経済危機が、マーケターの プラットフォーム への懸念を呼び起こす:「プラットフォームの限界が明らかになっている」

DIGIDAY

下向きの景気循環の波が押し寄せると、効果のない広告支出を真空のように吸い出してしまう。今回の景気後退においても何ら変わりはない。

ロシアによるウクライナ侵攻と、高インフレ抑制が目的の財政政策の急激な引き締めが引き金となって景気後退への懸念が浮上し、多くの企業は、高水準の成長がほぼ止まり、これにより、利益率向上のために先を競って効率化を求めざるを得なくなっている。

無駄な広告は、そうしたリストのトップに来そうだが、それにはもっともな理由がある。潜在的な節約源として際立っているだけでなく、何よりも、企業が成長のための資金を発掘するのに役立ちうるからだ。

「顧客からのフィードバックによると、広告主は、ウォールドガーデン型プラットフォーム(Snapchat、Twitter、Facebook、Googleなど)から得られる現在のROIについて懸念している」と、アドテクグループ、ダイレクト・デジタル・ホールディングス(Direct Digital Holdings)でCEOを務めるマーク・ウォーカー氏は言う。「顧客は支出を見直し、効率的なROIを実現するために、より透明性が高く、測定についてオープンな、より費用対効果の高いデジタル広告ソースを探している」。

先ごろ行われた、最大手のオンラインメディアオーナーによる最新の決算発表が、それを示唆した。そして、それらの最新の説明により、はっきりとしたことがわかった。結果として、上半期は、広告費の投入が滞っただけでなく、合理化され、現実的に成果を上げる分野に投資されるようになったのだ。

広告活動では大手プラットフォームには強く依存

「広告主は、大手オンラインプラットフォームを疑問視し始めていたが、広告活動においては、いまだに強く依存している」と、イービクイティ・グループ(Ebiquity Group)でデジタルソリューションおよびパートナーシップ担当ディレクターを務めるジデ・ソボ氏は語る。「我々の顧客の支出を見る限り、これらのプラットフォームからブランドが手を引くという証拠はほとんど見られない。それでも、ブランドは、ブランドへの適合性や責任ある慣行をめぐって、プラットフォームを疑い続けている」。

今年、検索広告が維持されている理由は、それで説明がつくだろう。なにしろ、検索広告とディスプレイ広告の成長には、明確な相違が見られる。

検索広告は、極めて効率が良く、検索が依拠しているデータシグナルは強力だ(基本的に、コンテクスチュアルターゲティングが利用されている)。それは、オプション費用というよりも売上原価と見られている。短期的な収益について懸念しているブランドが、最後まで削減しない部分である点も頷ける。データがそれを裏付けており、エンダース・アナリシス(Enders Analysis)が照合したデータによると、YouTube、Twitter、Meta、Snapに対する広告支出の増加ペースは、Google検索やAmazonの広告と比べて鈍化している。

主要なオンライン広告企業の広告売上(単位:10億ドル)

ファネルの隔たりが拡大

誤解のないように書いておくと、こうした支出カットは一様ではないと見られる。現在進められている広告費の合理化から明白になりつつあるのは、すべてのダイレクトレスポンス広告が同じように制作されているわけではないということだ。それどころか、ファネル上部とファネル下部のダイレクトレスポンス広告の隔たりが大きくなっている、とエンダース・アナリシスのメディアアナリスト、ジェイミー・マキューアン氏は指摘する。

だが、どちら側にも論拠がある。ファネル上部の広告の方が、購入に結びつきにくく(サードパーティのアドレサビリティをめぐる制限の厳格化を考えると、ますます結びつきにくい)、短期的な利益が少なく、より多くの浪費につながりやすい。とはいえ、マーケターは、(景気後退に関係なく)新たな需要を生み出す必要があり、ファネル下部ではそうした需要は見いだせない。

「リーチの有効性と質を向上することで、デジタルとTVの両方で、有効なリーチ1件当たりのコストを引き下げられる」と、P&GのCFO、アンドレ・シュルテン氏は、先日行われた決算発表でアナリストに対して述べている。「我々は、TVとデジタルの両方でターゲティングを向上する強力な機能を開発した。リーチの有効性と質を向上する能力のおかげで、デジタルとTVの両方で、有効なリーチ1件当たりのコストを引き下げられるのだ」

経済情勢について意見が一致していないため、これらの広告主のシニアマーケターたちは、オンライン広告費をどれだけ削減し、残った広告費をどこに使うかというジレンマに陥っている。

もちろん、それは目新しい問題ではない。デジタル広告はこれまで、TV広告(特にアップフロント契約の場合)よりも広告を停止することが常に容易だったので、マーケターが支出削減を行う分野だった。マーケターが、リニアTV市場から資金を引き揚げるオプションを行使することも可能だが、米国のTVネットワークにとって幸いなことに、今年は選挙の年であり、放送中の政治広告費の急増が、あらゆるマイナスの影響を補うのに役立つ可能性がある。一方、オンラインメディアオーナーは、それほど幸運ではないかもしれない。

広告支出の見直しは非効率で効果なし?

こうした支出の見直しはマーケターにとって難しい仕事であり、大いに屈辱を味わうのだからなおさらだ。ひいき目に見ても非効率でほとんど効果がなく、最悪の場合は誇大である広告に多額の金を支出してきたと認めざるを得ないのだ。これは、マーケターにとって、受け入れることが難しい問題だ。そのためか、彼らが意に反してオンライン広告を抑制することは非常に困難なのかもしれない。とはいえ、結果がすべてを物語っている。

P&Gが2017年にオンライン広告支出を2億ドル(当時のレートで約230億円)削減した時、同社のマーケターは、事業成果にまったく変化がないのを目の当たりにした。同年、JPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)のマーケターは、広告を掲載するサイト数を40万から5000に減らしたが、事業活動に変化はなかった。ウーバー(Uber)のマーケターは同年、有料アプリのインストールに充てる予算を削減したが、アプリのインストールは続いた。非効率的な広告支出の例は、数多くある。

「広告主は、コントロールを取り戻して、広告支出や主要なメディア指標、KPIを自ら追跡する必要がある」と、メディア管理企業アビンタスコンサルティング(Abintus Consulting)のCEO、フィリップ・ドミノワ氏は言う。「メディアパフォーマンスを独自に追跡することで、非効率な広告支出をすぐに突き止め、メディアパフォーマンスやROAS(広告の費用対効果)を段階的に最適化することができる」

いや、これらは目新しい問題ではない。マーケターは長年、GoogleやFacebookのようなプラットフォームで購入される広告が、そうしたプラットフォームの主張通り効果的だと信用しなければならない事実に苛立ちを感じていた。しかし、経営幹部レベルがこの事実を受け入れようとしない時には、受け入れることが難しくなる。

「率直に言って、そうしたプラットフォームの限界が明らかになっていることで、広告主にとっては、魅力が薄くなりつつあるのだと思う。景気循環の問題ではなく、構造的な問題なのだ」と、リバティスカイアドバイザーズ(Leberty Sky Advisors)の株式調査アナリスト、イアン・ウィテカー氏は語った。

[原文:Global economic crisis sparks reappraisal of online ad spending by brand marketers

Seb Joseph(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:黒田千聖)

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