまらない成長分野である。

ディズニーやNBCユニバーサルなどは自社の番組を数の限られたリソースとして売り込んでいるが、ロクやYouTubeなどは、番組内容とはほとんど関係なく広告を視聴者に見せる能力を売り込んでいる。テレビネットワークのオーナーたちも同様に、ブランドの認知度を高めるために幅広い視聴者にリーチするよりも、特定の視聴者をターゲットにした製品の販売やウェブサイトの訪問など、よりファネルの下部の目的をプッシュすることに関心のある広告主にアピールするため、より多くのオーディエンス・ベースの購入オプションを推進している。

はっきりさせておくと、現在のアップフロントでもオーディエンスベースの購入は役割を果たしている。テレビネットワークは、広告主が事前に契約した金額を受け取り、その一部を従来の年齢や性別に基づくセグメントを超えた広告をターゲットとした先進的な広告製品に割り当てる。しかし、いくつかの点で、オーディンエンス・ベースの広告購入はアップフロント・モデルとは正反対である。オーディエンスと広告支出がストリーミングへ移行していることによって加速されたストリーミング市場の拡大は、アップフロント事業にとって脅威となっている。

あるTVネットワーク勤務の幹部は、「ブランド認知から購入に至るまでの観点において、誰もが『ビデオ広告分野の目的とは何か』を議論している。この点は適切なサイズを見極めなければならない」と話した。

「オーディエンス、通貨、計測の点が改善するにつれて、ファネル全体を常に使用することになるアップフロントはニーズが弱くなる。アップフロントはブランド認知のために購入されている」と、あるエージェンシー幹部は語った。「考えてみると分かるが、ブランド認知がビデオ在庫の主な機能であり、とくにリニアテレビや長尺ビデオでそうなっている。(ブランド認知)のニーズがなくなれば、アップフロントはいらないかもしれない」。

アップフロント分野の水面下で起きている逆流

このことは、従来のアップフロント・モデルが直面しているもうひとつの脅威につながる。一部の新しいデジタルネイティブの広告主たちは、アップフロントが持つ、固定的かつ、上位ファンネルという性質にコミットすることに消極的である。これらのデジタルネイティブ広告主たちは、数十年前に設定された価格ポイントをベースに調整している従来からのアップフロント広告主たちよりも、通常は高い料金を支払うように迫られており、この事実が、彼らがアップフロントへの抵抗感をさらに悪化している。さらに、消費者ダイレクト販売のブランドや仮想通貨企業など、アップフロント分野に新しく参入してきた広告主たちは、事業自体が近年厳しい状況を経験しており、そのことがアップフロントへの参加を低下させている。

前述のエージェント幹部は、「消費者ダイレクト販売の企業たちが成長したのを目の当たりにした。ソーシャル上で事業を始めた彼らが、何らかの形でテレビでの広告展開を受け入れるようになった。しかし、ペロトン(Peloton)は2年前に莫大な金を広告に使っていたが、今では事実上なくなってしまった」と話した。また、「これらの新しい広告主は莫大な予算を持ってやって来るわけではない。彼らの多くは姿を消した」という。

別のエージェンシー幹部は、「最近のアップフロントモデルの最大の問題は、アップフロントを活用したいと思っている顧客にとっては非常に効率的なモデルだが、物事が不確定ななかでコミットするのが難しいことである」と述べた。

アップフロントの役割は代替可能か

ここで重要な要素となっているのが、経済の低迷だ。この状況は来年のアップフロント・サイクルに続くかもしれないし、続かないかもしれない。

複数のエージェンシー幹部は、2023年に広告主がアップフロントにコミットする金額は、2022年よりも低くなると予想している。しかし、交渉が始まる初夏までに企業の財務状況が変化する可能性があることを認め、慎重な姿勢を示した。また、経済状況を考慮すると、2023年から2024年にかけてテレビやストリーミングでの広告を継続予定の広告主たちは、「アップフロント契約にコミットする可能性が高くなるかもしれない」とも述べた。テレビネットワークやストリーミングサービスがアップフロント広告主に買われていない在庫を販売する、いわゆる「点在」市場での購入よりも、アップフロントの契約であれば広告価格がより低くなる可能性が高いからだ。

「点在市場で広告を買う羽目になり、必要以上の大枚をはたくことはしたくないだろう」とあるエージェンシー幹部はいった。また、あるテレビ局幹部は「アップフロントは売り手にとってメリットの大きいものと考えられているが、実際にはかなり大きなコスト上の利点をもたらすため、買い手にとっても大きな機会である」と述べた。

結論として、アップフロントはテレビ広告の将来において存在し続けるように見えるが、その役割ははるかに代替可能なようである。

あるテレビネットワーク幹部は、「私たちはこの秋、何度も出張しクライアントや代理店に会った。何をすべきかについてのコンセンサスがここまで取れないことは(以前は)なかった」と話した。

[原文:The overhaul of TV advertising’s upfront model is underway

Tim Peterson(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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